ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM   作:MOZO

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其の三

 穴の中は(ほの)暗く、あちらこちらに巨石が浮いている不可思議な空間であった。

 と、赤ん坊を抱えたカバトンの姿を発見する。

 

「待つでござる!」

 

「ヒーローは泣いている子供を絶対に見捨てない!」

 

 ソラとシグレは警告を発しながら迷わずカバトンへ突き進んでいく。

 

「まさか、ここまで追ってくるとは。さてはお前たちもこの子の力が欲しいのねん?」

 

「力? 一体何を言っているのでござる!」

 

「前、危ないです!」

 

 突如ソラがカバトンへ呼び掛け、振り向いたカバトンの目前に巨石が迫っていた。

 躱す暇も無く、巨石がカバトンの顔面を直撃。そのまま落ちていってしまう。

 反動で解放された赤ん坊をソラが再びキャッチした。

 

「もう大丈夫です。パパとママのところに、お家に帰ろう・・・」

 

 ソラは赤ん坊に向かって静かに優しく語り掛けた。

 

「ソラ殿、あれを!」

 

 シグレが指差す方を見ると、眩い光が照らす出口らしき穴が開いていた。ソラとシグレが出口に差し掛かると、思わず目を瞑ってしまうほどの真っ白な光に覆われる。

 光を抜けると、そこはどこまでも続く青空が広がっていた。帰って来られたと思ったのも束の間、足許に違和感。妙にフワフワしているというか、踏ん張ることができない。

 徐に下を向くと、遥か眼下に地面が。二人は空のど真ん中に放り出されていたのだ。

 ソラとシグレは互いに目配せをした後、サーッと顔が青ざめると同時に二人は自由落下を始めた。

 

「えぇぇぇぇぇぇー!?」

 

「あれぇぇぇぇぇ~!?」

 

 澄み渡る空を少女二人の絶叫だけが響くのであった。

 

 * * *

 

 穏やかな日常が流れる平和な街━━ソラシド市。

 コスメショップ『Pretty Holic』の店先でえんじ色の長い髪の少女、虹ヶ丘ましろがショーウィンドウに並ぶ可愛らしい手帳を眺めていた。

 

「あっ、早くおばあちゃんのお使い済ませなきゃだよ!」

 

 どうやら祖母に頼まれたお使いの途中だったらしく、慌てて思い出したましろは購入する物を書いたメモを確認する。

 

「ローズオイルに、シナモンスティック。あとは干したカエルって、どこに売ってるのかなぁそれ?」

 

 妙ちきりんな物を買わせて祖母はどうするつもりだろう。ましろが思い耽っていると、頭上から何かが落ちてきた。

 拾い上げると、使い古された手帳のようだった。表紙には文字らしきものが書かれているが、見たこともない字体でまったく読めなかった。

 すると、

 

「うわー! そこ退いてくださーい!」

 

 今度は叫び声が降ってきて、見上げると二人の少女がこちらへ落ちてくる。

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 ましろは驚愕のあまり体が硬直してしまう。このまま衝突すれば三人共怪我では済まない。

 

「もはやこれまで。父上、母上、拙者を産んでくださり誠にかたじけないでござるぅ~!」

 

 シグレは一貫の終わりであると悟り、落下しながらこの場にいない父と母に報謝を叫んだ。

 もう地表間近となったその時、ソラとシグレの体を紫の不思議な光が包み込み、落下の速度が減速してゆっくりと地面に着地する。

 

「セ、セーフ・・・・・・」

 

「ふぅ~、危機一髪でござった・・・・・・」

 

 何が起こったのか理解できなかったが、とりあえず命は取り止めたことに安堵するソラとシグレ。

 そんな彼女たちを傍観するましろと互いに視線があったところで、ソラが血相を掻きながらましろへ駆け寄った。

 

「ごめんなさい、ビックリしちゃいましたよね!? 実は、わたしも相当ビックリしてて。偶然、誘拐事件に出くわして、この子を追い掛けて、不思議な穴にエイヤと飛び込んだら空の上にポコって、それでピューって━━!」

 

 擬音混じりの早口で状況を説明するソラだったが、周囲を走る車や電工掲示板を見た瞬間、驚きの声を上げる。

 

「えーっ! 何ですか、この変な街!?」

 

「ソラ殿・・・・・・?」

 

「タ、タイム・・・・・・」

 

 シグレたちの声も聞こえないくらいに今のソラは動揺を隠せないでいた。

 

「もしかしてここって、魔法の世界!?」

 

「ターーーイム!」

 

 ましろが手帳を持ったまま両手でTの字を作ってソラを制止させる。

 少し落ち着いて冷静になるソラ。目の前の出来事に直面したましろ。二人が導き出した結論は━━。

 

「「これ、夢だ」」

 

 現実離れした事態を飲み込めず、互いに夢である決め付けるのであった。

 

「そうですよね。穴から落ちてきたら別の世界だなんて夢に違いありませんよね」

 

「うんうん。空から人が落ちてくるなんて夢に決まってるよ」

 

「ふむふむ。なるほど、これは夢でござったか」

 

 シグレも左の掌を右の拳でポンと叩き、納得してしまう。

 この状況を訂正する者は、誰一人いなかった。

 

「はじめまして、夢の中の人。わたし、ソラ・ハレワタールです」

 

「わたしはましろ。虹ヶ丘ましろだよ」

 

「拙者は、名はシグレ、姓はアマヤドゥーリと申す。夢の中とは言えど、先ほどは驚かせてしまい面目(めんぼく)次第もなかったでござる!」

 

「・・・・・・ご、ござる?」

 

 シグレの流儀である(ひざまず)きながらの挨拶にましろは呆気に取られる。まぁ、夢なんだから何でもアリか。とそのまま流すことにした。

 

「鉄の箱が道を走っているなんて、夢の世界はすごいですね。この夢の街、名前は何ていうんですか?」

 

「ソラシド市だよ」

 

「ほぉ~、なんとも(みやび)な名でござるなぁ」

 

 ふと、ソラはましろの持っている見覚えのある手帳に目が留まる。

 

「あっ!」

 

「これ、もしかして?」

 

「わたしのです。拾ってくれてありがとう。とても大事な手帳なんです!」

 

 喜ぶソラにましろは快く手帳を手渡した。

 

「何て書いてあるの?」

 

「これですか? スカイランドの文字で、わたしの━━」

 

 ズドォォォォーン!

 

 会話の最中に、轟音と共にまた何かが落ちてきた。

 

「夢の中、本当何でもアリだよ!」

 

 土煙の中から紫色の巨漢が姿を現した。

 

「お主は!」

 

「許さないのねん、ソラ、シグレ。まずはお前たちをボコボコにして、それからプリンセスをいただくのねん!」

 

 撒いたはずのカバトンがソラたちを追ってソラシド市に襲来してきたのだ。

 

「カモン! アンダーグエナジー!」

 

 カバトンが手を地面に付けると、ドス黒いエネルギーが溢れ出し、近くにあったショベルカーを包み込んだ。

 

「ランボーグ!」

 

 ショベルカーは怪物へと変貌。周囲の人々が映画の撮影か何かと思い足を止めていたが、怪物が暴れ出すと悲鳴を上げ一目散に逃げていく。

 

「これは、なんと面妖な!?」

 

「普通に痛いよ。これ夢じゃないの!?」

 

 ましろが自分の頬をつねってみるも夢から覚める気配もなく、これは現実であると認識せざるを得なかった。

 

「ましろさん。この子を頼みます!」

 

 何を思ったか、ソラは赤ん坊をましろに託した。

 

「わたしが時間を稼ぎます。シグレさんはましろさんたちを連れて安全なところへ逃げてください!」

 

「ソラ殿、しかし!」

 

「お願いします!」

 

 ソラの覚悟を宿らせた瞳を見たシグレは、彼女の意志を汲んで頷いた。

 

「・・・・・・承知したでござる!」

 

 ソラは一人、カバトンと怪物・ランボーグに立ち向かうべく進もうとする。

 

「ソラちゃん、一緒に逃げ・・・・・・行っちゃダメ!」

 

 ましろがソラの手を掴み、引き止めようとする。と、ソラの手が震えていることに気付く。彼女だって本心では怖がっていて当然だろう。それでも、ましろと赤ん坊を守るために恐怖心を押し殺しているのだ。

 

「相手がどんなに強くても、正しいことを最後までやり抜く・・・・・・。それが、ヒーロー!」

 

 ソラの想いに触れたましろは、彼女の手をソッと離した。

 

「ましろ殿、早く!」

 

 シグレに急かされ、ましろは赤ん坊を連れその場から退避。

 残ったソラは単身ランボーグと対決するのだった。

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