脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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すっげぇテク回


第18話 今週のビックリドッキリ事件、発生!

 

 

 

「わぁっ、ナギちゃんじゃん!いらっしゃい!」

「……ミカさん、調子はいかがですか?」

 

 ミカが迎え入れ、ナギサは挨拶を返す。

 

 監獄の中はトリニティの一般的な部屋と遜色ない。窓などには鉄格子が嵌められてはいるものの、ソファやテーブル、テレビまで設置されている。

 牢獄を想像した時に思い浮かべるコンクリートで作った冷たく狭いものではない。その理由はミカが政治犯として収容されているからだ。

 

 ナギサはテーブルのひとつを陣取ると、先程用意したティーセットを並べてゆく。紅茶の入ったティーポット、ティーカップとソーサー、スプーンにシュガーポット、ミルクピッチャー、そして最後にロールケーキを並べる。

 

「え、もしかしてナギちゃんの手作り?」

「はい、今朝焼いたものを持ってきました」

「できたてじゃん。やったー!」

 

 ミカは全身で喜び表し、ニコニコと笑いながらケーキを頬張る。

 

「おいしー!紅茶もナギちゃんが淹れたの?すっごい美味しい!」

「喜んでいたたげて何よりです」

 

 ナギサ手製のケーキはミカにとって、プロが作ったケーキすら凌ぐ最上級の代物だ。

 

「また食べられるなんてね」

 

 もう二度とそんな機会はないと思っていたから。

 

「……本当に、ナギちゃんが来てくれるとは思ってなかったよ。もう会えないんじゃないかなって、そう思ってた」

「……まさか。私とミカさんの仲ですよ?」

 

 ミカが零した抱えていたことをナギサは鼻で笑う。

 しかし、ミカは真剣にそう考えていた。

 

「あの穴だらけになった体育館で、ナギちゃんがメアリちゃんに駆け寄るのはよく分かるよ。でもなんで私も?意味わかんないじゃん」

 

 襲撃は台無しになり、ミカも抗戦の意志を無くした戦場。正義実現委員会が到着し現場を取り仕切る中に現れたナギサの行動は、ミカにとって実に不可解であった。

 

「あのハグを最後に縁を切るのかなって、ココでずっと考えてた」

「私、そんなに薄情に見えましたか?」

「少なくともそれくらいのことを私はやったと思ってるんだけど」

「まぁ……流石に骨が折れましたよ」

 

 ナギサはほとほと参ったとばかりに苦笑する。そこに嘘も繕いもなく、心情をなんのフィルターもなしに出力している。

 

「……で、どうしてここに来たの?尋問ならもう、飽きるほどされた後だけど?ナギちゃんが直接きたってことは、それ以外に何か大事な用事でもある感じ?」

「幼馴染の友人とお茶をするのに用事なんてなくても良いじゃないですか。」

 

 あっけらかんと言葉を吐くとそのまま紅茶を一口ふくむ。

 

「確かに聞きたいことはあります。でも、紅茶を飲んでからでも何も変わりませんから」

「じゃあ飲まなくても変わらないよ」

「そう言わず。救護騎士団に見つからないのはココくらいしかないんですよ。」

 

 ここの所、毎朝毎日体調について聞かれる。襲撃の後の診察では様々な注意をされた。その中でも1番大きな事項、それは……

 

「……どうゆうこと?」

「カフェインをしばらく控えるようにと。頭痛、目眩、不眠、手の震えの原因であると言われてしまいました」

「ダメじゃん。なんで飲んでるの?」

「紅茶は人類の友ですよ。友人を見捨てられますか」

「……ナギちゃんはそう思ってても、紅茶の方はどうだろうね」

 

 不満や懐疑が占めていたミカの瞳では呆れの含有率が大幅に増えていた。

 

「なんでそんなに余裕なのかと思ったけど……そっか、メアリちゃんから聞いたんだ」

「あの子はまずふたりで話せと言って、何も話しませんでしたよ。見て取れることはいくつもありましたが」

 

 ナギサが面会の名分を果たすのは、ティーポットが空になってからであった。しかしそれはミカにとっては何度も聞かれた内容であり、同時に想定し、返答を十二分に用意したモノだ。

 

「結局、私がミカさんの口から聞きたいことは()()()()、それくらいです。」

「……別に、調書の内容からなにも変わることはないよ。私はゲヘナが大っ嫌いだった。それだけ」

「本当にそうですか?」

「本当だよ」

 

「「…………」」

 

 沈黙。しかし目が語る。追いすがるようにナギサは口を開いた。

 

「アリウスは……」

「聞きたいなら話すけど、尋問で話したこと以外になにもでないよ。知らないもん。」

 

 会話の主導権を握り、捲し立てる。煙に巻くように、威嚇のように、突き放すように。アリウスの自治区のこと、経路、残存兵力など。

 メアリも流石にアリウスについては話しただろう。その内容とも大きな食い違いはないはずだ。

 

 話の途中、“先生”について触れてしまってうっかりヤケドしそうになるが、それでも重箱の隅をつくようなナギサの追及は全て退けた。

 

「……ねぇナギちゃん。考えようによってはさ、何だかんだ全部上手く行ったんじゃないの?」

 

 旗色の変わらぬうちに、とっとと総括をしてしまおうとする。さっさと帰ってもらうために。

 

「”トリニティの裏切り者”はこうして捕まった。アリウスはもう脅威にならない。これでエデン条約さえ締結できれば、ナギちゃんの望んだ平和が現実になるじゃん。」

 

 だが焦りは禁物だ。先達が残した言葉のとおり、気がつかないうちに地雷を踏んでしまう。

 

「何も良くありません」

 

 例えばそれは原初であり根底にあったもの。

 

 例えばそれは行動原理。理想、世間体、未来全てを超越した根源。

 

「何がよかったんですか、この状態で……ミカさんが、裏切り者で……。」

 

 怖くて真っ暗な道でも足を踏み出せた理由。

 

「あの時、セイアさんが死んだと聞いた時……。衝撃と恐怖と……とそれと同時に、“きっと次は私だ”と思いました」

 

 でも、それでも、たとえ自らが犠牲になったとしても守りたかった。

 

 初めての友人、最も古い友人。

 何物にも代えがえたく、二度と手に入れることはない。

 

 比喩でもなく命のかかった重大すぎる案件であった。ナギサでも助走つけて権力で殴ってしまうほどに。しかし自分の命のために動いたのではない。

 人間、自分のためではなく誰かのための時ほど容易に()()()を超えてしまう。

 

「裏切り者は誰なのか、ずっとそれだけを考えて……まさか、いやもしかしたら、でも!それで、私は──」

 

 トリニティのためだとか平和のためだとか、大味な正義を剥きとってしまった時にあるのは貴賎関係なく誰もが持っているもの。

 暴走の原動力は悪意なんて……ちんけなものでない。だからこの話は悲劇なのだ。

 

「ナギちゃん……もう良いの。これはそんな複雑なお話なんかじゃない。ゲヘナのことが大っ嫌いな私がそのために幼馴染をも殺そうとした。それだけの話だよ。」

 

 それだけのお話、それだけのお話。相容れない存在を許せなくて、そのために友人、幼馴染をも殺そうとした。

 

 事実は事実であり、変わることはない。殺そうとした

 

「ナギちゃんは私のこういう側面を知らなかった、ただそれだけ。」

 

 むかしむかしからずっと一緒にいたのに、気がつかなかった。なぜ?

 

 他人だから。

 

 分かり合うなんて無理だ。頭をかち割ったって何を考えているか見ることできない。

 かつて自分が言った言葉がそのまま自分に返ってくる。

 

 ホスト代行の座についてより悩み続けている問題に、今更ポンと答えが出るはずもない。ナギサは二の句を継ぐことができない。

 

「……そうですか」

 

 言葉は静かな監獄に溶け消える。

 

「優しいナギちゃんには難しいかもしれないけど、諦めて忘れちゃったら?こんなやつ助けたってしょうがないし、そもそも無理。疲れるだけだよ」

 

 だが、忘れてはならない。

 

「いいえ」

 

 キヴォトス最大級の学園の生徒会に入り、トリニティとゲヘナの融和を目指し、反対意見の逆風が吹き荒ぼう夢を掲げてフィリウスの首長にまで登りつめた。

 

「誰がなんと言おうと、ミカさんがどう思っていようと、まずは監獄(ここ)から出てもらいます」

 

 連邦生徒会長の失踪によって滅茶苦茶になるキヴォトスで治安と秩序を維持し、いなくなってしまったセイアの代わりに生徒会長として仕事を果たした。

 

「良くて退学、悪くて退学だよ」

「そんなことにはしません。それに、あなたを待つ人はミカさんが思っている以上に多いんですから」

「皆がどう思ってるかなんて牢獄(ここ)でも分かるよ?」

「ここでは分からないこともあるでしょう?」

 

 青春を楽園探しに費やし、とうとうエデン条約という楽園を見つけてしまった。空中分解しかかった条約すらものの見事に修復して調印目前まで漕ぎ着けた。

 

 無理だと言って聞く人間だろうか、諦めのよい人間だろうか、やってのけてしまう人間ではないだろうか?

 少なくとも、ミカはナギサがカッコつけたがりで、変に意地を張る面を知っている。変なことをして、変なことを考えて、でも時々本当にしでかしてしまう。

 

「また来ます。今度はメアリさんも連れて。」

「……ちゃんと寝なよ。目の下、隠しきれてないから」

 

 ミカから見たナギサの顔は、疲れを隠せずやつれているように見える。でも何故か、目に火があった。燃え盛るでもなく蝋燭のように静かで凛とした光があった。

 

 

 

 /01

 

 

 

 説明しよう!

 

 俺は高校生密偵、櫛井メアリ。

 シスターフッドへのお使いの帰り、紙袋を抱えた黒ずくめの少女たちの怪しげな取引現場を目撃した。

 

「パトロール中にパンをもらったんです。櫛井先輩もどうですか?」

「じゃあ、いつも変わらない味、コッペパンを要求しようかな」

 

 コッペパンに夢中になっていた俺は、背後から近づいてくるもう一人の仲間に気がつかず

 

「緊急っす~。お、ちょうどよくメアリちゃん発見っす」

 

 引っ掴まれて連行され、俺は気がついたら……

 

「そこの戦車、止まってください!」

「止まらない場合──キャ!?」

「撃ってきました!」

 

「メアリちゃん、前の戦車追ってくださいっす!」

 

 クルセイダー戦車君とチェイスが始まっていた!

 

 夏休みで学内に動ける子が少ないんす、と言うイチカの頼みを快諾し、やつらの情報をつかむ為に俺は正体を隠してバイクに跨ったのであった。

 

 

 

 /02

 

 

 

「2両並んだままっす!」

 

 悪魔の咆哮のような音を上げるV12気筒のエンジン、疾走し地を揺らす鋼鉄の巨体。

 2両は砂色と黒色と塗装こそ違うが形は同じ、性能に大差はない。ミラーマッチ、それゆえに乗員の技量と度胸、プライドに全てがかかる。

 

 砂色の戦車が横へ逃げられないように正義実現委員会の車両が並行して走る。

 2両の走る先は壁。

 ある種のチキンレース、壁との激突を恐れて、もしくは相手の後ろを摂るためにブレーキを踏むか踏まないか。

 

「おいおい校舎に突っ込むぞ」

 

 だが、砂色のクルセイダーにそんな気は一切ないとばかりに加速し続ける。

 キューポラから身を乗り出していた銀髪の少女が中へ消え、砲塔が動く。横の正義実現委員会の車両にではなく、前方の校舎へ。

 

「は、いや、嘘だろマジか」

 

 決断力、思い切りの良さにおいて砂色の車両が優れていた。

 ギリギリまで粘ったものの前傾しながら急停止する正実クルセイダー、その先を突き進む砂色クルセイダー。

 

 轟いたのは砲撃の音か、激突した音か

 

 バイクで追走していた俺たちは校舎を迂回し、そして聞く。

 最後にみせた“突き破る”意思、煙と粉塵で見えなくなった後も鳴り響いている。校舎の中を吹き飛ばし、轢き潰し、蠢く音が響いている。

 

「いるのか、そこに……!」

「一体どこ走ってるんすか……」

 

 背中越しにイチカが頭を抱えるのが分かる。でも、心做しか声音が少し楽しそうだ。

 

 破裂するように壁が弾け、クルセイダーが中から這い出でてくる。

 その後ろで無惨なことになったしまった校舎が、地味に百何十年の歴史ある校舎が崩れていく。

 

 キューポラが開かれ、再び銀翼が現れる。

 紫水晶(アメジスト)の瞳でコチラを睨みながら。

 

 すぐさまターンする。ブレーキを握りこみ、ハンドルを傾け、後輪を流してアクセルを開く。

 クルセイダーも同様に履帯を空転させながら向きを変える。

 

「見つかっちまった!」

「こっちみてるっすよ!」

 

 機銃や砲撃が飛んでくる前に逃げる。使えるものはイチカの翼だろうが何でも使ってとにかく逃げる。

 

「どうするよアレ!?」

「ハスミ先輩とPIATを待つしかないっす!」

 

 腕の見せどころだ。策は講じてあるし応援は呼んである。でも、でもよ、その前にさ。

 

「こっちのクルセイダー君は?」

「履帯が外れちゃったみたいで動けないっす」

「他にぃ……!?あぶな!出せないのか!?」

「どうも砂糖を入れられてるみたいで」

 

 計画的犯行じゃねぇか!?

 

 

 

 /03

 

 

 

「今日はアイスティーにしてみました」

「最近暑いもんね~。これは?」

「百鬼夜行のお土産にいただいたわらび餅です」

 

 脚付きのグラスは9割を透き通る紅さで染め、浮かぶ氷と結露した水が冷たさを示す。

 ナギサの取り出した飾り気の少ない箱、そこには夏の清涼感を閉じ込めて固めたような透明の涙。付属するきな粉は芳ばしくかおり、柔らかな甘さがある。

 

「夏は冷たさが美味しく、贅沢に感じます……」

「ナギちゃんは特にそうだろうね。なに?毎日式典なの?他の子みたいに半袖着たら?」

「執務室の冷房が直接当たるので寒くて……」

 

 ほんの少しミカが黙ったのは、自分の室なのになんで机の位置を変えないのだろうと思ったためだ。しかし、その時起きた仄かな揺れと爆発音によって2人の話題が移る。

「何か起きてるのかな 」とミカが聞く頃にはナギサは端末をチェックする。

 

「メアリさんがご友人のお手伝いをしているそうです」

「いいの?」

「書物はキチンと届けたようですし、そもそも今日は午前だけですから」

 

 それにと付け加える。

 

「もう少し自信といいますか、自分の頑張りを認められるようになって欲しいので」

 

 友人に頼られ、周囲に褒められれば多少は改善するだろう。

 元より護衛として扉の横に立たせておくにはもったいないほど彼女は優秀である。普通の生徒会役員でもなんら差し支えないくらい。言ってしまうと戦力として用いるよりも有益なくらい。

 

 もちろん戦闘力がない訳ではない。むしろ正義実現委員会や護衛部隊でもなんら遜色ないほど戦える。

 だが、意識して連絡役や秘書的な仕事を与えたり、裏で頼み事(秘密業務)を与えたり、他組織に出向させて人と関わらせた。

 

 彼女の能力を加味してではなく自分の手から離れる時、自分たちが卒業した来年も彼女の居場所があって欲しいから。

 

「ちょっとムカムカするよね。なまじできるからか分かんないけど、自分が頑張れば、もっと頑張ればなんとかできたって思うの。精一杯頑張ってたのにね」

「えぇ、そのせいか時々ひどくいじらしい」

 

 スッと手を見せる。

 

 ナギサの白妙の指の先、無垢のままの爪。自らのものをみせたかった訳ではない。話題の人物の爪を指している。

 

「……別に落としてくれて良かったのにね」

「コートも丁寧にされていますし、まだしばらくは落ちないでしょうね」

 

 ストローを咥える。渋味も苦味も、紅茶の味だ。美味しいと感じられる舌がある。思える余裕がある。

 

「ナギちゃん……顔色良くなったよね」

「えぇ、紅茶も解禁されましたから」

 

 ひとまず目の前の事を考えなくては。目の前の幼馴染をことを。釈放後の寮、出席、クラス、所属……。

 

 

 

 /04

 

 

 

「まだか!?」

「PIATの装填に時間がかかってるみたいっす」

「面倒だし力いるもんなアレ」

 

 追ったり逃げたり。厄介な追跡者を消そうとしたり、撒こうとしたり。俺を引き連れたまま逃げる気はないようで、学内をグルグルと回っている。学内で済んでいると考えるべきなのか、そのせいで損害が増えまくっていると考えるべきなのか。

 

 とりあえず今は逃げのターン。背中に轟音が迫り、ミラーに銃口と砲口チラチラ見えて定期的に大小の弾が飛んでくる気分はどんなんだと思う?

 

「だけどハスミ先輩が到ちゃ──!?」

「うわぁぁぁ!!?しっかりしろイチカァァァ!!浮いてる!浮いてるから!」

 

 イチカが被弾で強ばった体につられて翼を広げてしまい、正面から思いっきり風を受ける。翼は見事に機能し上昇力を生み出す。イチカの体が浮かび、腰にイチカの腕を纏う俺も浮かぶ。結果、操縦が不安定になる。おいおいこれ死ゾ。

 

「……っぶな!半分トんでたっす!」

「助かった……!助かった……!アハハっ!!」

 

 最高の気分だね。アドレナリンで頭ハッピーだ。

 

 イチカが気絶判定を耐えてくれたため一命を取り留めた。

 提案する。ハスミ先輩が着いた、増援が来た。最悪吹き飛ばされてもなんとかなる猶予ができた。こっちが追いかけるターン。

 

 機動力に優れたクルセイダー君を駆る相手に低速短射程のPIATはまず当たらない。しかも何故か天性の勘で待ち伏せや伏兵をしっかり吹き飛ばしてくる。

 

 ならもう体当たり的に突っ込むしかあるまい。

 

 雷撃だ。

 

 

 

 /05

 

 

 

「撒いたか?」

「あわわわっ……やってしまいました……。」

 

 戦車を借りるだけのつもりが、見つかってしまい正義実現委員会を攻撃してしまった。オートバイによる追跡に加え、先程から対戦車弾が飛んでくるどころか、なりふり構わず突っ込んでくる挺身隊まで出てきた。

 正義実現委員会を本気にさせてしまった……。

 操縦席に座るヒフミは顔を青くする。これは流石にマズイ。友人やナギサに知られたら……こうなったら逃げきらないと。

 

「仕方ない。これもまた虚無」

 

 長時間の戦闘、ランチャーを持った敵の見極めなどよって疲労と集中力の低下がある。そして、ぺリオスコープも狙撃によって破壊されてしまったため視界が悪化している。

 

 だが、包囲の隙間を見つけてうまく逃れられたはず。

 策は機能しているようで敵戦車はあれから出てきていない。いくつかの戦車の給油口を開け、床に砂糖を散らばらせて張り紙をしただけの欺瞞。というかヒフミが止めるので仕方なく諦めて出口を塞ぐような手前の1両だけにした。

 

「ヒフミ、このまま東へ向かって。確かこの広場を抜けた先から外に出られ──

「ば、バリケードがあります!」

「!」

 

 立てた藁や叉銃のように鉄骨を組み合わせて道が塞がれている。

 アズサは天蓋を開けて飛び出す。見渡す。

 

「君のような勘のいいお嬢さんは嫌いだよ……!」

「コイツのはただの弾じゃないっすよ~!」

 

 アズサは先程撒いたはずの追跡者たち──バイクが真っ直ぐ突撃してくるのを見る。

 

 エンジンの唸り声は高く大きく、メーターの針は回り3桁をゆうに超えたところを指し、メアリたちは風の中を突っ切り一直線に戦車側面へ飛ぶ。

 

「止まらないでヒフミ!3時から敵!突っ込んでくる!」

 

 足元の操縦手に叫び、砲塔を全速力で回す。

 機銃掃射、しかし旋回が間に合っていない。

 

 弾幕が迫る中、仰角の内側にまで入り込んだイチカが発射、弾は逸れることなくクルセイダーを捉える。

 

 反動を受け流すようにメアリは舵を切り、戦車後方へと抜けていく。

 

 英雄的、決定的な一撃。

 成形炸薬弾は100mmもの装甲すら貫く。最大装甲50mmのクルセイダーでは耐えられない。

 

 イチカは空になったランチャーを捨てるとメアリに腕を回し、体を密着させ搾るようにささやく。

 

「……不発弾っす」

 

 英雄的で決定的な一撃……ただし正常に作動していれば。

 説明書を読んだ。予め装填しておいて貰って受け取った。安全キャップも外した。下に向けて弾が落ちないように気をつけた。速度や偏差を考え、致命となる場所に向けて撃った当てた。

 

コーンッ──とだけ音を立て、そのまま地面へ落ちた。

 

「な、何が起きたんですか!?」

「……運が良かった。」

 

 奇跡が起き、一命を取り留めた戦車内部ではヒフミが何が起きたのか分からず本能的に敵を追いかけ、アズサは砲塔から乗り出して逃げる敵の背中を撃った。

 

 

 

 /06

 

 

 

「被害は正義実現委員会のメンバー30名余り重軽傷、東の学園広場が半壊、第12校舎が全壊、それから──イチカ先輩が今日はもう休むとのことです」

 

 

 

 救護騎士団の拠点、ある病室が改装されておりベッドがズラリと並べられ、たくさんの患者を収容できるようになっていた。

 しかし、患者の数があまりにも多く、正義実現委員会のメンバーでごった返していた。

 ベッドを折半して使っていたり、手が足りないため軽傷の者は自分たちで手当てしあっていた。

 

「夏に羽毛布団はあっついよ……」

「メアリちゃんの尻尾もっすよ……」

「すみません……ベッドが足りなくて……」

「「全然大丈夫」っす」

 

「……ふふっ」

「なんすか」

「いや、あのコーンッって音思い出したらさ……くっ」

「なんすか」

「待って無表情で迫ってこないで」

「なんすか」

 

「「……」」

 

「……んっ、ふふ、あははっ!」「ふっ……あぁもうダメっす、笑っちゃったっす!」

 

 何でもない夏の日。頑張ったのに神様は微笑まなくて、酷めにあって怪我して、何とかなったから良かったねって言える午前。でも久々に笑った。

 

「ナギサ様から差し入れです!アイスクリームです!ひとり一個ずつあります!」

 

 蒸し暑くて仕方ないのに爽やかで、疲れがあるのに不思議と活力が湧いてきて。何を飲んでも、何を食べても美味しくて。

 

「……気のせいか窓の外に真っ裸のハナコさんが見えるんすけど」

「あいつ、暑いとダヴィデ像みたいになるんだ」

「……こっち見てないっすか」

「ならまばたきした瞬間に」

「入りきらない……こんなにもいっぱい……怪我人がぁ」

「うわ、近いと迫力がヤバいっす」

「何かお手伝いしましょうか?()()()()言ってくださいね」

「資料整理から逃げるな」

 

 なんでか友達が集まってきて、なんでか話が止まらない。覚えてても何にもならないのに、なんでかずっと覚えてる日。

 

 夏休みのただ楽しいだけの1日。

 

 どうしたって過ぎ去ってしまう、どうしたってもう二度と来ない日。だけど、またこんな日が来ないかなって願ってしまう1日。

 

「おかえりなさい、ナギサ様」

「いらしていたのですか」

「今日はあまり話せなかったので」

 

 だから今日はこんなにもいい日だったと大事な人に話したい。

 せめていい夢が見たいなんて思わず、満足して布団に潜れるとてもいい日でしたと。







 後書きだァァァァ!ヒヤッホォォォウ!!最高だぜぇぇぇぇ!!!

 ・過去編についてのアンケート

 調印式編がかなり短くなりそうなので、過去編でも書くか……?と思い、参考のためアンケートを設置させていただこうと思います。

 投票の多かった方を採用という訳ではなく、読みたい方いらっしゃるかな?という、あけすけに言ってしまば僕のモチベが目的のため、投票と異なる結果となるかもしれませんがご了承ください。

 ちなみに、内容は

・オリキャラ多いよ、原作キャラ少ないよ
・独自設定あるよ
・ストーリーも本編の蛇足みたいになるかもしれないよ!

って感じです。以下、あらすじを書きましたので参考にして頂ければ幸いです。



 4年前、桐藤ナギサは友人からある後輩を紹介される。事情を聞いたナギサは時折その後輩を気にかけるようになり、後輩もナギサに懐いていた。
 進級し3年生になった夏。同じ中学校に通う生徒を狙った暴行事件が連続して発生する。現場に痕跡はなく、被害者たちの曖昧な証言に頼るしかないために犯人の特定は遅遅として進まない。
 しかしナギサは犯人の特徴と『野犬』と呼ばれる不良に関連を見出し、野犬の調査を進めることで犯人の特定をすすめるが……

「……お久しぶりです、ナギサさん。」

 櫛井メアリ、1学年下の後輩。
 薄暗い教室にひとりでいた少女。花瓶が倒れて水浸しになった自身の机を眺める後輩はこちらに気がついて振り向く。

 これはまだエデン条約など存在せず、ゲヘナとトリニティの融和などと宣えば指を挿されて馬鹿にされる時代。あるいは櫛井メアリがまだ自分を『私』といい、桐藤ナギサを『ナギサさん』と呼んでいた頃の話である。



「人を……撃ちました……。」

「……人は変わっちまうもんスね、クーシーの姐さん」

「いったい幾ら握らされたのか、と聞いているんです」

「落ち着いてください!やり過ぎです!もう気を失っています!」

「事件はもう起きない。復讐は完遂されたから」

「不思議に思わなかったか?クラスでってのは正直分かる。でも、櫛井は部活も委員会も所属してないのに他クラスや上級生にまでってのは変だろ?」

「なぜ貴方のヘイローは崩れていないのでしょうね?」

「メアリさんがここに来た理由。それはまだ迷っているからでしょう?」



過去編 天使と迷い犬






※上記の内容は予告なく変更される場合があります。

過去編いる?

  • いる
  • あっても構わない
  • 調印式編を早く読みたい
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