ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM 作:MOZO
夕刻となり、空は西陽で橙色に染まる。
赤ん坊は満腹になったからなのか安心からなのか、揺り籠の中でぐっすり眠りに落ちていた。
「お家から拐われて、別の世界に放り出されて、モンスターに狙われて、大変な一日だったね」
愛らしい寝顔を眺めながらましろは微笑む。対して、ソラは申し訳なさそうに浮かない顔をする。
「ましろさん。この部屋、本当に使わせてもらっていいんでしょうか?」
「いいんじゃないかな、たぶん」
ましろはそう言うが、何の見返りも無く寝泊まりすることにソラは負い目を感じていた。
そんなソラは突然、ましろの前に跪いた。
「今日の御恩は決して忘れません。今よりわたし、ソラ・ハレワタールはましろさんを守る騎士となり、全身全霊忠義を尽くし、あなたを守ります!」
ソラに釣られてシグレも深々と土下座をするのだった。
「拙者もこの度の恩義に報いるべく、ましろ殿の従者となって一生を懸けて返してゆく所存でござる。何なりとお申し付けくだされ!」
「時代劇かな?」
二人の仰々しい申し入れに困惑するましろ。特にシグレは、その容姿と口調と所作がまるっきりサムライそのもののようだ。
「騎士とか従者とかいらないよ」
「えっ。じゃあ・・・・・・」
「どうすればよろしいので?」
恩返しがいらないというのならば何をしたらいいのか。困り果てるソラとシグレにましろは一つの提案をする。
「そうだ、お友達からお願いします」
「友達」という芳しい響きにソラとシグレは感激したように返答する。
「はい!」
「拙者のような者が友で良ければ、有り難き幸せにござる!」
真っ向から即答され、ましろは少々たじろいでしまった。
「着替えはとりあえずわたしのジャージでいいかな。ちゃんとしたのは明日買いに行こう。わたし、隣の部屋にいるから何でも━━ってあれ、ソラちゃんは?」
「ソラ殿なら、もうとっくに寝てしまったでござるよ」
シグレが指差した先には、いつの間にかベッドに横たわり寝息を立てるソラであった。
「秒速すぎるよね!?」
あまりの寝付きの良さにましろは面食らってしまう。と、シグレが右人差し指を口許に当てる。
「見知らぬ土地に降り立った上に、いきなりプリキュアなる戦士となって戦い、ソラ殿は大活躍でござったからな。疲れが出たのでござろう」
シグレは眠っているソラに毛布をそっと被せた。
無垢な寝顔をしている二人を見届け、シグレとましろは静かに退室していった。
その後、シグレは自分の部屋に案内されるとましろから
「これおばあちゃんのだけど、こっちの方が使いやすいだろうって」
「かたじけないでござる」
「何か必要なものがあったら言ってね」
「ましろ殿!」
ましろが部屋を後にしようとした時、シグレが呼び止めた。
「見ず知らずの拙者やソラ殿を泊めてくださり、改めて礼を言わせていただきたい」
「困った時はお互い様だよ」
そう言い残し、ましろは部屋のドアを閉めていった。
素性の知れないシグレたちを親切に受け入れてくれたましろとヨヨに感謝を噛み締めながら、シグレは窓から陽が沈む西の空を臨んでいた。
* * *
夜の暗闇を街の明かりや行き交う車のヘッドライトが照らす中、とあるビルの屋上で怒れるカバトンとそれを静観する鬼面の男がいた。
「チクショー! キュアスカイめ、次に会ったらギタギタにしてやるのねん!」
「たかだか赤ん坊を連れてくるだけだというのに、まったく情けない」
「邪魔が入らなければ楽勝だったのねん! 今頃、ご褒美をたんまりと貰えてたはずなのねん!」
「口先だけなら何とでも言えよう。取り逃がした挙げ句、あんな小娘共に返り討ちにされるとはな」
「見ていただけのお前に言われたくないのねん! 今度こそプリンセスを手に入れてみせる、だからお前の手下をよこすのねん!」
カバトンらの背後には、黒頭巾の集団・クロボーズが膝を付いて待機していた。
「・・・・・・よかろう。貴様にしばらく貸してやる。ただし━━」
鬼面の男はカバトンの豚鼻の目前まで差し迫る。
「すべてはあの御方のため。失敗は許されないことを
「そんなこと百も承知なのねん! 小言はいいからとっとと失せるのねん!」
息巻くカバトンを尻目に鬼面の男は夜の闇に紛れて消えていった。
* * *
翌朝。ソラは自分の腹の虫と共に起床する。起き抜けにどこの部屋かとビックリしていたが、すぐに思い出した。窓を開け、朝の清々しい空気と日差しを取り入れる。
ふと、視線を下に向けるとシグレが折れた「ハルサメ」の柄を握って素振りをしている姿があった。
ソラは下へ降り、外に出るとすぐにシグレを見つけた。淡い朝日の中で正面打ちを繰り返す彼女は美しく凛としていた。
「おはようございます!」
「ソラ殿、おはようでござる!」
ソラが挨拶をしてきたところでシグレは朝稽古を中断する。
「朝早くから精が出ますね」
「拙者の朝一番の日課でござるからな。どこにいようと怠る訳にはいかぬでござるよ」
と、シグレが握る「ハルサメ」の成れの果てが目に映った途端、ソラの表情が曇っていく。
「シグレさん、それ・・・・・・」
「うむ。ハルサメは、拙者が修行の旅に出た時から肌身離さず持っていた言わば相棒のようなものでござった。しかし、こうなってしまってはもう・・・・・・」
「それは、残念でしたね・・・・・・」
「ソラ殿が気に病む必要は無いでござるよ。この世は諸行無常、形あるものはいつか壊れゆく
シグレはソラにこれ以上気を遣わせまいとニッと白い歯を出して笑って見せる。
「つかぬことをお伺いしますが、サムライ・・・って何ですか?」
ソラは首を傾げながら問う。彼女でさえ「サムライ」という単語は聞き及ばないらしい。
「よくぞ聞いてくれ申した! サムライとは、世のため人のために己が力を役立て、悪を
「おぉー! わたしの思い描くヒーローとそっくりですね!」
「してソラ殿の言う、ひいろお・・・とはどういったものでござるか?」
「ヒーローとは、強く優しく、困っている人を助け、どんな困難にも立ち向かうすごい人のことです!」
「ほほぉ~、確かに拙者の目指すサムライと似ているでござるな!」
似た者同士の二人は和気あいあいと会話を弾ませていると、ましろが二人を呼びに来た。
「二人共、朝ご飯できたよー!」
「はーい!」
「今行くでござる!」
召集に応じ、ソラとシグレは家の中へ入っていく。