脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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(転-3)パッと胸の中で転生泣かないで回
過去編プロット「わいは謝肉祭前の生まれや」
脳内プロット「わいもや」
過去編プロット「あまりに最高すぎてワイら立つ瀬がないわ」
成仏した僕「それな」


|第30話|足元でずっとスタンバってました

 

 

「…………?」

 

 目覚めた時、メアリはひとりだった。毛布をどかし、体を起こして周囲を見回す。木目の美しい天井、やわらかなベッド──思い返す昨晩の記憶、この手にあったはずの暖かさ。

 

 しかし、いまこの手にはなにもない。冷えた空気、なにもないのが普通だ。なのに失ってしまったように感じる。いなくなってしまったと感じる。隣にいたはずの人を探してしまう。

 

 部屋を出る。

 

 どうして置いていくんですか。

 

 だって朝はさむいのに。

 

 向かったのはキッチン、あったのは暗がり。電気を点けても人はいない。

 

 ふと目に入る食器棚。目に入ったのはコーヒーカップ。目を離せなかった。息が止まっていた。

 

 同じだ。私のカップと同じだ。

 

 手に取ったソレはかつて自身に贈られたモノと同じ。もちろん個体としては違う。

 

 それでも同じ色だ。同じ柄だ。同じ手触りだ。同じカップなんだ。

 

「…………」

 

 カップをもとの場所にしまう。

 

 あぁ、いい夢だった。名残惜しいほどに。

 

 カップは変わらず綺麗だ。だけど私はどうだろうか。随分いろいろやった。

 

 何度も人を撃った。賭けもした。偽って騙した。盗みは……したようなものか。

 

 この汚れは落ちない。

 

 もう私はこちらにいるべき人間じゃない。あの人と交わるような人間でもない。

 

 携帯が揺れる。時間だ。

 

『これよりあなたはカイザーの人間ではありません。これまでもカイザーと関わりはありません。私も好きにしました。あなたもお好きになさってください』

 

 戻ろう。私のいるべき場所に。

 

 

 

 /01

 

 

 

「いたか!?」

「いいえ」

 

 屋敷を走りまわった三人は口々に見つからなかったと口にする。

 

「思い当たる場所は?」

「ひとつ」

 

 メアリが向かう場所、終着点は復讐。答えはおのずと浮かぶ。

 

「トリニティストリート6-4、組織の本拠地です」

「随分いいとこにあるんだね」

「危険ですのでミカさんはここで待っていてください」

「え」

 

 戦闘は避けられない。ナギサはそんな所へミカを連れていくことができなかった。

 

「いや、でもこの中だとナギちゃんが一番よ——」

「ツルギさん、申し訳ありませんがお力添えしていただけませんか?」

「当然だ」

「ツルギちゃんは行くの!?」

 

 間に合わなければメアリが消え、どこかの学園が消える。カードの出し惜しみなどしていられない、連絡帳の上から順番に連絡を入れる。情報局、政界、他の学園に連邦生徒会、このために準備していた包囲網だ。

 

 決戦の地は敵の本丸。

 

 ふたりはおっとり刀で玄関を飛び出していった。

 

「ふーん……いいよ、それなら」

 

 置いて行かれたミカはむくれ顔で鍵をかける。

 

「私も勝手にするもんね」

 

 

 

 /02

 

 

 

 大通りの何の変哲もないビル。そんなビルへ入っていく車両群は異彩を放っていた。ヘリコプターのような轟音を鳴らす大勢のオートバイに囲まれた車、どの窓にもパネルがはめられて、中は伺えない。この車両を実務面から現金輸送車と呼ぶが、装甲車となんら変わりない。

 

 窓が下がると、カイザーと記されたヘルメットをした生徒が挨拶をする。

 

「どうも、カイザーPMCです」

「おー、鍵開けるから待っててくれ」

 

 それを出迎えたのはトリニティでは珍しいゲヘナの生徒たちだった。

 

 ゲートが開けられ車両はスルスルと中へ。搬入口に着くとバイク勢は待機、車両からからひとりだけが出迎えの生徒らとぞろぞろ中へ。

 

「ボスなら地下。これ鍵。上から順番に押したらエレベーター勝手に地下までいくから」

「ところで依頼内容は?」

「さぁね。アイツ、うちらいきなり呼び出すだけ呼び出して放置してんだから。でもね、多分金だよ。チラッと部屋見えたときいっぱい見えたんだ」

「なるほど」

「そーそー、だからさ、わかるよね?運んでるときに襲われちゃったり、額が違っちゃったりしたら大変だよぉ?どうなるかはあんた次第。OK?」

「OK」

 

───ズドン

 

「「は?」」

 

 床に転がった仲間を見て案内人たちは硬直する。

 

───ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!!!

 

 倒れた生徒に更なる追撃を加える。無害だと思っていた運転手の突然の凶行。

 

「なにやってんだてめぇ!!」

 

 床に投げ捨てられたヘルメット。

 

「去年君たちにもらった分も合わせて返すよ」

「あぁ!?意味わかないこと言ってんじゃねぇよ!!」

「それこそ理解できない」

 

 振動、地が揺れている。波打っている。気がつかないような小さかった揺れは絶え間なく増大する。よろめく、地響きが聞こえる。

 

「敵の顔すら覚えてない君たちの頭が」

 

 得体の知れない存在に誰もが後ずさっていた。連帯感は瓦解して烏合の衆。お前がいけ、あんたが行けと他人に責を押し付ける。そんな汚い内輪もめの間も揺れは大きくなる。立っていられなくなる。誰かが気がつく、振動にエンジン音があると。誰かが気がつく、震源は前ではなく後ろ。

 

 だが、もう遅い。最高潮に達した揺れが張り裂けた。

 

「一回その馬鹿を治してきなよ」

 

 逃れられない破壊と衝撃。

 

 具体的に言うなら、ビルに突っ込んできた20t超の大型トラック。

 

 だが、そんなことに誰も気がつくことなく、宙を舞って意識を失う。

 

 犬耳の生徒を除いて。

 

 

 

 /03

 

 

 

「リサ」

「んぁ~姐さん~アタシの頭割れてないっスか?なんか飛び出てないっスか?」

「たんこぶができてるな」

「アタシどうなったんっスか?」

「フロントガラス突き破って飛んできた」

 

 頭を抑えてうずくまっていたリサに声をかける。随分な無茶をしたが行動に支障はないらしい。

 

「あれ?もしかしてもうおっぱじめてまス?」

「もうすぐ終わる」

 

 階段から響いてくる悲鳴と怒号と銃声。

 

 突っ込んだリサに続いて向かいのビルからの機関銃掃射。リサの開けた穴から待機していた仲間も侵入、階段を確保。逃れるなら飛び降りるしかない。

 

 間違いなく勝勢、だが時間には限りがある。もたもたしていれば応援か正義実現委員会がやってくる。

 

「えーっと、そんじゃ標的は?」

「ひとりはそこに転がってる。あとは両方とも地下」

「あぁ、これが。もういいんスか?」

「もう興味ない。どうせあとは野垂死ぬくらいしかないし」

「ふーん、そんなもんスか」

 

 リサはトラックからメアリの上着を取り出して渡す。いつもの装束になったメアリが問う。

 

「君、本当に()に付いて来る気なのか?」

「勘っすけど、ついてった方がうまい飯が食えそうなんで」

 

 エレベーターが開く。

 

「そうか。飽きるまでついてきたらいい」

 

 ふたりは地下へ向かった。

 

 

 

 /04

 

 

 

「っ!?間に合いませんでしたか!」 

「もう始まっている」

 

 ナギサとツルギが到着したとき、そこは既に戦場と化していた。閃く弾幕、外壁を撒き散らすビル、楔のように突き刺さったトラック。

 

 どうすべきか。

 

 ビルは超高層とまではいかないが、それでも階層は多い。虱潰しに下から制圧を始めてもあまりに時間がかかる。しかも2人では取り逃がす可能性も高い。

 

 どうしたらいい?

 

 逆に考えよう、あの中に全てが詰まっているのだ。

 

 発想は時にテーブルを蹴り飛ばすような野蛮で、爽快な方法を提案する。

 

「ツルギさん!」

 

 適不適?そんなことは後でいい、まずは口に出す。

 

「ビルを吹き飛ばしてください!!!」

 

 おもちゃ箱をひっくり返せ。片付けなんかあとだ。

 

「下から上まで全部ブチ抜いてください!!!」

「いひひひひひひひひゃははは!!!」

 

 

 

 /05

 

 

 

 エレベーターの扉が開く。奥に進むと目に入る鉄の塊、それはいわば金庫であった。

 

 部屋ひとつ入るような巨大な鋼にはぽっかり穴が開き、天井まで積まれた札束。中央にはコンテナのように大型の機械が鎮座していた。

 

「デッカい印刷機ッスね」

 

 リサを無視して中へ向かう。いや、中にいた人物へ向かう。

 

「遅かったわね」

 

 仇敵はキラキラと輝く小瓶を眺めていた。

 

「美味しいですよね、それ」

「……そう、私は好みじゃないわ」

 

 すべての黒幕、コイツの命令によって全てを失った。

 

 迫害された。焼かれた。壊された。信じられなくなった。あの場所に居られなくなった。

 

「ご依頼ありがとうございます、カイザーPMCです」

「嘘はよして、喧嘩師さん」

「俺は嘘なんてつきませんよ。でも、確かに──もう尻尾を振ってやる意味もない」

 

 銃を抜く。

 

「なんだか懐かしい顔ね」

「君たちに人生を壊されたひとりだ」

「あぁ、そうね、そうよ。順当、ならなにもかも満足だわ」

 

 仇敵は印刷機にもたれ、感嘆したように息を漏らした。

 

「あら、気に入らない?」

 

 態度が神経にさわる。いつまにか顔に力が入っていた。

 

「感想戦なんだから和やかにいきませんこと?」

「馬鹿言え」

「いいじゃない、あなたの勝ちなんだから」

 

 意味がわからない。だが、話す気はあるようだ。なら聞けるものを聞いてからでいい。

 

「なぁ君、何がしたいんだ?」

「どれのことかしら?」

「なんでわざわざここにゲヘナを集めた?」

 

 いつも外で遊ばせてあるゲヘナを急にここへ集め、地下で私を待つ。籠城にしたって警備が杜撰だ。

 

「だって貴方が楽でしょう?私としても漏れがなくて安心できますし」

 

 やはり意味がわからない。

 

「また気に入らない?」

 

 ニタニタと……その顔をやめろ。

 

「なんで偽札なんて始めた?損しかないのに」

 

 あまりにも大きいリスク、だがもうけはない。設備は金がかかるし、稼働させれば発見される可能性。

 

「キヴォトスを揺るがすかつてない大犯罪だから。偽ブランドも悪くなかったけど、うまく行き過ぎて期待ほどインパクトがなかったわ」

「……もういい」

「つれないわね」

 

 やれやれと仇敵は説明を始める。

 

「ゲヘナも、機械も、お金も全部ここに集めたのは潮時だったから」

 

 背中の機械、周囲の金をぐるりと指差したあと、最後に私を指す。

 

「いつの間にか貴方はこちらの世界へ踏み込み、懐まで入り込んでいた。驚いたわ。校則準拠スカートの化粧っけのないワンちゃんがこんな寄らば切るような喧嘩師になってるなんて」

 

 妙に熱っぽい視線が肌をなでる。気色悪い。

 

「売られた喧嘩も買った。たかがゴロツキ程度、むしろ利用してやろうって。誰ひとり貴方の正体を掴めていなかったのにね」

 

 彼女は両手を広げ、呆れを示す。

 

「その結果、急にスポンサーや商売相手全てに振られ、今日はとうとう学園でガサ入れが始まった。無線お聞きになる?悲鳴ばかりだけど」

「……」

 

 わざわざそんなもの聞く必要などない。

 

「わかったかしら?私たちは完全に負けたの、貴方に。コレは店じまい。もう終わりだから荷物をまとめて待ってたの」

「待ってる暇があるなら逃げれただろう」

「ないわ。それはないの。だってコレは全部私とキヴォトスの心中で、復讐だから」

 

 するとまとっていた彼女が雰囲気が急激に冷え込む、光を失う。軽薄さが消えて真剣で、重くなる。

 

「目的を話してあげる。私はキヴォトスを壊したいの」

 

 劇画的な振る舞い、しかしそこに華美や流麗さはなく、マリオネットのようなカビ臭くぎこちないもの。

 

「故郷から逃げてきた私を助けたのはトリニティだった。手厚く保護して、転入までさせてくれた」

 

 どうやら彼女はトリニティの出身ではないらしい。

 

「信じられなかった。憎むべき宿敵はとても優しかったの。トリニティだけじゃなく外の世界はどこも。教育もしごきもなくて、憎しみも苦しみもなかった。あるのは暖かい布団、おなか一杯の食事、おいしいお菓子」

 

 挙げたのはごく一般的なもの。もちろん万人が万人享受しているわけではない。だがそれでも多くの人間が当たり前に得ているもの。

 

「でも、そんな幸福に私は耐えられなかった。常に罪悪感があった。寝る前はいつも故郷の仲間の顔がチラついた」

 

 そんな当たり前すら彼女にとっては身にあまる贅沢であった。吝嗇家のように豊かさを前にして苦しみが勝ってしまった。

 

「高等部になったころ、リンチを目撃したわ。いじめと汚職が問題になってた。安心したわ。ここは私のいた世界なんだって。だけど、今度はそのことを受け入れられなかった」

 

 いつの間にか暖かい世界に順応していた彼女は、もとの世界を客観して醜さを知ってしまった。

 

「二律背反なんてものじゃないわ。憎悪や汚いものがあってはならない、だけどこんな幸せな世界を許せない。そして私は思いついた──」

 

 どちらかを立たせるどころか、どちらも立たない。そんな彼女が見出した活路は……

 

「汚いものを全て吸収して、派手に消えてやるの。幸せな奴らにその日常は、そのお金は、その信頼は全部虚無だって突き付けてやるの!こんなモノいつだって無くなってしまうようなものなんだって!」

 

「その幕引きを貴方がしてくれるのなら、完璧なシナリオでしょう?」叫ぶ仇敵、抱いたこの感情の名前はなんだろうか。嫌なものであることは間違いない。嫌悪とか、落胆とかそういったものだ。

 

 とりあえず明確に気に食わないところがあった。それはコイツの構想通りってこと。だから、そう……滅茶苦茶にしてやろう。君たちを白日の下に引きずりだしてやる気など毛頭ない。それはただの手段であって、目的は慌てふためく顔をみることだ。

 

()()引き継いでやるよ」

「ダメ、それはダメ。ココで畳むの。終わりを汚らしく散らかさないで」

「はっ、復讐が続くって喜べよ」

 

 彼女が睨む。目に湛えた怒りは隠しきれず、射殺さんとばかりだ。ようやく腹の立つ顔が歪んで安心した。

 

「そんなの引き継ぎなんかじゃない、乗っ取りよ。貴方みたいな偽物にはわからないわ。傍観者に格下げされる気持ちなんて」

 

 偽物?

 

「そんなつまらなさそうな顔の復讐者いないわ。復讐なんて理屈も理性も感情の付帯品、狂気が正気なの。貴方みたいに寂しさを紛らわせるためにするのは違うわ。そんなの義務感を勘違いしてるだけ」

 

 私が君を憎んでいるのは間違いないだろ?あぁ、それに、偽物だったとしてこれから本物になるんだから。

 

「わかる?私が嫌だからダメ、ダメになるの」

「もういいよ、君」

 

 引鉄をひき、終止符を打つ。

 

「馬鹿ね、櫛井さんが許すわけないじゃない」

 

 彼女は足元の円盤を踏み抜いた。

 

 

 

 /06




 長くなったため30話+31話+32話(エピローグ)に分割します。
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