脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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脳プ「くらえ!!『……紅茶でしたらもう結構です。』ナギサ様は確実に紅茶を飲んでおり、コーヒーではない。これは明らかな矛盾です!」
ぼく「!!!??!!?!?」
例のbgm
独自設定タグ「終わり!閉廷!以上!解散!」


5th PVのあのシーンから情報を摂取しようとしたらロールケーキ……?となってダメでした。
転覆計画回


第14話 そいつは正門を5速全開で抜けてったんだ。

 

 

 

「答え合わせの続きをしよっか。アズサちゃんはアリウススクワッドのメンバーなんだ」

「スクワッドというのは」

「元はアリウスの生徒会が組織した特殊部隊って言えばいいかな。計画や立案、指揮や判断はスクワッドがしてる」

 

 なるほど、つまりそいつらだ。セイア様を殺したのもそうするようにした、そうした、そうしやがった*トリニティスラング*共は……!!!

 

「アズサちゃんはかわいい真面目ないい子なんだけど、命令にもキッチリ従う冷徹な子でもあるんだ。だから実行役も任されたんだろうけど。今回も間違いなく関わってくるだろうから、先生に守って(よく見て)ねって頼んだんだけど……どうかなぁ」

「先生は先生であって万能ではありませんから……」

「まぁ、そうだよね」

 

 きっと今も理不尽に補習授業部を虐げるナギサ様を目の敵にして指導に励んでいるだろう。そもそもがトリニティ側でもアリウス側でもない、第三者だ。どちらかに肩入れする訳でもなく生徒個人に寄り添う立派な先生をしている。間もなくお役御免になるだろう。

 

 地下、ずっとずっと階段を下った先には広く高い無限に長く感じる空間があった。上下左右の壁という壁がコンクリートに覆われており、特筆すべきことは継ぎ目がほとんどなく滑らかであることだろう。知識が正しいならば地下放水路と呼ばれるものであった。

 湿気って澱んだ空気がたまっているが時おり弱い風が流れて音が鳴る。どこかで地上と繋がっているのだろう。

 そんな地下深くに遺跡の横に隠しておいたはずのバイクがあった。

 

「……よく持ってきましたね」

「うん、見つからないかヒヤヒヤしたよ」

 

 編まれた尻尾を解いて、中に隠しておいた小さなぬいぐるみを取り出す。水色のフクロウには2つの鍵が繋がっている。そのうちの1本はバイクの鍵だ。始動したエンジンが快調に拍を刻む。

 

 しかし随分と変な話だ。屈折というのか、襲いに行って守りに行くというのだから。

 

「ナギちゃんどんな顔するかな?犯人を待ち構えてたら隠れるように言っておいた相手が来たら」

 

 心の底から面白くなさそうにミカ様が声を上げて笑う。虚無に声が響いて消えていく。空虚な心を表すかのように。

 

「チェスだったら味方の駒が裏切るなんてないもんね」

 

 信用できなくなったアリウスを監視し、襲撃の実行メンバーに入ることで目論見を打ち崩す。学園に弓を引き、同盟相手の要望を蹴り返す。だがそれによって失うものは多く、大きいのに、得るものは芥子粒1つあればいい方だろう。

 

「どうしたら良かったのかな」

「破滅に向かうナギサ様もアリウスとの和解も何もかも全て諦める……ですかね」

「……無理だよ、そんなの」

「えぇ、無理です。詰んでたんですよ。崖下に落ちそうな親友がいたら助けるし、希望の糸があったら掴むのが普通なんですから。」

 

 どうしたらよかったのか。それは誰かがあなたをちゃんと見ていればよかった。

 

「俺たちが事前に防がなきゃならなかった。恨むべきは俺たちであってセイア様でもナギサ様でも、ミカ様でありません」

 

 汗は血を救い、血が命を救うなら俺たちの汗が足りなかった。それに汚れ役なんてこの仕事なら日常茶飯事だ。今更恨まれたところで痛むものも無い。なによりも私の大好きな人達が疑いあって争う姿なんてこれ以上見たくない。

 だからくどいようだけど改めて1つ聞きたいんだ。

 

「ミカ様にとってナギサ様は邪魔ですか」

「言っちゃうなら、そうだよ」

 

 あのゲヘナを相手に手を取り合うなんて感情で考えれば土台から無理な話だ。理性で考えてもそれは同じだ。武力を重視するパテルにとってゲヘナは最も身近で巨大な敵。

 しかし経済を重視するフィリウスにとってゲヘナは最も身近で巨大な取引先。腹のうちがどうであれ愛想良くゲヘナに応対する行政官、それどころか融和を推進するナギサ様はミカ様には飛んで火に入る虫の如く愚かで危険な行為に見えていただろう。

 

「みんな真面目で、賢くて、一生懸命で、とっても弱い。ナギちゃんはそのうえ夢まで見てる。私たちの生きてる世界はそんなキラキラした明るい世界じゃないのに。ううん、そんなんじゃないから夢を見てるのかな」

 

 それはそうだ。トリニティどころかキヴォトスでミカ様に敵う者などいないだろう。正義実現委員会いや、トリニティ全員でかかってもなお分からない。

 

「でも、だからって死んで欲しいなんて思わない」

 

 ミカ様からの情報によれば明日の朝9時より作戦が開始される。小隊が突入、現地で潜入しているスクワッドの白洲アズサと合流しつつナギサ様の確保を目指す。このまま行けば恐らく襲撃は成功し、ナギサ様は囚われる。

 

「ではアリウスからトンビの如く横取りしましょうか」

 

 だがそれはアリウスにではない、私かミカ様がナギサ様の身柄を確保する。そしてアリウスを殲滅する。日が頂上に登る頃にはナギサ様が凶弾に倒れ、療養に入るという公式声明が発表されてミカ様がホストの座に着く運びだ。

 

 俺とミカ様は敵対している。俺はエデン条約を、ホストを守る護衛だから。でも私はそうじゃない。私は条約なんかよりナギサ様さえ無事ならそれでいい。この一点において、私とミカ様は同志だ。目的が一致したが故の奇妙な共謀。アリウスの鼻を明かしてやるために敵と敵が手を取り合う。

 

 アリウスはあまりに不義を働きすぎた。ミカ様からの信用を失い、同盟の価値を無くしてしまうほどに。ナギサ様の命を狙っていることが透けてしまえばミカ様にとってアリウスは味方どころか敵だ。私たちにとって最悪なのは遺体がもうひとつ増えることだから。

 

 アリウスを排除し、ホストとなり、正義実現委員会を手にする。逆に言えばそこまで正義実現委員会は味方になってくれるか怪しいためアリウスとの戦闘は総勢2名。でも負ける気がしないのだから不思議だ。

 

「それじゃあ行こっか、()()()()()に。別に来なくてもいいけど」

 

 これから起こるは現ホストの襲撃、標的は前述の通りナギサ様。

 

 時間にあまり余裕はない。加えてナギサ様が何故かノーガード戦法を展開しており、作戦開始時刻を繰り上げて払暁戦に挑まれたりしたら間に合わなくなる。

 

「行かない訳がないですよ」

「うん、ナギちゃんを迎えに行こう」

 

 ナギサ様がミカ様を信じなければ、ナギサ様とミカ様が不倶戴天の宿敵との夢を見なければ、セイア様が夢を見ていればもっとマシな世界だったのだろうか。

 考えるだけ無駄、詮無きことか。結局私たちはこの最悪な世界にいるのだから。

 しかし、誰もがより良い未来を掴むために必死だ。その過程で最適手を取れなくても、大悪手(ブランダー)を指してしまっても、それは指し手が最善手を諦めた証拠にはならない。

 悪評、批判、中傷があることを分かってていてなお対局の席に着き、指し続けた勇気を知っている。見えない相手の駒、見えない勝利、盤面すら次第に暗闇に消えていくその中でさえ、誰よりも駒のことを思い、守ろうとしていたことを知っている。()に触れるあの人の手を、暖かさを知っている。

 

 死なせやしない、あの人をアリウスなんぞに殺されてたまるか。

 

 

 

 /01

 

 

 

「……ティーパーティーのナギサが探してる“トリニティの裏切り者”は、私だ」

 

 アズサの突然の告白に補習授業部が示した反応はそれぞれだった。何も知らされていなかったコハルはただ困惑し、裏の目的を知るヒフミは驚きながらもゆっくりと察し、可能な限り情報を集めたハナコはただ黙って話を聞いた。

 

「アリウスとしての任務を受けて、今はこうしてこの学園に潜入している……。その任務というのは……ティーパーティーの桐藤ナギサ、彼女のヘイローを破壊すること。」

 

 緊張と恐怖からか震える声で告げられた驚愕の内容に部に衝撃が走る。

 

「明日の朝、アリウス分校の生徒たちがナギサを狙ってトリニティに潜入する……私は、ナギサを守らなきゃいけない。」

 

 一見すると矛盾した発言。しかしハナコが質問し、解きほぐし、本心を正しく掴み取っていく。

 

「……アズサちゃん()()は、最初からその目的でトリニティに来た。そういうことですね?最初からナギサさんを守るために、ナギサさんを襲撃する任務に参加した……いわば、二重スパイ。」

 

 アリウスに虚偽の連絡をし、その裏で裏切る準備をし続けていた。誰かの命令でもなく自身がそうすべきと判断した。エデン条約という夢を見たから。

 しかし、そんな裏切り者の自分が嘘をつき、黙り、潜んでいたことで巻き添いを受けて補習授業部という新たな被害者が生みだしてしまった

 

「本当にごめん。私のことを恨んでほしい。今のこの状況は全て、私がもたらしいたことだから……」

「“……それは違うよ。元々の原因はきっと、『信じられなかったこと』の方。”」

 

 補習授業部は不信の産物だ。ナギサがヒフミをはじめとした周囲の人間を信じられなくなってしまったから。ミカがティーパーティーの仲間を信じられなかったから。ひしめく懐疑心が名前と姿を与えられたものが補習授業部なのだ。

 

 もっと信じあえていればこんなことにはならなった。

 

「……そうですね、そうかもしれません。」

 

 裏切り者の願った平和を甘い夢と評したハナコが先生を肯定する。

 

 アズサはこの疑心に溢れたトリニティで嘘偽りなく本心を語り、謝罪した。それは補習授業部での時間を愛してくれたから。逃げだすべき場所であったにもかかわらず留まった。皆で過ごす時間が楽しくて仕方なかったから。これからもを思い描いてしまう程にヒフミを、コハルを、ハナコを、先生を信じた。だから物語は変わり始める。

 

「桐藤ナギサさん……彼女を、アリウスの襲撃から守りましょう。そして私たちは私たちで無事に試験を受け、合格するのです。後からどんな文句も言えないように、かけておいた罠はそのままに……。」

 

 アズサが諦めようとしている学園生活の楽しさ、自身がようやく再びまみえることのできた学園生活の楽しさを守るためトリニティ最高峰の頭脳が策を張り巡らせていた。そしてそれはもう実行を待つばかりである。

 

 だから盤面と手札を見てハナコは言う

 

「……トリニティくらい、半日で転覆させられますよ♡」

 

 勝てると。

 

 

 

 /02

 

 

 

 飲みきって底の見えたコーヒーカップが僅かに乾き、香ばしさと甘さの折り重なった芳しい香りを帯びる。

 

 その香りが立つの良い豆を美味しく淹れることができたから。つまりハイクオリティコーヒーの証左なのだと彼女は自慢げに、でも照れてはにかみながら語っていた。

 

 再びカップを黒く僅かに赤い液体で満たす。

 

 彼女に紅茶の淹れ方を教え、逆に彼女から教わったコーヒーの淹れ方。正しくできているはずなのにそれでも彼女が淹れたものに敵わないのは何故だろうか。

 

 チョコレートを口に入れてからコーヒーを口に含む。熱がチョコの表面を溶かし、苦味に引き立てられた甘みが口に広がっていく。失敗して、どれだけ不味い湯ができあがったとしてもチョコがあれば上等に美味しく飲めると言っていたのも彼女であったか。

 

 屋根裏のセーフルームにも星月の薄白い冷ややかな輝きが平等に注がれる。普段と比べて手薄な警備であろうと、重大事件の前夜であろうとそれは関係がない。

 作りの都合上他の部屋と比べて小さいもののそれでも十分な広さを持つ一室。しかし、何度も出入りした者であれば部屋の様子が違うことに気がつくだろう。家具が増えて配置が変わっている。それは何故か、来る暗殺者への怯えであった。

 

 明日は補習授業部最後の試験がある。これは既定路線であり、変える気はない。試験の要項を聞いた補習授業部は何を思い、この一週間をどう過ごしただろうか。失望し、諦めて時が過ぎるのを待っていたのだろうか。怒り、怨み、嘆いていただろうか。僅かな可能性に全てを賭けたのだろうか。そして裏切り者はいったい何を思い息を潜めていたのだろうか。

 

 銃の安全装置は解除されている、機器の電源も入っている、スイッチは握るだけでいい。準備は出来た、覚悟と勇気が足りなくても責任感と罪悪感が手を動かしてくれる。

 

 今夜、眠る気はない。きっと寝ることもできない。

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