脳の破壊された上司と爆散するワンコ女の話   作:ここに文字を入カ

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ハナコは言わないだろうけど言ってくれ的なセリフがあります。
ゲヘナ行き準備回①


第7話 ヤマアラシが密集するってマジ?

 逮捕された美食研究会は政治的判断により、正義実現委員会による裁定ではなくゲヘナの風紀委員会に処遇を任せる。

 

 引き渡しは表向き、ゲヘナ救急医療部と連邦生徒会S.C.H.A.L.E(シャーレ)によるものとされるが、実態は風紀委員会と正義実現委員会によるものだ。

 

 にしても、もっとごたつくかと思っていたが風紀委員長にツルギさん、ハスミさん、先生までもがいるおかげか大したトラブルもなく順調に進んだ。

 

 お?先生と風紀委員長がなんか話してる。

 

「……補習授業部のことは、先生が守るのよね?」

「“うん”」

「……そう、じゃあ、またね」

 

 へぇ、全部話すじゃん。

 

 まぁ、ホスト代行によって急遽誕生した補習授業部。成績不良者の強制入部ではなく、むしろ選ばれた者に成績不良者が多かったから補習授業部としたようなメンバー。あとは漏れ聞こえる話を集めれば察するか。

 

 まぁ、ゲヘナができることは大してないだろう。裏切り者がゲヘナと繋がっていれば話は変わるが、そういったものは影も形もない。

 

 それに、ゲヘナもここまでのことはできないだろう。

 

 ゲヘナとトリニティはなんだかんだお互い潰れられると困る。これは輸出入の大半をどこが占めているのかを考えると分かり易い。お互いの生命線を握りあっているのだ。

 

 故に、仲の悪さが足枷になる。だからエデン条約のような関係改善によって経済的利益を得ようとする動きも起きる訳だ。

 

 

 

 

 ところで謎がひとつ。ミカ様……先生といつ話したんだ?

 

 話の時系列的に俺が外してした時だが、合宿所の周囲は設置されたカメラがある。当然、録画を確認したがマリーちゃんが来ただけだった。

 

 軍事同盟だのどうのはどうだっていい。ミカ様の方便か何かだろうし。

 

 うーん、直接聞く方が早そうだな。時間が取れるかは分からんが。

 

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 補習授業部の合宿所。部員はどこかの教室に集まって勉強しているため、そこ以外は冷たい静寂に包まれている。そのため、1人作業する俺のカチャカチャという音がいやに響く……

 

「どうですか?」

「どうだろうな、においからして軒並み二階級特進してる。しっぽ触るな」

 

 ……わけではなかった。ハナコが時々話しかけてくるため応答しつつ、昨日の雷で壊れた箇所を直したり点検。今は電源ボックスを開いて思案中。

 屋内はまだしも屋外設備へのダメージが大きい。

 

 やぁ、こんにちは。トリニティ電気の櫛井です。学園に帰ってきたら「そういえば雷でカメラがみんな逝っちゃったんッスよ」とブレーキングニュースをぶつけられて頭を抱えると同時に、補習授業部が抜け出せた理由に納得した俺は脚立と工具箱を抱えてウロウロしている。

 

 カメラや盗聴器ソナーは言うまでもなく精密機器である。しかも小型化高性能化された繊細なものも俺たちは使っている訳だから直撃レベルの距離に何発も落雷があったらまぁ、うん、壊れるよね。

 

 腹いせに室内カメラやら色々を取り付けてやろうかと思ってたらちゃんと監視が来た。ヒフミかコハルちゃんならなんとか言いくるめられたかもしれないが、ハナコは無理。アズサちゃん?IEDだのトラップだのポンポン作るやつが電子工作分からないなんてことあるか?いや、ないね。

 

「確かに被っているもの特有の臭さがしますね♡」

「あぁ、被覆が溶けてるし、焦げ臭い。どうしても発言全部を勘ぐっちまうな。それとしっぽ放せ」

「でも先生には触らせてましたよね?」

「賄賂みたいなもんだよ」

 

 初対面だぞあの時。今もあんまり変わらないけど。小さい子相手ならともかく、大の大人相手に触らせるとか打算込みに決まってるだろうが。

 ガッツリ触らせた訳でもなく先っちょだけ、先っちょだけだし。

 

 すると、ハナコは手を顔に近づけてスンスンと匂いを嗅ぐ。

 

「ふふっ、そうですね♡なんでもしてしまいたくなる素晴らしい手触りです♡それに、こうして手を離してもメアリちゃんを感じられて……」

「やめてくれ、俺は恥ずかしいという感情が正常に働いているんだ。それに急かさなくてもサッサと終わらせてサッサと去る」

「そういうつもりではなかったのですが……」

 

 早く帰れって意味じゃねぇの?違う?じゃあなんでさ。政治闘争と縁切るために作ったキャラをふんだんに使った忌避剤(セクハラ)じゃなかったのか……?

 

「君、俺のこと嫌いなんじゃないのか?」

「……そんなことありませんよ?むしろ、メアリちゃんとはお喋りをしてみたかったんです。」

 

 …………え、は、ちょ、え、浦和ハナコが俺と!?

 

 合宿初日に行った時なんて毛の逆立った猫みたいだったじゃん。政治に巻き込まれた挙句に権力の犬が見張りに来やがったってイライラしてたじゃん!?

 

「尻尾や耳にも触ってみたかったんです。」

 

 そんな素振りなかったろ!?

 

「メアリちゃんと友達になれないかと思っていたんです」

 

 

 

 

 

「うそだ、浦和ハナコはそんなこといわない」

 

「言えない。言おうとしなかった」

 

 な、な、何ちゃんと泣きそうな表情してんだよ。

 皮肉も嫌味もなにもないそのままの顔じゃん。本当を冗談と思われたみたいな、勇気を出したのに否定されたみたいな。

 俺は君の演技とかペルソナを見抜くなんでできないから、聞くけど。

 

「なぁ、だからそれはさ、なんていうか、君が君としての、本心からの言葉なのか?」

「……はい」

「……合宿がはじまって、補習授業部で過ごすうちに君はすごく変わったんだろうけどさ。選ぶにしても俺みたいなろくでもない奴やめとけよ」

 

 

「俺は君が完璧なのが気に食わなくて、妬ましくて、目の敵にしてた。月の裏が荒れているように、汚いところ絶対にあるって。そんなんだから、去年のサバイバル研修で助けてもらった時にすら俺が君に思ったことは“また、満点かよ”だ。テストだって君の眉を顰めるところが見たいからって3年分受けてみたりしてたんだ」

 

 今だって、ほら、君らを退学させるために、補習授業部から逃げられないようにするために妨害したり見張ってる。

 

 ゲヘナやブラックマーケットでは好き放題に喧嘩して、衝動に身を任せて。時々ミカ様やナギサ様に遊んでもらわないとトリニティにいても暴れそうになる。

 

 こんな敵対関係の秘密組織の構成員相手に何を言いだしてるんだ。

 

「だけどいざテストの順位から君が消えて単独1位を取ったとき、どうしようもなく腹がたった。大聖堂に水着で突入した君を見て死んでしまうかと思うくらい虚しかった。そんな自分勝手でお察しの通り任務のためなら下劣なことを厭わない走狗だよ」

「なるほど、分かりました。なぜあの夜メアリちゃんが噴水の中にいたのか。」

 

 ……へ?

 

「あの時期のメアリちゃんの様子を色々な人に聞いてみたんです」

 

 あの時期?浦和ハナコがハナコになってから?俺なにしてたっけな、たしか学校ではオトモダチの奴らの顔を伺って、テストも波風立てないよう適当な点数をとる……元の生活に戻ったんだ。

 

 でも今と違って、よく分からない熱が冷めた感じがして、セピアな視界じゃ何食っても味気なくてナギサ様たちも連邦生徒会長がいなくなった影響で会える暇がなくて。

 

 冷えて固くなった気持ちをずっと抱えてたんだ、中等部の頃みたいに。

 

 仕事が終わって寮に戻ったけど寝れないから散歩に出たかけた夜。噴水を眺めてたらどうでもなんだか全てどうでもよくなってきて。

 

「噴水に飛び込んだんですね?」

「……結構恥ずかしい記憶なんだ、蒸し返さないで欲しい」

「破恋した乙女のようで可愛らしいですよね」

「はぁ?なにいってんのさ」

 

 べ、べ、別ににそんなんじゃねぇし

 

「メアリちゃん、トリニティが嫌になったんですよね?」

「……」

 

 そうだよ。

 あぁ、俺も分かった。

 

「水着の君と会った時、最初はいじめにでもあったのかと思ったけど、そういうことでもなかった。好きでやってるって意味が分からなくて理解できなかった。だからなにか考えがあると思ってた」

 

 だけど実態は理屈だとか策謀だとかそんなものから遠くかけ離れた、感情の話だった。

 

「君も学校が嫌で仕方なくなった。そして俺と同じように自棄を起こした」

 

 なんだ、随分人間らしいことするじゃないか。

 

「そのとおりです。私とメアリちゃんはあの夜同じ気持ち、行動原理で動いていた。そう、もうこれは実質1つになっていたと言っても過言では無いでしょう」

「過言だろ」

「つまりあれはメアリちゃんにとっての露出!心のままに動き、さらけ出していたんです!」

「過言だっつってんだろ!?」

 

 もういい分かったから!ようやく忘れられた黒歴史ほじくり返しやがって!君が伝えたいことは分かったし、その記憶は消していいんだからゴミ箱に突っ込んで空にしろ!

 

「いいえ、忘れもしません。あれは私がまだ夜間に出歩くことに慣れていない頃。月が随分と綺麗で導かれるように歩いた先の噴水、そこに流水と月光を纏った妖精がいたことを。

 透けるブラウス、白亜の肌。浮かぶ長い脚は惜しげも晒されて濡れた髪としっぽが張りついて加速するチラリズム。世界に花を生けたようなあの素晴らしい光景をどうして忘れられると思うのですか!?」

「やめて……やめてくれ……」

 

 なんか、なんか知らんがハナコが止まんねぇ。逆鱗に触れた?いや、どっちかというと琴線に触れた?わかんねぇ、わかんねぇけど懇願するだけじゃなんともならねぇことはわかる。

 

「つか君が毎度“あの夜”とか“共に”とかいうのはこれか!?」

「はい」

 

 “はい”じゃねぇよ!

 ひょっとして今までのアレじゃれてるつもりだったのかよ、嫌味とか言外に意味を持たせてるんだとばかりに思ってたが!?

 

「でも合宿初日、初日のあの時は明確に敵意があったし帰れって意味を持ってたよな?」

「メアリちゃんは仕事モードでしたし、私も余裕がなかったので」

 

 陰謀感じたんですよね?だからさっさと俺を蹴り出して部員や部活について考察したり合宿所周辺を探索したり。

 毎晩徘徊してたのもカメラの範囲と場所特定するためだろ?

 雷でカメラが落ちていたのが分かったから、抜け出して街に行ったんだろ?

 

 なんのためか知らんけど、なんのため……

 

「もしや、昨日の脱柵ってその場のノリでやった?」

「合宿中に抜け出すのは醍醐味のひとつですよね」

 

 おかげで助かったけど何やってんだ君。しかも口ぶりからして主導君じゃねぇかよ。てことはよ

 

「何した?」

「夜の街をみんなで探検して、アクセサリーや服を見たり甘いスイーツを求めて喫茶店に入ったりしましたよ?」

 

 平和、へいわだ。女の子たちがただ遊びに行っただけじゃねぇかよ。俺たちはコイツの何を疑っていたんだ。

 

「ならテスト初日のやつは……」

「テストを抜け出して背徳を感じながら遊ぶ……夢の1つですね」

 

 …………。

 

「もういいや、耳でも尻尾でもなんでも好きにしてくれ」

「今、“なんでも”と」

「いつもこれだよ」

 

 馬鹿らしい、変に勘ぐりすぎてたんだ。

 尻尾を振るとおずおずとハナコが手をのばす。先程違ってしっかりと掴まれる。

 

「ありがとうございます……嬉しいです」

「言っとくけど、そのうち俺たちは殴りあうことになるからな」

「ふふっ夕陽が差す中の堤防で喧嘩、一度はやってみたいですよね」

 

 最優等生っぽい憧れ。ただ単純にそういうロマンを感じているだけ。浦和ハナコだからと下手に別視点から考えずに自分たちと同じような俗な視点から考えればいい。

 

「何か手伝いましょうか?」

「んじゃ、外のカメラにケーブル繋ぎ直すから渡してくれ」

「分かりましたぁ」

 

 尻尾を見てみてると編み方が変わって、ハナコがしているのと同じようになっている。

 パタパタと2つの足音と共にどんなオイルやシャンプーを使っているだとか、最近読んだ本のこと、実は俺より速い方がいること、ヒフミや補習授業部のことだとかみたいな俺とハナコの他愛ない会話が館内に響いていた。

 

 

 

 /02

 

 

 

「作業完了しました。修理箇所はまぁ、だいたい全部です」

「“ありがとう、お疲れ様”」

「あと浴場の水圧調整とシャワーヘッドの掃除をしといたので奥のシャワーもお湯が出るようになりました」

「“やっぱりお湯でなかったんだね……”」

「俺以外にも被害者が出ていたか……」

 

 汗をかいただろうからと風呂場に引きずり込まれ、1番奥のシャワーを利用しようとしたところ、水が僅かしか出てこない。仕方ないかと隣のシャワーを使ってみると、いつまで経っても冷水しか出てこない。夏場といっても過言でないのに。すっぽんぽんで5分が経過した頃、俺はレンチを握った。

 

「“……なにかいいことがあったみたいだね?”」

「訳分からんことがあっただけですよ」

「“嬉しそうにみえるよ”」

「はぁ、俺も絆されたかな」

 

 ポケットから手のひらサイズの小さいぬいぐるみを出す。

 

「そっちのいいことのご相伴にあずかっただけですよ」

 

 先生にサインを貰うため廊下を歩いていたとき、つまりここに来る前。

 

 

 

「あっハナコちゃんにメアリちゃん」

「よっ、ヒフミ……っと1年生ちゃんたちも一緒か。こんにちは、ごきげんよう」

 

 慌てて小さな声の“こんにちは

 芯のあるしっかりした声の“あぁ、こんにちは“

 が返ってくる。ンンン、コミュ力の差って感じ。

 2人ともこんにちは派ね、喋りやすくて助かる。

 

「ところでソイツらはいったい?」

 

 ヒフミは手、背中、そして頭まで使って謎のデカいぬいぐるみたちを抱えており、アズサちゃんもなかなかに大きいぬいぐるみを抱えている。

 

「モモフレンズです!」

「あげないぞ」

「いやそうじゃなくて」

 

 ぎゅっと抱えてジッこちらを見てくるアズサちゃんとテンションが上がり口が早くなるヒフミ

 

「はっ!?考えてみるとメアリちゃんはぬいぐるみを受け取る権利があります!こっちはスカルマンさんで、こっちはペロロ様の──

「知ってる、知ってるから。いや、権利ってなんだ?」

「覚えてくれたんですね!?モモフレの曲は全部ご存知でいくつかは弾くこともできてしまいますし、もうモモフレにハマったと言えてしますね!お好きな1つを選んでください」

「落ち着け、押し売りみたいになってるから」

「えぇ、正直なことを言えば独占したいです。ですがそれはいけません。独占の先にあるのは滅びです。ですから、同好の士と分け合い、メアリちゃんやアズサちゃんのような新しい同志にはもっと好きになってもらえるように──

「メアリも好きなのか?」

「嫌いじゃないけど肯定した未来がこわいかな」

 

 ヒフミが熱心に布教してくるおかげでだいぶ分かるし、リクエスト受けて練習したから何曲か弾けるくらいだ。実際に好感情がある。

 だが、モモフレファンたちのまるでカルト信者のような狂い様を知っているとなんかちょっとはばかられる。モモフレのためとあらば学校どころかキヴォトスを相手に噛みつきそうなファンがいっぱいいるのだ。

 もしもあのライブの件がバレたら地獄の果てまで追い回されるんじゃないかな。墓まで持っていかなければ。

 

「そんなに大きいのはカバンに入らないし、遠慮しとくよ」

「でしたら、こちらをどうぞ!」

 

 すると小さな水色のフクロウのぬいぐるみを渡される。

 

「ビッグブラザーさんならポケットサイズで丁度いいかと思います。メアリちゃんはテストも高得点でしたし、いつも頑張ってますからご褒美です!」

「……ありがと」

 

 ヒフミの元気と笑顔は卑怯だ。これに突き返すことができる奴なんていないだろう。

 

 こころなしか引いてるような気がするコハルちゃんが持っていたプリントには裏表関係なく筆記のあとがあり、補習授業部がいかに努力しているかが見てとれる。

 

 

「頑張ってるのは君らもだろう。試験うまくいくといいな」

 

 

 

 

 先生に見せていたぬいぐるみをポケットにしまう。

 

「食べ物渡されたり、何かしらの許可をもらう時に犯人の親切心を見出してしまい、人質が犯人に友好的になるんでしたっけ」

「“ううん、もともとメアリが好かれてたんだよ”」

「どうだか」

「“ヒフミもハナコも心配してたよ”」

「へ?なんで」

「“言ってはなんだけど、この前来てくれた時は酷い顔をしてたからね。今日も疲れてはいるんだろうけど、険しい雰囲気がないよ”」

「はぁ、そうですか」

 

 そんな表情をしていたかと頭を掻きながら思う。あの時は全員が全員裏切り者に思えていたし、ナギサ様の苦心を感じていたか。いや別に今もあんまり変わんなくないないか?

 数時間とはいえ正実として働いたのが良い息抜きになったのかも。

 

「とりあえず今日はこれで、また何かあったら呼んでください」

 

 

 

 /03

 

 

 

「先生、メアリちゃんってもう行っちゃいました?」

「“うん、帰ったよ。何かあった?”」

「多分メアリちゃんのものだと思うですけど」

「“工具を使っていたそうだし、メアリの忘れ物だろうね。届けておくよ”」

 

 

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