脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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7月4日まであと2週間ない……

地下脱出回(下)


第21話 めのまえがまっくらになった

 

 以前潜んだカタコンベほどではないが、ジメジメとして真っ暗な世界は緊張と不安でストレスが溜まる。しかもフラッシュライトで照らした道は崩壊し、岩と土砂で塞がっていた。

 

「ここもダメか……」

「通れそうにはありませんね……」

 

 次のルート、次のルートと探すうち、妙な場所に出る。

 

「苔?」

 

 天井や壁の表面にうっすらと苔の生えた空間だ。行き止まりな上、植物の青臭さもあいまって気持ち悪い。さっさと引き返そうとすると、呼び止められる。

 

「待ってください。」

「なにかありましたか?」

「普通、ここのような暗闇では植物は育ちません。照明でも置かれていなければ別ですが」

「……誰かがここに?」

 

 調印式の開催にあたって地下の探索が行われた。古書館などから資料を集めて地図を作り、実際に潜って調査するなど、多くの人間が出入りした。

 

 同時に、一部の場所は照明の設置や再整備が行われたが、それはごく一部。そもそも誰も来ていない可能性すらあるのに、照明など置かれるはずもない。それも苔が生えるほど長く。

 

「あ、壁や支柱にも補修の跡があります。しかもまだ錆びてない……ですが、道は……」

「……あるかもしれませんよ。」

 

 どうしてそう思うのだろう?

 

 疑問を抱いていると、ナギサがおもむろにパンプスを脱いで手に持ち、ヒールを壁に打ち付けた。場所を変えながら何度も壁を打つ。当然ながらカンカンと音が響く。

 

「な、なにを?」

 

 思わず声をかけた時──

 

 ──トーン と今までと違う音が響く。

 

「ほら。ありましたよ」

「……おいしいスイカの見分け方じゃないんですから」

「原理は同じです」

 

 言葉に従い、付近を調べるとカモフラージュの施された扉とその先に隠されていた階段を発見する。

 

 この古聖堂、あとから建てただけでその前は要塞か何かがあったのでは無いだろうか。なんでこんなモノが?謎が多すぎる。

 

 進んだ先は大きな洞窟であった。明るいとまでは言えないが、光源があるのか暗順応した目なら空洞全体を見通すことが出来る明るさが確保されていた。

 

「祭壇?」

 

 見つけたのは自然の中に不自然にある人工。著名な教会の最奥のように壮大な祭壇があった。

 

 祭壇にはスミレ色の髪をした生徒と双頭の木人形がおり、それを見守るように白い服の集団が並んでいる。その様には戴冠式のような、歴史の転換点を目撃するかのような緊張があった。

 

(メアリさん、見えますか?)

(はい、間違いなくアリウスです。)

 

 遠目からでは何をしているのか分からない。なにか儀式のようなことをしているようだ……。

 

 

 

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(終わったようですね)

(ナギサ様、如何しましょう?多勢に無勢です)

(何もせずについて行きましょう。出られるかもしれません)

 

 儀式は終了したのか木人形は去って行き、アリウスの集団も移動を開始する。

 

 気取られぬように十分距離をとり、音もなく集団の跡をつける。何か目的があるのか早足で進む彼女たちは振り向くことはなく、バレる様子はない。

 

 ところが妙な事が起きていた。

 

(ナギサ様……妙な格好の奴らがだんだんと増えています。)

 

 地表へと登る道中、シスターのような奴らが集団に増えていく。影も形もなかったはずの無から湧いて出てくる。

 

(おそらくですが……聖徒会です)

(せいとかい?アレが?)

(えぇ、かつてトリニティに存在したシスターフッドの前身とされる組織……。メアリさんは資料を読んだことはないと思いますが、厳格で容赦のない所業は記録にも残されています。)

(そんなのがどうしてこんな所に……しかももう存在していないのですよね?)

 

 そしてその数は留まることを知らなかった。恐るべきことに、最初の人数の倍どころか、聖徒会たちの中にアリウスがいると言った方が正しく形容できるほどに膨れ上がる。

 

 度々、道の分岐で聖徒会が別れていく。中隊、いや大隊クラスの人数が減った。だがそれでもアリウス率いる中核グループには、未だ大量の聖徒会がいた。

 

 絶対に見つかってはならぬと必死に息を殺し、何分歩いただろうか。目前で起きる非科学的現象と、軍団と化した集団から目を離すことができずに追い続ける。

 

(!?)

(銃声!)

 

 にわかに響き渡る戦闘音に反射的に身を隠す。しかし、二人の場所に銃弾も爆弾も飛ぶことはなく、あっさりと止んだ。

 

 止んでからといって陰から出ず、銃を構えてもしもに備える。再び鳴り出した足音に怯えるが、その音は遠ざかり、消えていく……と思いきやまた銃声が鳴る。フルオートで引鉄を引き続けているのか止めどなく発砲が行われる。

 

(…………。……!)

(……。)

 

 目とハンドサインでコミュニケーションをとる。集団が止まることなく進んだならば遥か彼方だろう。ならばこの銃声は一体なんなのか?

 

(……、……、……、……!)

 

 意を決して飛び出した二人は目撃する。

 

「は?」

 

 風紀委員会の生徒だろうか、地面に倒れた黒服の少女を聖徒会が踏みつけ、取り囲み、彼女を撃ち続けていた。

 彼女のものであろう銃は破壊されて隅に捨てられ、もはや意思などない少女は銃弾が当たる度に嗚咽を漏らしてビクビクと体が動く。

 その動きもだんだんと小さく、弱くなるが……意に介すことなく聖徒会は銃弾を加えるべく再装填を行う。

 

 ヘイローを壊そうとしている。直感が叫んだ。それ程にまで惨い。

 

 聖徒会の装填が完了し、銃口は下を向く。

 

 

 

 発砲炎が洞窟を照らした

 

 

 

 

 

 

「何をしているのですか」

 

 突き出した右手からは硝煙が上る。凄惨な光景を真っ直ぐ見据えたナギサの瞳は、冷徹な鋭さを帯びていた。奥底から沸き上がる怒りはもはや殺意のようであり、切り裂かんばかりの視線は聖徒会を刺す。

 

「どうしてそんなことができるのですか」

 

 低く響く。

 

 普段は印象を和らげるために柔らかな声音が、鋼鉄のように硬く引き締まっている。

 

「あなた方の抱える憎しみとは、ソレができるほどのモノなのですか」

 

 その手が震えることはなく、瞳が逸らされることもない。ナギサの圧倒的な存在感に空気が支配される。

 

「私には分かりません。口汚く相手を罵る理由も、気を失った相手に暴力を振るい続ける理由も、大勢で弱きを嬲る理由も何一つ分からない。だからいつもひとり溢れていました。」

 

 補習授業部のことですら息も出なくなるほど苦しいのに、どうして平然とそんなことができるのか。

 

 甘い理想が甘い現実から生まれるとは限らない。

 

 理想の肥やしになったのは、トリニティの倉庫裏の光景、暗黒街で見たリンチ、ゲヘナのゴミの散らかった町で散々聞かされた罵詈雑言。

 どちらもただただ苦しいだけなのに、何故変わろうとも、変えようとも思わないのか。

 

「ミカさんが私を殺してでもと、アリウスがなにかもかも捧げてもと……友情や誇りを上回るほどの理由には、今も露程も思えません」

 

 産まれる前からの知りもしない憎悪、軽はずみに人を傷つけてしまえる憎悪で回る世界。こんな世界は嫌だった。

 

 だがそんな理想はずっと一緒にいた幼馴染にすら“ゲヘナは嫌い”の一言で片付けられ、理解も共感もしてもらえない。反対に、幼馴染の言った理由などないという言葉に理解も共感もできず、越えられない断裂を感じた。

 

「分からない……だから話をしたいのです。ゲヘナとも、ミカさんとも向き合いたい。あなた方アリウスとも。」

 

 されど理想を目指した。臆することなく和解を掲げた。幼馴染は理由もなく嫌うのは気持ち悪いと言ったから。人の奥底にある良心を、信じても良いと思ったから。

 

「ですが、それがあなた方の答えなら……何も語らず銃を撃ち続けるのなら」

 

 だが、温室で育った頭お花畑の馬鹿でトップに立てるトリニティは甘い環境ではない。生まれついたのエリートたちにとって理想を語るだけの飾りなど、邪魔だと切り捨てるか不要だと排斥するか。

 

 優秀は前提。魑魅魍魎が揃う中で互いに腹を探り、策謀をめぐらせて政争を制す。しかも、対立関係の学園との和解を目指す同志など極わずか。

 

「私も……あなたたちを撃ちます」

 

 そんな中を戦えずして生き残れるはずがない。

 

 古き戒律の守護者の前にいるのは、トリニティを生きて成り上がった海千山千の傑物だ。

 

 

 

 /02

 

 

 

「────!!!」

 

 聖徒会のシスターたちが一斉に銃を向けた時、その先には既に何もいない。

 

 感じた風を追い、振り向くと何も居ない。

 

 首を回し、体を回し、粛清対象を探すべくクルクルと見回す。だが、視界に収まることはない。

 

 横にいた仲間の体に穴が空いて霧散する。ようやく捉えた敵の発砲、見えた向きに制圧射撃を行う。しかし──

 

「!?」

 

 逆方向より掃射、飛びだしてきた影は銃剣を仲間に突き立てる。注目が移った瞬間に別方向から攻撃。

 

 ナギサとメアリは互いに補い合い、援護し合う。計算によって緻密に噛み合う歯車のように正確に、まるで演劇のように迷いなく大胆に、並んだ流星のように速く、一体となって攻め立てる。

 

 聖徒会は止まりかけの独楽のようにクルクルと踊る。攻めあぐねるどころか抗えず、わけも分からずに詰む。

 

 たった2人のたった2つのマガジンで、フールズメイトのように最短手で、増援が到着する以前に聖徒会は殲滅されてしまった。

 

 

 

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「うぁ……?」

「気がついたか。口の中の飴を落とすなよ。その飴が君を癒している」

「だ、だれ?」

「トリニティの桐藤ナギサです。お名前は?今日の日付や、ここがどこか分かりますか?」

 

 目覚めた風紀委員会の少女を背中から下ろし、軽い質問をして容態を確認する。

 

 幸い、少女に問題はないようでスラスラと応答が返ってくる。ただ、重傷に変わりはないため、もう一度背負って道を急ぐ。そう何度も亡霊たちの相手する訳にはいかないのだ。

 

 息が上がり、足に力が入らなくなっていく。トンネルに光が満ち、最後には輝く出口が見える。

 

 そうして長いトンネルを抜けると地獄であった。響くは銃声、砲声、悲鳴。見えるは火、煙、崩壊した美しかったなにか。

 崩れかけの2階で狙撃手が敵を撃って止め、分隊が傷だらけの体で盾を構えて火の中を進んでいく。

 かろうじてできたスペースに怪我人が所狭しと並べられ、引き摺られるように運ばれてくる風紀委員たち。

 

 ゲヘナ側陣地に這い出た3人を迎える影があった。その影は天雨アコに支えられた銀鏡イオリ。

 

 ふたりの服は赤黒く染まっており、イオリの左腕はだらりと垂れ、左脚にはネクタイで副木が縛られている。しかし、それでも赤色の瞳で睨み、残る右手でライフルを構え、対峙する。

 

「その子を離せ、裏切り者ども!」

 

 

 

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