脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話 作:ここに文字を入カ
寝てたほうがマシだな
爆発物探知ワンコ回
第19話 早起きは三文の徳というが
薄暗い明け方、食堂内は白色灯が輝き、少女たちが慌ただしく動く。
トリニティの食堂は広い。端と端に居たら大声出しても聞き取れないくらいだ。
その一角で正義実現委員会と護衛部隊の子達がもきゅもきゅと急いで朝ごはんを食べている。会場の警備のため、先行して向かう子たちだ。
どの子もアイロンをかけた皺のない服、磨かれた革靴を履いてピカピカである。
厨房では職員と生徒たちが声をかけあって調理を進めている。
この時間はどうしても人がいない。だが事前に相談した結果、好意でボランティア的に来てくれた職員の方、留守番勢のお手伝いがフライパンを振り、鍋をかき混ぜている。マジ感謝。ちゃんと賃金請求してください。
朝の分が終わっても次は昼の分の弁当の準備。きっとまだまだ大変だろう。ちゃんと賃金請求してください。
……ゲヘナではたった2人の給食部が全生徒のご飯を用意していると聞くが本当だろうか。もしかしたら厨房の地縛霊みたいな怪談なのかもしれない。
「おはよ」
「およ?姐さんがってことはそろそろ後発勢が来るっスね!」
「いや俺は早く目が覚めただけだから、まだ後じゃないかな」
「了解ッス!ホイ、今日の味噌汁は夏野菜ッス!」
カウンターで朝食を受け取る。
席に着き、ワイヤレスイヤホンで天気予報を聞きながら食べる。お行儀は悪いが許して欲しい。
『午前中はトリニティ全域で晴れとなる見込みですが、本日式典の古聖堂付近では昼頃から天気が崩れるかもしれません。お出かけの際は折りたたみ傘を持っていくと安心でしょう』
雨かぁ、風はそこまで強くないみたいだけど、どうせなら晴れてほしいな。
食器を返すころには制服姿の生徒はおらず、俺と同じ体操服や私服姿の生徒ばかりになっていた。
先行組はもうバスに乗って古聖堂へ向かっているだろう。体操服なやつらは一度寮に帰って着替えや化粧するやつらだな。早起きして身だしなみを整える時間を作らなきゃならん……要はカメラに映る可能性のある奴らだ。
『次は星座占いの──』
寮に帰ると、コチラはコチラで慌ただしい。調印式に参加する者が不参加の者を起こさないよう、静かに走り回って準備している。
(クッシー!クッシー!BB貸して!)
(ちょいとお待ちください。どうぞ)
『最下位は……ごめんなさい!うお座のあなた!』
洗面台で歯を磨いていると、鏡と睨み合いをしていた同輩が焦っていたので、抱えていた化粧ポーチからちっちゃいチューブを取り出す。
『うお座で、耳と尻尾があって、今歯を磨いてる人は今日死にます!』
天気予報のコーナーが終わり星座占いに変わるとものすごく不穏なことを言われた。
…………今日私は死ぬらしい。
まぁ、念には念を入れて色々持っていくか。予備弾薬とかサブ武装とか。今日は車だし、車に詰んでおけばいい。
/01
車が止まると、降りてきたメアリがドアを開ける。自分で開けてしまった方が早いとは思っていけない。様式美だ。何より心苦しいものでもなければ、むしろエスコートを受けるお姫様のようで嬉しく思う。
自身と同じ制服だが、完全に同じではない。パンプスではなく動きやすい革靴、襟のバッジも護衛部隊所属を表すものだ。
「どうぞ」
「ありがとうございます。今日はいっそう凛々しくて、何より綺麗ですね」
「……あ、いや、えと、ありがとうございます。ナギサ様もお綺麗で」
糊のきいたシャツを着たよそ行きのツンとした澄まし顔が、何気ない一言でホロホロと崩れる。泳ぐ視線、大きく振り回される尻尾。
丁寧に結ったのだろうから、あまり動かさないほうが……。まぁ、道中直せばいいか。それにしてもこの子はちょっと簡単過ぎではないだろうか。
車に乗り込んでから隣を見ると、キリッとした表情に戻っていたが、取り繕った後と前の落差で微笑んでしまう。
発進すると、それに合わせて取り囲むように周囲に居た車も同時に発進し、道路に出る頃には見事な警護車列が形成される。盛大でなんとも厳しい。
優雅で華やかなイメージがあまりないのは、緊張か気合いの表れか。身も蓋もなく言ってしまえば、襲撃事件の影響で警護方法が見直されたからが正解なのだろうけれど。
しかし……
「注目されていますね」
「ですね。歴史的な出来事ですし、クロノスも連日報道していますから」
街頭にある液晶に、手元の携帯電話の液晶にエデン条約調印式の文字がある。ゲヘナとトリニティの各代表の顔と名前が映っている。もちろんそのには己の顔もある。
歩道で鈴なりになって手を振る生徒に手を振り返して思う。
それほど興味を唆る内容であろうか?
両校の関係の大転換となる大きな出来事なのは確かにそうだ。だが、今日まさに大願成就の第一歩を踏み出せる自分がこんなことを言うのはおかしいかもしれないが、少し気味が悪い。
この熱気はなんなのだろう?
自身に人気があることは知っている。そのように振舞ってきたし、利用もしている。だがトリニティの生徒にとってゲヘナは「大嫌い」か「どうでもいい」存在なはずだ。好感情を持つものは少ない。せいぜい利と益があるから付き合うという程度。
クロノスのキャスターが言っているように、両校の関係は険悪であるはずなのだ。エデン条約は和解したからではなく、和解のために執り行われる。これから和解が始まるのだから、仲が良いわけがない。
昔、緊張緩和のために赴いた時に道にも内にも外にも敵しかいなかったように、石を投げられることがあっても、歓迎や応援などあらかじめ用意していなければ無いものだ。
「なぜ古聖堂なのでしょうね」
「万魔殿も祈る先を間違えはしないでしょうし、土足で踏み入るため?会場は大きければ大きいほどいいとか吐かしやがったせいで単独での警備が困難です。そのため会場は向こうの手勢がワラワラと」
「……地下調査、お疲れ様でした」
「文書を纏めていた方たちに比べればさほどです。それに完璧とは程遠いですから。」
隠しもせずにここまで悪態をつくのは、恐らく古聖堂地下のカタコンベを始めとした、地下坑道の調査に連日駆り出されていたからだろう。
また、完璧ではないの言葉の通り、アリの巣のように張り巡らされた膨大な隠し通路の把握はこの短期間ではやはり不可能であった。
他にもゲヘナから指定された場所であること、シスターフッドの賛成によってトリニティ内で否決すらできなかったことも面白くないのだろう。
「爆破して地下道を塞ぐのは論外、バリケードすら文化財保護を理由に棄却されて満足に封鎖すらできない。そのくせ何かあった時に責任とるのはこっち……」
「降りてからは抑えてくださいね……」
「えぇ、当然」
悲観的に最悪を想定するのは仕事柄仕方ないが、思考のドツボに嵌ってしまうのは避けてさせなければ。頭を撫でるのは……せっかく整えた髪を崩してしまうからやめておこう。肩と背中ならいいだろう。
「……何か起きる気がしますか?」
「……最善の警備です。会場周辺にも人がいます。学校も待機している人員がいるので滅多なことは起きないはずです。」
連邦生徒会は余力なく沈黙、ミレニアムは静観、アリウスは壊滅、万魔殿は手のひらを返して乗り気で風紀委員会は主導のひとつ。もちろんゲヘナ側もコチラ側も一枚岩でないし、不測の事態は当然存在する。
胸のうちにずっと妙な焦燥感。だがそれもドアから出てしまえば忘れてしまうようなものだった。
大量のカメラのレンズ、その倍の数の目。トリニティ側からの期待のこもった目線、そしてゲヘナ生徒からの氷のような冷たい目線。
あぁ、分かった。野次や罵声がないことに違和感があったのだ。
『現在私は通功の古聖堂の正面に来ており……あ、車列が入ってきました!代表が到着したようです!車を見るにトリニティでしょうか!中からは……桐藤ナギサです!トリニティのホストが今到着しました!』
この感触だ。いつもの感触だ。口先では素晴らしいと賞賛されるが、決して歓迎されない。一度隙を見せれば売国奴と蔑まれ、余計なことをする愚か者と気圧されそうになるこの空気。
こういうのはビビったら負けだ。
野蛮で粗雑なもの言いだが非常に共感できる。なにごとにおいても、根幹にある。戦いでも、交渉でも、駆け引きでも。
整列して睨み合う両校の、この冷えきった花道のド真ん中を普段通り歩いていく。
『トリニティ側の主要人物は全員が会場に到着したものと思われます!ゲヘナ側もつい先程、万魔殿が巨大飛行船に乗って会場入りしており、風紀委員長もまもなく到着する見込みです!』
さぁ、仲良くしろと紙切れを掲げろ。己の価値観と偏見を押し付け、莫大な権益で他を黙らせろ。結局、喧嘩をさせるにも、握手をさせるにも権力による強制は変わらないのだ。
きっと自分も浮かれていたのだろう。いざ目の前にして不安になっていたのだろう。だが、会場のいつもと同じ空気感がいつもの自分を引きずり出した。
前を向いて、背筋を伸ばして、優雅に、身に染みついた方法で進む。
中高と生徒会で身を粉にした青春の総決算、通功の古聖堂、エデン条約調印式へ。
/02
「あら、こんな美しいお嬢さんがいるなんて、夜空に一つだけ輝く星を見つけたみたいね。」
「……どうも」
「アナタの瞳に映る景色よりも美しいものがあるとするなら、それはアナタ自身だけ。フロイライン、名前を聞いてもいい?」
「櫛井」
「櫛井……素敵な名前ね。妖精みたい。まるで運命に導かれたみたいだわ。良ければ式典の後、一緒にコーヒーでもどう?」
「嬉しいお誘いをありがとう。でも、今日は夜までこの制服を脱ぐことができないから、ディナーなら喜んで」
「願ってもないことよ。こちらこそ喜んで誘わせてもらうわ」
そう言って、礼服を纏った女性は俺の手をとって笑う。手首に香水をつけているのか、持ち上げたときにファッと香る。
うーん、違うな。袖口汚しちゃったからお手洗いの石鹸で慌てて洗ってきたみたいな匂いだ。
知らない雰囲気の知っている顔が近づいてきたと思ったら、急に猿芝居が始まったよ。待て、フィリア*1手を回すな、踊りだすのは流石におかしいだろ。
ほら、喧嘩始めてた正実ちゃんと風紀委員会が固まっちゃってるじゃん。いやそれが目的なんだけども。
少し見回りに出ただけで一触即発の場面に出くわすとは……そして更に裏稼業の同業に出くわすとは。
「もし君の言うとおり運命なら、もう一度会えるはず。その時にお誘いいただければ」
「えぇ、必ず見つけてみせるわ」
「楽しみにしています。それでは」
お互いに正義実現委員会と風紀委員会を連れて離れる。
──スゥゥゥッ、なんだこれ。なんだこれ?俺もノったけどさ。なんで急に寸劇が始まったんだ?うん、まぁ、いいか。ナギサ様のもとへ早く戻ろう。
「おかえりなさい。何か分かりましたか?」
控え室に戻るとナギサ様も何か考えごとをしていた。
「はい、パテルを中心に反対派の中核人物がいません。中にも、会場周辺にもどこにもいません。仰られていたように変に静かです」
「そうですか……」
露骨なまでに嵐の前の静けさだ。何かやる気だ。遮二無二になってクーデターでもする気か?
それと会場を歩いていて、妙なことを感じた。
「あと古聖堂内なのですが、変なにおいがします」
「においですか?」
「人が多すぎて確信はできないのですが、ゲヘナでもトリニティでもない奴らのにおいがします」
残滓のような……しかし人で溢れているこの古聖堂で感じとれるくらい。しかもどこかで知っているような気すらする、カビ臭い感じの、梅雨の草木みたいな感じのにおい。
「それと大砲は儀礼用ですよね?」
「そうですね、礼砲を行うために数門が古聖堂の庭園に展開しています」
「当然弾薬庫は外ですよね……?」
「はい、確か古聖堂の改装と共に弾薬庫を作り直したと」
「各20発ぐらいですからせいぜい100発もあれば十分ですよね?」
「見栄を張って大量に持ち込んでいる可能性はありますが……何か見つけたのですね」
「見つけたわけではありませんが……ずっと古聖堂内が弾薬庫みたいなにおいがしているんです」
朝からナーバスだったせいでも、式典に浮かれて不安になっているせいでもなく、本当に何か異常を感じているのだ。
正体を掴むことができてはいない、見つけられることはできていない、だが察知はできた。
「……異常を発見したと連絡を。ゲヘナ側にも連絡をお願いします」
「分かりました」
ナギサは速やかに判断を下す。メアリも命令に従い機械的に動く。
ナギサが到着して十数分、ゲヘナ風紀委員長が到着してまもなく。待機部隊やゲヘナ風紀委員会など方々に異常が伝えられる。
だが、それでも、それでも遅かった。
「飛空船が飛んでいる?」
通信が終わった直後、それなのにも関わらず窓の外で万魔殿の飛空船がもう既に飛んでいる。
調印式が開催される時点で、今日既に全員がこの場所に集まった時点で遅い。手遅れなのだ。
窓の外を呆気にとられてを眺める二人。だから見てしまう。刹那を認識してしまう。
遠くの空に、一筋の閃光が走る。鋭く、速く、天を切り裂くかのように。
空を切り裂く物体は一直線に空を駆け抜け、突き進む先は己自身。音の遅れを感じる間もなく、地響きと共に衝撃波が全身を包み込む。爆音が後から追いかけてくる。
天地はひっくり返って混ざってしまい、夢も世界も砕けてバラバラになる。宙に浮いて回る体がすり潰される。手足は正常に付ているだろうか。ミキサーの中のような状況はいつ終わるのか分からない。だがこのままなら、先に終わるのは──
/03
その日その時、誰もが上を見上げて指をさし、キヴォトス中の液晶が臨時ニュースを映していた。巨大な爆発と崩壊し瓦礫と化した古聖堂、火と煙の上がる中に突入する風紀委員会と正義実現委員会。火だるまとなって墜落する万魔殿の飛空船。
キャスターが早口で捲し立てるのは、調印式会場にミサイルが着弾したこと。エデン条約が吹き飛んで消えたことだった。
僕「文字数ってどんなもんがいいやろな」
脳「19話まできて今更変えてもしょうがないやろ」
僕「せやな」
次回
みたいものを書くよ。