ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM   作:MOZO

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其の十七

 ツバサに連れられ、ある部屋のドアの前に赴いた。その部屋は施錠されていて、ソラたちは空き部屋だとばかり思っていた。

 解錠してドアを開けると、室内は書斎となっていた。

 

「私が用意したツバサさんの研究室よ」

 

 ヨヨの言うように、棚には所狭しと本が並べられ、天井からは飛行機の模型が吊るされている。

 

「数多の書物が置かれておるが、一体何を書き記したものでござる?」

 

「これは、航空力学」

 

「こーくー?」

 

「面妖な響きでござるが、珍しい菓子か何かでござるか?」

 

「食べ物じゃないですよ・・・・・・」

 

 無知であるが故に、二人のド天然ぶりは今日も好調のようだ。

 

「ソラさんとシグレさんは飛行機を知ってる? その飛行機を飛ばす学問が航空力学よ」

 

 二人は以前、上空を飛んでいる物体を目撃し、ましろに尋ねると『飛行機』という人を乗せて飛ぶ大きな乗り物だと教えてもらい、大層驚いたことがある。

 

「こちらの世界の人たちが空を飛ぶために長い時間を懸けて編み出した学問です。それをボクは一年を懸けて勉強してきました。スカイランドに帰らなかったのはそのためです」

 

 ツバサから懇切丁寧に説明されてもソラとシグレは理解が追い付かなかった。

 

「ふむ・・・、学のためにどこぞと知れぬ世界に残るとは、大したものでござるな」

 

「でも、どうしてそんな勉強を?」

 

 ソラにそう聞かれてツバサは少し迷ったように視線を反らすが、すぐに向き直した。

 

「約束してください。本当のことを言っても笑わないって」

 

 真剣な瞳で訴えるツバサにソラとシグレは揃って頷き了承する。

 

「━━空を、飛びたいんです」

 

 ツバサが語るは、彼がまだ幼き日の記憶。

 その日、ツバサは芸術家である父のカケルと共に遊覧鳥の背に乗って飛んでいた。

 そこへ突風が吹き、小さなツバサは空へ投げ出されてしまう。プニバード族は昔より、人間に変身する能力を得た代償として飛翔することができなくなってしまったと言われている。

 幼いツバサの運命は絶望的かと思われた時、父カケルが小さい両の翼を懸命に羽ばたかせてツバサの許へ飛んでいき息子を救ったのだ。

 

「あの日、飛ぶという夢がボクの中に開きました。でも・・・・・・」

 

 自身の理想を仲間のプニバード族に語るも、皆は口々に馬鹿にして嘲笑した。カケルにあの時どうやって飛んだかを聞いてみるも、よく覚えていないと相手にされなかった。

 

「それからずっと、飛ぶ練習を続けたけどさっぱりで。嵐の晩、この強い風に乗れば飛べるんじゃないかって」

 

 嵐が巻き起こす強風の中をツバサは果敢に崖から飛び立った。だが、やはり飛ぶことはできずに異次元のトンネルに落ち、現在に至るということだ。

 

「でも、無駄じゃなかった。落っこちたお陰でボクはこの世界で空を飛ぶ学問に出会った。それを学んで風の流れを正しく読めば、ボクも空が飛べるかも・・・」

 

 いつの日か自分の力で空を飛んでみせる。熱く語るツバサをソラとシグレは黙って聞いていた。

 ツバサは沈黙する二人を見て不安そうな顔をする。

 

「笑っちゃいますよね、やっぱり。だから言いたくなかったんだ。だからずっと、ただの鳥のフリを━━」

 

「カ~ッコいい!」

 

 唐突にソラが前のめりに立ち上がり、目を輝かせながらメモ帳を開いて書き込み始めた。

 

「一度やると決めたことは絶対に諦めない。それがヒーロー!」

 

 ツバサの夢に感化され、ソラは自身が抱く理想のヒーロー像と重ね合わせた。

 

「笑わないの?」

 

「笑いません。だって、わたしはヒーローになりたい! シグレさんは世界一のサムライになりたい! ツバサくんは空を飛びたい! 道は違うけど、わたしたち同じじゃないですか!」

 

「周りからどんなに嘲られようとも決して折れることなく自らの大志を貫き通す。あっぱれな心意気でござる!」

 

 シグレもまた、ツバサの大きな目標を絶賛するのであった。

 すると突然、ソラがツバサの前で頭を下げた。

 

「誤解しちゃって、ごめんなさい!」

 

 壮大な夢を抱いて努力しているツバサを、カバトンたちの仲間なのではないかと疑ってしまった自分を恥じ、非礼を詫びる。

 ソラは頭を上げると、今度は右手を差し出して握手を求める。

 

「お友達になってください!」

 

 断られてしまったらどうしよう、と心配そうな顔をするソラであったがそんな杞憂はまったくなく、ツバサは快く応じて二人は握手を交わした。

 シグレも二人に加わり、握手を求めた。

 

「であれば拙者も。揺るぎない夢を持つ者同士、ソラ殿共々よろしくお頼み申す。ツバサ殿!」

 

「“殿”だなんて、ボクに(かしこ)まる必要はないですから。普通にツバサで良いですよ」

 

「では、これからよろしくでござる。ツバサ!」

 

 友人として対等な関係となったシグレとツバサは熱く握手し合うのだった。

 

「いいな。呼び捨て・・・」

 

「ん? どうしたでござるか、ソラ殿?」

 

「いえいえいえいえ、何でも!」

 

 聞こえていなかったことは幸いだが、本音をつい口に出してしまったことをソラは誤魔化すのであった。

 

 * * *

 

 夕方になり、学校を終えたましろは走って家路に就いていた。

 

(ソラちゃんとシグレちゃん、大丈夫かな? みんなも「最強の健康優良児コンビが学校を休むなんて」って動揺してるよ。学園はちょっとしたパニックだよ!)

 

 二人がたった一日だけ休校してしまっただけで騒ぎになろうとは。

 急ぐましろが通り過ぎた公園では、男児三人がUFO型のドローンを飛ばして遊んでいた。

 

「かっけぇ!」

 

「貸して貸して!」

 

「順番だよ!」

 

 リモコンの取り合いを始めた直後、大柄な体格の男が現れた。

 

「順番ねぇ。じゃあ、強い者順ってことでどうよ?」

 

 カバトンは男児三人を大人げなく脅し、ドローンを奪い取る。悪巧みを巡らせるその嫌味な顔ときたら。

 家に帰ったましろを出迎えたのは、いつの間にか親しい間柄になっているソラ、シグレ、ツバサの三人。エルに一人で立った記念として乳幼児用のケーキを振る舞っていた。

 

「という訳で、今日は姫の一人立ち(・・・・)を盛大に祝うでござるよ!」

 

「良いな~。わたしも見たかった」

 

 自分だけ決定的な瞬間に立ち会えなかったことをましろは残念そうに思う。

 

「ツバサくんはエルちゃんを助けるナイトですね!」

 

「どういうこと?」

 

 学校に行っていた間に何が起こったのか気になるましろであったが、外から奇っ怪な音がし出した。

 表に出て高台から見ると、巨大なUFOが街の上空を漂っているではないか。

 

「プリキュアー、どこだー! とっとと出てきて勝負するのねん!」

 

 覚えのある憎々しい声が響くと、UFOから赤い光線が街中へ放たれた。

 

「あんな形のものが空を飛ぶなんて。でたらめだ、航空力学的にありえません!」

 

「今そんなこと言ってる場合かな?」

 

 ツバサのずれた抗議にましろがツッコミを入れる。彼女もこの役回りが大分板に付いてきた。

 十中八九、カバトンが召喚したランボーグならば放置する訳にはいかない。

 

「ツバサくん、エルちゃんをお願いします!」

 

 エルをツバサに託し、ソラ、シグレ、ましろはミラージュペンをスカイミラージュに変形させ、スカイストーンを装填する。

 

「「「ひろがるチェンジ!」」」

 

 ソラはキュアスカイへ、シグレはキュアレイニーへ、ましろはキュアプリズムへそれぞれ変身を完了させる。

 

「「「ひろがるスカイ!プリキュア!」」」

 

 名乗りを挙げた後、三人は現場へと跳躍しながら急行していった。

 

「ツバサさん、中に」

 

「はい。行こう!」

 

 プリキュアの出撃を見送ったツバサとヨヨはエルの安全のため家の中に入ろうとした。が、エルは念力でスリングを浮かせると、乗り込んでプリキュアたちを追って飛んで行ってしまった。

 

「えるるぅ~!」

 

「いけない!」

 

 ツバサが止めようとするも、エルは既に遠く彼方へ飛び去っていた。

 茫然としていると、ヨヨの携帯にあげはから着信が入る。

 

『ヨヨさん、ランボーグがこっちで暴れてる!』

 

 ヨヨはエルがそちらに向かったことを伝え、見つけたら保護してほしいと頼んだ。

 一方のツバサは、エルが飛んで行った方向を一点に見詰めていた。

 

「エルちゃんが危ない!」

 

 ソラにエルを守ってほしいと言われたのに、このまま何もできないでエルの身を案じているしかできないのはダメだ。

 

(風を読むんだ━━)

 

 今こそ、学んだ知識を活かす時。五感を集中させ、風の流れを察知すると、ツバサは鳥の姿へと変わる。

 

「うぉー!」

 

 翼を動かし、助走を付け、勢い良く空中へ飛び出していく。

 

 * * *

 

 街に到着したプリキュアたちはUFOランボーグに搭乗したカバトンと対峙する。

 

「オレとお前らとどっちがTUEEEのか。今日こそ決めてやるのねん!」

 

 UFOランボーグから光線が発射されると、スカイとレイニーが払い退け、プリズムが光弾で攻撃。しかし、ランボーグはびくともしなかった。

 

「スカイランド剣術、一の型。切空斬!」

 

 レイニーが横一閃に光の刀を振るい鎌鼬を放つも、距離が足りずあと少しのところで霧散してしまう。

 

「攻撃が全然届かないよ」

 

「まだでござる。きっと何か手立てがあるはずでござるよ!」

 

「その通りです。諦めない限り、方法はあります!」

 

 三人は挫けることなく、再びランボーグに立ち向かおうと意気込んでいた。その時、

 

「そうだそうだ。こんなところで終わっちまったら白けちまうからなぁ」

 

 突然気の抜けた声がして三人が一斉に振り返ると、白猫の顔をした浪人が車のボンネットの上で片肘を付いて呑気に寝そべっていた。

 

「あなたは、どちら様?」

 

「聞かれて名乗るもおこがましいが、知らざぁ言って聞かせやしょう」

 

 白猫の浪人は起き上がり、ボンネットから降りると名乗りを挙げた。

 

「『シンエン組』直属『ジャドーアローズ』が壱ノ矢、ニャシュランとはあっしのことよ」

 

「『ジャドーアローズ』?」

 

「『シンエン組』ということは、お主はクワガオーガの手先でござるな?」

 

 クワガオーガが率いる一味の一人と知るや、警戒する三人。

 

「おめぇらがプリキュアっつーんだろ? あっしも仕事なもんだから一応聞くけどよぉ、プリンセスの居場所を教えてもらっちゃくれねぇか?」

 

「分かりきったことを。聞いたところでお主ら悪党に教える義理は無い!」

 

「まぁ、そうだよなぁ。口で言っても分からねぇってんなら、体に聞く他ねぇんだよなぁ?」

 

 不気味に笑うニャシュランの口元から細く鋭い牙が覗いていた。

 

「スカイ、プリズム。二人はランボーグの方を。拙者はこやつの相手をするでござる!」

 

「・・・分かりました。こちらは任せてください!」

 

「気を付けて、レイニー!」

 

 レイニーに後押しされスカイとプリズムはUFOランボーグの相手をするため駆け出していく。

 残ったレイニーは光の刀を構え、ニャシュランと相対する。

 

「連れねぇなぁ。まとめて遊んでやろうと思ってたのによぉ。仕方ねぇ、まずはおめぇさんから楽しませてもらおうじゃねぇか」

 

 ニャシュランはニタニタと笑いながら腰に(くく)り着けていたひょうたんの栓を抜くと、中の酒を飲み始めたではないか。

 

「ふざけているのか。戦いの最中に酒を飲もうなどと!」

 

「ウィック。固いこと言うなよぉ、あっしにとっちゃあ景気付けみたいなもんなんだから~」

 

 不真面目な態度に苛立つレイニーは先攻して斬りつけに掛かった。だが、ニャシュランはのらりくらりと躱していく。こちらを嘲笑っているかのような動きはレイニーを余計に苛立たせた。

 

「真面目に戦う気があるのか! その腰に差す刀が飾りでないなら抜いて見せるでござる!」

 

「良いのかい、そんなこと言って? 後悔したって知らねぇからなぁ。ウィ~」

 

 フラフラ体を揺らしながら、ニャシュランは右手で左の、左手で右の柄を握ると二本の刀「マタ」と「タビ」を抜き放った。

 レイニーも改めて柄を握り締め、切っ先を前に突き出す。対して、ニャシュランは刀を持つ両手をダランと垂らし、独特な構えを取る。

 

「スカイランド剣術、三の型」

 

「アンダーグ二刀流」

 

 レイニーは全神経を刃の先に向け、両足に力を溜め込み、最速の突き技「疾風突き」を繰り出そうとした。

 

「疾風突━━ッ!?」

 

 突進するために踏み込もうとした時、ニャシュランが一瞬でレイニーの懐に入り込んでいた。

 

「掻っ斬り!」

 

 ニャシュランは二本の刀でばつ印を描くように斬撃を食らわせる。

 レイニーは咄嗟に刀を構え直し防御するも、あまりの威力に後方へ飛ばされ横転してしまった。

 

「ヒック。まだまだこんなもんじゃねぇだろぉ?」

 

 何が起こったのか、すぐには状況を飲み込めなかった。「疾風突き」を出すよりも速くニャシュランは跳躍し、レイニーを間合いに捉えていたのだ。

 余裕綽々のニャシュランは見栄を切るような動作で二本の刀を構える。

 

「お楽しみは始まったばっかだろ。なぁ!」

 

 ニャシュランの技を受けたレイニーの手はまだ痺れていた。




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