脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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下り坂を立ち漕ぎしてみな、飛ぶぞ……という訳で先日、自転車と空を飛びました。左手で執筆した影響で誤字脱字が多いかもしれません。どうか、ご容赦ください。

地下脱出回(上)


第20話 見よ、古聖堂は、赤く燃えている!

 

 

 

 ミサイル着弾前、トリニティ側古聖堂後方地点。火砲や戦車の他、護衛部隊や正義実現委員会が待機していた。張り詰めた緊張とピリつきは破裂寸前の危うさとして醸されている。

 

「ところで、私の百合園セイアを見てください。こいつをどう思いなられますか?」

「すごく……かわいらしいです……」

「あぁ、よかった。昔のピカピカの1年生時代からガチロリ時代の写真もよろしければ」

「えっそんな、いいんですか!?」

「えぇ、しっかり堪能されてください。動画もいいですよ」

 

 しかしその中の中核も中核、指揮車両で主人の写真を派閥を問わず見せびらかし、布教する者がいた。

 

 見たまえ、この輝く錦糸の御髪を!ご覧あれ、凛々しく(そび)える偉大なケモ耳を!眼に刻め、職人が魂を込めた作り上げた人形のようなかんばせと庇護欲をそそらせる体躯を!

 

 私がこうすることで喜ばぬ女はいなかった。正義実現委員会から派遣されているこの子も、我が主の可愛さに打ちひしがれている。9割いつもの趣味だが、意図した通りゲヘナへの威嚇や警戒が緩んだ。

 

 警戒しないべきなんてことはない。むしろゲヘナを警戒せずして、何を警戒するのか。だが流石に程度というものがある。1発でも銃声が鳴った瞬間に勝手に開戦されては困る。

 

 こちとら愛しの百合園セイアからお告げがあったから、しぶしぶ未だ目覚ぬ主人をミネくんが独占することを許したのだ。早く帰りたい。

 

「ところでセイア様とどういう……?」

「就職を前提におつかえさせていただいている、護衛ですわ。護衛部隊の長もうっかり拝命しております」

 

 私?私は護衛部隊の隊長……いや、その前に百合園セイアの付き人(専用の女)さ。一目惚れした相手が虚弱だったから、それかこつけてお世話と見守りを半生ほどしていた。そしたら彼女はなんと大出世した挙句、信頼を勝ち取りすぎていた私は中間管理職になっちまっていたのさ。

 

 だけどそんなもんは可愛い程度、本番はそれからなのだよ。ある夜、彼女が倒れて眠り姫になっちまった。人生を閉店セールで端から恥までたたき売りにしたくなるツラい日々が開幕さ。

 

 そんな耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ日々のある日、主人を吸ってキメていたら、なんと夢に主が現れてね。「帰ってくれ」ってさ。

 

 どうやら私にここで何かして欲しいらしい。私が言うんだ、間違いない。

 

 最愛の人の頼みとあらば校区外だろうがキヴォトスの裏から表だろうがひとっ飛び。そしてカビの生えた猫をもう一度被って現場指揮ってわけ。

 

 あー、何が起こるんだろうな……。セイアくん、こういうの外さないし。

 

 ……ほらきた。

 

『本隊へ。こちら館内。不審物を発見した。避難誘導を行う』

「こちら本隊。了解。工兵を向かわせる。」

 

 さー、厳戒態勢だな。何が起きるやら。何が起きてももう驚か──

 

 

 

 

 

 ──古聖堂が消し飛ぶ。水風船のように破裂する。彼方より飛来した物体が突き刺さり、水の代わりに爆炎と瓦礫を撒き散らして破裂する。

 音速を超えて飛んできたことを示すように、遅れてきたソニックブームがガラスを破壊する。確かにそこを飛んだ証拠として白煙が線になって漂っていた。

 古めかしくて、堅苦しくて、美しい古聖堂が、一瞬にして割れて不揃いな石たちの集合体になってしまう。白昼夢から覚めたように、大変貌を遂げてしまった眼前の光景に、脳の処理が追いつかない。

 

 

 

 飛散した瓦礫が地に落ち、息を飲んだあとにようやく声が出る。

 

「……館内!応答せよ館内!チッ!!各隊、被害を確認し報告!火砲は奇襲に注意!戦車は合流!」

 

 続々と現状報告が入る。スピーカーから流れるのは叫び声や悲鳴。

 

『了解。戦車隊、急行する』『外縁警備隊、全班無事です』『火力支援いつでもいけます』

『痛いぃ……痛いよぉ…………』『4名確認……正義実現委員会も、シスターもみんな、みんな』

『う、撃たれました!ゲヘナどもめ!こんな時にまで!?』『誰何!?何者──』『待って!この下に正実の子が!──な!?なんで!?助けて!』

『こちら第1尖塔。飛翔体が何かに誘爆して側廊から聖堂まで丸ごと吹き飛んでる。侵入してくる不審な集団を発見……ゲヘナもトリニティも攻撃してる。……大丈夫だから。ほら、一緒にいるから泣か──『尖塔が崩れてくる!下がれ!もう無理だ!』

『……しょ、正面入口、班長も先輩もみんな埋まって……わ、私ひとりで、どうしたら』

 

 

 

「*トリニティスラング*ですわ……!」

 

 なんてこったい。平和の祭典が急転直下、地獄の祭典に様変わりだ。

 

「学園へ、こちら条約会場!ミサイルが着弾して全部おじゃんですわ!しかも変態共から攻撃を受けて……学園?学園!応答してください!応答しやがれスットコドッコイ共!!!」

 

 トリニティ総合学園と……連絡がとれない。ジャミングではない。ノイズが入るでもなく何も繋がらない。中継の基地局が破壊された?いいや、違う。この感じは向こうでも何か起きている。

 

 理解する。自身が今置かれている状況、期待されているすべきこと。とんだ貧乏くじだ。わたしの首が飛ぶぜ。いやぁ、人使いが荒いよセイアくん。帰ったら覚えておきたまえよ。

 

 そしてどうやら、この場所も地獄の中らしい。

 

「……それで、彼女たちは?」

「え?うわっ!?幽霊!?」

「足はあるので、化け物の類でしょうね」

 

 いつの間にか眼前に現れたシスター……と呼ぶにはあまりにも異様な風貌。ベールをしているとはいえ、ハイレグとサイハイソックスによって大胆に晒されたボディライン、ガスマスクで一切見えぬ顔、そして大口径の銃を携えている。

 そんな悪夢のようなシスター風の集団は交渉の余地なく襲いかかってくる。

 

 車内にもぐり、銃弾を避ける。周囲にいた生徒たちが応射する。爆発と弾丸に反応して連鎖的に戦闘が始まり、人が倒れていく。しかし、シスターモドキ共は倒れると霧散し消えていく。マジで幽霊か?

 

 ゲヘナが予備兵力を躊躇なく動かした理由は、きっとコイツらだ。シスターみたいな奴ら……言い換えると、()()()()()みたいな奴らに攻撃されたから。

 自衛のために、味方を救助のために、道を切り開くために敵を倒そうとしているのだ。

 

 そして、ゲヘナから攻撃を受けたトリニティも同じく敵を倒そうとする。幽霊も、テロリストも、ゲヘナも、攻撃してくるなら全て敵。横で瓦礫に潰され、助けを乞う仲間がいるのに、逃ることなど出来ない。

 

『砲弾で救助中の奴らが……!?』

『爆撃!?やられた、迫撃砲……!ゲヘナ……底なしのクズ……!』

『……!前方にゲヘナの擲弾兵部隊を発見!アイツら状況も考えずに……いや、元からそういうつもりだったのか!』

 

 無線から伝えられる状況は悪化するばかり。最悪だなぁ。

 

 顔を上げると、人様に見せられない、あられもない無様な格好で転がっている者がいた。

 

「どうも、生きておられますか?相棒さん」

「な、なんとか」

「それは良かった。先ほど、ゲヘナに後ろから刺されたという報告が。それゆえ目の前の彼女たちを一刻も早く始末しなければ……」

「どうなるんです?」

「トリニティはあの変態共に支配され、みなベールにハイレグという格好にされて恥辱の限りを受けます。」

「そんな……」

「真面目に話すと、この無線がだんだんと静かになります。つまり、怪我人や負傷者の増減は私たちにかかっており、最悪の場合だと死人がでるでしょう。ゲヘナや彼女たちがあの子たちを救助して丁重に扱って頂けるならば話は違いますが……まぁ、そんなことはないので撃たれてるわけです」

 

 人員配置の記された地図に情報を書き込んでいく。どこで戦闘が起き、何が見つかり、いつ連絡がなくなったか。そして、最も多いのは通信途絶、ミサイルにやられたことを示すバツ印。

 

 ツルギくんもハスミくんも連絡がとれないし、最終位置からして戦闘不能の怪我を負っていてもなんら不思議でない。

 

「さて、いま役職の位が最も高いのは私です。そんで次は相棒さん、あなたですわ。私がやられたら頼みます」

「え?」

「あなたより上の人間は私以外みんなやられましてよ。」

「そ、そんな」

「別に気負わなくて構いません。義務さえこなせば逃げるもよし、憎たらしいゲヘナをここぞとばかりに殴るもよし。戦車や砲も好きに使えますし、責任は私もちなので、判断を咎められることもありません」

「義務って……?」

「この大混乱の中、死ぬ気で指揮統制を維持して、停戦できそうな時に全力で戦闘中止を叫ばなくてはなりません。キャリア組の根性を見せてくださいまし」

「そんなぁ!?」

 

 なにせ火蓋は切られており、もう止まらない。なのに勝てる戦ではないので、楽しさなど全くない。しょうがないね。

 

 鳴りやまぬ銃声と跳弾の音を全て無視し命令をとばし、報告を受け、状況を把握する。今は1発でも銃を撃つより、一言でも報告を聞いて、一言でも指示を出すほうが遥かに価値がある。そしてその義務がある。己の一挙手一投足で助かるものがあるなら、そうするまでだ。

 

 古聖堂地上、火は広がり、地獄は加速していた。

 

 

 

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 なにが……あったのだろうか。ここは……どこなのであろうか。ナギサ様は無事だろうか。

 

 瓦礫の中なのか真っ暗で何も見えない。

 

 辛うじて身をよじるくらいはできるが、身を起こすことも這いずることもできない。何か重いものが身体にのしかかっていて、それが私を拘束していて、そのせいで今にも潰れそうだ。

 

パチ──パチ──と音がする。

 よく見れば、目の前にある石材の裏に橙色の光があった。光はどんどんと迫ってきて、光と同時にを放つ。

 その正体は明らかになる前に、既に確信があった。恐怖があった。

 

 本能に刻まれている根源的な恐怖、経験によって身に焼きついた恐怖。全身が緊張し、胸から下腹まで氷水が流れたかのように冷え、もはや痛みのよう感じる。頭の中は白んで論理思考はちぎれて恐れと逃避の感情だけが残る。

 

 火が、炎が近づいてくる。不幸なことに私を包む瓦礫は木や布などの可燃物が含まれているらしい。このままでは頭の先から足の先まで全身を焼かれる。

 

 喚き散らす心臓のせいで荒くなった呼吸。灰か埃か粉塵を吸って咳き込み、マトモでなくなった呼吸はパニックを増長させ、トラウマのフラッシュバックを引き起こす。

 

 熱い、熱い、熱い!?

 

 炭と灰の臭い。全身を針や刃物で刺されたような痛み。風に撫でられるだけで痛みが走り、煙で目が潰されて、熱風と煙に喉と肺を侵されて息すらできない。そんな痛みと反射に嬲られ続ける苦しみ。蒸し焼きにされ、炙られ、燻されるツラさ。

 

 知っている、知っているから怖い。

 

 い、いや、いやだ!来るな!来ないで!助けて!

 

 冷静でいられるはずがない。泣こうが願おうが叫ぼうが、火は進んでくる。もがいても抜け出すことは出来ず、迫り来る炎を眺めさせられる。

 

 祈る。己に降かかる災厄が、せめて少しでも短くあって欲しいと身を縮める。

 

「────―!?────────―!!」

 

 しかし、不意に身が軽くなる。圧力が減り、のしかかる力が小さくなる。

 

「────―!」

 

 更に力が小さくなり、何かが引き抜かれたおかげで、腕が動かせるようになる。

 

 ……ナギサ……様?

 

「っ!?──です!!」

 

 燃えていた木材が折れて、瓦礫がどかされてこじ開けられる。

 

「メアリさん!居ますか!?」

「ナギサさま……」

 

 世界で最も焦がれた声がした。切望した香りがした。

 

「もう少しだけ辛抱してください!この柱をどかすので……!」

 

 

 

 

 数分後、その言葉通りに、瓦礫の中より抜け出せた私は、その姿を見た瞬間になりふり構わず抱きついた。

 

 顔、胸、背中に回した腕にじんわりと伝わるあたたかな体温が心臓へ流れこんで宥める。微かに聞こえる鼓動のテンポに自身の鼓動もメトロノームのように近づく。抱き寄せられ、撫でられて、だんだんと心を染めた恐怖が抜け出して、流れていく。

 

 顔を上げると、あなたの顔があった。彫刻のように整った顔はまつ毛すらも美しく、いつどこを切り取っても絵になってしまう。

 

 メイプルシロップみたいに優しく光る瞳と目が合って、ようやく平静を取り戻す。

 

 プラチナブロンドは崩れて荒れており、白磁の肌は汗と血にまみれていて、真っ赤な液体がツルのように這い、ダラダラと滴っている。純白の羽は煤と埃で汚れ、制服はところどころ裂けていて、どちらにも赤い染みがある。

 

「ナギサ……様……?」

 

 今になって血のにおいに気がつく。自身の口や喉で出血しているかのように、どこからもする嘔吐きそうなほど鉄のにおい。

 

 なぜボロボロで、全身傷だらけなのか。何があったかは身をもって知っている。むしろあの距離でミサイルを食らったのに動くことができるのは幸運だ。それでも、動揺と心配が勝る。

 

「少し口を開けてください」

「へ?んっ……」

 

 ナギサ様のヘイローが輝くと、カランと口の中に何かが入れこまれる。それは僅かに芳ばしさをもつ甘さがあった。

 

「べっこう飴です。」

 

 ナギサ様の愛情入りお菓子だった。全身にあった痛みが薄れ、消えていく。

 

「あ、ありがとうございます。私もナギサ様の手当をさせてください」

「手当ですか?」

「はい」

「その……どこを?」

「え、頭や腕に怪我が……」

 

 そう告げると、ナギサ様は腕を見たり、頭に手を当てると

 

「本当ですね。気がつきませんでした」

 

 なんの感情もなく、確認する機械的な言葉が零れる。

 

 急いでナギサ様を適当な所に座らせ、包帯にガーゼ、水を取りだして応急手当をしていく。なにを渋る必要があるのか、ナギサ様は何度も平気だと言って止めさせようとしてくる。だけど、そんなことを言われたところで、この出血量を見て引き下がれるはずがない。

 

「わかりました……では、そのままで良いので聞いてください」

「了解しました」

 

 手当をしている間、ナギサ様から状況の説明があった。

 

 古聖堂にミサイルのようなものが着弾し、その威力の大きさからか崩落が起き、俺たちはそれに巻き込まれて地下まで落ちたらしい。

 

 その言葉通り、辺りは土と石で固められた地下道であり、上にはぽっかりと大きな穴が空いる。見えるのは空と煙と瓦礫だ。

 

 見たところ、登るのも難しく、崩れる危険もあるし、登ったところでそこに道などなさそうだ。

 

「そのため、地下を進むべきだと思うのですが……どうでしょう?」

「賛成です。古聖堂の地下は洞窟があったり、カタコンベや坑道が作られて整備されているので、安全に外へ出られる道もあったはずです」

「はい。それに他にも地下にいる方がいるかもしれません」

「そうですね。別の場所でも崩落が起きていたり、地下を通って避難している者がいてもおかしくありません」

 

 治療を済ませると、荷物やポーチの中身、そして銃の点検を行う。どれも失くしたり、壊れたりしていなくてよかった。

 

「先導します」

 

 暗い地下道へ、俺たちは踏みだした。

 

 

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