ぼろぼろになった親子が担架に乗せられ、救急隊員に運ばれていく
助けに来てくれた救急隊員の人にかけられた毛布に包まれながら、身を縮めて、その様子をただただ
病院に運ばれていく人々、半狂乱になりながら隊員に詰め寄る人、街に回った火の手を消すために奔走する消防隊員たち
あり得ない存在が現れ、地獄と化していた街にいつもの日常は残っていなかった
「星奈‼︎星奈‼︎」
心ここにあらずといった目をしていた星奈を温かい腕が抱き留める
星奈の母ー
「無事で、無事でよかった…本当によかった…」
小さな背中を何度もさする
呆けていた星奈だったが、震える小さな手を陽子の背に回す
「お、おかあ、さん…‼︎お母さん‼︎」
決壊したように涙がとめどなく溢れだす
声を上げてわんわん子供のように泣きじゃくる星奈を陽子は優しく抱きしめて頭を撫でる
「どう、しよう…学校、明日も…あるし、私、私…」
「そんな怪我して何言ってんの。心配しなくていいわ、私から学校には話しておくから」
「ー怪我をしてる方はいませんか⁉︎」
救助隊員がこちらにもやってくるのを見て「こっちです‼︎」と陽子が手を挙げる
駆けつけてきた救助隊員と陽子の顔を見比べながら心細そうに星奈は母の手を握る
「すぐにお見舞いとか、荷物届けに行くわ。あなたの大好きな歌手のCDとプレイヤーも届けるから、またすぐにね」
もう一度星奈のことを強く抱きしめ、救助隊員に星奈を預けて「この子をよろしくお願いします」と頭を下げる
母に見送られながら救助隊員に連れられていく星奈
緊張の糸が切れたのか、足の力が抜けてよろめいたところを支えられながら救急車に乗せられる
担架に寝かされた星奈に今までの疲労がどっと押し寄せ、気を失うように眠りに誘った
☆☆☆
高架下の占い師
ボロ布を被ったままの姿で何やら念仏のようなものを唱えていたその前に紙パックに入った飲むヨーグルトが2本置かれる
『おお、久方ぶりのヨーグルト…‼︎』
感嘆の声を上げながらボロ布を纏った巨漢が立ち上がる
その布の下からカタツムリのような目が伸び出し、顔にかかる布をオレンジの手がどける
その下から現れたのは大きな口と、突き出した腹を持つ異形
明らかに人でない風貌をしたその「占い師」が口を開く
『むぅ、誰かと思えばお前か、ユウ』
怪人物の目前に立つのはパーカーフードを被る少年
キリカという少女と共にいたユウと呼ばれていた少年だ
『…お前さん、まさかとは思うがこれ』
「…廃棄されかけていたモノを拾っただけだ。盗んじゃいない」
『相変わらず綱渡りの日々じゃな、お前さんも。意地など張らずとも、ワシを頼ればよいと言うておるのに』
怪人物ーファントン星人アルゴが突き出た腹をポンと叩く
ユウは静かに首を振る
「静かに過ごさせてもらってるだけで満足だよ。それに、オレたちは嫌われ者だからな」
ユウのその言葉にアルゴはふうむ、と顎を撫でる
『……して、ワシにこれを寄越すということは、何か聞きたいことがあるのじゃろ?なんじゃ?』
ユウは切れ長の目を細めて頷く
「ーあのウルトラマンについて、知っていることを教えてほしい」
ユウの言葉にアルゴがほう、と息を吐く
『昨晩現れたあやつ、か』
しばし顎を撫でていたアルゴだが、ヒラヒラと手を振る
『残念じゃが、「あの」ウルトラマンのことはワシは知らんよ。ワシが知るウルトラマンは、母星の食糧危機を救った英雄の語る「親愛なる友」と、いつぞや聞いた虹を掴んだ巨人くらいじゃ』
アルゴの言葉にユウは目を伏せ、踵を返す
『そんな話を聞いて、お前さんはどうするんじゃ?』
アルゴの言葉にユウは背中を向けたまま答える
「どうもしない。ただー」
コバルトの瞳が揺らぐ
「ーオレたちの害になるなら…オレは躊躇わない」
距離を置いて高架線の外からそれを見ていたパーカーの少女ーキリカは愉快そうながらどこかつまらなそうにその姿を見ていた
☆☆☆
目の覚めた星奈は病院のベッドの上だった
痛む頭には包帯が巻かれ、脚や手にも幾らかガーゼや包帯が巻かれていた。すぐに荷物を持ってきてくれた陽子や医師の言うには、思ったよりも怪我が多く、数日は経過入院が必要らしい
流石に、「巨人になって戦ってました」なんてことは言えるわけもなく、ただ星奈は2人の言葉に頷いていた
母から預けられたあの時持っていた鞄を探り、CDショップの袋を見つけて開けたがすぐに落胆の表情に変わる
そこに入っていた
あの親子を助けようとしたり、こけたりした以上当然といえば当然である
星奈はギュッとシーツを掴み、俯く
「………なんで、こんなことになるの…⁉︎」
星奈は持ってきてもらっていたイヤホンをスマホに挿して耳にはめ、布団を頭から被って体を丸める
お母さんの言葉にすごく安心した
生きていたことに安堵した
でも、何気ない日常は壊れたまま戻らない
イヤホンから流れるMesiAの歌声に縋るように、頭を抱えたまま少女は目を瞑った
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《怪獣事件、見た?》
《見てない方がおかしいし、見ないようにする方が難しい》
《この前からずっと環境とか福祉のCMかそのニュースしか流れてねぇもんな》
《怪獣ってw特撮映画じゃあるまいしwって草も生えないんだよなぁ》
《いきなりあんなデッカいの現れたら俺なら漏らすわ》
《特撮映画とかちゃちいと思ってたけど、謝りますから現実にまで出てこないでくれませんか怪獣さん》
《どうすんの政府?てかこれ以上増えないよね?こんなデカいんだし?》
《なんか巨人が倒してくれたらしい》
《いつからオレたちの世界は特撮映画になったんや》
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
混乱からある程度落ち着いてきた星奈はベッドに背中を預けてスマホからSMSを眺めていた
皆、混乱していた
まだ冗談だと思いたい人、実際に家族が被害に遭って半狂乱な人
《怪獣っていっぺん見てみたい。俺んとこに来ないかな》
なんて不謹慎極まりないことを呟いて炎上してる人
そんな人を不謹慎だと攻撃している人たち
「………ッ」
怪獣が現れたことを、少しでも紛らわせたらと見ていた星奈だが見るに耐えなくなり、SMSを閉じる
病室のテレビを点け、適当にチャンネルを変えてみる
どのチャンネルもニュースや福祉系のCMばかりで、見慣れたバラエティや音楽系番組はやっていない
偉い政治家が討論している番組では、巨人ー星奈が変身していたあの巨人が何者かという議題の討論も行われていた
『あの巨大生物を倒してくれた‼︎ならば我々の味方と考えるのが自明でしょう⁉︎』
『バカを言うな‼︎あの巨人は巨大生物の出現後にのこのこ現れたんだぞ‼︎守るつもりなら、我々の街に降り立つ前に対処して当然だろう‼︎』
『かの巨人は救世主なのだ‼︎だから、悪人は淘汰され善人は生きる‼︎最後の審判が始まったのだ‼︎』
勝手な言葉を並べたてる政治家や専門家を見て、星奈は唇を噛み締める
(何も、何もわかってない、そんなつもりなんか…‼︎)
テレビの電源を落とし、思わずチャンネルを振り上げる
が、それを投げることはなく力無くベッドに降ろす
理由なんかない
訳だってわからない
ただ、できるから、あの時戦えていたのは、自分しかできなかったから
自分しか、守れなかったから
ギュッとシーツを握りしめる
(何で、何で…私なの…⁉︎)
「……星奈、大丈夫?」
聞き慣れた声に星奈が顔を上げる
そこにいたのはレジ袋を持った
「恵美…優里……‼︎」
いつも通りな親友2人の姿を見た星奈は思わず涙が滲む
星奈の涙を見た2人はおろおろと慌てだす
「ど、どうしたの星奈ち⁉︎まだどこか痛むとか⁉︎」
「ごめん‼︎いきなり押しかけて…まだ入院してるって聞いて心配になったし、お腹空いたりしてないかなって…」
恵美がレジ袋を持ち上げる
パンパンに詰まったお菓子や菓子パンを見て思わず星奈が吹き出す
「そんなには食べれないよ」
愉快そうに笑う星奈を見た2人はホッと息を吐き、ニッと楽しそうに笑った
☆☆☆
カノープスの出現した街の近く
復興作業が行われている中、地面を掘り返していた作業員が妙なものが地中から顔を出していることに気づく
「なんだこれ…?」
まとわりつく土を払ってそれをまじまじと見る
それは何やら大きな卵のように見えた
「ん…?それまさか、化石か?」
別の作業員が異変に気付き、その卵状のものに近づく
「こんなデッカい卵の化石、あるんですか…?」
その卵化石らしい岩ははみ出した部分だけでも大の大人の身長に迫るサイズがあった。埋まった部分も含めるならかなり大きい
「恐竜なんてみんなデカいんだし、こんな卵もあるだろ」
後から来た作業員がぱんぱんと卵を叩く
「いや…こんな大きなの…恐竜というかもう怪獣サイズじゃ…」
「アホなこと言うな。あんなのが他にいる訳ないだろ」
話し込む2人の作業員を見つめながら
ーどくん
地中から顔を覗かせた卵から鼓動が響いた
☆☆☆
星奈はしばらく恵美と優里を交えてお菓子を食べながら雑談をしていた
今日の学校のこと
ニュースばっかりでテレビがつまらないこと
そして、いくつか学校の席に花瓶が置かれていたこと
恵美たちは何も悪気がないのはわかってる
突然の非日常で恵美たちも辛く思っているらしいのも、その話題を話す前の沈痛な顔から分かる
でも、自分の見たことあるかもしれない誰かにもう会えないかもしれないことは辛かった
何よりも、救えたかもしれない誰かだから、尚更に
「ーねぇ、星奈」
恵美が星奈の顔を見ながらどこか心配そうに口を開く
「何?恵美」
「星奈、なんか隠し事とかしてない?」
恵美のその言葉に星奈は息を呑む
「か、隠し事…?なんで?」
「いや、なんかさ…ちょっとだけ変だなぁって思っちゃって」
流石に小学校から一緒だった恵美は鋭かった
もちろん2人に星奈があの巨人に変身することは話していない
話しても信じてくれないだろう。こんな荒唐無稽な話
それに、星奈はこれ以上2人との日常を壊したくなかったのだ
シーツをギュッと握りしめながら星奈は首を振り、笑顔で答える
「隠し事なんかしてないよ。大丈夫。私は、大丈夫だから」
そう答えた星奈を見て、2人向き合っていた恵美と優里だが、はぁと息を吐いて星奈の小さな体を抱きしめる
「なんかあるなら絶対言いなよ」
「私たち、あんたの親友だからさ」
優しい言葉を投げかけてくる2人の暖かな体温に安堵を覚えながら、嘘を吐いてしまった後ろめたさに痛む胸を星奈は押さえていた
お見舞いが終わり、病室から帰っていく2人
「あ、そういえば星奈、はいこれ」
去り際に恵美が鞄から何かを取り出して渡してきた
「これ…⁉︎」
それは星奈が聴きたかったMesiAの新譜だった
「あんだけのことあったからさ、買えてないんじゃないかなぁって」
頬を掻きながら恵美がはにかむように笑う
「それ聴いて元気出して、早く学校帰ってきてよ。星奈がいないと、結構寂しいし」
「……それ、私の前で言う?カッコつけてるとこ悪いけど、そのCD私と折半で買ったじゃん」
不機嫌そうに言う優里をなだめながら出ていく恵美の背中を星奈は笑顔で見送る
「ありがとう、恵美、優里」
☆☆☆
翌日
だいぶ怪我の具合が良くなった星奈は病院前の公園に散歩に来ていた
今日明日はまだ様子見ということで入院はもう少し続くが、今ではだいぶ気持ちも落ち着いて来ていた
ベンチに腰掛けて遠くで病院着の少年と遊んでいる父親を見つめる
少年の体に気を使いながらも、肩車をしてあげたりと少年に合わせて笑顔で共に遊んでいる
微笑ましい光景に星奈も思わず頬が緩む
と、星奈が腰掛けるベンチの隣にフードを被った少年が腰を下ろした
思わぬ隣人の登場に星奈は少し驚き、少し距離を空ける
そんな星奈のことを、少年のコバルトの目が見ていたような気がして思わず星奈は目を伏せる
(な、何…?私の気にしすぎ…?)
星奈の隣に腰掛けた少年は何を気にする訳でもなく、星奈と同じように向こうの親子を眺めていた
親子の時間を見ている少年の口元は少し微笑んでいるようにも見えた
そんな最中、強烈な風がどこからか吹いて来て思わず星奈が顔を伏せた
☆☆☆
復興現場の地面から顔を覗かせていた卵
岩のようだったその表面が揺らぎだし、地面からその全貌が姿を現す
ーどくん、どくん
光を放ちながら脈動するその表面がひび割れ、中から赤い眼光が覗く
バキバキバキバキ‼︎
卵の殻が割り砕かれ、異変に気付いた作業員たちが周りに集まる
バサァッ!!!
卵の中から持ち上がるのは黒い大翼
そして、更に現れた太い何かが作業員や周りのものを薙ぎ払う
悲鳴と共に粉砕された重機や機材から火の手が上がる
ーギュイィィィィィィィィィィァァァァ!!!!
卵から産まれたそれは、産声というには悍ましい咆哮を上げ、黒い羽根を撒き散らしながら、烈風と共に飛翔した
☆☆☆
突然の烈風に押さえていた髪を整えて星奈が隣を見ると、少年の姿はベンチから消えていた
ーギュイィィィィィィァァァァ!!!!
つんざく咆哮が遠くから星奈の耳に入り、反射的に顔を上げる
遠く、この前の怪獣が現れたあの街あたりから黒い影が空に舞い上がる
大きな黒い翼を持つ鳥
長大な尾羽を振り、こちらに向けられた頭部で赤い目が輝く
星奈は一瞬気づくのが遅れた違和感に気づく
(あの鳥、大きすぎない…?)
この病院からあの街までは目測でも30kmは離れている
それなのにその鳥は、その赤い目が見えるほどだった
明らかに、普通の鳥よりもかなり大きいのだ
飛翔した黒き鳥は、その頭を巡らせる
遠く、病院近くにある公園
開けたそこに小さなモノが動き回るのが見えて鳥は目を細める
エサを見つけた恍惚の笑みを、鳥ー大翼怪獣アルトゥールが浮かべた
ーギュイィィィィァァァァ!!!
悍ましい咆哮に星奈が怯む
目前で戯れていた少年が空の彼方を指差す
「わぁ、おっきい鳥さん‼︎」
はしゃぎながら彼方を指差す少年の指先を追い、父親がその鳥に気づく
鳥がこちらに向けて飛んできたのは、その直後だった
巨鳥は公園に向かって飛翔してくる
アルトゥールの黒影が通り過ぎた眼下の街では、そのソニックブームでビルの窓ガラスが割り砕け、人々が悲鳴を上げる
ーギュイィィァァァァ!!!
公園にたどり着いたアルトゥールは咆哮と共に翼をはためかせる
巨体に太陽が遮られ、辺りが夜のような暗闇に覆われる
吹き荒ぶ強風の前に星奈は必死にベンチにしがみつくが、辺りの人々は大きく吹き飛ばされていく
飛ばされた先で尻餅をついていた老人に、飛来してきた大きな看板が迫るのを星奈は見てしまった
「うわぁぁぁぁぁぁー」
壮絶な悲鳴にギュッと目を瞑り、顔を背ける
ゴシャッと大きな音と共に、熟れた果実の潰れるような水っぽい音が響き、体が震える
辺りは狂乱の悲鳴に溢れ、人々が散り散りに逃げていく
だが、病院の側であるこの公園
倒れた人々の中には、怪我をした人も多く立ち上がれない人々も多かった。倒れたまま動かない人、助けを求めて必死に手を伸ばす人、倒れたままただ泣きじゃくる人
また、星奈の目の前でバラバラと日常が崩れていく
そんな時、上着のポケットが熱くなり、思わず中のものを取り出して目を見開く
あの時のロザリオーキグナスクロスが輝きを放ちながらその手に収まっていた
(ー夢じゃなかった)
そんなことわかっていた。でも信じたくなかった「現実」が星奈を真正面から殴りつける
星奈が息を呑みながら、空に舞う怪獣ーアルトゥールを見上げる
前に戦った怪獣ーカノープスが目の前で口を開き、悍ましい咆哮を上げていたあの光景を思い出す
カノープスの剛腕が、舌が切り裂く肌の痛みを思い出し、思わず肩を抱く
かちかちと勝手に歯が震え、気がつくとキグナスクロスをポケットにもう一度しまっていた
(嫌だ…もう、もうあんなの耐えられない…‼︎)
ベンチの影に隠れて星奈は頭を抱えて体を震わせる
「どこか、どこかに行って…‼︎誰か、助けー」
「ー誰か‼︎誰かお父さんを助けて‼︎」
子供の声にハッと星奈は目を見開く
振り返った先、木のそばで倒れた父親に泣きながら縋りつく少年がいた
父親は少年を庇ったのか、木に寄りかかり頭から血を流して気を失っていた
「誰か‼︎誰かぁ‼︎」
悲痛な少年の声が悲鳴にかき消される
逃げていく人々は少年たちに目もくれない
(何で、何で誰もあの子たちを助けてくれないの…⁉︎)
星奈は少年の言葉を耳を塞いで聴かないようにする
星奈自身、体が動かない
星奈こそ、あの子を助けられるはずなのに
ーギュイィィァァァァ!!!
アルトゥールが耳障りな咆哮と共に少年と父親を見つける
震える少年を大きな手が抱き留める
「大丈夫、だ…あきら…‼︎」
「お父さん…⁉︎」
目を覚ました父親が朦朧とした様子で少年に声をかける
その姿を見た星奈の脳裏に、何かがよぎった
真白に輝く空、その前に立ち塞がる巨人
双翼の装飾を抱く胸のクリスタルは赤く点滅し、苦しげながら手を広げ、何かを守るようにそこに立っていた
『まけないで‼︎■■■■!!』
小さな星奈は、その巨人を泣きじゃくりながら応援していた
ーリュオ…ァアァッ!!!
巨人は力を振り絞り、立ち上がる
少女星奈は、また声を張り上げる
『頑張って!!!』
『ーウルトラマン、キグナス!!!!』
ハッと、星奈が我に帰る
その頬には涙が伝っていた
「今の、は…?」
胸を締め付ける悲しみに違和感を覚えながら、星奈は少年たちの方を見た
「私は、馬鹿だ…誰も助けないんじゃない…」
震える脚を叩き、無理やりにベンチを支えに立ち上がる
「今助けられるのは、私だけなんだ…‼︎」
星奈はポケットからキグナスクロスを取り出し、震える両手で握りしめる
「お願い、力を、貸して…ッ‼︎ウルトラマン、キグナス‼︎」
それに呼応したかのように、キグナスクロスの片翼の装飾が開き、クリスタルが青く輝く
祈りを込めるように、星奈はそれを胸の中央に押し当てる
星奈の体が輝く純白の翼に包まれ、白銀の神秘の巨人に変貌していく
青く輝く胸の中央のクリスタルーカラータイマーに片翼の装飾を纏い、巨人は左手を突き上げ飛翔する
ーリュオァァァァッ!!!
少年に迫る巨鳥の顔面に白銀の拳が撃ち込まれ、その巨体が吹き飛ばされる
ーギュイィィァァァァッ!?
少年は目の前に現れた巨人を見上げる
白銀の巨人ーウルトラマンキグナスは少年たちを見下ろし、無事を確かめるとしっかりと頷いた
ーギュイィィィィィィァァァァッ!!!
怒りの咆哮が聞こえると共に鋭い痛みがキグナスの左肩に走り、火花を上げながらよろめく
ーリュオァァァァッ!?
よろめきながら肩を押さえ、振り向く
その先の上空にはアルトゥールが赤の瞳に怒りを滲ませて羽ばたいていた
その脚から鋭く長大な爪を展開し、キグナスに迫り来る
光弾を何発か放ち、撃ち落とそうとするがアルトゥールは高速軌道でそれを避け、腹に、肩に、胸に、連続でその爪の一撃をすれ違い様に当てていく
ー早い、早すぎて、見えない…ッ⁉︎
翻弄されるキグナスは視界からアルトゥールが消えたことに気づき、辺りを見回す
ーギュイィィァァァァッ!!!
隙だらけの背後から飛来したアルトゥールの爪が、キグナスの背中を引き裂き大きな火花を上げた
ーリュオァッ!?
よろめき、前のめりに倒れかけるキグナスを巨大な鉤爪が掴む
肩に鋭い爪が深く突き刺さり、血のように光の奔流が噴き出す
ーぁ、あ゛ぁあぁッ!?!?
爪で引き裂かれるとは別種の激痛に、星奈が凄絶な悲鳴を上げる
もがくキグナスに構うことなく、アルトゥールは飛翔、その銀の巨体をやすやすと持ち上げる
ーギュイィィァァァァッ!!!
空から叩き落としてトドメを刺すつもりか、それともエサとして巣に持ち帰る気なのか
痛みに歪む視界に広がっていく街の俯瞰に、星奈は恐怖を覚え、目を瞑りかける
「頑張って‼︎頑張れぇ‼︎」
その耳朶に声が届いた
あの少年の声
遥か上空故、超人の視力でも中々見つからない
でも、その声は確かに耳に届いた
星奈は涙を滲ませながらもギリ、と唇を噛み締めて踏ん張る
「ー負け、る、かぁ……ッ!!!」
ーリュオァァ…ッ‼︎
星奈の気合いに呼応するように、キグナスの右手に光のエネルギーが集まる
集まった光のエネルギーは刃となって回転し、その手を上に突き上げてアルトゥールに向けて放つ
刃は、アルトゥールの右翼を大きく引き裂き、アルトゥールが体勢を崩した
ーギュイィィァァァァッ!?!?
落下を開始する巨鳥
そこにキグナスは体勢を変えて蹴りを撃ち込み、地上に叩き落とす
アルトゥールが墜落したのに遅れて、身を翻しながらキグナスも着地する
肩のダメージの痛みに膝を突くが、その肩を光でなぞり傷を癒す
立ち上がったキグナスは構えを直し、倒れ伏すアルトゥールに飛びつき、その体に何度も拳を撃ち込む
ーギュイィィァァァァ!!!
アルトゥールは怒りの咆哮と共に長大な尾羽ー否、尻尾を振り上げてキグナスの背中を打つ
怯んだキグナスに向けて両翼を地面に叩きつけて弾みをつけた鋭い爪の蹴りを放ち、その巨体を吹き飛ばす
ーリュオァァァァッ!?
吹き飛ばされたキグナスが立ち上がって見たの光景に驚愕する
ーギュイィィィィィィ…‼︎
威嚇の鳴き声を放つ巨鳥は、その尾を脚のようにして立ち上がり、鋭い脚の鉤爪をジャキジャキと鳴らしていた
ー尻尾で立ち上がる、なんて…⁉︎
ーギュイィィァァァァッ!!!
「立ち上がった」アルトゥールは尻尾を器用に蠢かせてキグナスに肉薄し、その爪を振り回す
一撃を受け止めたが、その隙に脇腹に鉤爪が突き刺さり、よろめいたキグナスにアルトゥールは覆い被さるようにその膂力を押し付け、その体を押しつぶすように爪を食い込ませていく
キグナスの胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた
ーぐ、ぁあ…ッ!!!
痛みに星奈も悲痛な声を上げる
だが、唇を噛み締め、キグナスの手を動かして脇腹を捉える左鉤爪を掴む
ーリュオァァァァッ!!!
キグナスの腕に白銀と赤のエネルギーが渦巻き、パワーを噴出してその爪を指ごと引き抜く
ーギュイィィァァァァッ!?
悲痛な悲鳴を上げ、よろめくアルトゥール
アッパーのように左拳を突き上げ、右腕に突き刺さる鉤爪を根元から砕き折る
ーギュイィィァァァァッ!?!?
今まで以上に悲痛な声を上げてアルトゥールが後退する
よろめきながらも立ち上がったキグナスは、光を纏う腕で十字を切り、構えを取る
アルトゥールは命乞いするように残った鉤爪をヒラヒラ振るが、もう遅い
ーリュオァァァァッ!!!
青と白銀の光を放つ十字の光線が、十字に組ませた腕から放たれる
放たれた必殺の光線ーノーザンクロスシュートがアルトゥールの体を撃ち抜き、青銀のエネルギーをスパークさせながらその巨体が倒れ伏して爆発する
キグナスはよろめきながらも立ち上がり、空を見上げる
ーリュオァッ!!!
夕焼けに染まり始めた空に、白銀の軌跡を描いて巨人は飛び去っていった
☆☆☆
担架に乗せられて運ばれていきながら、意識ははっきりしているらしい父親と少年を見送り、星奈はほうと安堵の息を吐いた
「……よかった…」
騒ぎになっている公園のベンチに力尽きたように腰を下ろし、星奈は肩をさする
確かに爪が突き刺さっていたのに、傷にはなっていない
まだ痛むが、それだけだ
ポケットから閉じたキグナスクロスを取り出し、じっと見つめる
「……ウルトラマン、キグナス…」
「……あなたは、何者なの?」
☆☆☆
薄暗い路地を1人優里が帰っていく
家路にここを通らないといけないのは慣れたが、どうも薄ら寒い感じは消えず、優里はこの道が苦手だった
(早く抜けよう…気味悪いなやっぱり…)
ーぴちゃん
その時、水滴が垂れるような音が響き脚を止める
ふと、近くの路地に視線をやる
薄暗い路地の奥、フードを被ったような人影がうずくまっている
ーぴちゃ、ぴちゃ
人影から水音は聞こえていた
「……何してるんですか?」
嫌な予感がしながらも、優里は思わず声をかけてしまった
ぴくり、と人影が揺れ、立ち上がりながらこちらを振り向く
フードの奥の人間離れした赤い瞳に思わず優里が後ずさる
「あーあ、見られちゃった」
フードの人物は可愛らしい声でそう笑うと、口元を拭う
フードの少女の指先から、赤い雫がポタポタと滴り落ちていた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【アルトゥラプテリクス】
【白亜紀後期の地層から発見された原始鳥類】
【アーケオプテリクス(始祖鳥)のような爬虫類から鳥類への進化途上の生物とされ、現在も研究が進んでいる】
【原始鳥類としてはかなり巨大な10〜15mという巨体を持ち、強靭な筋肉でできた尾を持つとされる】
【巨体故の機動性の無さ故に淘汰され、絶滅した説が有力】
「星奈、助けて…‼︎」
「やぁやぁ、ウルトラマンの彼女〜♪」
「あなたは、何がしたいの…⁉︎」
「お近づきになりたいだーけ、だよ?」
次回ウルトラマンキグナス
『あなたは私と同じだよ』
吸血生物ギラッガス・K 登場
「ーバレちゃった?あはっ」