ひろプリ SAMURAI GIRL HEROISM 作:MOZO
朝食は焼き鮭をメインとした和の献立だ。
赤ん坊はましろに抱かれながらミルクを飲んでおり、ソラは器用に箸を使って鮭の身を摘まんで口に入れた。
「ウマ~! 何ですか、この魚⁉」
予想以上に絶品だったらしく、ソラは感激のあまり声に出ていた。
「臭みが無くて、歯応えプリプリ。甘味がブワーって口の中で広がって、目の前に大海原が広がるようです!」
少々オーバー気味ではあるが、そのおいしさを全身から溢れんばかりに表現するのだった。
「程好い塩味に香ばしい焼き加減。脂の乗った身を一噛みすればジワリと旨味が滲み出る。これほど美味なる魚を口にしたのは生まれてこの方初めてでござる」
同じく、鮭を一口食したシグレはしみじみとその味を噛み締めるのであった。
「グルメリポーターかな?」
鮭の切り身一つでこんなにもリアクションをする人間はそうはいないだろう。
と、ソラが赤い梅干しを摘まみ口へ運ぼうとする。
「あっ、それは・・・・・・」
ましろが止めようとするも、既に遅しと梅干しはソラの口の中に消える。
「ッー!」
ソラは今まで味わったことのない酸っぱさにわかりやすく悶絶する。
「梅干しはハードル高めだったかな?」
しょうがないといったふうなましろの横でシグレも梅干しを一つ口に入れたところだった。
「くぅ~! これはかなりの酸っぱさでござるが、その中に深い味わいを感じられるでござる。更に、この白くふっくらとした粒々と共に食すことで酸っぱさが甘さを際立たせて、これもまた美味」
「し、渋い・・・・・・」
シグレと和食の相性がだいぶ様になっており、日本人よりも日本人らしく思えてしまう。
食後、ましろはヨヨからお小遣いをもらっていた。
「これでソラさんとシグレさんの服を。それに、昨日お願いしたものも」
「ローズオイルにシナモンスティック、干したカエルだっけ?」
その会話を聞いていたシグレの脳裏にふと何かが過ったが、それが何なのかが思い出せなかった。
ソラはヨヨが抱える赤ん坊の目線に合わせて屈んだ。
「良い子でお留守番できますか、エルちゃん?」
「えるぅ~!」
名無しというのも不便なので、仮の名前としてソラは赤ん坊をエルと名付けた。
「そっか、本当の名前がわからないからね」
「エル・・・・・・。うむ、中々良さげな名前でござるな」
ましろもシグレも大いに賛成。何やらヨヨが意味深な反応を示していたのは気になるが。
* * *
服を買いに出た三人。昨日の騒動が嘘だったように平穏な空気が流れているが、ましろは少し心配になっていた。
「昨日襲って来た奴、えーと。ザブトンだっけ? カツドンだっけ?」
「いやいや、トンカチでござったような」
「大体そんな名前だったと思います」
「まだその辺にいたりするのかな? バッタリ出くわしたらどうしよう・・・・・・」
“カバトン”が仕返しに現れたりするのではないかと思うと恐怖を拭い切れない。
そんなましろをソラが自信たっぷりに励ました。
「わたしが追い払います! 安心してわたしに任せて━━」
不意に擦れ違う男性が持つスマホからの着信音が鳴ると、ソラは反射的に身構えてしまった。
「任せちゃって大丈夫かな?」
一抹の不安を感じるましろ。比べて、シグレは落ち着き払った様子だった。
「シグレちゃんは驚かないの?」
「拙者も驚かなかった訳ではござらぬが、『サムライたるもの、凪のように穏やかな心を持ち、物事を見極めよ』と師匠から教わっているのでござる」
「うぅ・・・、さすがです。わたしもシグレさんを見習わないと。例え、火の中水の中、どこにいたってヒーローは冷静沈着でなければなりません。この世界の機械に驚くのはこれが最後です!」
そう宣言するソラであったが、ショッピングモールに着くなり驚愕の声を上げた。
「た、建物の中に市場が!?」
「なんと大きな市でござろうか」
エスカレーターでも。
「か、階段が動いてる!?」
「便利でござるな」
店内の案内ロボット・パッパーくんと出くわした時でさえ。
『イラッシャイマセ』
「に、人形が喋ってる!?」
「これはまた、面妖なカラクリでござる」
「ましろさん、シグレさん、離れてください。これはなんだか怪しげです!」
「どっちかというと、わたしたちの方が怪しげかな?」
見たことのないものに敏感に反応してしまうソラと、冷静さを欠かず達観しているシグレとのこの差。
どうにかアパレルショップに着いた一行であるが、ソラはジャージばかり手に取ってしまう。
「どっちのジャージにするべきでしょうか?」
「ジャージ以外の選択肢があってもいいんじゃないかな?」
と、シグレの姿が見えないことに気づいたましろが辺りを捜すと和服店で高価そうな袴を見ているシグレを発見する。
「これは上等な生地を使っているでござるな」
「お客様、お目が高いですね。こちら当店のオススメの商品になっております」
「ほほぉ~。ではそれを一着」
「そっちじゃないよー!」
シグレを引き戻し、服選びを再開させるも、二人は一向に決められないでいた。
「ましろさん、わたしの服を選んでもらえませんか? どんな服がいいのかわからなくて」
「拙者もお願いできぬでござるか? 今時の若者がどういった着物を好むのか見当が付かぬでござる」
二人共、幼少の頃から修行に明け暮れていたのもあり、衣服の趣向が無頓着になっているのだ。
「うん、任せて! ってソラちゃんはともかく、シグレちゃんも今時の若者だよね・・・・・・?」
承諾したましろが二人のコーディネートをすることに。色々な服を試着した結果━━。
ソラは、白と青を基調としたトップスにコバルトブルーのスカート。白いラインが二本入ったシアン色のニーハイソックスと白いスニーカー。
シグレは、シルバーグレーの七分袖のシャツにネイビーのベスト。デニムのショートパンツと黒のソックスにグレーのスニーカー。となった。
服を購入後、ソラは気に入ったようでましろに聞き返していた。
「似合ってますか?」
「似合ってる」
無邪気にはしゃぐソラ。一方のシグレはモゾモゾとして落ち着かないみたいである。
「むぅ~、何やら足がスースーするでござる・・・・・・」
「慣れれば大丈夫だよ」
「着物もそうでござるが、やはり刀を差していないとどうにも落ち着かぬでござるな」
シグレは左の腰付近をまさぐるような仕草をする。
刀を差しているシグレが警察に捕まっている想像をしたましろは、「今日は無くて良かった」と内心思うのであった。
三人がベンチに座ると、ましろがソラへ素朴な質問をする。
「ねぇ、聞いてもいい? ソラちゃんはどうしてそんなにまでしてヒーローになりたいって思ったの?」
「本物のヒーローを見てしまったから。でしょうか」
ソラがヒーローを志すきっかけ。それは過去へと遡る━━。
まだあどけない年頃のソラは、入ってはいけないと言われていた森に一人で入ってしまい迷子になってしまった。無数の
「あの日、わたしは本物のわたしのヒーローと出会ったんです。あの人みたいになりたい。そのために毎日トレーニングをして、ヒーロー手帳をつけて・・・・・・」
「あの手帳、そんなに大切なものだったんだね・・・・・・」
昨日、カバトンに手帳をビリビリに破かれたことを思い起こす。
暗い空気が漂いそうになると、気を取り直して次にましろはシグレへ質問する。
「それでシグレちゃんの方は、どうしてサムライを目指そうって思ったの?」
「うーむ。拙者は子供の頃から師匠の許で修行していたゆえ、なって当たり前と思っていたでござるな」
うんと幼い内からサムライになるため刀を握り、何十何百と振り続け、どんなに厳しい修行も乗り越えてきた。なので、シグレがサムライを目指すことは至極当然なのだ。
「強いてソラ殿のような憧れがあるとするなら、拙者の兄上でござろうか」
「お兄さん?」
「兄上は拙者よりも剣の才に恵まれ、他の弟子たちの誰よりも強かった。拙者も兄上のような立派なサムライになりたいと夢見ていたでござった。しかし・・・・・・」
シグレは目を伏せ、少し表情を曇らせた。
「ある日、拙者と師匠にはおろか、父上にも母上にも何も告げずに兄上は
シグレの意外な身の上を聞いたソラとましろは、言葉にできないくらいに胸が締め付けられる。
が、シグレは今までの鬱々とした気分を払拭するように笑顔を見せた。
「故に、拙者が世界一のサムライとなって名が知れ渡れば兄上にまた会えるはずでござる!」
いつものシグレに戻り、ソラたちもホッと一安心する。
「きっと、いつかお兄さんに会えますよ。わたしも応援してます!」
「かたじけない、ソラ殿」
ソラの激励を受け、シグレは志しを強く確固たるものとした。
ここで、ましろは前々から生じていた疑問をぶつけた。
「ねぇ、サムライってこっちの世界の言葉だよね。なんでスカイランドにも同じ言葉があるのかな?」
「拙者も詳しくは知らぬでござるが、スカイランド剣術の創始者が自らをサムライと呼んでいたと師匠から聞き及んでいるでござる」
疑問が更に深まり、三人は揃って不思議そうな顔をするのだった。
シグレの私服はイメージ通りに書けたと思いますが、ソラの私服の方は若干心配です・・・・・・。