ウルトラマンキグナス   作:リョウギ

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第3話「あなたは私と同じだよ」

玄関でいつもの靴に足を入れる星奈(せいな)を母が不安げに見つめる

 

「本当にもう大丈夫なの?星奈」

 

母のその言葉に星奈は頷く

 

「大丈夫。肩とかもう少し痛むけど…怪我は治ったから」

「まだ痛むならもう少し休んでもいいのよ?」

 

星奈は肩をさすりながらも笑顔で首を振る

 

「ううん、学校のみんなにも会いたいし、これ以上休んだら勉強も遅れちゃうから」

 

星奈は置いていた鞄を取って肩にかけ、母に手を振る

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

そんな娘の姿を見てふぅ、と息を吐き、母ー陽子(ようこ)も笑顔で手を振る

 

「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」

 

星奈は母の見送りに微笑みながら頷いた

 

☆☆☆

 

ガシャァン‼︎

 

金網が揺らぎ、何者かが叩きつけられる

 

『ぐ、がぶぅ…ッ⁉︎』

 

叩きつけられた何ものかは人とは異なる異質な頭と腕を衣服から覗かせていた

 

銀色の殻のような頭部と手のひら

その手からは銃口のようなものも覗いている

 

その男の前にゆらり、と別の人影が現れる

それもまた異形だった

 

青白い体色にのっぺりとした人型

腕は三日月をすぼめたようなカッター装甲に覆われ、体の各所には深い傷口。特に胸の中央は大きく抉れるようなひび割れたような傷が走っていた

 

『サーペント星人…地球侵略の尖兵で来たわけだな』

 

青白い怪人は銀の怪人ーサーペント星人を見下ろしながら冷ややかに告げる

 

『だ、だからなんだってんだ…ギリ族には関係ない話だろうが⁉︎』

 

サーペント星人は悪態を吐きながら金網を支えにふらつきながら立ち上がる

 

乾いた笑いを交えてサーペント星人は青白い怪人を指差す

 

 

『いや、そうか…ギリ族じゃねぇよなぁ…‼︎同族から迫害されて、群れからも、星からも追放された…「ギラッガス」野郎が…‼︎』

 

 

青白い怪人ーギラッガス・Uは銀の瞳を冷ややかに光らせるとサーペント星人の胸を腕のカッターで貫いた

 

水のような透明な体液が飛び散りながらサーペント星人が崩れ落ち、衣服だけ残して溶け消える

 

ギラッガス・Uはその体を波打たせ、少年ーユウの姿になる

 

少年はどこか悲しげにサーペント星人の亡骸を見下ろし、頬に散った返り血を拭ってフードを被りなおした

 

 

「害虫退治お疲れ様〜ユウ」

 

 

その背後からヒラリ、とフードの少女ーキリカが降り立ち、手をひらひらと振る

 

「……昨日からどこに遊びに行っていた?キリカ」

「心配しなくとも、お義兄ちゃんから離れたりしないよ?」

 

きしし、と笑うキリカをユウが睨む

冗談効かないと見たキリカは手をひらひらさせ弁解する

 

「ちょーっと気になったことがあったからふらふらしてただけだよ。大丈夫、ちゃーんと約束しといたし」

「約束…?」

 

訝しむ顔を見せるユウを他所に、キリカはヒラリと跳躍

2人の遥か頭上にあった看板に足を引っ掛けてコウモリのように逆さまにぶら下がり笑う

 

 

「ーそういえば、約束守ってくれてるかなぁ。私のお気に入りもいるところみたいだし…行ってみようかなぁ?」

 

 

ペロリ、と唇を舐めて悪戯っぽく歯を見せてキリカは笑った

 

☆☆☆

 

星ノ宮(ほしのみや)中央学園

 

しばらく休んでいて浦島太郎のような気分だった星奈だが、恵美(えみ)が見せてくれたノートのおかげでそこまで遅れを気にすることなく授業を受け、無事4時間目まで終えて昼休憩がやってきた

 

教科書類を片付けて弁当箱を取り出し、恵美と優里(ゆうり)が来るのを待っていた星奈のところに優里が歩み寄る

 

「あ、優里ー」

 

星奈が声をかけようとして首を傾げる

 

優里の表情がすぐれない、というよりも青ざめて見えたのだ

 

「……優里?」

 

星奈が心配そうに声をかけると、優里は震える唇を開いた

 

 

「……たすけて、星奈…‼︎」

 

 

優里の必死さにただ事じゃないと分かった星奈は恵美にお昼を一緒に食べれないことを謝って優里と共に屋上に向かう階段の踊り場ー人気が無い場所に移動する

 

恵美も交えて話をしようとしたのだが、優里は星奈にだけ話したい。他の人には聞かれたくないとのことだったから場所はそこがいいだろうと2人お弁当を持って階段に座る

 

 

「……実は、私星奈があの巨人だって、知ってんだ…」

 

ゆっくりと話始めた優里の言葉に思わずご飯を喉につまらせ、星奈が咽せる

 

「え、な、いつ…⁉︎」

「最初に怪獣が出てきた時。私あの近くに偶然いてさ…巨人が消えた後に、ビルの屋上に星奈が出てきたの見ちゃって……」

 

星奈が目を白黒させていると、優里はぶんぶんと手を振る

 

「あ、だ、大丈夫‼︎家族にも、恵美にも、もちろん他の人にも話してないから…‼︎」

 

優里のその言葉に星奈がほう、と息を吐く

 

「……どういうことなのかわからないけど、星奈にお見舞いした時、星奈はそのこと話さなかったから…ほんとはあの時色々聞こうと思ってたんだけど、話したくないみたいだったからさ…」

 

優里はそう告げ、また表情に翳りが見える

 

「ーそんな星奈だからさ、助けてくれるかもって…」

 

優里が震える手で紙パックのジュースを持ち上げて啜る

 

星奈は胸ポケットに、その中の何かあった時のために持っていたキグナスクロスにポケット越しに触れる

 

アルトゥールとの戦いも、怖くて、何より痛く苦しかった

二度と戦いたくないのは変わらない

 

ーでも

 

優里の青ざめた顔をもう一度星奈が見て、ポケットの中のキグナスクロスを握りしめる

 

 

昔、星奈の飼っていたラブラドールレトリーバーのレンが亡くなって、学校に行けなくなるほど辛かった時

優里と恵美はいつも、家までお見舞いに来てくれた

恵美はお菓子をたくさん、優里はお気に入りのジュースを持って、毎日毎日会いに来てくれた

 

 

『またいっしょに、学校にいこ‼︎』

 

 

変わらず側にいようとしてくれた2人のおかげで、星奈は立ち直れたのだ

 

この前の、怪獣と戦った後にだって

昔と違って部活とかだってあるのに、2人はすぐに来てくれた

 

 

(私が辛い時も、ずっと側にいてくれた…今度は、私が優里の力になるんだ……‼︎)

 

星奈は優里の頬を撫でる

 

「大丈夫…どこまでやれるか、わからないけど…力になるよ、私」

 

星奈のその言葉に優里は涙を流しながら星奈に抱きつく

 

「ありがとう、星奈…‼︎怖かった…‼︎」

 

 

「……怪人…?」

 

優里が話してくれた内容は、怪獣たちを見た後でも荒唐無稽で思わず星奈も首を傾げてしまった

 

優里は青ざめた顔のままこくり、と頷く

 

「この前、お見舞いに行った帰りのことだったんだけど…」

 

★★★

 

水音に気づき、ふと路地を覗き込む

 

路地の先でうずくまる人物に恐る恐る声をかける

 

「……何してるんですか?」

 

ぴくり、と人物が体を揺らして立ち上がり振り向く

フードの奥の赤い瞳が妖しく光り、思わず優里が後ずさる

 

 

「ーあーあ、見られちゃった」

 

 

可愛らしい声でそう言った人物は口元を拭って払う

 

パタタッ、と散った飛沫の赤と、人物の足元の赤い水たまりに倒れた人間に気づき、優里が息を呑む

 

取り落とした紙パックのジュースがパシャン、と音を立てる

 

フードの人物はフードを取る

そこから現れたのは髪を短いポニーテールにまとめた黒髪の少女

 

少女は怯える優里に歩み寄ると赤い瞳で優里を見上げながらニッと笑う

 

「ここで見たこと、誰かに言っちゃダメだよぉ?」

 

「ーえ?」

 

少女は呆ける優里の前で手を広げる

その背中に透き通る菱形の翼のようなものが現れ、ふわりと少女の体が浮かび上がる

 

 

「誰かにバラしたら…どうなるかはわかるよね?」

 

 

少女は獰猛そうな目を細めながらそう告げると、夜の空に飛び去って行った

 

優里は震える足でやっと立ち上がると、這うようにその場から逃げ出した

 

★★★

 

「……誰にも言うなって…言われたけど…いつまたあの怪人に出くわすか、不安で…不安で…ッ‼︎」

 

優里が半泣きになりながら震える肩を抱く

 

そんな優里の背を星奈がさする

 

「怖かったね、優里…」

 

優里は少し落ち着いてきたようで涙を拭う

 

「……星奈に聞いてもらえて、少し落ち着いた…ありがとう…」

 

優里は弁当箱を片付けて立ち上がる

 

「ごめん、星奈。次移動教室だったから先に帰る」

「うん、わかった。しばらくは一緒に家まで帰ろうね、優里」

「ありがとう、星奈」

 

優里は気丈にも笑ってその場を去る

そんな優里に手を振って、星奈も弁当箱を片付けようとする

 

 

「ーあーあ、バラしちゃった。あの子」

 

 

突然背後ー屋上に出る扉から聞こえた声に星奈が振り向く

 

いつのまにか開いた屋上の扉に1人の少女が立っていた

 

この学園の制服の下にパーカーを着た黒髪の少女

赤い瞳とフード、短いポニーテール。優里の話していた「怪人」と同じ特徴だった

 

星奈は胸ポケットに手を当てながら立ち上がり、少女を睨む

 

「怖い顔しなーいでよ〜別に取って食うとかしないからぁ」

 

少女はからからと笑いながら階段を降りて星奈に近づいてくる

 

星奈は後ずさるが、踊り場の壁にぶつかる

 

「優里のこと、どうする気…ッ⁉︎」

「いや?どうもしないよ。もし他の地球人にバラすようなヤツ…特に金とか欲しさに情報を売るヤツなら消してたけど…」

 

少女は星奈に顔を近づけ、形のいい鼻を動かして満足げに頷く

 

「あなたなら別に問題ないわ。あなた以外に話す気もないみたいだし」

 

ペロリと唇を舐めながら少女が犬歯を見せながら笑う

 

 

「ーあなた、ウルトラマンだし」

 

 

少女の言葉に星奈が目を見開く

 

「な、なんでそれを…⁉︎」

「わかるんだよねぇ。同じだからさ」

 

少女はとん、とんとステップを踏むように後退り、手を広げて見せる

 

「紹介が遅れたわね。私はキリカ」

 

少女ーキリカの体が光に包まれ、菱形を組み合わせた黒い蝙蝠のような姿に変貌する

 

 

『ー本来の姿は、ギラッガス・K。あなたたちの言う「宇宙人」ってヤツよ』

 

 

キリカの変貌に驚く星奈を見てギラッガス・Kの翼先端にある赤い目がにやり、と歪む

 

『何驚いてるのさ。私と同じ宇宙人のくせに』

「私が…宇宙人…?違う⁉︎私は地球人よ‼︎」

 

星奈は怯えながらもギラッガス・Kの言葉を否定する

 

 

『地球人…?銀色の巨人に変身できちゃう地球人なんて、いるの?』

 

 

ギラッガス・Kの言葉に星奈はギュッと心臓を掴まれたような感覚を覚え、よろめいて手すりを掴む

 

「わ、私は…地球人…だって、お母さんの子供で……‼︎」

『そのお母さんって、ほんとのお母さんなのぉ?洗脳して、住み着いてただけじゃないのぉ?』

「違う……違う、違う‼︎」

 

星奈が頭を抱えて首を振る

 

『認めちゃおうよ。あなた、なんかいいにおいしてたし、密かに気に入ってたんだよねぇ』

 

ギラッガス・Kはキリカの姿に戻ると、星奈の元に近寄り、その手を掴んで押さえたまま壁に押さえつける

 

耳元に顔を近づけ、キリカは囁く

 

 

「ーねぇ、友達になろうよ。宇宙人同士、さ?」

 

 

星奈はキリカの手を払い、踊り場から逃げ出す

 

「あ、待ってよー」

 

追おうとしたキリカだが、チャイムが鳴り出したのに気づき足を止める

 

「ーちぇ、時間切れかぁ」

 

キリカはつまらなそうにそう呟くと、スンと鼻を動かして眉をひそめながら鼻をつまむ

 

 

「……ゲロくさい」

 

 

☆☆☆

 

今日予定されていた授業が終わり、星奈は帰り支度をしていた

 

その頭の中であの少女ーキリカの声がこだまする

 

 

『私と同じ、宇宙人のくせに』

『友達になろうよ。宇宙人同士、さ?』

 

 

星奈は俯き、胸ポケット越しにキグナスクロスを掴む

 

(私は宇宙人なんかじゃない…‼︎お母さんが産んでくれた地球人…)

 

星奈はそのポケットを握っていた手を見下ろす

 

 

(ーでも、じゃあ…キグナスは…私は、なんなの…?)

 

 

「ーな、星奈!おーい…」

 

呼びかける声に気づき、思わず肩をビクつかせる

 

「……どしたの?星奈」

 

声をかけてくれていたのは恵美だった

 

「恵美……」

「ボーッとして、どうしたのよ。もうみんなほとんど帰るか部活行っちゃったよ?」

 

見ると確かに教室の中の人影はまばらになっていた

 

「……なんでもない、ちょっと考え事してただけ…」

 

星奈の言葉に恵美は釈然としないようで、口を開く

 

「なんかこの前からやっぱ星奈変だよ…隠し事とか、無いって言うけどさ…やっぱなんかー」

 

「なんでもないって!!」

 

バンッと机を叩き、星奈が声を荒げ、恵美が驚く

すぐに気づき、星奈が手を振る

 

「ご、ごめん…恵美…」

 

しばらく恵美は驚きながらも心配そうに星奈を見つめていたが、ぎこちなく笑って告げる

 

 

「大丈夫。なんかわからないけど、話せる時来たら話してよ」

 

 

「じゃ、部活あるから私は行くね」

 

と恵美が手を振りながら教室を後にする

 

取り残された星奈は力無く椅子に腰を下ろす

 

(何やってんだろ、私……)

 

心配してくれていた恵美に声を荒げて、こんな突き放し方あんまりだ

 

と、星奈は優里のことを思い出す

 

「……優里迎えに行かないと…」

 

 

教室から出た星奈は少し離れた優里のクラスに向かう

 

ちょうど優里も教室から出てきていることに気づき、星奈が手を振るといつものように紙パックのジュースを啜りながら優里が手を振り返す

 

脳裏にさっきの恵美の顔が過り、胸の奥がチクりと痛む

 

(ー明日、謝ろう。できる限りのことも話してー)

 

ぱたぱたと近づいてくる優里

その目が星奈の背後に向けられ、大きく見開かれたのに気づいて星奈も振り返る

 

 

フードの少女ーキリカが人気のなくなった廊下に立っていた

 

 

「あなた…ッ‼︎」

 

星奈が優里を守るように背後に庇い、キリカを睨む

 

キリカは先程見た愉快そうで猟奇的な空気は無く、鼻をつまんだまま敵意のような感情をこちらに向けていた

 

「せ、星奈…あれ…‼︎」

「…大丈夫。いざとなったら守るから…‼︎」

 

星奈が油断せず、胸元のキグナスクロスを掴む

 

「………この前はあの食いさしのにおいが充満しててわからなかったけど、成程ねぇ」

 

キリカが目を細めるとともに、背中から黒い菱形を連ねた形状の尻尾が伸びて切先を星奈ーその背後の優里に向ける

 

「やめて‼︎優里は、これ以上あなたのことは話さない‼︎」

「………」

 

まだ優里のことを睨むキリカははぁ、とため息を吐きながら告げる

 

「ー私とユウはさぁ、この星が気に入ってんのよ。だから、私は必要以上の殺しも、無断の吸血もしない。喉が乾いて仕方ないけど」

 

キリカの目が細められる

 

 

「だからさぁ、お前みたいな害虫は逃がさないのよ。さっさと正体を現せって」

 

 

星奈の背中をギュッと優里が掴む

 

「星奈ぁ…‼︎」

「なんのこと…⁉︎殺しをしないなら、優里のこともー」

「…仕方ないけど鈍いヤツだなぁ」

 

 

「ーその背後のヤツ、地球人じゃない。加えて…私らみたいな文化人でもないよ」

 

 

「ーは」

 

思わぬキリカの言葉に星奈が呆けた声を漏らす

 

「知らない‼︎知らないよ‼︎なんのこと⁉︎」

 

半狂乱になりながら叫ぶ優里

 

「地球人じゃない…?そんなわけない‼︎優里は、優里は小学校からの親友だし、ちゃんと優里の家族だって地球人でー」

 

同じように半狂乱になりながら振り返った星奈が目を見開く

 

優里を背中から離し、距離を取りながら星奈が口を開く

 

「……優里、今飲んでるジュース…何…⁉︎」

 

優里は顔を青ざめさせながら首を振る

 

「き、急になんなの星奈⁉︎」

「お願い、答えて…‼︎」

 

優里は星奈の言葉に押され、紙パックのパッケージを見る

 

「ーグレープフルーツのジュースだけど…?」

 

星奈が目を見開き、もう一歩後ずさる

目を白黒させる優里の前で星奈が震える口を開く

 

「優里は……優里は、フルーツジュースが好きでよく飲んでるけど…グレープフルーツだけアレルギーがあって飲めないの…」

 

それを聞いた紙パックのジュースを持つ少女は目を見開く

 

 

「ーあなた、誰……!?」

 

 

少女は伽藍堂になった瞳をしばらくジュースに向けていたが、やがて肩を震わせて狂ったように笑いだす

 

 

「ーあーあ、バレちゃった?」

 

 

ソレは、優里の顔のまま、で愉悦に歪んだ声で笑っていた

 

「アレルギーとか、地球人も大変だねぇ。好きなもの食えなくなるヤツもいるなんてさぁ」

 

「優里」はきひひと笑いながら紙パックを揺らす

 

「な、んで…冗談、だよね優里…⁉︎」

「えぇ…これ見てもまだ疑うの…?」

 

「優里」は左指を口に引っ掛けて思いっきり引っ張る

 

ビリビリビリ、と紙マスクを裂くように優里の左頬が裂けた。裂けた口からは血も滴らない

 

あまりの光景に星奈が口を押さえてよろける

 

 

「ー地球人はさぁ、こんなに口裂けないだろうから、これでわかるよね?ウルトラマンちゃん?」

 

 

裂けた口のまま、「優里」がニヤリと笑う

 

信じられない光景に混乱する星奈の背後でキリカが口を開く

 

「下品なのは相変わらず…このゲロくさいのも変わらないってことは、悪食なのも同じってワケだ。リーチ星人」

 

「……リーチ星人…?」

 

星奈が思わず声を漏らす

 

「種族名で呼ぶなよバネス族。私にはファルデって名前があるんだから。ああ、ごめん…あんたらはもう…『ギラッガス』だったっけ?」

 

「優里」ー否、リーチ星人ファルデはニヤニヤと笑いながらキリカを睨む

 

 

「……食い意地が皮被ったような下品な宇宙種族だよ。代謝が強すぎるのと、食事に対した倫理観が無いとかいう欠陥じみた生態のせいで、星中で戦争して共食いしまくって自滅した蛆虫さ」

 

 

星奈に説明するようにキリカが告げる

 

「酷い言い草だなぁ、まぁ事実だから笑えないんだけど」

 

ファルデは優里のように裂けた口でジュースを啜る

 

宇宙人同士の会話に置いてけぼりにされていた星奈だが、あることに思い当たり、ファルデの方を見る

 

「……優里、は?本物の…優里は⁉︎」

 

星奈の声にファルデは咥えていたジュースのストローから口を離し、答える

 

「あーあの地球人のメス…?」

 

ニヤリ、と裂けた口が恍惚に歪む

 

 

「美味かったよ。思わず保存食に残しちゃうくらいはね」

 

 

ファルデの言葉に星奈は放心する

 

キリカは鼻をつまみながら再び口を開く

 

「リーチ星人は、獲物の体に消化液を流し込んでドロドロに溶かした中身を『飲む』ことで食事をする」

 

 

「ーその皮を余らせて、擬態に使うために」

 

 

★★★

 

「優里」がキリカに遭遇する数分前

 

「あの…何してるんですか?」

 

路地の奥でペチャペチャと水音を滴らせる人影が振り向く

 

フードを被った小柄な人影

その口元を拭いながら人影ーファルデが笑う

 

「ーあーあ、見られちゃった」

 

ファルデの口からぞろり、とぬめぬめした質感の黒い触手が飛び出し、優里の首元に噛み付く

 

「あっー」

 

優里はしばらくもがいていたが、突然脱力してへたり込む

 

「もう筋繊維は溶けたよねぇ?どの星の生き物もさぁ、筋肉から壊せば大抵逃げられないのはいいことだよねぇ」

 

ぐにゃぐにゃ、とフードの人物の顔の皮膚が動き回り、裂けた中から赤い光が覗く

 

恐怖に顔を歪める優里だが、彼女の体にはもう舌を動かす筋肉も残っていなかった

 

 

ぐにゃぐにゃとあり得ない動きをしていた優里の体が持ち上がり、自然な姿勢になる

 

「あ、あーあー……声帯模写完了」

 

「優里」は一つ伸びをして鞄を持ち上げると、ふと空を見上げる

 

(ギラッガス…確かこの辺りにいた宇宙人狩り…ここは一芝居打つかな?)

 

空から来る気配が降り立つ前に「優里」は路地の入り口に身を潜める

 

降り立ったギラッガスの少女ーケイトが食いさしだった男の血溜まりを指で掬って舐めだしたのを見て、「優里」は路地に飛び出した

 

★★★

 

「ーぅぷッ」

 

星奈が廊下の窓に寄りかかり、嘔吐する

ファルデはそれを不思議そうに眺めていた

 

「おいおい、食べたもの捨てるなよ。地球人は勿体無いなぁ」

 

はぁー、はぁーと呼吸を整えながらファルデを睨む星奈

ジュースを啜る口元から溢れた赤黒い液体を見た星奈の脳裏にファルデの言葉がフラッシュバックする

 

 

『思わず保存食に残しちゃうくらいはね』

 

 

「ーあ、あ…‼︎ぅぷッ」

 

ジュースとして飲まれていた「ソレ」の正体を察した星奈は再び胃の中のものを吐き出す

 

ファルデに睨みを効かせていたキリカが動かんとしたその時、廊下に足音が響いてきた

 

 

「あれ?星奈、優里と…どちら様?」

 

 

部活のユニフォーム姿の恵美が階段を駆け上がってきたのだ

 

遠巻きに優里を見ていた恵美だが、優里の頬が裂けているのを見て「ひっ⁉︎」と口を押さえて尻餅をつく

 

 

それを眺めていたファルデは首をぐにゃりと回す

 

「あーあ、もうめんどくさ。ウルトラマンちゃんをこっそり食べるつもりだったけど、もういいかなぁ」

 

優里はあんぐりと口を開け、紙パックごとジュースを飲み込むと、全身の皮膚を波うたせ、その皮を破り捨てる

 

中から噴き出した黒い触手が塊を成し、校舎を崩しながらその体を作り出す

 

女性のような体型の、ぬめぬめしたなめし革のような皮膚の怪人

その頭部からは4つの角が伸び、脈動する光が角に走る以外は口も目も見当たらない

 

足元から這い出した触手の先ー大きな口が開き、獰猛な牙とそこから滴る緑の消化液を覗かせながら言葉を紡ぐ

 

 

『ーもう1人の親友ちゃんも、美味しそうだったんだよね。もう我慢できないや』

 

 

巨大化したファルデの口が恵美に迫る

 

死を確信した恵美が目を見開く

 

 

ーリュオァァッ!!!

 

 

迫る口吻を銀の巨腕が叩き潰す

 

潰れた触手から散った青黒い液体が恵美の顔にかかる

 

ーギィィィィィィ!?!?

 

悲痛な声がこだまする中、青黒い体液に濡れた拳を持ち上げ、ウルトラマンキグナスがファルデを睨む

 

その銀の瞳は、怒りに燃えていた

 

 

キリカは飛び散った青黒い体液をペロリと舐め、まずそうにペッと吐き出す

 

「ーあとは任せますか。ウルトラマン」

 

キリカは犬歯を見せて笑い、その場から姿を消した

 

☆☆☆

 

ファルデと対峙するキグナス

その拳がぎちりと握り込まれる

 

が、背後から伸びてきた触手が首を絡め取り、動きを封じると別の触手が口を開き、肩口と脇腹に噛み付く

 

ーリュオァァッ!?

 

ジュワァ…という音とともにキグナスの皮膚から煙が上がる

消化液でキグナスの皮膚が溶かされているのだ

 

ファルデは手を口元に当て、舌なめずりするようなそぶりを見せる

 

銀の拳が再び強く握り締められた

 

 

キグナスは噛み付く触手2本を荒々しく掴み、そのまま力任せに引きちぎる

 

ーギィィィィィィッ!?!?

 

耳障りなファルデの悲鳴と共に千切れた触手が投げ捨てられ、校舎やグラウンドに青黒い体液が飛び散る

 

首に巻き付いた触手も無理やり引きちぎると、キグナスはファルデに組みつきそのまま巨体を押し込みながら疾走する

 

ーギィィィィィィッ!?!?

 

ファルデは抵抗する暇もなく、学園近くの建設中のビルに叩きつけられ、そのまま押し倒される

 

ーリュオォ…‼︎リュオァァッ!!!

 

キグナスは力任せにファルデを殴りつける

 

殴る、殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る

 

ただひたすらに、ただただ、何度も何度も

 

何度もの打撃にファルデの皮膚が裂け、血が吹き出すが、返り血を浴びようがキグナスの拳は止まらない

 

触手で何度か噛み付くが、その度にキグナスはそれを千切り、再生させていく暇もなく打撃が降り注ぐ

 

ーギィィィィィィッ!!!

 

見るも無惨に歪んだ体から苦し紛れに顔に伸びてきた触手を掴み、キグナスはギリギリと握りしめる

 

 

『ギ、キヒ、ひ…‼︎あのギラッガスノ…言ウとォりだナぁ…?』

 

 

触手の先の口が歪んだ言葉を紡ぐ

 

『あンたは、私と同じ…同ジダ…‼︎宇宙人?ソレ以上に…‼︎』

 

『わタシは…喰ウたメに、殺ス…オ前、は…守ルタメに、殺す…』

 

ニヤリ、と触手の口が歪む

 

 

『ー同ジ、殺シを、楽しム同志…ダ‼︎アハははハハハはハハはー』

 

 

耳障りな声で笑う触手を無情にも銀の拳が握り潰し、ファルデの眼前で光の十字が刻まれる

 

ーリュオァァッ!!!!

 

青と銀の光の奔流が、ファルデの直近からその頭部に降り注ぐ

 

銀の巨人が馬乗りになったままの青黒い巨体がびくびくとのたうち、そのうち光のエネルギーをスパークさせ、体を海老反らせながら爆発四散する

 

肩を揺らし、荒い呼吸を繰り返すキグナスは力無くその拳を地面に置いた。拳にべっとりと付いた青黒い体液が滴る

 

 

青黒い返り血に塗れた胸元で、静かにカラータイマーが赤く点滅を繰り返していた

 

 

白銀の巨人は、項垂れたまましばらく動かなかった

 

☆☆☆

 

半壊した学園の元に戻ってきた星奈は、校舎から連れ出されてきていた恵美を見つけ、小走りに近寄る

 

「ー恵美‼︎」

 

星奈の声に恵美がびく、と肩を揺らしてこちらを見る

 

「無事でよかったー」

 

 

近づいてきた星奈から、恵美は怯えるように後ずさっていた

 

 

「………恵美?」

 

状況が飲み込めなかった星奈は、恵美の表情にようやく気づく

 

その顔は、優里の皮を被ったリーチ星人ファルデを目の当たりにした時と同じ、異物に対する恐怖の表情になっていた

 

それを、恵美は星奈に向けていたのだ

 

 

触手が迫ったあの時、見開いた目は恵美に迫る触手とー

 

光に包まれながら巨人になる星奈をはっきりと捉えていた

 

 

そのままどこかへ走っていく恵美を追いかけることもできず、星奈は手を伸ばしたまま動けなかった

 

筋肉が機能することを忘れたように、へたりと少女はその場に尻餅をついた

 

☆☆☆

 

星ノ宮中央学園近くの天川(あまかわ)河川敷

 

そこに座り込み、膝に顔を埋めた星奈

その側に、パーカーの2人組が姿を現す

 

「……ウルトラマンキグナス。キミは、俺たちに敵対する存在ではないのか?」

 

「…………」

 

少年ーユウの言葉に星奈は反応を示さない

 

「……答えてくれ」

「知らない」

 

星奈は突っぱねるように答える

キリカはどこかつまらなそうながら、申し訳なさげに目を伏せる

 

「……それでは困る。俺たちは、害のある異星人は殺す。この地球で平穏に暮らすために」

 

ユウが目を細める

 

「お前も、ウルトラマンも例外ではー」

 

 

「ーウルトラマンなんか知らないッ!!!」

 

 

星奈が今までにない声で怒鳴る

 

立ち上がり、その顔が顕になる

目の周りにクマができ、目は赤く充血した酷い顔だった

 

「私は、私は…地球人なの‼︎ただの、ただの地球人なんだよ!!!怪獣とか、宇宙人とか、ウルトラマンとか‼︎知らない‼︎知らない知らないッ‼︎」

 

星奈は胸元からキグナスクロスを取り出すと、力の限り川に向かって投げ捨てる

 

思わぬ行動に兄妹も目を丸くして驚愕する

 

 

ぽちゃん、と小さな水音が響いた

 

 

「……これならいいんでしょ?帰ってよ…‼︎」

 

「……しかし」

 

 

「もうこれ以上‼︎私の当たり前に…日常に…入ってこないで…ッ‼︎」

 

 

ユウたちを一瞥もせずに星奈が肩を震わせる

 

ユウとキリカは何か声をかけようとして、フードを被り直して消えた

 

 

河川敷には、ひとりぼっちの少女が残されていた

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

【星ノ宮中央学園襲撃事件】

 

【2032年10月9日16:12頃、巨大生物によって星ノ宮中央学園が襲撃された事件】

【死者:11名、重軽傷者:32名】

【校舎の復旧と生徒・職員のケアのために星ノ宮中央学園はしばらくの休校措置の実行を決定した】

 

 

《死者記録より抜粋》

 

鷹宮(たかみや) 優里(ゆうり)

《性別:女性 年齢:15》

《当該校高等部1年生の女子生徒。現場から皮膚片と体液のみが発見され、DNAが一致したこと、血液量が致死量以上だったことにより死亡が確認されている》

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……もう、どうでもいい」

「痛いことも、立ち向かうのも、とても怖い」

「キミの心の汚れを落とす手伝いをしたいんだ」

「もう私は、戦えない‼︎」

次回ウルトラマンキグナス
「勇気だったらあるはずだ」
大鯨怪獣ガリュブデス 登場

「負けるもんか…僕にだって…‼︎」
「ーいや、僕たちにだって…勇気はあるんだ‼︎」
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