枯れていたインスピレーションがようやく戻ってきました。ご心配おかけしていたなら申し訳ありません
連載中の作品の執筆も進んでいます。もう少しだけお待ちください…
朝目が覚めて、お母さんが作ってくれた朝食を寝ぼけ眼に食べる
迎えに来てくれた恵美と一緒に家を出て、お母さんに行ってきますと手を振る。お母さんは笑顔で手を振りかえしてくれる
なんてことはない日常
平和で、少し退屈だけど居心地のいい日常
そんな日常の通学路で少女ー
大きな荷物を背負って疲れた様子を見せている
(重そうな荷物…持ってるのも大変そう……)
星奈は声をかけようとそちらに足を向ける
が、一歩が踏み出せないままになってしまう
「星奈、行こうー」
共に登校していた
「あ、えっとー」
不意に声かけられて星奈がたたらをふむ
そうこうしているうちにお婆さんは横断歩道をゆっくりと渡って行ってしまった
そんなお婆さんの背中をしばらく申し訳なさそうに見つめていたが、星奈は手を引っ込めて恵美に向き直る
「……うん、そうだね」
星奈と恵美は2人並んで学校への道を急いだ
2人が小走りで学校に急ぐ道行
パーカー姿の少年と少女の2人組がすれ違う
パーカー姿の少女の方がすんすんと鼻を動かす
「……いい匂い」
ニヤリと悪戯っぽく笑うフードの下でルビーの瞳が妖しく輝き、ペロリと唇を舐める
「……キリカ」
「わかってるよユウ。必要に迫られないなら襲わないよ」
パーカー姿の少年の言葉にツンと唇を尖らせ、少女が顔を背ける
ユウと呼ばれた少年は少し振り返って去っていく少女たちが雑踏に消えていくのを見て、そのコバルトの瞳を再びパーカーに隠した
「あ、あの人…」
学校への道を向かっていた途中、高架下を通って行こうとした時に恵美が立ち止まる
高架下の道にはボロ布を被った大柄な人がうずくまっていた
その前にはよくわからない道具がいくつか並べられ、小銭の入った缶が置かれていた
思わず忍足気味になりながら人物の前を通り抜け、高架下を抜けて2人が息を吐き出す
「占い師の人…だっけ?なんだか怖い人…」
「でも同じ学年の子たち何人か占ってもらったって。代金の代わりにポテチとかビスケットで占ってくれたけど、意味わかんないこと言ってたって」
「えぇ…大丈夫なの?それ…?」
星奈がうぇぇ、と渋面を作る
恵美はからからと笑いながら手を振る
「襲われたとか、モノ盗まれたみたいな話も聞かないし大丈夫大丈夫。ちょっと変わってる人多いっしょ、占い師なら」
2人が談笑しながら去っていく
その反対方向の道を小学生の一団が通り過ぎ、UFOの飾りを付けたランドセルが揺れていく
占い師は祈るような仕草をゆっくりと終えると、ボロ布の下にあった皿に乗った焼きそばパンを掴み、うやうやしく口に運んだ
橋の上からボーっと空を見つめていた学生服の少女
後ろから同級生に声をかけられ、去っていく
その手にした鞄をぽんぽんと撫でて歩いていくその眼下を星奈と恵美が走っていき、学校ー
平凡な日常
ありきたりな朝
いつも通りな日常が、今日もそれぞれ始まっていく
空の向こうに、一つの星が輝いていた
☆☆☆
午前の授業を終え、昼休憩になる
弁当を取り出して早速食べだすもの、学食に向かって走っていくもの、あくびを一つして眠りだすもの、一心不乱に何かをノートに書いているもの
学生の昼休み、それぞれがそれぞれのしたいことをやり出して時間を消費していく
「星奈!ご飯食べよ〜」
隣のクラスから恵美ともう1人、紙パックのジュースをチューっと吸いながら
4限目の授業の片付けをしながら星奈は笑顔で頷く
「うん、食べよ」
近くの机をくっつけて3人は談笑しながらご飯を食べはじめる
昨日のテレビのこと、動画サイトで有名になってる曲のこと
星奈は特に
「MesiAのCD今日発売なんだ」
「うん。今日の新譜も、すごくいい曲だから楽しみで」
「星奈ち、ほんとMesiA好きだよねぇ」
星奈はスマホを取り出してアプリから曲を再生してイヤホンを優里に渡す
優里は呑気にジュースを啜りながらもイヤホンをして耳を傾ける
心を揺さぶるような、体を芯から揺さぶるような、そんな歌声
初めて聴いた人でも引き込まれていく、圧倒的な「引力」
MesiAの歌声は、そんな響きを伴っていた
優里は体を揺らしながらその歌声を聴く
「実際、いい歌だよねぇこの人の歌」
「でしょ?」
星奈が満面の笑みで返す
その隣で恵美がスマホのアプリー閉じた目のようなアイコンをタップして起動し、【MesiA】の名前を入力する
【MesiA】
【現在世界的に活躍しているシンガーソングライター】
【顔出しはNGとしており、女性であること以外は不明】
【本日、10月3日に新曲を収録したCD『ALive World』が全世界同時発売された】
アプリの音声が無機質に情報を読み上げる
「さっすが《
ほへーと恵美が関心したように声を上げる
《Gazer》
もう5年は前から配信されている情報検索アプリ
なんでも、ある企業が開発したAIが組み込まれているらしく、全世界のニュースや情報を有機的に取り込んで必要な情報を抽出してくれる夢のようなアプリ
これができてから他の検索エンジンを使う人はめっきり減り、ほとんどの人がダウンロードしている。もちろん星奈もよく使っている
むーと星奈が頬を膨らませる
「……MesiAのことなら私の方がGazerなんかより詳しいし」
「いやいや、AIに嫉妬するとかどんだけ…」
恵美が苦笑いし、優里が楽しげにストローをぴこぴこ動かす
星奈も膨らませていた頬から空気を吐き出し、楽しげに笑った
☆☆☆
学校が終わった星奈は少し足を伸ばし、行きつけのCDショップへと向かっていた
ビルの3階にあるCDショップへと向かっていた中、階下のショップ近くで1人泣いている女の子が目に止まった
(迷子…かな…)
星奈は少しためらいながらも女の子に歩み寄りしゃがんで声をかける
「…ねぇ、大丈夫?」
突然声をかけてきたのに驚いたのか、女の子が小さく肩を揺らし余計に泣き始める
おろおろと手を振りながら星奈は女の子を必死になだめようとする
「あ、こ、怖がらないで…大丈夫、私は変な人じゃないから…」
中々泣き止まない女の子をなだめていると人ごみから女性が1人走り寄ってくる
「ようちゃん‼︎良かった‼︎」
どうやらこの女の子の母親らしい
しばらく泣きじゃくる女の子を抱えていた女性だったが、側にいた星奈に気づき、状況を察したのか頭を下げる
「ようちゃんの側にいてくれてありがとうございました‼︎」
安堵の笑みを浮かべながら頭を下げて礼を述べる女性に星奈は手を振る
「い、いや…私は、な…何も…してないですから……」
鞄を持ち直して目を合わせずに頭を下げ、背を丸めたまま星奈が足早にその場を後にする
(結局…私は何もしてないし…)
鞄の紐をギュッと掴んで俯きながら、エスカレーターに揺られる
実際、星奈は付き添っていたわけでもない。ただ側であわあわして、声をかけてあげるくらいしかしていない
助けた、なんて大層なことできていないのだ
エスカレーターから降りてとぼとぼと星奈は歩みを進める
今朝のお婆さんも、今の女の子も、放っておけなかった
でも、いつもあと一歩のところで足も手も出ない
手を伸ばせたとしても、何もできない、勇気が出せない
放っておけないけど、結局放っているのと同じだ
そんな自分が星奈はいつも嫌になる
MesiAの新譜が並ぶコーナーに着いて、視聴用のヘッドフォンを耳に当てて曲に耳を傾ける
(落ち着く…やっぱりMesiAの歌はいいなぁ…)
MesiAの歌に出会ったのは1年ほど前、高校に入学してすぐくらいの頃だった
いつもの自己嫌悪に悩んで1人しょげている時に、彼女の歌声を街角のテレビコマーシャルから聴いた
自分のふわふわした心に、そっと寄り添ってくれるようなそんな声、そんな歌。一瞬で魅了されて、すぐにCDを買いに行ったのはいい思い出だった
理由なんかわからない。でも、心に響く歌声なのだ
今の星奈に欠かせない日常の音
心地よい音色に星奈は目を閉じて耳を傾け続けた
☆☆☆
お目当てのCDを買い、店を後にする星奈
しまったCDを鞄越しに撫で、鼻歌混じりに微笑む
「早速スマホに取り込んで登校の時聴こっと」
店の窓越しに外を見ると少し夕焼けがさしてきていた
お母さんにはCDを買いにいくことは伝えているが、暗くならないうちに帰らないと…と星奈はエスカレーターを足早に降りる
ドズンッ
ー振動が、ビルを大きく揺るがし、思わず星奈は尻餅をついて近くのガラス柵に手を預ける
「な、なに…⁉︎地震…⁉︎」
半分パニックになりながら星奈は辺りを見回す
棚が倒れて下敷きになった人を助け起こす人、悲鳴を上げながら逃げていく人、腰を抜かしたのか呆然と座り込む人
いつもの店の日常が音を立てて崩れていく
ーギャオォオォオァァァァァァ!!!!
襲いかかる非日常を、更に壊す「音」が響く
錆びついたように思うように動かない首をなんとか動かして星奈が音の方向を向く
ビルの窓の外
いつもの街中
そこに、硬そうな殻を纏う巨大な影が現れていた
ーギャオォオァァァァァァ!!!
立ち上がりかけていた腰が抜け、力無く星奈がもう一度尻餅をつく
「な…に、あれ…?」
夢だ、これは夢だと早鐘を打つ胸を押さえながら言い聞かせる星奈の目の前で、ビルの外のそれが一歩を無造作に踏み出す
踏み潰され爆発した車の爆音と煙が、嫌でもそれは現実だと星奈に叩きつけてくる
「怪物…モンスター…⁉︎いや、あ、れ…」
昔、どこかで見た映画を思い出した
誰かと一緒に見た映画。大きな生き物が、「愚かな人類」に怒り、滅ぼそうとする「よくあるフィクション」
星奈は特に興味はなく、あ、この俳優さん演技上手いなぁとか、このビルが壊れる演出すごいなぁとかしか思い出にない
目の前のそれが無造作に向かいのビルを引っ掻く
あの時見た映画のセットのように、いやそれよりも残酷に、耳障りな不協和音を上げてビルが崩れ去る
ーギャオォオァァァァァァ!!!!
「ーか…いじゅ、う…⁉︎」
鞄から滑り落ちた衝撃でスマホのGazerが起動、音声認識として星奈の声を拾って応える
【怪獣】
【主に特撮作品に登場する巨大生物の総称】
【フィクションの存在であり、現実には存在しない】
「いや、いる、じゃん…現実、に…」
あはは、と力無く笑いが漏れる
ーきゃあああああああああああああ!!!!
つんざく悲鳴に意識が現実に引き戻される
ビルの中の人たちが外の怪獣に気付き、半狂乱になりながら逃げ始めたのだ
星奈もなんとか立ち上がり、止まったエスカレーターを降りようとするが、押しかけた人々に突き飛ばされ降りそびれる
我先にと降り出した人の何人かがエスカレーターの段につまずき、ドミノ倒しに倒れて落ちていく
落ちた先で動かなくなる何人かと、その人の山から流れ出す赤い液体に思わずひっ、と星奈が息を呑む
倒れた人の上を踏みつけ、柵から飛び降り、狂乱した人々が下へ下へと向かう
ーギャオォオァァァァァァ!!!
外の怪獣の方向に星奈が顔を上げる
目の前に迫ってきていた巨大な手に、視界が真っ暗に染められた
☆☆☆
「ーっ、あ…?」
重たい瞼を開ける
腰と足が痛み、思わず顔をしかめる
体を持ち上げ、痛む頭を振って前を見る
星奈は、愕然と目を見開く
目の前のフロアが、崩れ落ちていた
エスカレーター前のフロアが半壊し、上階からのエスカレーターも半ば崩れて千切れたステップがぷらぷらと力無く揺れ、剥き出しになったコードがバチバチと火花を散らしながら揺れている
下階へのエスカレーターは辛うじて無事だったが、吹き飛ばされた人が手すりにぶら下がり、至る所に赤い液体が飛び散っている
ーギャオォオォオォオァァァァァァ!!!!
剥き出しのフロアを咆哮が揺らす
崩れた先、あの怪獣がいた
窓を隔てずに立ち塞がるその巨体の頭がこちらを向く
鋭角に尖り、後方にツノが伸びたその頭部
側面に見られなかった目が、頭頂部に当たる部分でギョロリと動く
黒い目に赤い瞳孔を持つ、生き物から外れたその瞳がこちらを見ていた
体が震える、足に力が入らない、立ち上がれない
息が上手く吸えない、心臓がうるさい
(いや、いやだ…死にたくない…死にたくない‼︎)
ぱくぱくと力無く開閉する唇が震え、勝手に涙が溢れだす
力が入らない体を手すりを掴んで無理やり引き摺る
ふと、目が上にあった何かを見つける
見つけてしまう
「ーあ」
上階の割れたガラス柵から身を乗り出し気絶していた女の子とその母親
さっき、星奈が助けようとしたあの子だ
女の子のこめかみからは血が出ているが、力無く身を捩るのを見て生きていることに気づく
鼓動が早くなる、胸が痛い
(無理だ。無理だよ、こんな…)
星奈が力無く首を振る
上階に向かうエレベーターは半壊し、人が渡るようなものじゃなくなっている
半壊したフロアが下にある以上、上階がいつ崩れるかわからない
迫る怪獣
自分だけなら這ってどこか頑丈なところに逃げ込めば助かる
ーじゃあ、あの子と母親は?
朝、助けられなかったお婆さん
帰ってすごい疲れたり、腰を痛めるかもしれない。でも死ぬわけじゃない。余程の不幸でもない限り
でも、この子は、この子の母親は…今助けないと、次なんかない。明日なんかない
日常が、来なくなるんだ
体を震わせ、大粒の涙を流しながら、星奈は必死に自分の足を叩く
「動い、て‼︎お願い‼︎今動いてッ‼︎」
言うことを聞かない足をもつれさせながら立ち上がり、手すりを伝って半壊したエレベーターのステップを踏む
はぁ、はぁ、と荒れる呼吸を落ち着かせながら踏み出す一歩
バキッ‼︎
「ーッあッ⁉︎」
踏み抜いたステップによろめき、無理やり次の一歩を踏み出して安定したステップに尻餅をつく
崩れて奈落になった一歩前のステップを見て、心臓が痛いほど早鐘を打つ
だが、女の子と母親は目の前に見えていた
ーギャオォオァァァァァァ!!!!
絶望の咆哮が響きゆく
怪獣が、またこちらに腕を振り上げていた
今度は間違いなく助からない
助けなきゃよかった
余計なこと考えなきゃよかった
後悔がとめどなく溢れ出す
無力感が全身を包んで脱力する
それでも悲しいかな、体は生きたいと願うのだ
そんなこと意味はない、わかっているのに体が動く
体を守ろうと、腕が持ち上がり目を瞑る
振り上げられた巨腕が、ビルを崩した
☆☆☆
星奈の意識は暗闇の中にいた
(私、死んだんだ)
直前の記憶が蘇り、確信する
あんな出鱈目な存在が現れて、市ノ瀬 星奈の短い人生は幕を閉じたのだと
だが、その暗闇は無ではないことに気づく
無数の煌めきが浮かんでいたのだ
動かないと思った首を動かして周りを見渡す
見渡す限りの暗闇、その中に瞬く光
(星…空…?)
その中に一際輝くものが一つあった
星奈の頭上の方、この暗闇の天頂あたりに煌めく「十字」
たまに、なんとなく星を眺めていた星奈は、それを知っていた
「はくちょう座…?」
無意識に星奈はその十字に手を伸ばしていた
ー生きたい。まだ死にたくない
ーそれと同じくらい…死なせたくない‼︎
ーこんな、こんな終わり…絶対嫌だから‼︎
星奈の手が星座を捕らえた
その手に、青いクリスタルと金の羽飾りがはまった十字架のようなそれーキグナスクロスが握られた
☆☆☆
ーギャオォオァァァァァァ!!!
怪獣ー彗星怪獣カノープスが振り下ろした腕の一撃で、星奈たちのいたビルが崩壊して盛大な土煙を上げる
ーギャオォオァァァァァァ!!!
カノープスが勝ち誇ったような咆哮を上げ、腕を広げて天を仰ぐ
いつの間にか夜の帷が降りた街中で、辺りの炎が異形の巨獣を明るく照らし出す
崩壊したビルの中から青白い十字の閃光が煌めいた
異変に気付き、カノープスがビルを振り返る
ビルがあったそこに、白銀の巨人が背を向けて片腕を天に伸ばし立っていた
もう片方の腕を側のビルの屋上に下ろし、その中に守っていた親子を解放する
気絶していた親子が目を覚まし、屋上に影を落とす巨体を見上げる
白銀の体、白銀の瞳
胸の中央には青く輝くクリスタル、そこから左肩に向けて白い翼のような装飾が伸びている
巨人は親子を守るように振り返り、怪獣カノープスを目の当たりにする
巨人は困惑したような様子を見せ、自分の両手や体を見下ろす
ーギャオォオァァァァァァ!!!
カノープスは突如現れた巨人に対して敵意を露わにし、頭頂部の一つ目から黒い光線を放つ
巨人は慌てたままたまらず前に転がって避ける光線が空を裂き、遠方のビルを崩壊させる
巨人はその様子を見て、少し腰を引かせ、カノープスを油断なく睨む
ーギャオォオァァァァァァ!!!
カノープスは咆哮と共にその下顎を二つに割り、細長い舌を伸ばして振り回す
巨人はなんとか体を捻り、間一髪で舌の攻撃を回避
避けた一撃がビルを両断し爆発するのを見た巨人が更に身構える中、間髪入れずに舌が振り回される
巨人が回避し、その度に街が爆発、爆炎が夜を照らす
何発か回避した巨人の動きを先読みし、カノープスの舌が巨人の首に巻き付く
振り解こうともがくも虚しく、カノープスは目から再び光線を放ち、ついに巨人の胸に直撃する
ーリュオァァァァ…ッ⁉︎
巨人が吹き飛ばされ、ビルに叩きつけられて諸共に崩れ落ちる
光線が当たった左胸を押さえて苦しむ巨人がようやく顔を上げると、カノープスはこちらに向けて全力疾走してきていた
ーギャオォオォオォオァァァァァァ!!!
カノープスが跳躍、中型のビルに飛び乗り、そこから勢いをつけて巨人に飛びかかる
立ち上がりかけていた巨人が押し倒され、再び地面に叩きつけられる
ーギャオォオァァァァァァ!!!
カノープスが巨人の眼前で口を大きく開き咆哮する
3つに分かれた顎、その中の尖った無数の歯が見え、怪獣の唾液が巨人の顔に落ちる
腕を振り上げ、巨人に振り下ろす
たまらず巨人は腕を前に出してそれをなんとか防ぐ
ーギャオォオォオォオァァァァァァ!!!
右、左、右、左
カノープスの爪撃が何度も何度も振り下ろされる
何度も何度も叩きつけられ、防ぐ巨人の腕に火花が散る
獰猛な巨獣の猛攻に巨人は反撃すらできない
押されていく巨人の胸の中央で結晶が赤く点滅を始める
ー怖い、訳わかんない
目前に迫る異形の口、そこから垂れる唾液
鼻を刺す激臭と、振り下ろされる爪とさっき当たった光線の痛み
夢だと思いたい。でもその光景が、感覚が、夢だと思わせてくれない
異形の怪獣の肩越しに、さっきのビルの屋上が見える
助けた親子が、お互いの体を抱えて震えていた
ー………
今もまだバクバクとうるさい鼓動が、力強く早まる
ー……今、守れるのは、私だけなんだ‼︎
ーリュオァァッ!!!
巨人がガードを解き、爪の一撃を肩に受けて痛みにのけ反りながらもその拳をカノープスの顎に打ち込む
ーギャオォオァァァァァァ!?!?
不意の一撃にカノープスが怯み、体を持ち上げる
ーリュオッ‼︎
巨人が渾身の蹴りをカノープスに打ち込み、その体を吹き飛ばす
立ち上がる巨人、負けじと体を起こすカノープス
ーギャオォオァァァァァァッ!!!
激怒したように力強く咆哮したカノープスが舌を再び振り回して攻撃を仕掛けていく
巨人はそれを回避しながら腕を振り回す
手先に集まった白い光が羽のように飛翔し、カノープスの体に着弾しダメージを与える
それを見た巨人は再び両手の先にエネルギーを纏わせ光弾を放ち、舌を、カノープスの体を攻撃して着実にダメージを与えていく
ーギャオォオァァァァァァッ!!!
剛を煮やしたカノープスは舌を鋭く伸ばし、再びカノープスの首に巻きつけて巨人を引き寄せていく
が、巨人は今度はその舌を掴み引き寄せ、もう片方の腕に纏わせた光の刃で焼き切り落とす
ーギャオォオァァァァァァッ!?!?
舌を切られたダメージにカノープスが悲痛な咆哮を上げる
カノープスは一つ目を煌めかせ、黒い光線を乱射する
巨人は光弾で光線を撃ち落として迎撃する
が、何発かは光弾の威力を上回り巨人に着弾していく
よろめいた巨人めがけて収束し威力を増した光線が放たれ、その胸に着弾して再び大きな火花を上げる
ーリュオァァァァッ…⁉︎
巨人がよろめき、膝を突く
カノープスはトドメの一撃とばかりに一つ目に黒いエネルギーを今まで以上にチャージしていく
目の前には異形の怪獣
煌めきだす黒い星
体を打ち据える痛みと疲労に目が霞む
だが、かぶりを振ってきっと前を向く
銀色の目に、輝く十字の星座が映り込んだ
巨人はよろめく体を立たせ、左手に白い光を纏って縦、横と素早く十字を切る
残った光の軌跡の中に青い星が煌めき、その光が強くなる中、巨人はエネルギーを纏う右手を斜め上に、左手を斜め下に振り抜き、その間にエネルギーのスパークを走らせる
ーギャオォオァァァァァァッ!!!!
カノープスが必殺の漆黒光線を放つ
ーリュオァァァァッ!!!
その咆哮に負けじと巨人が吠え、その手を星座の光に合わせるようにして十字に組む
迸る銀色の光線が漆黒の光線を切り裂き、カノープスの頭頂を貫く
ーギャ、ォォォ…アァァァァ…⁉︎
貫かれた頭頂からエネルギーがスパークし、カノープスがよろめく
瞬間、カノープスの体が爆発し、その体の破片が飛び散って消えていく
光線の構えを保ったままだった巨人はその構えを解き、よろめく
燃え盛る街を銀色の目で見据え、怪獣が倒されたことを認識した巨人はその肩の力を抜き、銀色の光となってその姿を夜の街に霧散させた
☆☆☆
夜の廃ビルの中、パーカー姿の2人組が遠巻きに燃え上がる街並みを眺めていた
キリカと呼ばれていた少女がヒュウ、と口笛を吹く
「すごぉい、いきなり宇宙怪獣なんか現れたと思ったら、あんなのまで出ちゃうなんて〜」
隣で見ていた少年ーユウが目を細めながら口を開く
「……ウルトラマン」
「…なぁに?それ」
ユウはキリカの問いに目を伏せながら答える
「古巣で聞いた話だ。同族が一度倒された」
「えぇ〜そんな話聞いたことなーい」
「タブーになってるらしいからな。前に一度、追放者から聞いただけだ」
ふーん、とキリカが興味薄げに反応し、廃ビルの奥に姿を消す
ユウも踵を返してその後を追った
高架下のボロ布占い師が、その手にした鈴を鳴らす
『……星は、動いた』
それだけ呟いた占い師は鈴を下ろし、皿に菓子パンを一つ置いてうやうやしい祈祷を始めた
怪獣カノープスが倒され、引き起こされた火事を屋上の柵に掴まり見据える星奈
はぁ、はぁ、と荒い息をなんとか整えながら柵に背を預けて腰を下ろす
痛む胸や手を力無く抱え、顔をしかめる
「痛い…痛いよ…夢、じゃ…ない……」
目を背けたい現実
だが眼下の光景と体を苛む痛みがそれを許さない
揺らぐ意識の中、まだ仄かに残る熱に気付き、左手を開く
金色の十字架に青い結晶と片翼の飾りが付いたそれーキグナスクロスが輝いていた
それを見た星奈はキグナスクロスを握りしめ、涙を流し声を絞り出す
「ーなんで、私なの…⁉︎」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ウルトラマンキグナス
第1話
「なんで私なの」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【Gazer 単語検索結果】
【怪獣】
【主に特撮作品に登場する巨大生物の総称】
【フィクションの存在であり、現実には存在しない】
《項目記載修正:2032/10/3》
【詳細不明の巨大生物の総称】
【2032年10月3日18時32分21秒に東京都港区十星町に突如宇宙から飛来した巨大生物が出現。死者42名、重軽傷者100名以上の甚大な被害をもたらす】
【政府はこの怪獣を宇宙から飛来した生物と認定。仮称《彗星怪獣カノープス》と命名する】
【ウルトラマン】
【記載の無い情報。現代に存在しない単語であると推測】
《項目記載修正:2032/10/3》
【40mを超える銀色の巨人】
【詳細不明】
【人命を救助したという情報アリ】
「ウルトラマンって何?」
「もう、嫌だ…」
「なんか隠し事してない?」
「大丈夫、私は…大丈夫だから」
第2話
『誰も助けてくれないの?』
大翼怪獣アルトゥール 登場
「今助けられるのは、私だけなんだ…ッ‼︎」