脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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僕「スオウの二人称について、議論を開始する」
過「現在は“君たち”“あんた”を確認しています」
僕「“あんた”使うなら“お前”も使いそうじゃない……?“あんた”を使おうとするとスオウが脳内で訛る問題が発生する」

(承-2)発生回


|第26話| 賢者タイム

「リサか?」

「はい」

 

 バイクのカタログを眺めていると、スオウ先輩から声がかかる。

 

 先日の件はすったもんだの末にひと段落を迎え、どうにか首の皮一枚つながったリサから一台どうかと勧められたのだ。

 

「そういえばリサたちを連れてきたんあんただったな」

「勝手についてきたんです」

「全員緑になって、同じカラーの仲間です!なんてな。実際どうだったんだ?」

「リサとは小学校同じでしたけど、他はリサがつるんでるってだけで名前も知りませんでした」

「その割には随分なつかれていたが」

「……何を勘違いしたのか、私は救世主らしいですよ。意味が分からない。私はただ喧嘩をしていただけなのに」

 

 暴走族だなんだといきがっていても、中学生の集まりじゃ高校生に絞められて終わり。無駄に技術と知識があるからって、なんとかヘルメット団で便利に使われていたらしい。タダ整備だとか、金を巻き上げられたりだとか。

 

 もちろん当時の私はそんなこと知らないし、売られた喧嘩を買っただけだったのに……同じ中学生でしかも族長の昔馴染み!?じゃあ恩人で仲間!……どういう論理だ。リサだって最初は私だと分かってなかったし。

 

 結局も今もPMCで安く使える整備士として使われている。当人たちは、金が出る!休みがある!奨学金もでる!?と気づく様子もなし。カイザーファイナンスに首輪をつけられるだけだというのに、不良と貧乏ほどトリニティへ行け!なんて言われて近頃は勉強に励んでいる。まだまだ手のひらの上で転がされ続けるだろう。

 

 謎の緑色集団の生い立ちを思い起こしていると、なにげなく先輩が言う。

 

「ところであんたの目的はなんなんだ?」

「……急ですね」

「特に意味はない。だが、不可解だからな」

 

 それはそうかもれない。

 

「借金や契約をしているでもない。金が目的なら真剣で得た金をあの男にすべて渡している意味が分からない。傭兵が好きというわけでもないだろう?リゾートでウェイトレスをしていた時のほうが楽しそうだったしな」

「真剣もすごく楽しいですよ」

「それは同意するが、あんなものは何をしながらでもできるだろ。疑問は、なぜ傭兵を続けているのかだ」

「ないですよ、何も。手伝いのつもりで始めて惰性で続けてるだけで」

 

 学校もなく、やることもない。だからなんとなく傭兵を

 

「本当にそうか?」

「…………」

 

 やっていた。

 

「最近のお前は私と同じ目をしている」

「同じ色ですね」

「……あぁ、半分はな」

 

 先輩は眼帯の下をちらりと覗かせる。初めて眼帯の下をみた。

 

「なぁ、何に縛られているんだ?」

 

 そんなの……そんなものない……もうどうでもいい。好きに腐って、堕ちて、引金を引くんだ。

 

 私の家を焼いたやつも、カップを割るように差し向けたやつも、どうだっていい。

 

 なのになんで、なんでなんだ。

 

「……まぁいい、降りるぞ。いつも通り挨拶しろ」

 

 目的のほうから近づいてくる。道が出来上がり、舗装されていく。

 

チッ……とっとと来いよバイトごときがアンタらが今回の傭兵なんだって?それじゃ、あとやっといて」

 

 ツノ、顔、銃、態度のすべて資料そのまま。

 

 頭の中で何度も殺した阿婆擦れ野郎が、私の家に榴弾叩き込んだゲヘナがいた。

 

 

 

 /01

 

 

 

 メアリの様子がおかしい。仕事中はおとなしいはずだが、暴走寸前、いや暴走している。監督役の高校生を見る目が異常だ。そのくせ笑っているから、化物が人間のふりをしているようで気味が悪くて仕方がない。

 

 だらりと垂らした右手、触れる位置には自身の獲物。撃鉄に指が触れた。

 

 しかし監督は半額の鯖みたいな顔をしてさっぱり気がついていない。それどころか、異様さをナメていると勘違いして不用意に近づこうとする。やめろバカ。

 

 メアリを抱き寄せて隠す。飛び出していかないよう、きつく締める。

 

「何?アンタらそういうやつ?うっわ、やめてくんない?」

「……任務はいつも通りでいいか?」

「は?勝手にやっとけよそんなん。イライラしてんの分かんない?遅いしちっとも来ないし、他の奴らは集まんないしで泣きそうなんだけど」

「定刻通りのはずだが」

「なに?文句でもあんの?」

「キチンと報酬が支払われるなら何もない」

「はぁ~?ムカつく。いいわもう。アタシ帰るから」

 

 監督は背を向けてどこかへ消える。

 

 どうやらハズレの現場を引いたらしい。面倒だが……いなくなってくれたおかげで楽になった。

 

「……恨むなよ。私にも生活がある」

 

 掴んだ細腕を放すと、肩口に埋もれたまま返答。

 

「……何も考えずに殴ろうとしてたので、助かりました」

 

 着の身着のまま自由な不良生活がどうしてこうなったのだろうか。なぜだか数年先でも後輩に振り回される生活をしている気がする。

 

「依頼の後なら構わない」

「……しませんよ、まだ。順番が違う」

「順番?」

「はい、決めました、決めたんです。このろくでもない因果に従ってやるって」

 

 唸る彼女の顔に表情はない。だが目が語る。触れれば指がポトリと落ちそうなほど鋭利な憎悪。

 

だがそれもそうだ。彼女はしがらみを捨てたくて不良になった。だというのに運命はメアリに手札を配り、降りるのか勝負か、宣言を促した。

 

「忘れたフリをしてたって忘れてなんかない。あぁ、やっぱり我慢ならない、生かしておけない……!」

 

 やる気などなかったのに、最高の手札を見せられて、選んでしまった。勝っても得られるものはなく、負けた相手の顔くらい。いいや、それが欲しい。一番欲しい。渇望していた。求めていた。

 

 知っているぞと、運命がチラつかせてくる。飛びつくのを、食らいつくのを待っている。

 

 ならばもう遠慮はいらない。きっちり一人残らず噛み殺してやる。

 

 

 

 /02

 

 

 

 昼のブラックマーケットは、どこか穏やかで落ち着いた雰囲気に包まれている。人々はゆったりとした足取りで歩いており、急ぐ様子は見られない。

 

 太陽の光がまっすぐに差し込み、街並みを明るく照らし出している。ネオンのない控えめな看板はランチメニューや日替わりのおすすめを告げている。衣料品店で目を輝かせる女子生徒、テラス席でランチを楽しむ人々に、屋台のたいやきを片手におしゃべりを楽しむ路肩の集団。

 

 そんな一般的な自治区と何ら変わりない街があった。

 

「ツルギさん」

「!」

「さすがですね」

 

 ナギサが声をかけるとほぼ同時、ツルギが顔の前に手を広げる。遠くで銃声が響き、ツルギの手からは銃弾がポロポロと落ちる。

 

「離れましょうか。巻き込まれると困りますから」

 

 ブラックマーケットではキヴォトスの普通の光景が広がっている。銃撃戦も爆発も、よくあることだ。

 

「……あぁ」

 

 ここはトリニティではない、正義実現委員会の縄張りではない。ツルギも反対せず、ふたりは大通りから離れる。

 

 何本かの道を超えると、少し大きな広場があった。広場の端では露天商たちがシートを広げている。家具や工芸品、古着に古本と店の内容はさまざまだ。

 

 きっと商品を見ても一般人ならばなんとも思わないだろう。だが、長年養成したセンスと知識からか、それとも調査をしている意識からか、タチの悪い偽ブランドの多さが目につく。

 

 しかし、目的を誤ってはならない。メアリの捜索に来ているのだ。

 

 忸怩たる思いで目をつぶろうとすると、同い年くらいの少女が露店商と交渉していた。赤いを輝かせ、白い尻尾をゆっくりと振る姿からは興奮が伝わってくる。

 

 どうやらティーカップのようだ。

 

 かわいいカップだなと眺めていたツルギだが、聞こえてきた値段に耳を疑う。5桁、あまりにも高価、自分の財布の中と外を合わせても足りぬ額。脳裏によぎるぼったくりの5文字。

 

 だがあろうことか少女は

 

「買わせていただきます」

 

 高らかにそう宣言した。

 

 ツルギ、焦る。しかし心に宿るは正義。今ならばまだ……間に合う。声をかける──

 

「まt「待ってください」

 

 ──前にナギサが少女に声をかける。

 

 ツルギ、安堵。ナギサが動いた。しかもナギサの対人スキルは自身より格段に上。間違いない。

 

「その額はあまりにも安すぎます」

 

 ここでナギサ、まさかの裏切り。ツルギ、驚愕。

 

「倍、いえ、最低でも桁が一つ足りません」

 

 止まることなく倍増。ツルギ、驚きのあまり口が閉じず。

 

「ぶしつけな横入り、申し訳ございません。ですが見過ごせませんでした。極端な価格は売り手、買い手、なによりカップにも不幸を生みます」

 

 ツルギ、歓喜。ナギサは裏切っていなかった。発言は適正な価値を見抜いての発言だった。

 

 白猫少女はナギサが割って入ってきたときこそ顔をしかめたが、ナギサの言葉を聞くうちに笑みが混じり、最後にはニィッと笑う。

 

「公正の価値を、このカップの価値を理解し、凛として声を上げる姿……美しい」

 

 白猫少女は芝居ががった口調で話す。

 

「心配してくれてありがとう、お嬢さん。どうか安心してほしい」

 

 すると隣のスペースから笑い声が響く。頭にタオルをかけた犬の老人が豪快に笑っている。老人は「久しぶりだなぁ、桐藤の嬢ちゃん。俺の焼いたやつ、まだ大事にしててくれてるか?」とタオルをとって頭に巻いた。

 

 

 

 /03

 

 

 

 ナギサは頭を抱える。

 

「あの方は相変わらず……」

 

 老人──マイスターから得られた供述は以下のとおりである。

 

 ・偽物市場があるって聞いてよぉ、なら本物が混じってねぇとつまんねぇだろ?

 ・楽しいもんよ。ニセモン中からホンモン見つけてちまった奴らの顔ってったら

 ・おまけにちゃんと分かってくれる奴らをこんな間近で見れるってんだから、たまんねぇわな

 ・ま、性悪っつわれたら言い返す言葉もねぇけどな。ハッハァ!

 

 ちなみに老人は大勢の()とともにお帰りになられた。

 

(わたくし)にとっては僥倖。こうして逸品を手に入れることができたうえに、美しいお嬢さんたち出会えた」

 

 白猫は丁寧に包装された箱を大事そうに抱え、くねくねと尻尾を動かしている。

 

「おふたりも何かを探しに来られたのでしょう?」

「あぁ……だが、私たちが探しているのは……」

「物ではなく人……ではありませんか?」

 

 そういう目で市場を見ていたと言う少女。その目は鋭くふたりを見据えていた。敵意はなく、むしろ友好的。だが、あやしい好奇心の輝きをその瞳に宿していた。

 

「私たちは野犬と呼ばれている人物を探しています」

「野犬……あぁ、よく知っていますよ」

「お話していただくことはできませんか?」

「もちろん!……と言いたいけれど、口の軽い人間はこの街に嫌われてしまう」

「話せない……と?」

「いいえ、そうではありません。この街の流儀に従う必要がある……ということです」

 

 少女がなにかを取り出す。

 

「勝負をしましょう」

 

 それは手帳サイズのチェスであった。

 

「お嬢さんたちが勝てば、(わたくし)は知っていることをすべて話す。いかがですか?」

 

 ツルギは迷う。身体能力を競うものならばともかく、ボードゲーム、しかも相手が提案してくるようなものとなれば敗北は必至。

 

 だが、だからこそふたりで来た意味がある。

 

「わかりました。受けて立ちます」

 

 ナギサは迷いなく対局の席に着いた。

 

 白と黒の駒を並べたふたりはお互いに60秒を持つ。つまり、早指し。

 

 白と黒が交差し急速に変化していく盤面。対局者だけの世界。

 

 ツルギは周辺を警戒する。この期に及んで悪さを働く輩がいないか、目を光らせる。蚊帳の外にされ、気まずくて右往左往しているわけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チェス盤を片付けると、白猫は語る。

 

「では、お約束どおりお話ししましょう」

 

 

 

 /04

 

 

 

 広場の中心に位置した噴水には夜中でも光がある。人こそいないが、明るいだけで安心できる。

 

「ふぅ……」

 

 ひとりため息をつく。指定されていたから仕方ないが、暗闇はごめんだ。

 

 無事取引を終え、仲間の車に向かう道そんな時、視界の隅で何かが動いた。不審に思い、ゆっくりと振り返る。暗がりの中に立っているのは、一人の少女だ。フードの影で顔は不明瞭。目だけが浮かんでいる。何も言わずにこちらをじっと見つめている。

 

「誰?」

 

 警戒心とわずかな疑念抱きつつ問いかける。

 

 緑の外套、緑のヘイロー、特徴はそんなところだろうか。いや、もう1つある。光を反射するレンズ、彼女はカメラを構えていた。

 

 ピピッと鳴った電子音で汗が吹き出す。

 

「勝手に撮らないでください!」

 

 すると少女は一歩、また一歩とこちらに向かって歩み寄ってくる。その動きは、無駄のない、静かで滑らかなものだった。

 

「性懲りもなく、まだこんな下手な受け渡しをしているとは思わなかった」

 

「……いったいなんです?」己が発した声には、隠しきれない焦りが滲んでいる。撮られた、間違いなく撮られた。賄賂を渡すところを。

 

 だが、自分が運んでいること以外、中身も、誰から誰へかも分からないはず──

 

「アタッシュケースの中も、外で待ってる君の先生の顔もみんな撮ってあるから安心して」

「……いいからそのカメラを寄越しなさい」

 

 強く要求する。睨み、手を突き出す。あわよくば奪おうと迫る。

 

「!?」

 

 顔面に衝撃。思わず顔を抑えると、地面になにか転がる。バッジ?生徒会所属の……

 

「それ、君の先生のやつ」

 

 後ろから声がした。真正面には何もいなくなっていた。

 

 思わず後ずさる。

 

「カメラを賭けて勝負、どう?」

 

 意味がわからない。なんなんだコイツは。

 

 10円玉を弾く彼女の目の奥には、まるで楽しんでいるかのような光が一瞬だけ浮かび上がったが、それが何を意味するのか、すぐに理解できなかった。

 

 とにかく、撃たなければやられる……!

 

 直感的に銃を構えた瞬間、喉を締め上げられる感覚が襲った。

 

 

 

 /06

 

 

 





────プロファイル 


 基礎情報
【名前】櫛井メアリ
【不登校歴】昨年冬より
【学校】第一中学校
【誕生日】2/26 
【所属】なし
 能力
【物理強度】普通
【戦場機動】卓越
【生理的耐性】普通
【戦術立案】優秀
【戦闘技術】優秀
【神秘】薄弱
 第一資料

部活や委員会には未所属。本人は家庭の都合と述べている。成績は最優秀、二学期末まで試験は全て満点であった。しかし素行は悪く、同級生のほか上級生ともトラブルを起こしている。期末テストでは不正行為の疑いで生徒指導室に呼び出されている。なお、本人は否定し、全学年分のテストをその場で解き疑惑を晴らした。

 第二資料

昨年冬に寮より脱走、学校への登校もなし。正義実現委員会による捜索が行われたが発見できず。制度に従い進級したものの、現在の状況が続けば退学となる。

 第三資料



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