東京喰種RTA 共存√   作:零龍愛好家

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なんか続いたので初投稿です


記録:1

 東京20区の喫茶店、あんていくの二階。

 そこには少女と青年の姿があった。

 

 少女は何やら難しそうな顔を浮かべながら、手元の小説と睨めっこする。

 

 小説の名前は"虹のモノクロ"。

 高槻泉の作品でいくつかの短編が集めた―――所謂オムニバス形式の物となっている。

 

 それは挿絵も全くない本だ。

 また言い回しも独特であり、良く言えば文学的、詩的表現と言える。

 が、悪く言えば非常に回りくどく分かりづらい表現。

 故に、まだ十代前半の少女が理解するにはひどく難しいものとなっていた。

 

「カネキさん、これは………?こ……よ……ときあめ?」

 

 少女は唸るような声で片目に眼帯を掛けた青年―――金木に問いかけた。

 

「”こよときあめ”……………ああ!これは、小夜時雨(さよしぐれ)って読むんだよ、ヒナミちゃん。」

 

 金木は柔らかに笑って少女―――ヒナミに返した。

 

「あ、あの……これはなんて読むんですか?」

紫陽花(あじさい)。梅雨の時期によくみられる花だね。」

「この”あんたのし”は……?」

安楽死(あんらくし)……だね。苦しまずに死ぬってこと。」

 

 金木は時折、ヒナミのそのインパクトが強い間違いに苦笑しながらも正しい読み方を教えていく。

 

 そして、ヒナミは一生懸命鉛筆を走らせて教えてもらった漢字をメモをしていった。

 

「偉いね。ちゃんと忘れないようにメモしてるんだ?」

 

 金木は感心しながら尋ねた。

 

「私、学校に行ってないから……覚えたことを紙に書いてるんです。お母さんがそうしなさいって………」

 

 ヒナミは伏し目がちにそう言った。

 

 喰種というのは、基本的に学校に行かない。

 否、行けないと言った方が正しいか。

 

 リスクが高すぎるのだ。

 

 当たり前だが学校で出されるのは人間用の食事だ。

 喰種にとって、人間用の食事は毒に等しい。

 それをまるでなんでもないかのように食べないといけない。

 

 また、喰種は人間よりも遥かに身体能力が高い。

 そのため、上手くセーブをして人間の範疇に身体能力を収め、さらにそれがあたかも本気で行っているように演技をしなければならない。

 

 このように、喰種が人間の学校に行くには様々な困難がある。

 しかも、一歩でも間違えてしまえば喰種捜査官に引き渡され即座に殺処分だ。

 それではほとんどの喰種は学校に行かないし、行けないだろう。

 

 だから、ヒナミは頑張って漢字を読めるようになるためメモをする。

 学校に行けない分、少しでもその差を埋めるために。

 

 金木は当たり前に知識を享受できる者だった。

 そのため、望んでも知識が手に入らないヒナミを見て、どうしようもない罪悪感が金木の心を覆った。

 

「これは?これも時雨と同じような言葉……?」

「これは”驟雨(しゅうう)”って言うんだ。」

「”しゅーう”?」

「うん。急に振り出す雨のことだよ。」

 

 ふと空を見上げる。

 そこには淀んだ雲が浮かんでいた。

 

 

 ★★★

 

 

「本当に振り出してきたわね。芳村さんに傘をお借りしていて良かったわ。」

 

 リョーコのその言葉に、ヒナミはピクリと反応する。

 

「お母さん!これ、”しゅーう”だよ!」

「えっ?」

「”しゅーう”。急に振り出す雨のことだって。お兄ちゃんに教えてもらったの。」

 

 ヒナミはえっへんと自慢げに胸を張る。

 

「フフ……カネキくんは物知りね。」

「また色々教わろーっと!」

 

 雨脚が強まってきた。

 あんていくに居た時は曇りだったのに、ものの十数分で土砂降りだ。

 

「…………ッ!!」

 

 その時、ヒナミは気づいた。

 ザァーザァーと鳴る雨音。

 それに交じって、自分たちを付けてきている足音があることに。

 

「………ヒナミ?どうしたの……?」

「誰かが追ってきてるかも……。お母さん……走ろ……?」

 

 それを聞いて、すぐさまリョーコはヒナミの手を引いて走り出した。

 

「ヒナミ!誰が追ってきてるの……!?」

「大人の男の人……二人いる……っ!」

 

 四方から自分たちが喰種捜査官に目を付けられている話は聞いていた。

 なら、リョーコ達を追っている者の正体は――――――

 

 ふと、ヒナミが立ち止まった。

 異臭がするのだ。

 言葉にするなら、喰種を無理矢理加工して混ぜ物にしたような匂いだろうか。

 酷く不快で気持ちが悪くて仕方がなかった。

 

「なに……この匂い……」

「ヒナミ……大丈夫……!?」

 

 リョーコがヒナミの背中をさする。

 しかし、ちっとも具合は良くならない。

 それどころか匂いはどんどん強くなってきている。

 

 とうとうその異臭が目の前まで来る。

 ヒナミは恐る恐る顔を上げた。

 

 そこには、こちらを覗く二人の男がいた。

 

 一人は長髪の白髪で不健康そうな顔の男。

 もう一人は黒髪で長身の若い男。

 

 そしてその二人の胸元には鈍く輝く鳩のバッジがあった。

 

 ―――――彼らは喰種捜査官だ。

 

「ちょっとお時間いただけますかねぇ?笛口リョーコさん。コレについてお聞きしたいことが。」

 

 不健康そうな男が趣味が悪い笑みを浮かべながら出してきたのは一つのマスク。

 それは、リョーコの夫が生前付けていたマスクであり、先日彼の墓に埋めた物だった。

 

 どうやら彼らはリョーコ達が喰種であると確信しているらしい。

 

「………………………」

「おや、ダンマリですか。」

 

 後ろから先ほど自分たちを追っていた二人の男も到着する。

 前にも後ろにも喰種捜査官。

 もうリョーコ達には逃げ場がない。

 

 ―――どうすればいい………?

 

 リョーコは焦る気持ちを抑え込んで、努めて冷静に考える。

 

 前に居る捜査官二人は手練れだろう。

 目の前に喰種が居るというのに落ち着いている。

 何度も喰種を屠ってきた経験があると推測される。

 

 対して、後ろにいる捜査官二人は少しの動揺が見られる。

 喰種を屠った経験が少ないか、もしくはこれが初めてか。

 前に居る捜査官よりは明らかに弱そうだ。

 

 ―――ならば狙うなら後ろにいる捜査官か。

 

 しかし、リョーコには人を殺した経験が全くない。

 彼女は自分達と同じ姿の人間を狩ることが出来なかった。

 どうしてもただの食料として見ることが出来なかったのだ。

 そのため、夫の生きていた頃は夫に、夫の死後はあんていくに食料を頼っていた。

 

 ―――そんな自分が喰種捜査官相手に太刀打ちできるのだろうか?

 

 リョーコの頭の中で恐怖や焦りや不安といった感情がぐるぐると渦巻く。

 臆病にも、中々戦うという決心がつかない。

 

「お母さん…………」

 

 ふと、ヒナミがリョーコの腕に抱きついてきた。

 よく見ると、彼女の小さな身体はガタガタと小刻みに震えている。

 

 ―――嗚呼、この子は私が守らないといけない。

 

 ヒナミのその悲痛な姿を見てようやく決心がついた。

 

 後ろの捜査官だけでも倒す。

 そして、前の捜査官からヒナミが逃げられるだけの時間を稼ぐ。

 

 恐らくリョーコは生き残れない。

 戦闘においては素人の喰種一体が相手にして生存できるほど、喰種捜査官は甘くないだろう。

 

 しかし、それでも良かった。

 たとえリョーコが犠牲になっても、ヒナミが生きてさえくれればそれで満足なのだ。

 

 リョーコは母親としての覚悟を決めた。

 同時に、自分が殺される覚悟も。

 

「ヒナミ………逃げて。」

「お母さん………?」

 

 赫子で後ろにいる捜査官を襲おうとした。

 

 ―――その時だった。

 

「ここは俺に任せて。あんたは子供を連れて逃げな。」

 

 ふと、リョーコの耳元で声がした。

 

 驚いて顔を上げると、先ほどまではいなかった男がそこにいた。

 顔に百円均一で売っているようなシンプルなマスクを着けて肩には羽赫の赫子を携えている。

 その姿から彼は喰種だと分かる。

 何かとマスクで個性を出そうとする喰種が多い中で、明らかな量産品を着けるその姿は逆に個性的と言えた。

 

「あなたは………?」

「見て分かるだろ?殺されそうになってるあんたらを気の毒に思って助けに来たとても心優しい喰種だ。」

 

 彼はリョーコ達を安心させるためだろうか、冗談交じりにそう言った。

 

「俺は後ろの奴らを片付けた後、前の奴らの足止めをする。あんたらは後方に走れ。いいな?」

「分かりました……ありがとうございます……!」

「ありがとうございます……!」

 

 リョーコとヒナミは彼に感謝を伝える。

 その様子を見た彼は満足げに頷き、リョーコとヒナミを庇う様に前に立った。

 

 そんな彼の様子を見て、前方の捜査官達は面白い物を見たとばかりに手を叩く。

 

「クク……飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのことですなぁ、亜門くん?」

「ええ、全くです、真戸さん。」

 

 発言通り、まるで哀れな虫けらを見るかのように真戸と亜門と呼ばれた捜査官は彼を見る。

 

「我々、喰種捜査官も舐められたものですなぁ、えぇ?一介の喰種ごときが立ち向かえると思われてしまっている。その思い上がりを改めさせる必要がありそうだ。」

「あぁ、あなた達は喰種捜査官だったのか!町の治安を維持する捜査官様達って、こんないたいけな親子を寄ってたかって虐めるのが仕事だったんだなぁ………知らなかった。」

 

 彼は自身の余裕を見せつけるかのように煽った。

 その言葉に真戸は怒りで顔を歪ませる。

 

「………喰種如きが………図に乗るな!」

「怖い怖い。そんなに大声を出したらこの子が怖がっちゃうよ。」

 

 彼はヒナミに指を指して肩をすくめた。

 

 彼の態度にさらに激高する真戸。

 その様子を見かねたもう一人の亜門が彼の肩を叩いた。

 

「真戸さん。こんな喰種の戯言に付き合う必要はないでしょう。時間の無駄です。」

「…………ああ、そうだな。ゴミはゴミに相応しく、惨たらしく殺してやろう。」

 

 真戸達はリョーコ達にじりじりと距離を詰めていく。

 リョーコは縋るように彼の顔を見た。

 

 彼の顔はマスクで隠されていて、表情を窺い知ることができない。

 だが、なんとなく笑ったような気がした。

 

「そうだね。―――時間の無駄だ。」

 

 その瞬間、彼の姿がぶれた。

 

「「―――ぐあッ!!」」

 

 後ろから、うめき声が聞こえた。

 急いで振り返るとそこには横たわる捜査官二人と、傍に横に立つ彼がいた。

 一切血が流れていないことを見るに、気絶させたのだろう。

 

 リョーコが1秒もしないうちに二人の捜査官を伸してしまった彼を見て固まっていると、彼と目が合った。

 彼はリョーコ達に向かって手を振る。

 

「道は開けた。早く走れ!」

 

 その言葉でようやくリョーコの時は動き出す。

 急いでヒナミの手を引き、後ろへ駆け出した。

 

「待てッ!!」

「悪いね。ここは通行止めだ。」

 

 リョーコ達を逃がすまいと真戸と亜門は追おうとするが、喰種の男が前に立ちふさがる。

 流石に二人も仲間を瞬殺した彼を警戒せざるを得ず、足を止めた。

 

 その間にもリョーコ達は必死に逃げる。

 悪天候により足元が悪く、何度か足をもつれさせながらも走り続けた。

 

 そうして走り続けるうちに、二人の捜査官相手に彼は無事なのかという不安が押し寄せてきた。

 

 ―――彼は強い。だから、きっと大丈夫。

 

 リョーコはそう思い込んで彼の身を案じる気持ちに蓋をする。

 

 彼女は間違ってはいない。

 彼は自ら足止めを申し出たし、彼女は娘であるヒナミを何が何でも守らなければならないから。

 しかしそれでも、自分のせいで彼が犠牲になるのかもしれないと思い、罪悪感を抱くほどには彼女は善人だった。

 

 どれだけ走っただろうか。

 リョーコは後ろを振り返った。

 

 雨の降りしきる道路に、彼らの姿はもう見えなかった。

 彼女達の悪夢は、ようやく終わった。

 

 

 ★

 

 

「………逃げられたか。」

 

 すっかり姿が見えなくなったリョーコ達に真戸はポツリと呟く。

 

「まぁ、いい。後で駆逐すればいいだけの話だ。それよりも今は奴だ。行くぞ、亜門君。」

「はい。」

 

 真戸と亜門はそれぞれが持っている白い箱に手を掛ける。

 それは一見するとただのアタッシュケースのようだったが、何処か形容しがたい雰囲気が漂っていた。

 

 そこから出てきたのは禍々しい武器だった。

 

「へぇ………蛇腹型のクインケとは珍しい。」

 

 喰種の男が関心した声を漏らす。

 

 ―――クインケ。

 それは喰種を駆除したときに手に入る赫包を使用することによって作られる武器の総称だ。

 

 一般的に喰種には通常の銃やナイフ等は効果がほとんどない。

 ではなんであれば効果があるかというと、それは喰種の武器であり捕食器官である赫子。

 その赫子を生み出す生体器官である赫包を使用したクインケであれば喰種に有効であった。

 

 真戸は蛇腹型のクインケを、亜門は棍棒型のクインケを構える。

 

「クク……コレはな、さっきの喰種の夫から作ったクインケだ。愛する夫から作られたコレで殺されて絶望する姿を見てみたかったが……それは後のお楽しみだ。」

「野蛮だね。彼女らより、よっぽど君のほうが喰種に似合ってる。」

 

 ついに戦いが始まった。

 

「吹き飛べ。」

 

 先ずは亜門が彼と距離を詰めてそのクインケを振るう。

 亜門の恵まれた体格から繰り出されるフルスイングは当たればひとたまりもないだろう。

 しかし、彼は悠々と一歩下がりそれを回避する。

 

「死ね!」

 

 だが回避したのもつかの間、今度は真戸の蛇腹のクインケが飛んでくる。

 亜門の攻撃を回避するのに意識させて、今度は意識が薄くなった真戸が蛇腹特有の軌道の読みづらい攻撃によって仕留める。

 これが彼らの鉄板の流れであり、これにより9割の喰種が死なないにしても致命傷を負うこととなった。

 

「それは読んでいるよ。」

 

 だが、その蛇腹でさえも彼は完璧に避ける。

 唸る蛇腹の隙間を抜けて見せた。

 これまで戦ってきた喰種に赫子で防がれることはあっても完全に回避されることはなかった。

 真戸は彼への警戒を一つ上げる。

 

 また亜門がクインケを振るうが既に彼はその間合いの外にいる。

 そして、必要最低限の動きで避けるため、彼の体勢は崩れない。

 そのため真戸の追撃にも余裕をもって避けられる。

 

 彼は真戸と亜門を完全に翻弄していた。

 戦いの中で不自然なほどに最適解だけを選び続ける。

 それはまるで幾度となく二人と戦い、全て知り尽くしているようだった。

 

 けれど、それだけの強さを持ちながら彼は二人に対して反撃を一切しようとしなかった。

 回避し続けるのに全力だったから?

 ―――それは違う。

 

 彼は余裕をもって攻撃を避け続けていたし、何より赫子を一切使わなかった。

 その赫子を十全に使えば、これまでの戦いで二人を殺すことは容易だったことは明白だった。

 

 それを亜門は彼の驕りだと捉えた。

 

「何故本気で戦わない………?俺達を馬鹿にして遊んでいるのか………!?」

「いや、違うね。俺が本気で戦わないのは君らを殺したくないからだ。」

 

 その言葉に真戸は失笑する。 

 

「何………?喰種風情が人間に温情を施すというのか?馬鹿馬鹿しいな。」

「言葉が悪かったね。分かりやすく言うならばメリットがない。人殺しのレッテルを張られると色々と不都合なんでね」

「はっ、レッテルを張られるも何も、お前は人殺しに何の躊躇もない化け物だろうが。」

「………まぁ、今君らに色々説明したところで無駄か。」

 

 彼はそう言って一人で納得した。

 

「そろそろお暇させてもらうよ。もう十分に時間は稼いだから。」

 

 彼は肩から羽赫を出す。

 ここから逃げる気だ。

 

「待て!」

「待たない。だって君ら、援軍を呼んでるじゃないか。」

 

 その通りだ。

 二人だけでは勝てないと判断した亜門はすぐさま応援を要請していた。

 

 彼は赫子を使い、雨空へ飛び立つ。

 真戸と亜門は逃がすまいとクインケで襲い掛かるがやはり回避されてしまう。

 

「逃げるなッ!」 

「またね。」

 

 彼はまた会うことをまるで確信しているかのようにそう言い残し、雨空に消えていった。

 

「くそッ!」

 

 亜門は拳を握り締める。

 

「亜門君。笛口は後回しだ。何としてでも奴を見つけ出して殺すぞ。」

「………はい!」

 

 結果的にこの作戦は捜査官が誰一人として怪我をせずに失敗した異例の物となった。

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