脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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トリニティとゲヘナが表面上とはいえ双方が関係改善にむけて取り組んでいたんじゃないかという想像

オリキャラあり回


第6話 ゲヘナがやってきたぞっ!

 

「うひゃあ!?」

「うーん、いつ見てもいい脚、100点ね」

 

 腿から腰にかけてをなぞられる、突如襲ってきた気色悪い感覚に総毛立つ。

 不埒者に一撃を喰らわせるべく、身をねじり、膝蹴りを放つ。

 

「おっと危ない」

 

 しかし、余裕とばかりに避けられ、空を薙ぐ。

 

「やぁ!ホルスターの郵便屋さん」

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て、牙を剥き出しにし、下手人を思い切り睨みつけた。

 

()()()()()()()()をこれみよがしに見せびらかしてくる目は値踏みするようで、舐めまわしてくるようで、粘っこくてやらしい。

 

「顔隠れてたんだけど。なんで分かった?」

「こんな可愛らしいフロイラインを間違えるほうが難しいわね」

「減らず口が、角をへし折られたいのか?」

「ウチとやるかい!?いいよぉ!!!」

 

 コイツはフィリア、本名は知らん。ゲヘナの情報部、つまりご同業である。罵倒や脅しには何故かちょっと興奮気味に応答してくるので扱いづらい。

 

「あ、そうそう。ブラックマーケットでは大活躍だったみたいね?」

「なんの話?」

「深窓のお嬢様方と違って、うちはたくましいのが多いのよ。特にあそこの話は寝てても聞こえるわ。今回も同僚が『おかげで指名手配犯を捕まえられた!ありがとう!』ってね。」

「そうかよ」

 

 フィリアは銃を返すとともに1本の缶コーヒーを手渡してきた。じわりと手のひらに熱が伝わってくる。

 

 ヒフミの噂を聞いた中に情報部マークされてた奴がいたようだ。

 

 カシャっとプルタブを開けて口につける。中もまだ暖かい。ん?

 

 シャバシャバと水っぽく、舌に残るような苦味が口内を、喉を、流れ落ちて風味のないない炭みたいな匂いが残る。

 

「まっず!?なんだコレっ!?1番安いやつじゃねぇか!」

「せいか~い、さっき間違えて買っちゃったのよ~」

 

 ラベルは自販機でたまに見るやっすい缶コーヒー。コーヒーというより炭と焦げを混ぜたお湯みたいな味だった。しかも粉やカスが溶けきれずに残っているせいでむせる。この野郎、御礼みたいにして処理に困ったゴミを渡してきやがった。

 

「気持ち悪。どっか店入ろう」

「いいわね、運転お願いしてもいいかしら?」

「乗せねぇよ、角が刺さる。つかスグそこにあるだろ」

 

 

 というわけで、本日は学園ではなく街からこんばんわ。

 

 かなり強い雨だったからどうかと思ったけれど、スパッと止んだおかげでオンスケジュールで相手方と合流できた。フィリアと会ったも偶然ではなく、予定されたものだ。

 

 喫茶店という場所は密談に適しており、こういった時に便利だ。特にコチラの息のかかった店ならばなおさら。ある程度騒がしいため、話を聞かれづらい。受け渡しをしても違和感がなく、一般的で入りやすいから疑問ももたれない。

 

「ほい、ご主人様からボスへ」

「確かに受けとりましたっと」

 

 ナギサ様から託された手紙。完全にデジタルから切り離すため、ペンを用いて書かれた手紙。

 

 そう、手書きの手紙。

 Yes、手書きの手紙、ナギサ様の手書きの手紙

 

ナギサ様の手書きの手紙

 

「絶対に届けろよ」

「当然ね」

 

 あぁ、当然だとも!だが万が一というものがある。念を押したくもなるのも許して欲しい。

 

「にしても……あんまりおちょくらないでくれ。キレやすいのは知ってるだろ?ツノが穴になっても知らんからな?」

「きゃー、こわーい。ま、アンタを止めるなんて簡単、初歩的なことさ、友よってね」

 

 フィリアの流し目が俺を捉える。

 

 カウンターテーブルの上、淹れたてのコーヒーは湯気をたてている。深煎りで黒く、黒く見えるなかに紅がある。どこか甘い芳醇な香りはコーヒーが果実だと思い出させてくれる。

 

 こんな時間だからか、俺たち以外に客はいない。嫌な予感がした、さっさとこのコーヒーを飲んで帰ってしまったほうが良かった気がする。

 

「ところで、調子はどう?ワンコちゃん。全部を全部ペラペラ喋ってご主人(ナギサ様)が疑心暗鬼になったりしてない?」

「たった今、最悪になった。そっちこそどっかで止められたり黙ったりして、ボス(風紀委員長)が何も知らないまま宙ぶらりんになってないか?

 それにそっちは頭に凸なやつばっかでCEOと噛み合わないだろ?」

「ははっ、面白いこというね、お嬢さん。やっぱり羽のあるお嬢さん方たちは飛べるように下から頭まで工夫されているのかな?」

 

 コイツ実演する気だよ、やだなぁ。何が簡単だよ、君何回殴られたか覚えてる?

 ただでさえゲヘナってだけで私の中で何かが渦巻いて胸の内がざわめいて腹の中掻き回されてるのに、わざわざ怒らせにくるってなんなのさ。

 

 そんなふうに意識が少し逸れていた間もフィリアのペラは回っていく。

 

「頭といえば、ご主人が頭目になったんだってね?おめでとう。

 屋敷は部門が多いし、皆で手を繋いで仲良くってのは色々大変だったんじゃないかい?転んだりしなかった?」

「順調、優秀な人たちばかりだかから。

 そっちはどう?ボスの話はよく聞くけど、他はあんまり聞かないから」

「元気元気、みんな張り切ってるわ。CEOもなんだかんだで乗り気みたいだしね。

 おめでとうとは言ったけどご主人、大丈夫?お茶飲んでばっかりで役に立たないんじゃない?」

 

派閥争い大変やない?

別に。そっちは?

風紀の上層は方針を固めてるからなんとも。万魔殿は何も言わんからこのままいくつもりらしい。

というか、ナギサ様ってホストできるん?無理じゃない?(笑)

 

「言い終わったか?」

 

 声は震えていた。

 なぜなら雷管を叩いたみたいに一瞬で激情が湧き上がり、憎悪と怒気に体が支配されていたから。

 

 目の前がチカチカして、腹の底から熱いものが怒鳴り声になって出てきてしまいそうだ。

 

 瀬戸際だ、俺が俺でいられる。あとひと押しが、ほんのちょっとの刺激があれば()が1秒もなく6発を撃ちきるだろう。

 

 それを見抜いたかのように、フィリアが帽子をとる。

 キャスケットと髪で巧妙に隠されていた角が露わになる。

 

「君まで疑いだしたご主人に煮られちゃうぜ?走狗ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 回転式拳銃(リボルバー)に手がかかった、0秒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1秒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2秒、3秒が経った。だが、1発も発射されることはない。

 

「止まったでしょ?」

 

 掲げられた手紙の後ろから声がかかる。

 

「ご主人様で動いて、ご主人様で止まる……単純ねぇ。でも、それくらいアンタは大事にされてるし、信用されてる。この手紙を託されるくらいにはね」

 

 銃を下ろし、飲みやすい温度になったコーヒーを呷る。

 

「あぁぁぁぁ、敵愾心に苦味が染み渡る」

「悪かったわね、酷いこと言ったわ。もちろん本心じゃないから」

 

 フィリアが俺を抱き寄せ、頭を撫でてくる。

 

「ごめんね」

「今、自分が不発弾取り扱ってるってわかってる?」

「聞いてもいいかしら?」

「まだ銃握ってんだけど?」

「アンタがゲヘナ嫌いな理由、あとなんで()なの?」

「家焼かれた。復讐に囚われて、私は憎悪を取り除く薬ってヤバいクスリ飲んでタガが外れた。その私を封じるための()、以上」

「難儀ねぇ」

 

 家財から形見まで全部粉砕されて燃えカスよ。

 

「でも、最終的に心優しいご主人に拾ってもらって。

 ツノを見るなり襲いかかってきてた子は今では穏健派のお使いになっちゃって。というかそもそもウチら(情報部)アンタら(シュガーポット)が仲良くお茶してるのだっておかしな話よ。とんでもない人よね。」

 

 あぁ、ナギサ様のおかげで私は牢の中ではなく普通の生徒として生活できている。なぜ微塵でも捨てられてしまうかもと思ったのだろうか。

 

 

 

 /01

 

 

 

 空になったコーヒーカップから香る特有の甘さを堪能して、店を出ようかと思ったころ、フィリアのスマホが鳴る。

 

「ごめん、ホントにごめん」

「あ?もうさっきのことはいいよ」

「いや違うの、美食研究会が向かってきてるみたいなの」

「は?美食研?どこに?」

「そこに、爆薬をひっさげて」

 

eat or die

美食研究会

 美食を追い求め、食への不誠実を許さぬゲヘナの部活。言ってしまえば、飯テロリスト(ガチ)

 美味いもののためなら火の中水の中それも含めて頂きます。

 

「いつ?」

「今、既に」

 

 途端、爆音。煙と粉塵が舞い上がるのを目視する。

 唖然としていると夜の少し冷えた空気に乗って銃声と悲鳴が聞こえはじめる。

 

「遅せぇよ!ちゃんと見とけよ!なんのために各地にいるんだよ!」

 

 秘密機関の俺たちと違って人も設備もしっかりあるだろ!?

 

 正実に連絡するために携帯を、と逆に向こうから何やら無線。

 

『ほ、補習授業部が脱柵してて、イチカ先輩が捜索隊を編成中です!』

 

 連絡ありがとう。他にも業務があるのに、眠い目擦って張り込んでくれたんだね。イチカも仮眠中だっただろうに。いつもありがとう、正義実現委員会。

 

「緊急、学園近郊でゲヘナの襲撃!」

 

 レジを済ませ外に飛び出し、ヘルメットを被る。

 

「ウチここにいるとまずいから逃げるね」

「二度とそのツラ見せるんじゃねぇ!」

「またねっ!」

 

 ゲヘナ、しかも情報部。バレないようにしてはいるが、バレたらヤバい。だが、1発殴りたくなるのはしょうがないと思う。

 

 逃げてくる人々とは逆方向に進み、たどり着いた現場付近。めいっぱいを視界に入れて情報を濾過する。

 

 建物の名前、警備員を榴弾で吹き飛ばして外に飛び出てきた犯人の人数、人物、装備、目的。

 

 フィリアの話は間違いなかったようで、襲撃者の面々は美食研究会であった。人質もなんだか見覚えがあるから関係者ないし、共犯かもしれない。

 

 

「主犯は美食研究会!4、5人がアクアリウムから出てきて撃ちまくっ……なんだあのデッカイ魚ぁ!?」

 

 4人のうちの1人に抱えられた1人と1匹がビチビチと跳ねて抵抗している。

 魚?さかな。間違いなく魚。何が目的なんだよ、そいつを盗みにアクアリウム襲撃したのか?

 あと人質なのか分かんないけど、魚と一緒くたに抱えてやるなよ。臭いし、さっきから尾ひれではたかれまくってて可哀想だろ。

 

 そんな彼女たちの前方にわらわらと黒いセーラー服の集団が現れる。

 正義実現委員会だ、近くを巡回していたのか、想定よりも早く駆けつけてくれた。

 

『学園西交番隊、現着しました!テロリス──―

 

 なれども、集団を見るやいなや赤い小さいのが突っ込み、二丁のライフルから繰り出された理外の弾幕によって駆けつけた隊が消し飛ぶ。

 

 残った委員もリーダー格と思しき白銀の狙撃に倒れ、完全に通信途絶。

 

 分隊一掃 +50

 

 流石はキヴォトスに名を馳せるテロリストだ、高い練度に無縫の連携。見つからないように路地の影に隠れて連絡する。

 

「犯人は依然として逃走、応援求む」

 

 /02

 

 

 

『ハスミ先輩と先生たちがそっちに向かってるッス!』

「了解、みんな通信は聞こえたな!ハスミさんが来てくれる。あと少し耐えきるぞ!」

 

 ハスミさんの名前が出たことで防衛線が崩壊寸前で下がっていた正実ちゃん達の士気が一転して急上昇する。

 

 現在、各地から集結した正義実現委員会が防衛線を敷いている。ただし問題がある。急造隊であること、時期時間の都合上で火力が貧弱であること、隊長格が次々に狙撃されたため謎の正実Mが指揮をしていること。

 

 

 どうしてこうなった。

 

「集団戦やら戦術やらからっきしなんですが!?」と反対するもイチカは『仕事手伝ってくれるって話ッスよね?』と言い、正実ちゃんから届けられる黒セーラーと赤い腕章。

 ああ分かったよ!やってやるよ!どうせ他に誰もいねぇんだ、やりゃいいんだろ!?と俺がヤケになったことで謎の正義実現委員会2年生が爆誕。

 

 でもコイツはハスミさんやイチカのような人望も経験もない。足が速いことだけが取り柄のド素人だ。結果、瓦解寸前の限界ギリギリ。耐えていられてるのも正実ちゃんたちの頑張りのおかげです。

 

 ハスミさんが補習授業部と一緒に居たのもありがたい。フリーだと思われたアイツらを見ている人がいてくれたのだ。ただし密談の可能性はないものとする。いや、先生とヒフミがいたか。

 

 懸念は除かれ、強力な応援が来るし、士気も高い。それゆえ一瞬の安堵。だが、裏を返せば一瞬の油断。

 

 そこにぶち込まれたのは──ポンッ と軽い音

 

「グレネードッ!」

 

 誰かが叫んだ時には爆発に襲われる。肌に破片が刺さり、体中に痛みが走る。飛びそうになる意識を食いしばって引き止める。

 

 やられた、まずい

 

 地面に倒れた俺たちを美食研究会が飛び越えていく。

 体に鞭を打って立ち上がり、逃げ去る背中を拝む。

 まだだ、まだ見えるところにいる。俺の足なら追いつける。

 

 軋む体で追いすがる。銃口がこちらを向く。

 

 ……来いよ、全弾避けてやるよ!!!

 

 意識を全て前に集中、して違和感。1人足りない。モフデカマグロがいない。

 

 横、死角からの射撃。身を放り出して反射的に避けた。

 

 だが、奴らからしてみれば獲物がスっ転び、無様に隙を晒している状態。

 

 あぁ、ずっと狙われていたのか。もうどうにもならない、スナイパーが俺の眉間に照準を合わせたのを見て歯を食いしばる。

 

 制帽が宙を舞う。

 

 黒舘ハルナが地を転がる。美食研究会がもつれ合うように物陰に入る。

 

 決して数多く聞いた訳では無い。なのにその銃声が誰のものかたった一発で確信した。耳に届いたその声に涙が出そうになる。

 

「羽川ハスミ、到着しました」

 

 そこから、あっという間に美食研究会は先生とハスミさん、補習授業部によって追い詰められる。

 実力はピンキリ、なのに設計図があるかのようにピタリと噛み合つ連携。ボードゲームで定石を辿るように理想的で淀みのない指示。

 シャーレの先生、こうしてその実力を目にし、その怪物ぶりに戦慄する。

 

「包囲!」

 

 ハスミさんの指示に従い、俺たちは逃がさないように美食研究会を取り囲む。

 

「マグロがーーーーー!!!」

「ぜひお造りの形でと思ったのですが、天ぷらになってしまいましたわね……。」

「うーん、囲まれてしまったようですね★」

「バラバラに逃げたら生存率上がるんじゃない!?」

 

 美食研究会は同時に逃げだし、散々なことになったマグロをそれでも抱えて強引に包囲網を突破しようとする。

 

「確保!!」

 

 しかし捕まえたのは唇にマグロの脂がついたどこか満足そうな黒舘ハルナと縛られた愛清フウカ

 

 他の3人は既に視界の外、焦りという冷水をかけられた頭はエラーを吐いてクラッシュしそうになる。

 どうしようどうしようと考えが堂々巡りを続けている、と肩に腕が乗せられる。

 

「よくやった、あとは任せろ」

 

 トリニティの戦略兵器こと、剣先ツルギさんは俺にニィッと笑いかけると両手に散弾銃を持ち、美食研究会を追いかけるべく飛んでいく。

 

 その一言で俺の中にあった心配、後悔が凪いで消える。

 俺の網膜にはツルギさんの背中が映って残っていた。

 





「……」クルックルッ
「似合ってるっすよ」
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