ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM 作:MOZO
大騒動だったにも関わらず、三人共に無事なことは何より。が、シグレだけは気分が沈んでいた。
道に落ちてあった「ハルサメ」の折れた刀身を見詰め、物悲しげな面持ちを見せる。
異変を察したましろが彼女へ声を掛けた。
「シグレちゃん、大丈夫・・・・・・?」
「あいや、すまない。御心配には及ばぬでござるよ」
気丈に振る舞って見せるとシグレは刀身を拾い、持っていた風呂敷で包み仕舞った。
シグレの様子が気になるましろだったが、周囲を見渡すと騒ぎを聞きつけた野次馬が集まっていた。
「めっちゃ注目されてる~!」
相当目立っていたらしく、怪物と戦い、退治した少女三人(実際にはソラとシグレだけなのだが)を一目見ようと興味本位で来る者や、スマホで撮影する者がいた。
と、人々を落ち着かせようとソラが呼び掛け始める。
「皆さーん、安心してください! もう安全でーす!」
彼女なりの気遣いなのだろうが、これでは余計に悪目立ちしてしまいそうだ。
すると、遠くの方からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
「ん? 何の音ですか?」
ソラにとっては馴染みのない音ではあるが、このままでは警察のお世話になって更に面倒なことになりかねない。
ましろは早々にこと場から立ち去ろうとソラの背中をグイグイ押していく。
「お騒がせしました~」
どこぞへ行くかはわからないが、シグレも二人の後を付いて行くのであった。
* * *
何の手立ても考えず、ましろは
「ここが、ましろさんのお家?」
その外観はファンシーな佇まいの屋敷で、普通の一戸建てとは違った雰囲気を醸し出していた。
「もしかして、ましろさんってこの世界のプリンセス・・・・・・。ましろ姫ですか!?」
こんな家を目にしたらソラがそう錯覚してしまっても無理はない。
「そんな高貴な生まれの方だったとは露知らず。失礼つかまつったでござる!」
シグレはましろを前に両手と膝を付いて平伏する始末だ。
「そんなんじゃないよ。あとシグレちゃん、頭上げて!」
玄関先ですったもんだしていると、ドアが開き中から一人の老女が現れる。
「ましろさん、おかえりなさい」
「おばあちゃん」
ましろの祖母、虹ヶ丘ヨヨが四人を出迎えた。
「これ、絶対信じてもらえないと思うけど聞いて。この子たちが空の上からぴゅーって! それから、モンスターがバーって! それからそれから、シャキンシャキンでキラキラってなってフワーって!」
ましろは初対面のソラの時と同じく擬音だらけの
「大変だったわね。さぁ、お上がりなさい」
ヨヨは意外にすんなり聞き入れ、ソラたちを家の中へ招待した。
「えっ・・・・・・。自分で言うのもなんだけど、今の説明でOKなの? おかしくない?」
理解してくれて良かったのやら、不自然に思えばいいのやら、ましろは終始困惑しっぱなしだった。
* * *
ソラたちはこれまでのことすべてをヨヨに打ち明けた。ソラとシグレがスカイランドという世界から来たこと。赤ん坊を連れ去るカバトンを追い掛けてきたこと。そして、ソラがプリキュアに変身したことも。
「スカイランド・・・・・・。こことは別の世界があるなんて、まだ信じられないよ」
まるでおとぎ話のような突拍子のない話ではあるが、あの光景は今でも記憶に焼きついている。
特に、ソラが変身したプリキュア・キュアスカイの姿は本物のヒーローかの如く華麗で勇ましかった。
「プリキュアって何なんだろう。ねぇ、おばあちゃん。お部屋の百科事典にプリキュアのこと何か載ってない?」
「わたしのことより、この子をお家に帰してあげる方法を見つけるのが先です!」
なぜ自分がプリキュアになったのか、その解明をする前に赤ん坊の方が重要である。今のソラはそのことしか頭になかった。
「約束したんです。パパとママのところに帰してあげるって」
「拙者も同感でござる。一刻も早くこの赤子を
今頃、赤ん坊の両親は身を切るほどに心配しているはず。それを思えばシグレも黙ってはいられない。
「ヒーローは、泣いている子供を絶対に見捨てません!」
「え・・・・・・、えるぅ~!」
「むしろ泣かせた!?」
突然ソラが大声を出したものだから、赤ん坊が泣き出してしまった。
ましろがあやそうと「いないいないばー」をしてみるがまったく効果が無い。
「拙者に任せるでござる。秘技、百面相!」
シグレは次々と
「ぶふっ! 何ですかシグレさん、その顔は!」
「あははは! もうおかしすぎてお腹が痛いよぉ~!」
ソラとましろには効果てきめん。大爆笑を誘った。が、
「えるぅぅぅぅ~!」
肝心の赤ん坊は泣き止むどころかさっきよりも号泣してしまうのであった。
「くっ、無念でござる・・・・・・」
よほど自信があったらしいのか、不甲斐ない結果にシグレは膝から崩れて項垂れてしまう。
「もしかしたら、お腹が空いているのかも?」
「それだ!」
ソラは冴え渡った答えを導き出した。笑わせるのが駄目だとしたら、その可能性は極めて高い。
「しかし困ったでござるな。拙者たちからはまだ、ち━━むぐっ!?」
「わーわー! それ以上言っちゃダメェ!」
シグレが言わんとする言葉を予感したましろは顔を真っ赤にしながら彼女の口を両手で塞いだ。
「キッチンの棚。一番下に粉ミルクとマグがあるわ」
「「「えっ?」」」
唐突なヨヨからの助言にソラたちはあっけらかんとする。
「ミルクは人肌でね」
ヨヨに言われた通りにましろたちがキッチンの棚を探すと、確かに一番下に粉ミルクの缶と幼児用のマグがあった。
なぜこんなものが家に? ましろは疑問を抱くが、今は赤ん坊のためにミルクを作らなければ。説明文通りの配分で作り、温度も人肌になるように気をつけた。
早速赤ん坊に与えてやると、なんともいい飲みっぷりで吸い付き、あっという間に完飲してしまった。その後、ソラは慣れた手つきで赤ん坊の背中を優しく叩いてやった。
「けぷっ」
赤ん坊に滞りなくゲップをさせるソラに、ましろとシグレは感心を示す。
「すごい!」
「手際が良いでござるな」
「家に年の離れた弟がいるので慣れているんです」
経験者は語るとはよく言うもの。ヒーロー(?)でもあり、姉でもあるソラがカッコ良く見えた。
ここでましろが、抱いていた疑問をヨヨに投げ掛けた。
「おばあちゃん、どうしてウチに粉ミルクとマグがあるの?」
「オムツだってあるわよ」
デパートじゃあるまいし、まるでこうなることを予知していたかのように都合が良すぎる。
「出会いに偶然はない。人と人が巡り会うこと、それはいつだって必然。運命。物語の始まり」
一体、どういう意味なのだろう。ソラとましろとシグレは目をパチクリと見合わせる。
「あなたたちの世界に戻る方法が見つかるまで、二階の空いている部屋を好きにお使いなさい」
ヨヨは不思議な余韻を残し、自室へと戻っていくのだった。