脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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|第25話| アドレナリンどっぱどっぱだぁ!

 お菓子の入っていないお菓子の箱を手に歩く。

 

 夜のブラックマーケットは別世界に迷い込んだかのようだ。

 

 ネオンが放つ赤や青、緑の強烈な光が街を彩る。まばゆい輝きで目を眩ませる。所せましと掲げられた看板、派手なキャッチコピーやカラフルな絵柄、絶え間ない刺激に脳が酔う。

 客引きの声、通行人の騒がしい笑い声や話し声、スピーカーから大音量で流れる音楽。微弱だが街全体が常に振動しており、知らず知らず感覚が狂う。

 

 そんな幻惑で隠しきれないあやしさ。暗がりに紛れるようにして立つ影、薄暗い路地の奥から聞こえる銃声。ここにあるのは賑やかさと華やかさだけではない。だが、そんな潜むなにかが独特の魅力を与える。

 

 D.U.にも禁止区域にもない心地よさ。踏み込めば沼へ沈むように飲み込まれる、魔性の街。

 

 この街は怪物だ。幻想的で利己的な、やさしく無慈悲な怪物。

 

「緑のアンタ、野犬でしょ?ウチとやろうよ。“真剣”」

 

 そんな世界に、私は今日もいる。

 

「金と情報でどう?アンタ、そっちのがいいんでしょ?ウチが勝ったらアンタが誰なのか、何を追ってるのか」

 

 だって私はもうこの街の住人で、怪物の一部。社会にはびこる闇でしかない。

 

「……へぇ、いいわよ。()に入れとくから、金と一緒に持ってって。それじゃあ、場所移そ。アンタの好きなとこでいいわ」

 

 街からすこし浮いたゲヘナを、ネオンも人目もないシャッター街へ案内する。

 

 硬貨がはじかれ、アスファルトに落ちる。

 

 ふたつの影が走る。ひとつは短機関銃を、ひとつは拳銃を携えて。

 

 右か、左か。左に跳ねる。

 

 僅かに右を弾が通り抜ける。0.1秒遅れた自分が死んだ。

 

 その幻視にヒュっと下腹が冷える。反面、避けてやったと快感の電流が走る。

 

 目線だけを左を向け、右に切り返す。逸れた銃口、空を突く弾丸。

 

「フェイントなんか使ってぇ!」

 

 釣ってやった、2択に勝った。また、まただ。ビリビリと背筋が痺れる。

 

 でも、こんなのは遊びだ。

 

 銃口が追る。ゾッとして背中に鳥肌が立つ。撃たれる、負ける、ならば動く。

 

 加減なく地面を蹴る。掠める銃弾に目もくれず、前へ。

 

「はぁ!?」

 

 氷上を滑るように迫る。音もなく迫る。

 

 懐に入られた短機関銃の少女は焦る。反射的に距離をとる。

 

 追う。電のようにジグザグと、弾幕を掻い潜り更に前へと。

 

「こんの……!」

 

 追うどころか、追い越してしまう。振り向いた短機関銃。

 

「くたばれ!!!」

 

 放たれた弾丸。音速の弾幕。その上、その上を私は跳んでいる。

 

 外した。つまり躱した。

 

「……とった」

 

 足が壁につく。蹴りつけて突っ込む。見開いた両目で狙い澄ましたのは相手の得物。

 

ちっ……くしょうが!!!

 

 落とさなかった。でも宙に身を投げる私を追い切れない。

 

 落ちる。押し飛ばすようにぶつかり、組み敷く。

 

 敷いた先に弾丸をぶち込む。暴れるせいで狙いが定まらない。だが、喘ぐ声が聞こえる。当たっている。シリンダーに詰まった弾丸をあらんかぎり叩き込む。

 

 撃ち切ってもまだ暴れる。叩く、殴りつける、言葉通り殴り合う。

 

「ッ!」

「んな貧相な体じゃ小骨が刺さって痛えよ!!」

 

 よろめいたのを見て、ゲヘナが起き上がろうとする。だけど……

 

「何笑っ──テッ!?」

 

 脚を撃つ。リロードは完了している。

 

 顔を蹴り上げ、再び乗る。

 

 足掻く相手を、抵抗を、弾丸で黙らせる。

 

 撃って撃って、ヘイローが消えるまで何度でも撃たれて撃って。

 

 泥臭く、醜く、汚い。優雅さも、品性も、人間性の欠片もない。

 

 あるのはなけなしのプライドと、血で汚れたはした金。

 

 でも、なのに、それなのに

 

「……たのしい」

 

 恐怖と快感と高揚が混ざった狂気が最高にいい。たまらなく生を感じる。

 

 観衆がいれば狂気が伝播して熱狂となる。観衆がいなければ混ざりけのない敵意と相対する緊張でハイになる。10円玉を飛ばせばその瞬間から最高だ。ヘイローが消えた瞬間は絶頂を迎えそうだ。

 

 股の下の名前も知らない誰かの寝顔を眺める。アドレナリンでタポタポの頭はボーッとする。

 

 ちょっとしてから、思い出して道端の相手を漁る。

 

 出てきた古い菓子箱から中身を抜いて、貰っておく。大抵はお金。悪い気はするけど、そういうルールだ。

 

 暑い。

 

 緑のパーカーを脱いで、シャツのボタンを上から開け、胸元を掴んでパタパタと冷たい空気を入れる

 

「クックックッ……謳歌していらっしゃるようで何よりです」

 

 のを止めてボタンを閉める。後ろにはいつの間に黒スーツさんとスオウ先輩が居た。

 

「なにをしている……」

 

 はしたないですよね……ごめんなさい。

 

「いい。勝ったんだな?」

「はい」

「それでそのザマか」

「ごめんなさい」

「いい。また教えるだけだ」

「お願いします」

 

 先輩とのやり取りを横目に、紳士さんから小瓶をもらう。

 

「いつもと同じですが、どうぞ」

 

 傾ければトロリと中身がこぼれ、私の中に蜜液が流れる。口の中を、のどを流れていく。蜂蜜のような甘さが焦燥感をなだめて多幸感をくれる。

 

 美味しい。甘い。なんか苦い。

 どこかで嗅いだ匂いがする……いいか別に。

 あまい。おいしい。なんかもういいや。

 

 あぁ、もうカラか。

 

「落ち着きましたか?」

 

 こくりと首がうごく。ポケットに空瓶を入れるとカチャンと、他の空瓶とぶつかった音がする。

 

「その上着も気に入って頂けているようで」

「……カッコイイし、着心地が良いです」

「それは良い。ゴルコンダも喜びますよ」

 

 雨で濡れ鼠になっていたあの後、近くのホテルでシャワー浴びさせてもらったどころか、服まで頂いてしまった。しかもこの緑の外套は特注だという。この人にはいつも貰ってばかりだ。

 

「早くしろ。依頼が来てるのにさっぱり帰ってこないから迎えに来てやったんだ」

 

 どうやら今日は何か話があるようだ。

 

「私とお前を傭兵として雇いたいらしい」

 

 

 

 /01

 

 

 

 喫茶店の2階、静かな店内の窓際のカウンター席に白翼と黒翼を並べてふたりの少女が座っている。

 

「ゲヘナの紅茶ですか……良いですね。飲む度に質が上がっていることが分かって……」

「そう?それはよかった。私の見た“本日の紅茶”はトリニティ産と書いてあったはずだけれど」

「……本当ですか?」

「信じられないなら、レジの看板を見に行ったらどう?」

 

 大変ショックを受けた顔をする白翼の少女。黒翼の少女は呆れた顔をしてコーヒーを啜る。もっとも、彼女は味音痴ではなく、むしろ繊細な味覚をしている。更に趣味は茶葉収集だ。

 

 稀によくある彼女の抜けているところ、もしくはそんな失敗をする体調を呆れているのだ。

 

「疲れてるとこ悪いけれど、“真剣”は知ってる?」

「“真剣”……ですか?」

「そう。要は賭け決闘。お互いに賭け金を持ち寄って、喧嘩するの」

 

 黒社会では様々な人間が様々な方法で食い扶持を稼ぐ。商売、傭兵、賞金稼ぎ、賭博。カツアゲ、詐欺や盗みなどの不法行為まで。だが、そんな彼らにも流行がある。

 

 それが“真剣”であった。

 

 己の実力ただひとつの勝負。金を、名を、プライドを、全てを賭けた戦い。

 

 それゆえか真剣には不思議な魔力があった。腕利きたちが繰り広げる切った張ったは、闇に住む人間を次々と魅了していった。

 

 黒翼の少女から菓子の缶を渡される。

 

「“真剣師”が実際に持ってた入れ物。中身もそのまま」

「……かなりの額ですね」

「それだけじゃない。ほかにも――――」

 

 話し込むうちに時間は過ぎ、今回の()()も終わるかと思われた頃。

 

「――――野犬?」

「そう。ここ数ヶ月で一躍有名になった不良。真剣で名を売って、傭兵に引っ張りだこ。腕もよければ人柄もいいって大人気みたい」

 

 真剣に勝って、勝って、勝ち続けて名を馳せた不良、野犬。

 

「……その不良に一体なにが?」

「情報部の生徒がやられたの。ただの不良に遅れをとっただけなら笑い話だったのだけど、興味深いことが聞けた」

「興味深いこと?」

「まず、賭けの内容。野犬は時々、情報を賭けて戦うの。大抵はあるゲヘナの不良について。今回もそのことを聞かれたそうよ」

 

 どうやら、ゲヘナ情報部の生徒が野犬と真剣を行ったらしい。

 

「次に、野犬の素性についてだけれど……」

「どうされました?」

 

 チラリと向けられた視線に疑問を抱くと、ピッと指をさされる。その先にいるのは私だ。

 

「それ」

「?」

「トリニティのセーラー服。白じゃないけれど、トリニティの制服を着ていたそうよ」

 

 トリニティにも不良はいる。マークしている組織や人物もある。だが、問題は次の言葉だ。

 

「しかも中学生みたいな体格だったそう」

「……なるほど」

 

 指された意味を理解する。由々しき話だ。

 

「把握してた?」

「恥ずかしながら……全く」

「いいわ。それこそ犬に噛まれたようなものだし、上にもあげてもないから」

「助かります」

「でも、あなたにとって重要なのはこの先」

 

 不良と行方不明者についての共有。所属を異にするふたりの協調。

 

「野犬の外見は、暗い髪色に耳と尻尾、緑の瞳とヘイロー」

「!」

「資料より背が伸びてるけれど、この子でしょ?」

 

 見せられた写真は、間違いなく捜索中の人物であった。頷くと、写真と情報が送られてくる。

 

「なんで探しているのか聞きたいけれど、そろそろ時間だから」

 

 黒翼の少女は自身の身の丈程ある機関銃をヒョイと抱えて席を立つ。少し時間を置いてから店を出る。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が出る。写真の人物は探していた人物……彼女の名は櫛井メアリ。同室(シスター)の後輩。

 

 彼女にはある事情があった。

 

 メアリは……いじめにあっていた。無視や嫌がらせにとどまらない、暴力を伴った加虐を受けていた。

 

 生活を共にする寮生活で隠し事はできない。同じ部屋であれば尚更。毎日のように怪我を増やし、傷ついていくメアリの身に何が起きているかはスグに察しがついた。

 知人に話を通して動いて貰ったり、防止するために一緒にいたり、告発の準備をしたりと手を回していた。

 

 だが、ある夜メアリは学園から姿を消した。窓から飛び出して、降り出した雨で煙る町を裸足で駆けていった。

 

 そうして学校には型抜きしたクッキー生地のように空白が生まれた。学校はメアリを最初からいなかったかのように扱った。

 

 当然探した。嫌がるかもしれないが捜索願も出して。

 

 しかし、それから数ヶ月たってもメアリについての情報は一切なかった。トリニティの情報網、己の人脈の全てを総動員してなお影を踏むことすら叶わなかった。

 

「野犬……ですか」

 

 そんな中、不意に掴めた足取りは芳しいものではなかった。

 

 

 

 /02

 

 

 

 依頼人の組織の事務室、スオウ先輩と不良集団の拠点襲撃や掃討の進捗について報告する。

 

「これでこの一帯に居着いていたクズは一掃できたわね。あなた方の活躍のおかげでとってもスムーズだったわ」

「骨のない連中だっただけだ」

 

 先輩の発言に依頼人はクスクスと笑う。

 

「またお願いしてもいいかしら?」

「あぁ、問題ない」

「嬉しいわ。これ、今度の会場の入場チケット。よろしくお願いするわ」

 

 差し出されたのは先輩と私が載っている学生証。ただし、それはトリニティものでもなければ、名前も違っている。

 

 偽造だ。

 

 トリニティの白い制服を着た依頼人は、俺にも目を合わせてニコリと笑う。

 

「野犬さんも大活躍だったと聞いたわ。しっかり弾んでおいたから、また来てくださいな」

「ありがとうございます。ですが、()が動けたのは先輩と、組織の皆さんのおかげですから」

「ふふふ、謙遜なさらなくてもいいわ。実は私、あなたのファンなんですよ、真剣師さん」

「お恥ずかしいかぎりです」

「よければ握手してくださらない?」

「えぇ、喜んで」

 

 礼をして部屋を出る。ドアラッチのカチャンという音を聞く。

 

 気持ち悪い手を服で拭う。それでも落ち着かないので先輩の手を握ると、ペッと払われた。

 

「私を上書きに使うな。気になるなら洗ってこい」

 

 不承不承ながら言われた通りにお手洗いへ行く。戻るとしかめっ面の先輩に注意される。

 

「変わり身の早さは評価する。依頼人にその顔は見せるなよ」

「……見せませんよ。どれだけ憎い相手であっても笑顔で握手できてこそですから」

 

 ここで教わった心得だ。おかげで傍若無人に暴れず、組織に属して活動できている。

 

 エレベーターに乗り込む。扉が閉まると重力加速度を感じる。浮きがる気持ち悪い感覚が全身を襲う。

 

「……知り合いか?」

 

 あの依頼人について聞かれる。声音は変わらないが、どこか先輩らしい優しさを感じた。

 

「向こうは覚えていないようですが……高等部の生徒会の人です。こんな裏稼業をしているとは知りませんでしたが、驚きはしません」

 

 

 

 /03

 

 

 

 エレベーターを降り、ビルの外に出るとトリニティの駅前通り。こんなにも堂々と組織の拠点があることに失笑を禁じ得ない。

 

「おっ、姐さん方!待ってたっスよぉ!」

 

 すると見知った顔に話しかけれる。リサ*1だ。

 

「リサか。ジェネラルはどうした」

「ジェネラルちっとも来ないんスよね。600馬力は出てるはずなんスけど」

「……どういうことだ」

 

 求められたからとリサは説明を始める。

 

「いや、この前ジェネラルの誕生日だったんで、みんなでなんかしようってなったンスよ。最初は社用車の足回りちょっと固めたり、マフラー変えるくらいの予定だったんすけど……」

「……だったんスけど?」

「パーツ探しに行った解体所でめちゃくちゃビビッとくる車があったんで、そっち買っちゃったんス」

「あれ?みんなバイクにつぎ込んじゃってお金ないって言ってなかったっけ?」

「そうなんスよぉ。でもなんとか工面できたんス!」

「どうやったんだ?」

 

 訝しげに先輩が聞くと、リサはキメ顔でこう言った。

 

「社用車売ったっス!」

 

 バカに拳が飛ぶ。

 

「痛ったい頭がぁぁぁ!!!大丈夫ッスよちゃんと横にカイザーPMCって貼ってナンバーも変えてって──ミギャァァァ!!!」

「なんでそこは気が回るんだ!?」

「というか解体所にあるような車だったんじゃ?」

「そこはもうバッチリしっかりきっかり直したッス!あ痛ぁ!?」

 

 詰問が行われる中、通信が入る。件のジェネラルからだった。リサの襟を掴む手はそのまま、通信を聞く。

 

「ジェネラルさん、無事ですか?今どちらに」

『ハイウェイだ。リサはいるか?』

「いるっス!いるから早く来て助けて欲しいッス!」

『悪いがそれには応えられない』

「えぇ!?なんでっスか!?」

『君たちがこんな車を贈ったからだ』

 

 手からすり抜けたリサが慌ててジェネラルに聞く。いったい何がダメだったのかと。

 

『完璧だ、リサ』

「え」

『アクセルから足が離れん。まるで巨大な力に押さえつけられたようだ。もっと速く、もっと速く、とにかく前へという欲求が抑えられん』

 

 その日ジェネラルが来ることはなく、土曜の夕刊にはKVハイウェイで事故があったと小さな記事があった。

 

 

 

 /04

 

 

 

「戻りました」

「邪魔する」

 

 ナギサとともに部屋に入ってきたのは正義実現委員会の生徒だった。緋色のヘイローと茨のような翼が特徴的である。

 

「お、ツルギじゃん」となんでもないように迎えられ、ナギサたちはお茶の準備に向かう。この光景は特段珍しくもないのだろう。部屋にいる生徒会の行政官たちはニコニコと眺めており、「桐藤さん私も欲しい~」と手を挙げるものもいる。

 

「悪い」

「どこかお疲れにみえたので」

「忙しいのはココも変わらないだろう。ハイウェイが事故で封鎖されてから電気が消えたところを見ていない」

 

 普段に比べてツルギに覇気がないように感じ、少し息抜きになればとティータイムをともに誘ったのがつい先程のできごと。

 だが、そこで思わぬ依頼があった。

 

 ツルギから2つの筒を渡される。筒に違いはない。中身はどちらも紅茶の茶葉。変わったところはない。

 

「……」

「どうした?」

「いえ……本当にふたつとも淹れてよろしいのですか?」

「あぁ、頼む」

 

 依頼はこのふたつの茶葉を調べ、比べてみてほしいというものだ。

 

 ナギサは澱みない動きでふたつの紅茶を淹れる。

 

 注がれた紅茶は白磁のカップとの境界に金色の輪を作る。正しく抽出てきた証拠だ。

 

 香り、味、色、茶葉の状態、総合した情報は知識の中から答えを弾きだす。だが、自信を持てない。

 

「特徴的な渋み、強い香りと深い赤、そして茶葉の色や形からゲヘナ南部で採れた茶葉……だと思うのですが、つい先日トリニティの茶葉を間違えてしまったので……」

「もうひとつはどうだ?」

「その……このふたつは同じ茶葉ですよね?さすがにこれは間違いないと思うのですが」

 

 疑問に思っていたこと、それはこのふたつは優劣どころか全く同じものであること。

 

「あぁ、恐らくだがナギサは正しい……と思う」

「それはなぜ?」

 

 自身の出した答えを肯定したわけはなんなのか、そもそもこの頼みはどういった意図なのか。

 

 まず、ツルギは淹れた紅茶について説明をはじめる。

 

「この紅茶はトリニティの……有名なやつだ。入れ替える前は綺麗な缶に入っていた」

「見せていただけませんか?私はどこの茶葉を間違えてしまったのか知りたいので……」

「後で持ってくる。だが、そこじゃなくて……もうひとつはD.Uの物産展にあったゲヘナ産の紅茶だ」

「……まさかとは思うですが」

「中身を入れ替え、トリニティの紅茶だと偽っている奴らがいる」

「教えていただけませんか?私はどこに向けてL118を撃てばいいのか知りたので……」

 

 茶葉の偽装……未曾有の事態、トリニティが揺れる大事件だ。政治闘争に明け暮れる政治家たちだって派閥を超越し、挙校一致で無法者たちを根絶やしにせんとするだろう。

 

 そんな愚か者たちはいったい何者なのか。

 

「最近、ブラックマーケットや各地の不良の勢力図が変化している。潤沢な資金で指折りの傭兵と装備を揃えた集団が……台頭してきたからだ。そしてソイツらの資金源は……こういう偽物らしい」

「許せません……」

「行政にこういう相談が来たら連絡してほしい」

「はい、もちろん」

 

 強く頷き、自分たちが助力を惜しまないことを伝える。そういえば幼なじみがアクセサリー界隈で偽ブランドが出回っていると話してたな。

 

 まだ何かあるのか、ツルギはわたわたとしている

 

「……えっと、その」

「他にもなにかありますか?お手伝いできることがあればなんなりと」

 

 すると、ツルギはテーブルの上を指して言う。

 

「お茶にしないか?せっかく淹れたんだし……もったいないから……」

 

 という訳でティータイムが始まった。

 

 

 

  

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「ぐふ、きぃへっへっへっへ……」

「お口にあったようで何よりです。いくつか包んでおくので、委員会の皆さんとも召し上がってください」

「きひひ、いひひひひっ……ハスミたちも喜ぶ……」

 

 茶請けに出した手製の菓子は気に入ってもらえたようだ。

 

 あたりを確認する。他の生徒はティータイムの片付けをしに外に出ている。自身とツルギの周囲に人はいない。

 

「メアリさんの足取りが掴めました」

「!」

「現在はブラックマーケットで……不良をしているそうです」

 

 ツルギは眉を落とし「……そうか」と零した。ツルギは以前メアリの保護の協力を仰いだひとりだ。

 

「近いうち、ブラックマーケットに行こうと思っています」

「メアリを探しにか」

「はい」

「今日の誘いはこのことを伝えるためか……」

「純粋にツルギさんとお話したかった気持ちもありますよ」

 

 ツルギは少し考える素振りをする。数秒後、なにか決めたようだ。

 

「私も行こう」

 

 

 

 /05

 

 

 

*1
本編第9話、第10話で登場したオリキャラ:暮務リサ





────プロファイル 


 基礎情報
【名前】野犬 (本名不明)
【不良歴】半年以上(今年の春より出没)
【学校】トリニティ総合学園第■■中学校
【誕生日】不明
【部活・チーム】調査中
 能力
【物理強度】普通
【戦場機動】卓越
【生理的耐性】──
【戦術立案】──
【戦闘技術】優秀
【神秘】普通
 第一資料

武器は6インチ6発装填のリボルバー。緑の外套をよく纏っている。喧嘩で無類の強さを見せており、情報部が不意討ちを試みたが失敗した。学生証を見ることはできなかったが、制服からトリニティ学園の生徒であると推定される。

 第二資料

彼女と戦闘を行った者からは、足音がしない、速い、外さないなどの供述が得られている。神秘による直接の攻撃は確認されておらず、神秘は足音を消す、または高速移動である。

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