脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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別に強い想いとかなくって、ただあんまりにも綺麗な人がいたからホイホイ付いて来たんだけなんだよね。
だからさ、楽園がどうとか難しいこと聞かれても正直、ね。あってもなくても損はないし都合の良い方に賭ければいいじゃん。
俺は…ある方がいいな、だって何年もあの人が探してるから。

~ ある日の護衛部隊隊員たちの会話より ~


─────
裏切り者回
アンチ・ヘイト注意


第16話 キャスリングのつもりぃ~?

 

 

 

「あうぅ……先生の指揮があって、本当に助かりました……。」

 

 戦場となった体育館には多くのアリウス生が倒れているが、それとは対照的に補習授業部は全員が健在であった。アズサの築いた要塞を使い、地の利を得て個性の強い補習授業部各員の強みを最大限生かした先生の指揮は数的劣勢をものともせず、いとも容易く完勝した。

 

「正義実現委員会の部隊がここに到着するまでの間、それまで時間を稼げれば……。」

 

 アリウスの先鋒の対処が完了し、作戦は次の段階へと移る。ハナコの戦略は順調……のはずだった。

 

 炸裂した梱包爆薬が体育館の壁を吹き飛ばし、開いた穴から白い服の軍団が大量になだれ込む。

 

 アリウスの増援部隊、それも大隊かそれに準ずる規模。予想以上の早さでアリウス側の応援が駆けつけてきたことにハナコ、アズサ、ヒフミ、コハルの全員が驚きと困惑をあらわにする。

 

「あうぅ……!これだけたくさんの方が、平然とトリニティの敷地内に……!?」

「まだ、正義実現委員会が動く気配がない……?」

 

 その中でヒフミは危機察知と経験からある疑問に、ハナコは持ち前の観察眼と分析力でひとつの仮説にたどり着く。

 

「それは仕方ないよ。」

 

 そしてそれに答える声があった。

 

 トリニティ生ならば一度は憧れる真っ白な制服、セーラーに付けられた生徒会所属を表すティーカップの紋章が入ったバッジ、薄絹のような桜色の髪をたなびかせてニッと笑う少女。

 

 トリニティ総合学園の頂点に立つ3人のティーパーティーの1人、聖園ミカその人であった。

 

「正義実現委員会は動かないよ、私があらためて待機命令を出したから。」

 

 ミカは述べる、補習授業部に援軍はない。

 

 ティーパーティーの名を使うことで正義実現委員会以外にも障害となりうる組織全てに手を回してこの学園は現在機能不全に陥らせた。どうしてそんなことをしていたのか、その理由はひとつ。

 

「ナギちゃんを襲う時に、邪魔なんてされたら困っちゃうもんね」

 

 彼女こそがトリニティの真の裏切り者であるためだ。

 

「というわけで、ナギちゃんをどこに隠したかのか教えてくれる?私も時間がなくってさ」

 

 そうはと言いつつもミカは悪役が語るように計画や動機、これまでの策や嘘を話し、開示していく。

 

「……だから、エデン条約を取り消そうと?そのためにナギサさんを……?」

「まぁ、一応答えてあげるとその通りかな。だってナギちゃんが、エデン条約だなんて変なことをしようとするからさぁ。」

 

 ゲヘナが嫌いだから、条約を取り消すため、エデン条約は軍事同盟というのは全くの嘘、アリウスとはゲヘナを憎む同志。

 ヘラヘラと次々と語られる内容にはゲヘナとの戦争や今思いついたようなやっつけな展望、ナギサへの不満、更にはアズサをクーデターの主犯に仕立てる旨まであった。

 

 悪意を擦り付けられた友情は急激に燃える。ミカの話を聞く補習授業部の胸の内でマッチを擦ったかのように怒りが湧く。

 

「わっ、びっくりしたー……。先生、そんなに怖い目もできるんだね……」

 

 そして誰よりも先生が、生徒の味方であろうと常に慈愛に満ちていた目を釣り上げてミカを見ていた。

 

 一触即発、双方の戦闘準備が完了し、号令を待つばかり。

 

 圧倒的多数のアリウス生、更には眼前でゆうゆうと構える絶対的強者の風格を纏う聖園ミカ。語りと共に行われた挑発や煽りの影響もあり、前方の敵に意識や感情を全て集中させる。

 

 だが、そうでない者もいた。

 

『ナギちゃんが襲撃されて計画が崩れるかもって焦ったら……まさかそれが補習授業部なんてねー、これは予想外だったよ。うん。』

 

 これは真。聖園ミカは今も焦っている。計画は崩壊の危機に瀕している。では計画とはなにか。それは先程のでまかせでは無い、隠している別の計画がある。

 

 浦和ハナコは鋭敏に欺瞞を感じ取っていた。()()の内容にはゲヘナが嫌いやアリウスとの和解などの真と思われるものもあるが、それ以上に偽が多い。情報を渡さないようにするブラフかもしれないが、梅林止渇のような味方の統率を維持するための嘘にも感じた。

 

 何よりもコチラの気を引こうとしている。明確な挑発、誘導。理由は定かでは無いものの、なにか意図があるのではないか?

 

 挑発によってかえって冷静になり、視野を広く持とうとする戦略家がいた。

 

 それゆえ可能性が生まれ、奇跡的に掴み取り、察知する。

 

「っ!?避けてください!!!」

 

 奇襲──爆破によって割れていた体育館上層の窓よりアズサの後背へグレーの毛並が飛びかかる。

 

「くっ!?」

 

 間一髪、アズサは身を捩った。バックスタブを凌ぎ、致命傷を回避する。

 

「そんな、いったいどこから!?」「上です!」「待って!前!」

 

 だが、代償として陣形は崩れ、混乱が生まれる。そんな浮き足立つ相手をみすみす逃す訳もなく

 

「はい。じゃあ、補習授業部を片付けてくれる?」

 

 

 

 /01

 

 

 

「チッ!」

 

 手応えがなくやりづらい。常に速度で上回られて主導権を握られる。時間が経つにつれて焦り、腹が立つ。

 

 アズサの攻撃はまたも外れる。ことごとく攻撃を避けられる。

 

 相手はその回避力を裏打ちする卓越した機動力と瞬発力を活かし、コチラの視界外へ逃げて強烈な一撃を叩き込もうとしてくる。その上でフェイントや近接攻撃でタイミングを外してくることもあり、高速域での読み合いを強要される。集中を切らすことができない。

 

 ガスマスク越しに交差した目を見て思う。

 

 アリウスにこんな奴はいない。

 

 これだけ尖った戦い方、練度であればアリウスというあの狭いコミュニティで目にしないはずがない。

 相対するこの人物はアリウスの制服こそ着ているが、アリウスではない正体不明の誰か。

 

 アズサが劣勢にある理由はまだある。それは位置取りだ。補習授業部の中心に飛び込まれたためアズサは味方を巻き込まないように配慮する必要がある一方で、謎の人物はその必要が一切ない。それどころか積極的にこの状況を利用している。

 アズサの後ろと自分の後ろ、周囲に誰が居て誰が来るか。完璧な位置把握によって意図して時折アズサから攻撃や回避の択を奪い取る。

 

 まるでチェスだ。

 

 だが、補習授業部は持ちこたえる。普通であれば中央に穴を開けられたその勢いのまま総崩れになってしまうだろう。しかし、補習授業部にはどんな難解な問題も解決してしまうマスターキーのような存在がいた。

 

「準備できました!」

「“ハナコ、スイッチ(交代)!ヒフミ、ペロロ様を右に!”」

「ペロロ様!お願いします!」

 

 先生は戦況を映すタブレット片手に指揮を飛ばし、アリウスの攻勢を首の皮一枚で凌ぐ。盤面の支配において先生に並び立てるのはそれこそもうひとり先生を用意しなければ存在しえない。更に先生は味方(アズサ)に張り付く敵に対する最適解を叩きつける。

 

「“コハル!今!”」

「くらえぇぇぇ!」

「「!」」

 

 敵を害しながら味方を癒す二律背反の手榴弾による範囲攻撃。示し合わせたかのようにアズサが合わせて動き、敵を振り払う。

 

「大丈夫ですか!?アズサちゃん!」

「助かった」

「よ、よく見たらアイツの持ってるアレ!正義実現委員会の銃じゃない!」

「なるほどねー、そっかそっかぁ。そりゃみんな『シャーレ』『シャーレ』っていうわけだ。厄介だね、『大人』って。」

 

 九死に一生を得た補習授業部、逆に余裕綽々のミカは他のアリウス生に紛れていた先程の弾丸娘を見つけ、楽しげに会話している。

 

「誰だ、アイツは……!」

 

 息を整えるとアズサはふたりをつり上がった目で疑問を呟く。

 返答は横、ハナコからあった。

 

「私の友人です」

「ハナコちゃんの?」

「ヒフミちゃんもよくご存知かと」

 

 顔を隠したところで分かる。

 

「去年の連邦生徒会長失踪にともなう混乱期は、正義実現委員会の管轄外の犯罪対応や不良の統制を。3年前は、過激団体の尖兵として敵をなぎ倒した今なお最速を誇る不良……通り名は野犬でしたか。」

 

 その下にある顔が。

 

「メアリちゃん、合っていますよね?」

 

 その生徒は観念したかのように顔を覆っていたガスマスクを外し、人物が明らかになる。

 

 怜悧、言葉を選ばないなら鋭利で冷めたい顔。普段はなりを潜めた印象を強く抱くのはいつもは彼女が親しみやすく喋り、おどけた仕草と表情をしていたから。だが、今の彼女はそんな外面が剥がれ落ちてしまっている。

 

 優しさのあった翠玉の瞳は怪しく輝き、先端が少し垂れていた犬耳をピンと立てて警戒心を隠そうともしない。磨いた氷のような表情とは逆に、線の細い体を包み隠すジャケットから立ち上がる尾は毛が逆立っており、彼女の穏やかでない心中を如実に語っている。

 

 平時とかけ離れたその姿は別人のようだ、だが間違いない。

 

「……やぁ、どうも櫛井メアリです。」

 

 ティーパティー護衛部隊、桐藤ナギサの近衛、補習授業部の監視。彼女の肩書きや役職は積み上げられた信頼の証。加えて、ハナコはメアリがアリウスに囚われるその直前も決して裏切らなかったことを知っている。裏切るはずがない。はずだが、現実として、目の前にはアリウスに味方するメアリの姿がある。

 

 学園でまことしやかに囁かれていることがあった。櫛井メアリは元不良であったという。

 実際、調査によると彼女は過去、反体制派の傭兵として活動していた。敵を抹殺する戦闘員として。そしてその時の仲間とは現在も交流がある。

 

 では、なぜ彼女は穏健派となったのか。それは中等部の頃の彼女を知る人物から答えを得ることができた。

 仮面だ。彼女の()は学校に溶け込むための仮面に過ぎず、愉快な言動も相手に警戒を下げさせるための演技。実際は愛想笑いもしない冷徹な人物であり、今は伏せて機を伺っているだけだという。

 

 しかし、彼女と触れ合えば触れ合うほど調査データで浮かぶ彼女との乖離に真実が分からなくなる。彼女は嫌いを語る場面でもコロコロと表情を変え、感情を表現していた。

 

 生徒会傘下にありながらトリニティを嫌い、桐藤ナギサの側近でありながらゲヘナを憎む。

 根付いた思想は現在もメアリに巣食っているが、本当にミカやアリウスと同じクーデターの一員なのか、それとも……。

 

 補習授業部が手にしているチップはトリニティ学園と自分たち自身。賭けるか、降りるか。今の手札は聖園ミカに勝てるか?いや、負ける、容易に負ける。切り札を使っても惜敗がありうる。

 

 だから、頭を使え、口を使え。相手の手札を引き込め、さもなくば戦意を削げ。勝ちの目を増やせ。

 

 

 

 未だ疑心暗鬼の闇は晴れていない。事ここに至ってなお信用と信頼の重みは増すばかり。未来予知ができても、天才であっても、完全無欠ではない。人間関係に悩み、他人を理解できない。

 

 真意も目的も、他人を全て見通すことはできない。

 

 そしてそれは相手も。

 

 

 

 /02

 

 

 

「なんで飛び出てきちゃったかなぁ?撃ち下ろしてくれるだけでよかったのに」

「カッコイイじゃないですか」

「確かに衝撃力はすごかったけど、焦っちゃったね。押し切れる相手じゃなかった。ナギちゃんは見つかった?」

「見つけてたら砲弾が飛んできてますよ」

「あははっ、そっか!それで、どうするの?」

「このまま隣に居ることにしました」

「……ふーん、いいよ、連れてってあげる。ちょっと時間はかかりそうだけど、問題はないから」

 

 よし、叫ぶか。わけわかめ!

 

 イレギュラーのせいで取引中止、かつ双方勝手に動いて訳分からん状況が更にこんがらがってスパゲッティ。

 

 うーん、何が起きてるん?どうしてこうなった?なんで仲間割れしてるん?補習授業部はなんなん?とりあえずミカ様その白いヤツら全員しばいてくんないかな?ハナコうっかりナギサ様の居所漏らしてくれないかな?

 

「今なお最速を誇る不良……通り名は野犬でしたか。」

 

「メアリちゃん、合っていますよね?」

 

 合ってるよ。やぁ、どうも櫛井メアリです。

 

 なんかシレッと真名看破された……いや、うん、別にアリウスの味方でもなんでもないしバレても構わんけどね。てか、俺の明確で最優先の敵はアリウスなんすけど、なんで俺こっち側で参戦したん?ミカ様の敵になりたくなかったからです。

 

 ナギサ様に負けたから最速は間違ってるね。でもそれ以外は正解。しかしまさか部外者に古傷をえぐられるとは思ってなかった。でもおかしいな、どこで知った?懺悔室のシスター?救護騎士団のカルテ?丹念に調べたんだなぁ。

 

 視界の端で目ん玉をひん剥いているヒフミとコハルちゃんを他所にハナコはやたらと見覚えのあるものを手にする。

 

「メアリちゃん、そのままお返ししますね」

 

 ハナコに投げ渡されたホルスターを受け取り、挟まっていた紙片を破り捨てる。

 

 白洲アズサは裏切り者である

 

 白洲アズサはである……か。

 

 うるせ~~~知らね~~~

 ファイナルファンタジア

 

 馬鹿言え、という思いもあるし心底機嫌が悪いというのもある。それにきっとこの周囲に雲霞の如く居る白いアリウス共は裏切り者を許せるような奴らではないだろう。アリウス同士、潰しあって消えてくれないかな。

 

「とりあえずそこの教員。監督する気がないなら帰っては?」

 

 とりま、責任者にキレよう。何してたんアンタ?

 

「貴方のやり方ってなんです?問題児には一生懸命寄り添って、手を差し伸べて、できたら褒めて伸ばすんですか?優等生には押し付けて、ほっといて、失敗したら叱り飛ばすんですか?」

「“違うよ“」

 

 まぁ、学校の先生らしくて別にいいけどな。でも、なんでそんな何もしてないのにいっちょ前に義憤を燃やしておられる?

 

「貴方は唯一中立で、どこにでも介入できた。それで、貴方は何をした?ナギサ様のやり方を気に入らないとだけ言って、誰かしらの身元調査すら一切せずに部活の勉強だけ見ていた。」

 

 そしたら急にソイツら止めるどころか一緒になって出てきた。

 

「だったらそこまでが領分だろ。見て見ぬふりしたんだからスっこんでろ。セン公がしゃしゃるなよ」

「“見過ごせることではないよ”」

「ならなんで今更なんだよ!?」

 

 顔を見ているだけでなんだか腹が立つ。こんなにもイライラするのはなぜだ。感情から発っされた言葉が脳みそという思考や理性を通さずに口から出てしまう。あぁ、そういえばずっと息抜きも何もしていないな。

 

「メアリちゃんはどうしてここへ?」

 

 その問いはちょっと言葉に詰まる。ノリと勘で来ますた。体育館へ行くぜ……久々にキレちまったからよって具合に。

 

「襲撃犯を殴る。ひとりぼっちのティーパーティーを守る。まぁ責務かな」

 

 俺のなけなしのスタンスを表明。意思表示は決しておろそかにできない、古書にもそう書かれている。

 

「そういう君たちは戒厳令が出てるのに何をしてるんだ?」

「え、えっと、その、込み入った事情がありまして……」

「へー、そう。」

 

 別にとぼけなくていいのに。黄金……というにはあまりにも汚れた筒を取り出す。

 

「現場に落ちていた薬莢、5.56mm弾。今晩出歩いていて、そして5.56mm弾を使っているのは君たちだけだ。」

 

 俺は7mm弾とマグナム弾、ミカ様は9mm弾を使用している。正義実現委員会や護衛部隊はだいたい7mmくらいの弾、コハルちゃんも7.7mmである。だが、それ以外の補習授業部はヒフミ、ハナコ、アズサちゃんの3名は5.56mm弾を使用している。

 

「それとそこの二人からコーヒーの匂いがする。銘柄も当てられるよ、ナギサ様がセーフルームで飲んでいたものと同じだから。」

 

 どっちも息が切れて戦闘が少し落ち着いてる。つまり、今は会話パート。なんでか分からないけど、せっかくホルスターが返ってきたしここで装備していくぜ!

 ベルトに通して……なんか違うな。やっぱ右の腰だな……んが、ジャケットの丈が長いせいで脚ベルトが留められねぇし。固定できないの嫌なんだが……。仕方あるまい、脱ぐか。防弾チョッキ重かったしいいわ。前開けて下に巻けば脚も留められる。

 

「というか、あの部屋の出来事は全部聞いていたから知ってる。襲撃は君たちの仕業だ。だから俺は君たちを殴る」

「それはそうなんですが……!勘違いというか、誤解があるんです!わ、私たちは襲撃からナギサ様を守るために」

「唾はいて、ぶん殴って、締めた後に拐った」

「いったい何したんですかハナコちゃん!?」

 

 実は襲って守るとかいう矛盾した行為に関しては少々理解があるんですけどね。

 

「で、ですが、アリウスの襲撃はこのとおり本当にあって、ミカ様が首謀者で!」

「アリウスなら、そこの白洲アズサもそうだろ。」

「あ、アズサちゃんは味方です!」

「トリニティの味方はセイア様を殺したりしないよ」

 

 なんだ?心臓でも掴まれたみたいな顔して。ここまでやってて、なんでそんなにも驚く?君たちがアリウスと矛を混じえている理由は?ナギサ様から、ミカ様から、聞いただろ?君たちの中に裏切り者がいる、セイア様が殺されたって。

 

「ふーん、黙ってたんだ。仲間だから?それとも仲間じゃないから?」

 

 ミカ様はあるひとりを見る。しずしずと語り出し、だんだん強く声を張り、最後はよく通る声でその名を呼ぶ。

 

「セイアちゃんがあんなことになっちゃったのが、ここまで事態が大きくなったきっかけなんだよ?それから色んなことがどうしようもなくなっちゃってさ……」

 

 アリウスかつ補習授業部、ひとりいるだろ?

 

「ねぇ、その辺りどう思う?白洲アズサ」

 

「そ、それは……。」

 

 君が、殺した。この一点、この一点だけで銃を向けることを厭わない。

 

「待ってください!ひとつ、よろしいですか?」

「随分と怖い目をするね」

「そういうメアリちゃんも鏡写しみたいに怖い目してるけどね」

 

 動揺しているヒフミたちとは対照的に、ハナコは身を乗り出し、まっすぐと見据えて問う。

 

「セイアちゃんを襲撃するように指示を出したのは、誰ですか?」

「私だよ」

 

 ミカ様だ。でも、そんなにも勇んで聞くことなのか?君が。

 

「私が指示した。卒業まで檻にいてもらった方が良いな思ったから。でも、ヘイローを破壊しろなんて言ってないよ。私は人殺しじゃない。」

 

 もしかしたら俺、ナギサ様と一緒に牢に入ってた可能性あるのか。え、割と幸せだな。ハッピーラッキー素晴らしい。でも私だけだ。その上アリウス排除してないから良くて心中。やっぱりどの道アリウスにいてもらっては困る。

 

「メアリちゃんは、全部知っているんですか?」

「どうだったっけ?」

「全部は知りませんよ。知ってることだけ。ビッグブラザーが教えてくれたりもしましたけど」

 

 “お前を見ている。知っているぞ”というアピール。こっちが知ってると思い込んでボロ出してくれないかな。

 

「……ビッグブラザーが見ているですか。」

「あぁ、今も。いやぁ、贈られた時はどんな皮肉かと思ったよ」

 

 ほら、またこんなこと確認してくる。未だに掴みかねているよ。でも、この盤面で向かい合うのだから敵だろ。騙された善人だったとしても知らない。そんなのは止めずに連れてきたそこの顧問の責任だ。怯えて、悩んで、誰も信じられなくなってる人より、殺して、騙して、裏切った奴に手を差し伸べてる責任だ。

 

「ミカさんが黒幕であると知りながら、無意味な建前を並べて護衛を気取るのですか?あなたは絶対にナギサさんのもとへ向かうと、裏切るはずがないと考えていました。」

 

 ……俺にとってナギサ様がどういう人か察しておいて、なんであんな酷いことをしたんだよ。

 

「……まぁ、正義を信じたんだよ。おしゃべりはもういいだろ。とっととナギサ様の場所を教えろ」

「さぁ?魔術師に消されてしまいましたので」

シミにして消してやろうか?」

 

 わざわざ勘違いするように、傷つけるために俺が死んだみたいな……死んだみたいな?

 

「ナギサさんは──

「黙れ、君がナギサ様を語るな」

 

 何?ニタつくなよ、暴発しそうになるだろうが……!

 

「君にナギサ様の何が分かるんだ?どんな苦労が分かるんだ!?」

 

 追い立てるように、棘で刺すように声を出す。激しい感情を巻き込んで唸る。

 

「嘘ついて、騙して、良い薬にでもなると?少しは思い知れって?いつもみたいに上手に嘘をついてもらえなかったのがそんなに嫌かよ!」

 

 話は矛先とともに別方向に向く。

 

「ヒフミ、裏切り者を探せなんて頼まれて、何でことを頼むんだって思わなかった?こんなことを頼むなんてナギサ様は何て酷いんだって。」

「そ、そんなことは……」

「酷いと思っていい。むしろ思ってくれないと困る。でないと、ナギサ様がずっとそんな苦しみや辛さを抱えてたって分からないだろうから。」

 

 しかし、それはどこか懇願するようであった声音であった。

 

「覚えておいて欲しい。あの人は己の潔白を理由に何もしない人じゃない」

 

 

 

 /03

 

 

 

 問答から得られた情報は黄金だ。

 

 ハナコが得たもの、1つ目は探し続けたセイア襲撃の指示をした人物、そして自白。

 2つ目はメアリが裏切っていないこと。むしろ逆、ミカを裏切っている。

 

 あだ名も、ノリもネタも、知らないなら暗号だ。観ていたら分かる、読んでいたら分かるは知らなければ分からない。トリニティ生なら知っている、がアリウス生には分からない。

 

 この場は監視され、情報が正義実現委員会に伝えられている。彼女の持つ黒い銃は奪い取ったなら襲撃を伝えた、貰い受けたなら信頼を勝ち取った証だ。

 

 開けたアリウスの制服、キャミソールの下、治療の跡は廃都市でアリウスとの戦闘があったことの証拠。それでもデッドドロップを残したことはトリニティへの忠誠の証拠。

 

 勝てるか……?

 

 さんざん勝てると人を乗せておいて、その実ひとり勝ちを疑い続けている仕掛けの張本人はようやく勝負手にでる。

 

「トリニティの生徒が一部、こちらへ向かってきています!」

「……?なんで?ティーパーティーの戒厳令に背くような人たちは、もう……」

「……いますよ。ティーパーティーにも命令できない、独立的な集団が」

 

 伝統的な秘密主義は理解や予測を拒み、ヴェールで隠くしたかのように謎という深みを醸し、対抗組織へは恐怖という毒となる。

 トリニティにおいて常に一定の存在感を持ち、ティーパーティーが無下にすることのできない力を持つ。

 その力の大きさは大聖堂を人目見ればその身をもって感じ取れるだろう。

 

「シスターフッド……!?」

 

 黒いワンピースにウィンプルを被った服装。全員が修道服を着た軍団が爆破と共に体育館に突入する。

 

「……クイーンと切り札は取っておけってか。今さら動きやがって」

 

 メアリは知っている。シスターフッドには、本当に清い人や真性の善人がいる。敬虔で、良心的な子たちがいると。

 メアリは知っている。でも、シスターフッドという組織はそうじゃないと。隠しきれない野心を抱えている、益のない取引はしないし、無償で動くなんてしない。例えホストが襲われたとしても、平気で非協力的な態度をとると。

 

「……浦和ハナコ、どうやってシスターフッドを動かしたの?」

 

 だから、同じ印象を持っているミカにとって当然の疑問だった。

 

「何を支払ったの?」

「……。」

 

 悪魔との契約は、大きな代償を伴う。それでも、最善であっただけだ。

 

「俺たちみたいに立場と保証を引き換えに、とかしたんじゃないですかね」

「そっかぁ。さて、片付けないといけない相手が一気に増えちゃったなぁ」

「言い忘れたんですけど、さっき焦って正実にナギサ様がヤバいって伝えちゃったんでまだ増えると思います」

「えぇ、まだ増えるの?」

 

 気だるげに肩を落とすミカ、しかし対峙する者たちはギアが1段切り替わったかのように錯覚する。

 

 風に揺られるブランコのような脱力した雰囲気が変化し、引いた弓のような強い緊張を纏っていた。

 

「メアリちゃん」

 

 だから、更なる一手を打つ。駒を取る。

 

「なに?」

「ナギサさんは私たちが保護していますし、戦力も十分あります。もう大丈夫でしょう。縛るものもないはずです」

「友情とか、約束とか、色々あるよ」

 

 取る。

 

「メアリちゃんはナギサ様のために動いていたのでしょう?ミカさんがホストになれば、エデン条約は崩壊します。ナギサさんの理想は潰えてしまいますよ。」

「君、そんなんだから友達いなかったんだろ」

 

 取れない。

 

 確かに感情として嫌な部分はあるかもしれない。しかし、合理的に考えれば叛徒側に付き続けるはずがない。ナギサのため、トリニティにのためと動いていたのなら。

 

 計算が狂って慌てる様子をメアリは鼻で笑って、喋り始める。

 

「ナギサ様はさ、何年もかけてようやく形になりそうな物があった。でも、それを捨ててでも守りたかったものがあるらしくてさ。俺くらいは最後まで一緒に守ってあげないと、あんまりじゃん」

 

 どこからか取り出したソレは古めかしい鍵であった。

 

「約束もしてるしね。もしも何かあったら、その時はミカさん頼みますって」

「ですが黒幕は……!」

「そう。最初っから矛盾してたんだよね。むごい話だ。けど、悪いことしたから縁を切るような人じゃないし、無駄にはならないんじゃないかな?」

「理にかなっているとは思えません。」

「いいんだよ別に。最後まで信じてたっていう証拠があればそれで。私がナギサ様を、ナギサ様がミカ様を信じてるって。」

 

 吹っ切れたように嗜虐的な笑みを浮かべるメアリ

 

「キッついなぁ。メアリちゃんもナギちゃんも、ホント馬鹿だよね。」

 

 上手く笑えていないミカ。

 

 シスターフッドの参戦によって、小康状態は崩れ、アリウスとシスターフッドの交戦が既に始まっている。

 どちらもまだ勝勢とはゆかず、拮抗している。行く末を決めるサイコロはまだ回っている。

 

「“メアリはトリニティや条約がどうなってもいいと思ってるの?”」

「別に。俺の守りたかったティーパーティーはとっくにないみたいですし」

「“本当に?”」

「そりゃあ、ひとりで夜遅くまで仕事して、行政を切り盛りしてあんなにもナギサ様が頑張ってたのにとは思いますけどね…………」

「じゃあなんでトリニティめちゃくちゃにしたいアリウスの味方してるのよ!おかしいじゃない!」

「気がついたなら、今すぐ退避した方がいいよ。」

「はぁ!?」

 

 二転三転する発言、そして突然の脈絡のない勧めは挑発ともとれる内容だ。しかし、メアリにとっては降伏しろとか、家に帰れとかそんなことを伝えたいのでは無い。ただ、純粋な被害者だと分かっているコハルはあんまり傷つけたくないのである。

 

「ねぇ、メアリちゃん。もしかしてそろそろ?」

「はい、あ、今、聞こえました?」

 

 これからココが一体どうなるか。それを知っているからココは危ないと言いたいだけなのだ。

 

「砲声」

 

 石も木も鋼も全て平等に打ち破り、天井を突き破り、壁を粉砕し、盛大に穴を開け、床がめくれ上がる。

 運の悪い者は揺れを感じることはなく意識を失い、運の良い者は激しい揺れに立っていられない。あまりの揺れによって空中に放り投げられ転ぶ者、落下してくる建材であったスクラップに押し潰される者、教本通りに身をかがめる者、動きはバラバラだが共通していることがある。全員が砲撃の対象であることだ。そこに所属も思想も関係ない。

 

『ナギサ様を保護したら体育館に砲弾ぶち込んでくれ。』

 

 メアリは起き上がり、無くなった天井を眺める。この砲弾が意味することは

 

「ナギサ様が無事に保護されたようです」

 

 トリニティに来るまでの道中で考えていた計画は跡形もなく、想定外の事態に出くわして咄嗟にとった行動は予想外の結果をもたらす。歯車は空転でも、動かなくなるでもなく、奇妙な噛み合いをして効果を発揮する。

 

 ナギサの保護のために藁にもすがる思いで頼った正義実現委員会は、ハナコとアズサにナギサを害する意思がなかったことでミカの首を絞める縄となってしまった。アリウスを一網打尽にするために要請しておいた砲撃は、策や駆け引きを一掃して運と腕力のゲームに変えてしまう舞台装置になってしまった。

 

 だが、メアリはあまり気にしなかった。

 

 結局アリウスは砲撃にさらされて一網打尽、戒厳令を破ってノコノコ出てきた補習授業部とシスターフッドは可哀想だが自己責任。

 正義実現委員会が無事にナギサ様を確保したならミカ様の行き着く先はそこ。ミカ様がこの場の全てを打ち倒して覇者となっても、行き詰まって時間がかかっても、必ずナギサ様とミカ様ははち会う。

 

 メアリはあの冷たい廃ビルに囚われている間、まずはこの2人を引き合わせなければどんな結末も最低だと考えた。

 

 つまり、何はともあれようやく既定路線に戻すことがができたから……という訳ではない。

 

 メアリにとってはもう全部どうだってよかったからだ。

 

 ミカを守るための頑張りはミカが黒幕であったから無駄。セイアの死を悼んだ意味もない。

 

 薄い根拠だ。

 間違えた数独みたいな違和感があった。どうしてハナコは危険を犯してアリウスの巣窟にまで忍び込んで、人を周到に、執念深く調べていたのか。その上、セイアの一件で見直されたはずの警備や防犯システムの詳細まで把握しているのか。

 

 白洲アズサが襲撃の実行犯だと分かっても、ひとりだけ全く動揺しない。襲撃の指示を出した人物を知りたがるが、実行犯である隣のアズサのことは気にしないどころか信用して、協力している。

 

 セイア様は生きている。

 

 薄い根拠だ。でも確信があった。

 

「そうか、そうだよな。」

 

 当然か、疑うなら身内だ。

 セイア様は君のことを信じたんだな。

 

 結局、アリウスとかいう蛇に唆されてトリニティは壮大な内輪揉めをしたのだ。悩んで、身を削って、疑って、傷つけあった……。

 

 全て後の祭りだ。

 

「なんか、腹減ったな」

「こんな大変なことになってるのに呑気だね」

 

 L118君でもないし、榴弾でもない。それに死人が出ないと分かっているから。

 

 それにもうスグ終わる。だって砲撃は正義実現委員会の封鎖が終わるまでの誤魔化しと時間稼ぎ。すぐそこまで来ているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ……セイアちゃんは無事です。

 

 ずっと、偽装していたんです。

 

 襲撃の犯人が見つからなかったので、安全のためというのもあって……トリニティの外で身を隠しています。

 

 

 

 ……そっか。生きてたんだ……。

 

 ……良かったぁ。

 

 

 

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 正実が到着した時、あの方もいた。

 

 救護騎士に肩を支えられていた。でも、途中で断って、自分の足で歩いて来た。

 

 この方の香りは不思議なことにとても安心する。

 

無事でよかった

 

 

 

 







うぃっす、お久しぶりです。先日、転生トラックしかけて死ぬかと思いましたが何とか無事でし





Where there‘s tea party there‘s hope.


4月17日() 11:00 ~ 4月24日() 10:59




桐藤ナギサ復刻PU中! 桐藤ナギサ復刻PU中! 桐藤ナギサ復刻PU中! 桐藤ナギサ復刻PU中! 桐藤ナギサ復刻PU中! 桐藤ナギサ復刻PU中!

たとかそんな事はどうでもよくてナギサ様復刻に驚き散らかしまくっております。
実はまだいません。というか来て欲しいから投稿始めました。夏まで会えないと思っていた。いらっしゃる頃にちょうど紅茶が届いて、もしかしたらナギサ様のお誕生日で、だからそれまでに完結目覚して何とかとか考えていたけれど急に向こうから来るとか僕はいま冷静さを欠こうとしています。
ものすごく嬉しくて叫びたい気分です。

イヤッハァァァァァァァアアアアア↑↑↑↑↑↑
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