脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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 続(転-3)ワンコ、それ犬やない。名前だけや回


|第31話|お嬢様の戦い方じゃない……。

 

 

 

 1階から屋上まで開いた吹き抜けを瓦礫とともにツルギが落ちてくる。

 

「見つかりましたか!?」

「いや」

 

 呼びかけにツルギは首を横に振る。

 メアリはまだ見つからない。既に脱出したのか、巧みに隠れているのか、それともまだ探していない場所が……?

 

「んー、地下とか?」

「……!ツルギさん!エレベーターを!」

「わかった」

 

 ツルギは無理やり扉をこじ開け、下を覗く。

 

「ミカさん」

「ちゃんと鍵はかけてきたよ」

 

 返答をしたのはイタズラに成功したように笑う幼なじみ。

 

「下、あるぞ」

 

 籠のないエレベーターは骨と配線晒し、上下にまっすぐ穴がのびている。そして、下方向には明らかに長すぎる空洞。底の見えない暗がりが秘密の部屋へ誘っている。

 

 しかし……

 

「どう降りましょうか……」

 

 

 

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「大丈夫ッスかぁ!?姐さん!」

「おかげでな」

 

 彼女が踏み抜いた地雷は妖精のイタズラか不発だった。

 

「うへぇ、爆発してたら危なかったッスね……」

「どうりで臭い」

 

 調べると周囲に隠されていた爆薬を発見する。

 

「まぁいい、さっさとやるぞ」

「あらほらさっさーッス」

 

 カバンに札束を詰めていく。

 

 これは毒だ。この毒を数滴貰う。

 

 この毒をどう使おうか。事件が風化したころにキヴォトス中にバラ撒いても楽しそうだ。しかし、特定の自治区だけに撒いても面白そうだ。

 

「うっし、OKッス!そんじゃ、スタコラサッサ~」

 

 楽しみだ。楽しみだろう。楽しみのはずだ。

 

 野望で胸をふくらませつつエレベーターへ向かう……その時だった。

 

「……離れろ」

「へ?」

 

 妙な気配を感じ、リサを引き止めると扉が砕けた。人が飛んできた。

 

「探しましたよ、メアリさん」

 

 

 

 /08

 

 

 

 とりあえずエレベーター上に呼ぶね。

 

 下がってきたらあがってきたら困るからちぎるね。

 

 ツルギちゃん、ワイヤー持ってて。

 

 それじゃあナギちゃん、行こっか☆

 

 

 

 

 光は一瞬で遠く離れ、暗闇に呑み込まれる。

 

 真っ暗な視界からは落下の感覚は得られない。しかし、肌にあたる風、三半規管から伝わってくる加速度、浮かぶ内蔵が「落ちている!落ちている!」と一斉に叫ぶ。

 

 ラペリングなんて高尚なものではない、分類でいうと紐なしバンジージャンプとかの仲間だ。

 

 己の万力のように抱いている幼なじみの腕だけが命綱。もちろん信頼しているし、ミカなら問題はない。しかしそれでも……

 

「──────―!!!」

 

 怖いものは怖い。

 

 そんな永遠にも思えた一瞬に、光が差す。細くまっすぐな光のスジ、天から降りてきた蜘蛛の糸のような光のスジ。

 

「ミカさん!!!」

「せーの!」

 

 呼びかけるとほぼ同じくして、落下運動を打ち消す強烈なブレーキ、何かが崩れる轟音、粉塵と石が舞う中に投射される我が肉体。

 

 立ち上がり、目を開けるとそこには探し求めた後輩の姿。

 

「探しましたよ、メアリさん」

「ナギサさん……?」

「急にいなくなってしまったから追いかけてきたんですよ。ご無事でよかった」

「どうやって上を?」

「ツルギさんが制圧しました。今は休憩しておられます」

「……さようですか」

 

 メアリは武器をしまい、おもむろに小瓶を取り出して飲む。まるで警戒していないかのようだ。

 

 だが、実態は真逆だろう。警戒しているから武器をしまった。コチラが先制攻撃しないと理解っているから、口実を与えないように武器をしまった。

 

「ようはツルギちゃんが待ち構えてるってわけじゃんね」

「しかも2対2にみえて2対1なんスよ。アタシ戦闘はサッパリなんで」

「巻き込まれないように先に捕まえておこうか?

「ポーズぐらいはとりたいッス」

 

 再びの相対、だがもう一度穏やかな終わりを迎えることは難しい。

 

「メアリさん、帰りましょう。もう気は済んだのではありませんか」

「……終わってなどいません。それに今さら帰ってどうするんですか。学校なんか行きませんよ」

「いいえ、学校など行かなくて構いません」

 

 伝える、それは口に出すだけで簡単にできるわけではない。

 

「学校に行かなくたって私が教えます。部屋に居たいなら一緒にいます。出かけたいなら連れて行きます」

 

 言いたいのは、私が欲しいのは、願いは変わらない。日陰を歩くことに慣れてしまっても、日の下に戻ることを諦めてしまったのなら、私が手をひこう。

 

「メアリさんはメアリさんが求めているものが分かりますか?」

「……その通りに行動してきたつもりですが」

「少なくとも偽札(ソレ)は不要ですよ。一緒に過ごしてわかった、メアリさん欲しているものは──」

 

 なにを望んでいるかなど、濡れたままベンチで眠る姿とベットで眠る姿を比べれば一目瞭然だ。

 

「──家です。家に帰りたいんです。でも、もう無い、帰れない。その事実をずっと処理できずに抱えているから、喧嘩でも、復讐でも、疲労でも、夢中になって忘れられる瞬間を求めているんですよ」

 

 伝える、積み上げた時間と行動、言い換えるなら信頼をもって伝える。大きく息を吸って、口にする。

 

「だからメアリさん、提案です。私と一緒にいきませんか?私と帰りませんか?」

 

 彼女は黙る。黙ったまま動かない。時が止まってしまったかのように、壊れた時計のように。

 

 しかし、彼女は壊れていない。

 

「そうかもしれません」

 

 口を開く

 

「だけど、それがなんですか」

 

 頑固者

 

「……ホットチョコは美味しかったし、隣にいてくれて安らいだのは事実です。でも、もう私はナギサさんみたいな綺麗な人の横に居れる人間じゃないから」

 

 澄んだ音が響いた。手から滑り落ちた小瓶は砕けて床に散らばる。

 

 霧が湧き立つ……いいや、煙か?鋭角……鋭角から煙が噴き出る。ガラス片、タイルの継ぎ目、部屋の角から煙がたつ。ぼやけはじめた視界、にじむ実体。

 

 進路調査、希望進路は退学。

 

 作り笑いがしゃべる。

 

「さようなら。次は問答無用で撃ってください」

 

 あぁ、やはりこの子は……そう甘く見ないでほしい。

 

「わかりました」

 

 メアリはまた逃げようとしている。

 

「私は罪とか穢れとかを全部をひっくるめて呑むと言っているんです。しかしそれでも、私の前から去るというなら──」

 

 3度も許すわけがない。今度は穏便な手段など考えていない。気分を害するかもしれない力業……失敗すれば全て台無し、しかしそれでも十分なリターンの見込める賭け。

 

 ミカ、さらに後ろにツルギ。戦力は間違いなくコチラが圧倒している。だが欲しいのは身柄だけがではない、身も心も丸ごとすべて欲しい。

 

「──勝負をしましょう。私が求めるのは──櫛井メアリさん、あなたです」

 

 保護だなんだと中途半端なことをせず、己が飼ってしまえばいい。

 

 そのためには相手の土俵で、相手の流儀で、勝てばいい。

 

「……正気ですか?」

「もちろん。執着の証明にも、覚悟の証明にもなりますから」

「ナギサさんって戦えるんですか?」

 

 ほら、興味を示した。

 

「決して強くなどありませんが、拳銃同士の一対一、しかも屋内ですからそれなりに相手にはなるかと」

「温室で仲良くしてるひとたちと同じと考えています?」

「まさか」

 

 それこそ勝ちの見込みがなさすぎる。力比べででミカに勝つなど。

 

「……いいですよ。受けましょう」

「ご要求は?」

「追跡中止」

「それだけでよいのですか?」

「ほかに何があると?」

「銃はどうでしょう」

 

 メアリは口を噤む。やっと熱意が、本気が伝わったか。

 

「勝負の内容はこれで構いませんね?」

 

 返ってきた首肯。

 

 こちらも約束する。銃に誓って。

 

 約束を交わし、合意が形成された。

 

「いや、カッコつけてるところなんだけどナギちゃんなに勝手に約束してるの?負けちゃっても知らないからね!?」

「普通に逃げやしょうよ!?姐さんなら絶対逃げれるっスよ!?」

 

 立会人もいる。

 

 あと足りないものは……

 

 ポケットから弾丸を取り出す。

 

「合図はコレでよろしいですね?」

 

 霧中に浮かんだ瞳が了承した。

 

 キンッ──弾かれた真鍮が放物線を描く。

 

 頂点に達し、重力に引かれ落ちていく。

 

 y=0(落ちた)

 

 

 

 /09

 

 

 

 避けた。

 

「!!」「!?」

 

 間違いなく頭を狙ってくるという読み。1点賭けの回避行動は瞬間的な有利を授ける。

 

「!」「っ!」

 

 しかし当たらない。当たらなかったのだろう。

 

 絶望的な視界と足音のないメアリの相性はまさにマリアージュだ。

 

 目と耳が役ただずとなれば残るのは嗅覚と触覚。しかし、動き続ける対象を特定することに関して、これほど向いてないものはない。

 

 空気の流速など、光速や音速と比べるまでもない。

 

「!」

 

 ではいったい何で補っているのか。答えは簡単だ。

 

「そこです!」

 

 思考、ニューロンを駆け巡る電気。

 

「っ!?」

「スゥゥゥゥ!!??」

「私!ナギちゃんソレ私!!」

 

 外界の僅かな情報を入力された頭脳は世界を出力する。地形、ミカたちの位置、相手の姿勢、行動。

 

 頬に風。

 

 ということは……

 

「なんで……!」

「そう来ると思ったからです!」

 

 回避した勢いのまま回り込んで、後頭部へのクリティカルヒットを狙ってくる。

 

 傾向通りだ。

 

 マグナムといえどライフルに比べれば威力はなく、平均よりも弱い神秘。それでも対等以上に戦おうというのなら、技術と工夫が必須。そして経験によって築き、染みつかせた必勝法。裏返せば癖とパターン。

 

 勝負に乗ってくれてよかった。

 

 もし、彼女が逃げたなら間違いなく撒かれていた。己だけでなく2人も。

 

 だから、絶対に勝つ。手のひらに転がってきた機会を逃すわけがない。

 

 それに勝ち筋も見えてきた。

 

「メアリさん、私はなにも知らずに野犬に挑んでるわけではありません」

 

 彼女は煙の中に隠れる。だが、煙の中を見通せているわけではない。やっていることは同じだ。思考で、読みで、勘でている。

 

「でもメアリさんは私のことを知りませんよね?」

 

 コチラは事前の情報量で圧倒的に勝っている。だから彼女は苦戦を強いられている。桐藤ナギサがどんな喧嘩をするかなど、そこの幼なじみくらいしか知らないだろう。

 

「だからちゃんと私を見て、知ってください」

 

 じゃあメアリは次にどんな行動をとるか。

 

「イメージと実物は違いますから」

 

 霧を濃くして逃亡?霧を薄めて観察?

 

「……。」

 

 霧が晴れる。

 

「なら、ナギサさんも私を見てください」

「えぇ、もちろん」

 

 仕切りなおし第2ラウンド、真っ向勝負のドッグファイトが始まった。

 

 

 

 /10

 

 

 

「わー、クリアになったのに見えないッス。見えるんスか?」

「それなりにはね」

「ひょえ~」

 

 霧のヴェールが剥がされ、実態が明らかになる。そこにあったの流星のように刹那的な高速近接戦闘。格闘まで折り混じったソレは到底トリニティのお嬢さんがやるようなことではない。

 

「演舞みたい」

 

 そうだろうか?言われてみれば……そうなのかもしれない。一進一退の攻防、紙一重の回避は、見方を変えれば非常に息のあった舞のように……見えるかもしれない。

 

 リサは動体視力の埒外の光景を雰囲気だけ感じとった。

 

「いつまで続くんスかね」

「うーん、そろそろじゃないかな。マガジンもローダーも限りがあるし、それに──」

「どわぁ!?」

「体力的にも限界っぽい。痛いの嫌ならそこから出ちゃダメだよ」

「うッス」

 

 リサはミカの翼の陰にすごすごと隠れた。

 

 

 

 /11

 

 

 

 強い相手はいた、それこそ先輩のように。

 

 でも、自分と同じかそれ以上に速い相手は初めてだった。

 

「痛ッ!?」

 

 まずい。

 

 避けきれなかった。

 

 痛む被弾箇所、ダルい足、苦しい息、軽くなった弾薬ポーチ。

 

「ふふ……ひひっ……はは!」

 

 痛みに反応して分泌されるアドレナリン、際限なく高揚するなくする感情、狭まる視野、天井知らずの鼓動。

 

 冷静さなど全くない。目の前の快楽を貪るのに夢中になっている。

 

 さっきまで考えていた復讐などどこか遠くへ。学園の転覆とか、不幸にしてやるとか、達成して得られるはずだった悦のことなどどうでもよくなっている。

 

 だって喜びなら目の前にある。いいや今ここにある、中にいる、ビリビリと体を何度も抜けていく。

 

 頭の中がひとつことでいっぱいで、その人のことでいっぱいで、期待と恐怖と興奮の乱高下を起こしている心に不安や寂しさが介在する隙間などない。

 

 私はナギサさんのことだけを考えて、ナギサさんが私のことだけを考えている。

 

 相対しているのに一体になっている。

 

 感触がするんだ。地面の固さがある、銃の重さがある、空気の冷たさがある、世界に色がある、香りがする、あなたがいる。

 

 楽しい。

 

 楽しくて仕方がない。

 

 だからやっぱりダメだ。

 

 多分才能だ。強さの才能ではない。

 

 戦いを楽しめる才能、好きになれる才能。

 

 中毒、だから断つこともできない。

 

「あっははは!ははははは!」

 

 そんな野蛮なのダメだ。悪いヤツだ、酷いやつだ、ロクデナシだ。

 

 だってあなたに嫌われてしまう。

 

 あなたは嫌いだろう。暴力とか、喧嘩とか。

 

 こんなになってしまった私では失望されてしまう。

 

 それは嫌だ。嫌だから今回は絶対に勝たないといけない。楽しければいい、勝ち負けなどどうだっていい勝負じゃない、じゃないのに!

 

 仕掛けるのは……ホールドオープン(弾切れ)1歩前。

 

 それがこの時間の終わり。終わらせるんだ。けど、終わらせるためじゃなくて、通用するかが楽しみで、どう対処してくるがが楽しみで!

 

「メアリさん」

「なんですッ?」

 

 つい出た声音ははしゃぐ子供ように高い声だった。

 

「いま、楽しいですか?」

 

 撃ち抜かれたように言葉が刺さる。しかし、言わなくても筒抜けだろう。

 

「楽しくて仕方ありませんよ」

 

 これが私だから。隠しも繕いもしない。見てくれと頼んだのも私だ。

 

「私もです」

 

 嘘じゃない。本音だ、真意だ。

 

「意外。ナギサさんはいじめも暴力も絶対にダメって言うと思っていました」

「いじめと暴力は別々の話です。感電した人にドロップキック出来なければ助けられません」

「柔軟なわけだ」

 

 鏡写しではない。共感とか共有とかみたいな繋がる感覚。なんでか嘘を見抜ける確信がある。意図を完全に汲み取れる自信がある。

 

 相性がイイってやつなんだろうか。

 

「メアリさんが暴力という言葉に概念を包含させ過ぎているんですよ」

「そうですかね?」

「例えばコレも、私は対話と捉えていますよ。非言語コミュニケーションの一種として」

「スポーツか何かと勘違いしていませんか」

「少なくとも恥ずかしがり屋さんが言葉にしなかった部分を感じ取れています」

 

 この人は私のことを好きでいてくれている。

 

 それ以上に私はこの人のことを好きである。

 

 あなたの目に写った櫛井メアリはそういう顔をしていた。

 

 

 

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 弾倉には3発、メアリは1発。

 

 攻めるならここだ。

 

「舌噛みますよ」

「!」

 

 これでメアリは弾切れ。動きも鋭さが消えて鈍くなっている。

 

 確実に1発は当てる。直撃を狙う。

 

「っぅ!」

 

 放った2発の片方がメアリの左腕に突き刺さる。

 

 もう1発を!

 

 しかし引鉄を引こうとしたとき、視界が白に染まる。急に虚無の世界に迷い込む。

 

 違うこれは煙、メアリの神秘が作り出した煙。

 

 落ち着け、メアリは弾切れ。リロードしなければならない。

 

 ──ガチャン

 

 左から音、反射的に撃つ。リロードすべく新しいマガジンを握る。

 

 いや待て違う、なんの音だ?シリンダーを開けた音じゃない。

 

 罠だ。

 

 背後、メアリが()の銃を握っている。

 

 持ち替え、だからリロードは不要。

 

 咄嗟に翼を構える。絶え間ない6連射。足がふらつく、意識が遠のく。

 

 あぁ、ダメだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや痛くない。全っ然痛くない。

 

 幼なじみと喧嘩したときを思えば全く痛くないし。

 

 手放しかけた意識をひっ掴む。手早く再装填を済ませて撃ち返す。闇雲に、やけ気味に全弾連射する。

 

 

 

 /13

 

 

 

「この人が黒幕ってやつ?」

「そうッス。主犯格ってやつッス」

「とりあえず縛っとくね。でもあのまま金庫にいた方がよかったんじゃない?」

「いやぁ、実はあん中爆弾たっぷりなんでうっかり流れ弾とか来たら──」

 

 身を襲う圧力、転倒する体。金庫より溢れた爆煙を見てソレが爆風だったと理解する。

 

 立会人は地面に転がる程度の影響、しかし決闘者たちは違う。戦場のファクターが消し飛んだ。メアリの煙が吹き飛ばされてしまった。

 

 無理やり脱がされた秘密のヴェール、その下にいた緑の瞳と目が合う。

 

 天啓とでも言うべき、急に降って湧いた確信。

 

 先に撃った方が勝つ。

 

 だというのにマガジンがリリースできない(抜けない)

 

 ならば1発勝負。

 

 フレッシュなマガジンから一発だけこそぎとり、薬室(チャンバー)に突っ込む。

 

 スライドを戻す。

 

 指を引く。

 

 右手をマグナム弾が弾き飛ばす。

 

 7.65mmがメアリを撃ち抜いた。

 

 

 

 /14

 

 

 

 負けた。

 

 地面から見上げて最初に思った。

 

「メアリさん、私の勝ちです」

 

 鉛のように重い体、底をついた気力。

 

「……おめでとうございます。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」

「そんなことしてどうするんですか」

 

 ナギサさんが腰を下ろす。

 

「あー」

「……あー?」

 

 ナギサさんは歯医者のように口を開けることを要求してくる。

 

「ン!?」

「飴です」

 

 コロンと口に転がった飴球はジワりと甘みを舌に広げる。

 

「甘いものは痛みを取り除いてくれますから」

 

 飴ちゃんは傷を癒し、ダルさを溶かしてくれる。

 

「……あの仕掛けで押し切れたと思いました」

「あそこはもはや気力だけで立っていました」

「最後も……どうやったんですか?絶対に私が先だと思ったのに」

薬室(チャンバー)に直接装填したんです。もう1発必要だったら私が倒れていました」

「ははっ、そんな体力残っちゃいませんよ」

 

 手を置かれる。髪をなでられる。

 

「私は手がかかりますよ」

「何をいまさら」

「避けるくせに寂しがるし、放っておけば訳の分からないことを始める……。こんなのでいいんですか?」

「では改めて申し上げましょう」

 

 しかしまぁ、本当にため息がでるほどきれいな人だ。

 

 断れるはずがない。

 

 だから責任もって面倒みてください、ご主人さま。

 

 

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