脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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(転-2)三権倒立回


|第29話|……おや!?ワンコの ようすが……!

 夜更け、暗い部屋に人影。輝くのヘイローを見ながらナギサは起き上がる。ベッドのふちに座ると、来訪者が口を開く。

 

「……何がしたいんですか」

「大雨の中で倒れている方が居たら、誰であっても同じことをしましたよ」

 

 しかし、その返答は不満であったのか、メアリは鋭く問いかける。

 

「連日の事件の犯人が私だと知っていてもですか」

 

 変わった光り方のヘイローだ。時折、闇をまとって輝く。しぼんで黒ずむ花のように。

 

「通報もせず、あろうことか持ち物を返す。シュガーポット(特務機関)の幹部が知らないはずがないのに。目的はなんですか?私になにを期待しているんですか?」

 

 これといった根拠はないが、緑の光輪に這うあの黒が、メアリの心に宿る疑念や憎悪のように思えてしまう。

 

 彼女は己の無力さの象徴だ。不幸と過去が結実し、復讐者へと堕ちた善性。キヴォトスが、トリニティが、人が彼女を堕としたのだ。幸いなのは、いや不幸なのは理由のない嫌悪と違い、憎しみの起因がしっかりとあることだ。

 

 憎悪を易々と否定もできない。無理に止めるべきかもわからない。

 

「メアリさんのおっしゃる通り私はシュガーポットとある機関の人間です。それこそ秘密裏に命令を遂行したり、機密と呼ばれるモノを巡って動くこともあります」

 

 それでも、通したいエゴがある。

 

「そして機関は……いえ、私はメアリさんを調べていました。ずっと前から」

「そのせいで誰も信じられなくなりました」

「……今は話を続けますね」

 

 与えてしまった勘違い、抱かせてしまった不信感。それら払拭するためには、この寂しげな迷い犬をどうしたら救えるだろうか。

 

「雨の中でメアリさん見つけたとき運命かと思いました。ずっと探し求めた人が不意に現れて、都合のいい夢を見ているのかと」

「そんなに疑っていたなら、首輪でもして閉じ込めたらよかったじゃないですか」

「しませんよ、そんなこと」

「でも」

「銃の場所も分かって標的が無防備に入浴しているのに、メアリさんも何もしませんでしたよね?」

「……一緒に入ってたから」

「機関について分からないからですよね?こうして話しているのも確信がないからではありませんか?」

 

 メアリがこの状況を作り出したの理由は?対話が続く意味が指すところは?己の中ではその筋道はすでに確立されている。

 

「メアリさんは敵が組織であること、構成員がトリニティの生徒たちであること、そして機関の存在を突き止めた。ですが、組織と機関がイコールであると思えなかった」

「…………」

「だから去年、私を()()()()()()のではありませんか?」

()()()()()()んです」

「私を信じていたから?」

 

カチャン──金属の鳴る音が耳に届くころには、銃口が眉間につきつけられていた。

 

「自惚れないでください……!違うんですよ!一刻も早く逃げるべきだった!カップ割ったアイツと学園の手先が居て、弾も切れていたから!」

「二丁ともですか?」

 

 撃てたはずだ。あの瞬間、驚いて固まっている私をいつだって撃てたはずだ。6発を撃ちきって、それでも撃てた。

 

「もうひとつ、銀色の拳銃を持っていましたよね?」

 

 6発撃ちきって、7発目を撃とうと持ち替えていたのだから。

 

 メアリは目線をずらすことなく、背から引き抜く。それは目と鼻の先にある黒い銃と瓜二つの銀の銃。

 

「同じ銃ですか?」

「同じにしましたから」

「もとは誰かのものだったんじゃありませんか?」

「……ご明察」

 

 問い、櫛井メアリが別の銃を持っているのではないか。答えはこのとおり、持っていた。だが、そんなことは障害になりえない。部活会館で見た銃ともまるで違う。

 

 さて、こちらの抱いていたこうなればあとは彼女にどう信じてもらうかだ。

 

「こんなことに使ってもいいんですか?」

「もう今更気にしやしないですよ。何度も他愛ない喧嘩で使って、夕方のときだって使ってる。一年前とだって違う」

「人を撃つことに慣れたからですか」

「……肯定でも否定でも状況は同じですよ。私はナギサさんの思ってるような人間じゃないんです。気分で人を殴って、楽しいから喧嘩して……事件だって泥濘みたいな感情だけで起こしてる復讐なんですから」

「そうなんですね」

 

 やっぱり結論は変わらない。

 

「まだ信じてくれているんですね」

「だからなんでそうなるんですか……!」

「だって撃てばいいじゃないですか。組織も機関も知ったことではないと撃てばいいんですよ。でも、メアリさんは私と話している。感情にせよ、論理にせよ、私を信じようとしてくれている以外に何があるんですか?」

 

 気に食わないとばかりに歯をくいしばるメアリ、好都合と言葉を差し込む。

 

「私は私を信じてくれているあなたを助けたかったんです」

 

 堕ちて、穢れ、それでもあがく姿を見た。

 

「メアリさんに何が起きていて、何がメアリさんを苦しめているのか知りたかったんです。メアリさんがトリニティの闇と戦っていると知って力になりたかったんです」

 

 射貫くような目にまっすぐ立ち向かう。逃げない、逸らさない、隠さない。

 

 傷だらけの心に魅せるのは誠意。

 

「遅くなりましたが、疑問にお答えしましょう。機関と組織は別の組織、それどころか敵対しています。私たち特務機関(シュガーポット)はトリニティ総合学園生徒会長たち(ティーパーティー)からある秘密結社の解体を命令されています」

 

 どれだけ穢たっていい。味方になりたい。安心していれる場所になりたい。

 

「メアリさん……やめろとは言いません。学園を信じろなどとは口が裂けても言えません。それでも少し、少しだけここにいてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……期待通りになるなんて思わないことですね」

 

 銃口がぶれ、黒と銀が右腿と背へ消える。

 

「気分じゃなくなりました。部屋に戻ります。お邪魔しました──」

 

 口早に告げ、銃をしまったメアリは背を向ける。

 

「──……?」

 

 ちょんと袖を引かれて止まる。

 

「メアリさん」

「……」

 

 緑の流し目が続きを促す。

 

「ベッドが広いんです」

「……大きい分には困らないと思いますが」

「5分だけ手を握ってくれるだけでいいですから」

 

 見上げた顔は無表情、そこからはまだ答えが読み取れない。

 

「……3分、それ以上は知りません」

 

 

 

 /01

 

 

 

 嵐が過ぎて澄んだ空には明け方の赤みが残っている。朝露の芝を踏み、中庭を通って黒いセーラーの少女が来る。少女は裏口から招き入れられ、そのままボイラー室と書かれた部屋に入る。

 

 部屋に足を踏み入れると、ボイラー室とは名ばかりだと分かる。コンクリートと吸音材でできた無骨な部屋にはかつては大きなボイラーや葉脈のような管が張り巡らさていたのだろう。しかし、今は物置だ。

 

 整頓された掃除用具に冬用のストーブ、ジェリ缶や弾薬箱など、その中にホワイトボードとテーブル。テーブルの上には紙の束や地図が乱雑に置かれていた。

 

 作戦会議でもしていたのだろうか?

 

 そう思うと途端にここは秘密基地のように見えてくる。部屋を照らしきれない天井からぶら下がる蛍光灯も怪しさを演出する舞台装置のように感じる。

 

 いいや訂正しよう、ここは秘密基地だ。そう物語るのは紙束に浮かぶ赤い機密の文字。

 

「ご足労頂きありがとうございます、ツルギさん」

「学校までと大差ない。メアリは?」

「今は寝ています」

 

 目覚めたときも彼女は横で丸くなって寝息を立てていた。毛布をかけ直してもおいたから風邪をひくこともないだろう。

 

「さて、メアリさんについてお話しましょう」

 

 早速ツルギを呼びたてた要件に入る。

 

「消去法ですが、襲撃の多くはメアリさんによるものです」

「消去法?」

「証拠のない事件の犯人()メアリさんです」

 

 ナギサは封筒を取りだす。それは以前セイアから受け取ったものだ。

 

「この書類をご覧下さい」

「照合結果……ヴァルキューレか?」

「注目して頂きたいのが、事件現場で採集された銃弾とメアリさんの銃は一致していないことです」

「正義実現委員会ではメアリの銃と一致したはずだ」

 

 いま、A=BとA≠Bが現れた。正しいものはどちらであるか?

 

「ヴァルキューレ、正義実現委員会、どちらの調査結果にも誤りはありません。与える値が異なれば答えが異なって当然です」

「与える値……?提出した弾丸も、検査手法も同じだろう?」

「いいえ、異なるものがあります。参照した銃の登録データです」

「連邦生徒会とトリニティ、いやトリニティの外とトリニティか」

「……そしてこれこそがメアリさんが戦っていたトリニティの闇です」

 

 銃の登録をしているのは、データを管理しているのは、書き換えることができるのはどこか?

 

「正実に裏切り者が……?」

「いいえ」

 

 ナギサはスッと指をさす。その先はナギサ自身、制服、襟元、生徒会(ティーパーティー)所属を表すバッジ。

 

生徒会(こっち)です」

 

 より正確には生徒会を含めトリニティ全体。中等部高等部派閥関係なく、メアリの襲った所に腐ったミカンがいる。

 

 登録データを改ざんし、証拠を捏造してメアリを無理矢理犯人にしようとしている奴がいる。そしてそれを命令した奴らが生徒会に、シスターフッドに、高等部に、トリニティのあらゆるところにいる。

 

 まだ秋だというのに空気は冬のようだった。冷えきって、乾燥していて、吸った息で喉が痛くなる。

 

 この感情はなんだろうか?失望というのだろうか、怒りというのだろうか?

 

 救いは生徒会全員が全員ではないということか。いや、どうだろう?直接ではなくとも、黙認していたのだとしたら。蔓延した事勿れ主義によって伝統は澱み点と化し、膿が溜まり続け自浄能力を喪失していたとしたら。

 

 敵はどれだけいる?自分たちの味方はどれだけいる?

 

 無限の荒野に放り出されたような不安、そんなとき耳がとらえる足音。

 

「おみえになられたようです」

 

 出入口を振り返る。

 

 扉がノックされ、部屋に入ってくる影。

 

 輝く華やかなヘイロー、ふわりとした薄桃の髪は先にいくにかけて昼空のように薄い青をたたえる。瞳はりんごジュースに浮かべた氷のようにキラキラと、淡い黄色を内包している。

 

 細められた黄金の目、はつらつとした声が響く。

 

「おっはよ~☆ナギちゃんごめんね!遅れちゃった!」

 

 

 

 /02

 

 

 

 

「いえ、連絡が遅れてしまいましたから仕方ありませんよ」

 

 ナギサは桃色の少女を紹介する。

 

「私の幼なじみの聖園ミカさんです。トリニティの系列校に通っていて、今回の件における重要な手がかりを入手したそうなのでお呼びしました」

「剣先ツルギちゃんだっけ?よろしく!」

「……あぁ」

 

 初対面の人間に人見知りを発揮しているツルギをよそに会話は進行する。ミカはナギサの話に同調するように「そうそう!ビックリしたんだよね」とスマホとカメラロールを開く。

 

 写っていたのはぐったりとしたの外套の少女。手にはリボルバー拳銃があった。

 

「道端で急に襲われてさ~そしたらナギちゃんがちょうど探してたって言うからまた驚いたよ」

 

 ただし、耳も尻尾もない。

 

 ツルギには初めてみる人物であった。しかし、ナギサは違う。色濃く覚えていた。

 

「懐かしい方ですね。今はどちらに?」

「私のとこ。警備の子もいるし、逃げる気もなさそうだから大丈夫だと思うよ」

 

 1年前、部屋でメアリの荷物を漁り、破壊した侵入者だった。

 

「何者だ?」

 

 Q,この写真の人間は?

 

「この方は部活会館などを襲った偽のメアリさんであり、捨て石にされた可哀想な方です」

 

 Q,捨て石?

 

「裏切り者たちは組織化しています。そして組織はメアリさん──緑の襲撃者に擦り付けようとしていたんです。模倣犯を使って目障りな政敵を消していたんですよ」

「この子も可哀想だよね。脅されて一度手を汚したら今度はそのことで脅されて……もちろん悪いは悪いけどさ」

 

 弱味を握られる、いじめられないためにいじめっ子に(くみ)する。しかしその行く末は下層カーストで鉄砲玉。使い勝手のいい便利な駒として捨てられる。救いのない話だ。

 

 ツルギは眉をひそめ、苦虫を嚙んだような顔をして話を続ける。

 

「その組織?はメアリが襲撃を行っていると分かっていたのか?」

 

 Q,データを書き換え、メアリが事件の犯人となるように仕向けたのは何故か?

 

「いいえ、襲撃者がメアリさんであるなど微塵も思っていないかと」

「なら何故だ」

「偶然です。犯人に仕立て上げようとしたら本当にメアリさんが犯人だったんです」

 

 A,特に理由はない。都合がよかっただけ

 

 去年、学園から櫛井メアリという厄介者が消えた。焦燥感も失せ、スッとした心中。

 

 そして今年。今年は平和だと思っていたら現れた襲撃者。

 

 面倒だ。なにが面倒って裏がバレる。正義実現委員会に、救護騎士団に、シスターフッドの無垢でバカな上澄みどもに。そうなれば表が裏に介入してくる。

 

 そこで組織は捜査線上に消えた生徒(櫛井メアリ)を浮かべ、正義実現委員会に捜索させるという荒業にでる。

 

 事実などどうでもいい。正義実現委員会は己の尾を追いかけて犬のように回っていればいい。そのまま迷宮へと入ってしまえ。万一追いついたなら、改めて犯人を用意し、メアリはキッチリ退学させればいい。

 

「ところでさ、そのメアリちゃんって子はなんで目の仇にされてるの?」

 

 では組織は何故メアリを退学に追い込みたかったのか?

 

「これです」

 

 ナギサが出したのは菓子、菓子箱。中身をひっくり返して出てきたのは札束。

 

「1年前、メアリさんは生徒会やシスターフッドにいじめの相談をしていました」

 

 鼻につく、気に食わない。容姿、成績、家柄、きっかけは分からない。派閥への誘いを断っただとか、それこそ翼がないとか、尻尾があるなど、なにかがあっても無くてもソレは始まった。

 

 メアリのとった対抗策は学園で開かれていた相談室に行くことだった。

 

 クラスにどうしても相性の悪い相手がいる。席を離したり、下駄箱やロッカーの場所を変えられないだろうか?

 

 相談員の答えは「できない」であった。

 

 次にメアリが訪れたとき、メアリはいじめにあっていると話した。

 

 相談員の答えは「そのような事実はない」であった。

 

 次にメアリは資料を提出した。映像のほか、自身についた怪我すら証拠にして、いじめにあっていると訴えた。

 

 学園の答えは「これだけでは動けない」であった。

 

 次にメアリは別の資料を提出した。内容はいじめっ子たちの汚職についてであった。アプローチを変え、叩けばでるホコリを集めて糾弾しようとしたのだ。

 

 学園の答えは「詳しく報告せよ」であった。

 

 次にメアリはカバン、財布、手榴弾から制服まで様々なものを持ってきた。

 

「本物はなく、全て偽物」

 

 最後に出てきたのは、紙幣。

 

「偽札です」

 

 通貨偽造……“貨幣”という信用を揺るがし、経済に、社会に大混乱をもたらす大罪。

 

 なんと彼女らいじめっ子たちの後ろには偽造品の製作、そしてその販路を資金源にしている犯罪組織があった!しかもなんとその組織はトリニティどころかキヴォトスすら揺らがす大犯罪をしている!

 

 メアリの調査はすべて正しかった。だから学園はそんな事実を無くした。

 

 メアリが指摘した証拠を消し、学年にクラス、そして派閥の垣根を越え、一致団結して“櫛井メアリ潰し”を開始した。そもそもはじめからそのつもりであったのだ。

 

「これが?本当に?」「…………。」

 

 テーブルの上に置かれた札束。

 

 ナギサがとあるルートから入手したそれはなんの変哲もない一万札にしか見えず、ミカとツルギは怪訝な面持ちでいた。

 

 しかし触れた瞬間、表情が変わる。

 

「違う」

 

 感触が違う。あの特有の手触りはなく、悪い意味で軽く、なんというか安っぽい。

 

 これは偽物だ。

 

 そんな心理の変化からか、一万円札が一万円札でなくなる、色が抜けていく。印字、テカリ、透かし、更にはにおい…… 次々と違和感を覚える。

 

 表に出たら間違いなく上を下への大騒動。だから学園──いや、ごく一部の悪党は証拠を隠滅し、メアリを消した。

 

 学校から居場所を無くし、家を焼き、寮の中まで執拗に追い回した。

 

 もしもメアリが相談所に訪れた日が違えば、担当した者が別の者であれば、こんなことは起きなかった。だが、そうじゃなかった。そうじゃなかったからこうなっている。

 

 櫛井メアリは相談所が通じているとに気がついた。それでも諦めなかった。悲しみだとか、怒りだとか、憎しみだとかで無理やり心の炉を燃やして。

 

 それゆえかメアリはトリニティの暗部を突き止める。数少ない信頼できる相手が所属していることを知る。

 

 その後は知ってのとおり、メアリは学園から去った。

 

 

 

 /03

 

 

 

「ナギちゃんはこの後どうしたいの?」

「そうですね……メアリさんにはここに居て欲しいです。組織は襲撃者が野犬であると察知しているでしょうから」

「特徴が同じだからな」

 

 襲撃者がメアリだとはバレていないだろう。だが、野犬だとはバレている。

 

 不良グループの解体、マフィアの幹部や要人の闇討ち。

 

 それは組織に雇われた野犬の仕事。裏返すと襲撃者と同じ手口。

 

 組織は表でテキトウな者を犯人に据えた。だからといって襲撃を看過してるわけではない。むしろ正体が分かっているから表はボカしたのだ。組織にとっては粛清、内部で終わらせる話だから。

 

 ミカはかぶりを振って再び問う。

 

「そうじゃなくてさ、なんで隠すのかな。ナギちゃんは()()()()()()?メアリちゃんをどうしたいの?学園をどうしたいの?一年も追いかけておいてそれだけで済むわけないじゃん」

「……」

 

 ナギサは言葉を口に含んだまま止めた。ミカの澄んだ目に照らされ、発そうとした言葉はどれもが誤魔化しであると思い知ったからだ。

 

 自身の内側を流れている劇薬のような思考。

 

 憎悪を乗り越えてほしい。無関係の第三者ゆえの軽薄な意見。

 

 信じたいなら話せ、頼れ。相手の気持ちを無視して思う。

 

 私の幼なじみに手をだすな。気に食わないものがあるなら変えてやる。自分なら救える。

 

 独善的で、地に根ざしていない理想。臆病で尊大な大言壮語。言わないでいたマグマのようにドロドロとした感情たち。ミカが聞きたいのはこれだ。

 

「優先されるべきは私のエゴではなく、メアリさんの気持ちですから」

 

 結局出たのは誤魔化し、ぼかし。

 

「それで失敗したのが去年だ」

 

 だがそんなもの通用する相手ではない。ツルギの発言が欺瞞を引き剥がす。

 

「坂で落としたリンゴと同じで、放っとくならそのまま転がってっちゃうんじゃない?」

 

 ミカが煽る。

 

 やる気はある、やり方もほとんど決まっている。だからあとは口にするだけだ。

 

 しかし、不安を拭いきれない。

 

「私にできるんでしょうか」

 

 やってよいのか?本当に?失敗しするのではない?なにもかもを悪化させるのではないか?

 

 親しいから虚勢をはれない。理解されているからハッタリを効かせることも出来ない。

 

「できるんじゃない?ナギちゃんなら」

 

 でも幼なじみはそんな不安を一蹴してくれる。一言の勇気をくれる。

 

 腹は決めた。

 

「学園の裏切り者は?」

「友人に頼んで糾弾の手筈を整えてもらっています。」

「メアリちゃんは?」

「……賢いやり方ではありません。とても強引な方法です」

「どんなの?」

「野犬を引き抜きます」

 

 スマホを開く。そこには“カイザーPMC”と表示されていた。

 

 

 

 /05

 

 

 

 動き出すナギサ。変貌する盤面。刻々と変化する。

 

 ナギサが電話を終え、部屋へ戻る。しかし、居ない。

 

 屋敷中を探しても、探しても、探してもメアリがみつからない。

 

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