ウルトラマンキグナス   作:リョウギ

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第8話「それでも、私は」

「ほんっっっとうに、すみませんでした…‼︎」

 

テーブルに頭をぶつけんばかりに未来(みく)が頭を下げる

 

「いや、いいよ…そこまで気にしないで。鈴山さんも大変だったんだし…」

 

向かいに座る星奈(せいな)が何故か申し訳なさそうに手を振る

 

 

ムザン星人アルカブとの一件が終わり、疲れ果てて眠っていた2人をひとまず星海(ほしうみ)食堂まで連れてきた星奈たち

 

(あかり)に事情を話しているうちに2人とも目を覚ましたのだが、それから未来はさっと血の気が引いたように真っ青になって縮こまっていた

 

 

「そんなわけには、いきません…私、先輩のこと勝手に誤解して…特別だからって疎まれたり毛嫌いされるのが辛いことなんて、一番わかってたはずなのに…」

 

未来は制服越しに二の腕を強く握る

 

「それにミラにも…酷いことをしちゃったから…」

 

弱々しく隣を見る未来にミラが反論する

 

「これは私も、責任があることだから…」

「ううん、そんなことない。全部、私が思い込んで一人でやったことだから……」

 

ぽろぽろと大粒の涙を落とし始めた未来が両の手で顔を覆う

 

 

「……私、ほんと最低だ…ッ」

 

 

そんな未来の手を、テーブル越しの星奈が優しく握る

 

「……先輩…」

 

「いきなりのことで、私もびっくりしたけど……今は全然大丈夫。鈴山さん…未来ちゃんの気持ちは、私もよくわかるから…」

 

キグナスに変身できるようになってすぐのこと

気が動転して、周りに思わず当たってしまったことを思い出しながら、星奈が微笑む

 

「……私の秘密を知ってくれてる人が増えるのは、正直とても、安心するの…だからさ、未来ちゃん、ミラちゃん」

 

ミラの手も握りながら星奈が告げる

 

 

「ー私たちと、友達になって…くれないかな?」

 

 

未来が嗚咽混じりに涙を拭い、ミラが安堵したように微笑む

 

「……ありがとう、ございます…‼︎星奈先輩…‼︎」

「はい、よろしくお願いします」

 

「感謝しときなさいよ、セイナに。セイナが許さないって言ってたら、私は黙ってなかったわよ?」

 

キリカが机に身を乗り出しながら未来とミラを睨む

 

「キ、キリカ…‼︎」

 

おろおろする星奈を見て、バツが悪そうに身を引くとぶっきらぼうに告げる

 

「私はキリカ。こっちのユウとは義理の兄妹なギラッガス…宇宙人ってヤツよ。よろしく」

「…ユウだ。よろしく頼む」

 

2人に未来たちも頭を下げ、それを心配そうに見ていた灯がうんうん、と満足げに頷く

 

「まぁどうなるかと思ったけど、仲直りできたならとにかくよし!」

 

灯はふと、ミラたちの方を見る

 

「そういえば、星奈ちゃんたちが話してたグインジェっての壊れてもよかったのかい、ミラちゃん?」

「……言われてみれば確かに。グインジェは確か、スレイユ星人の移動艇も兼ねてるはず…」

 

ミラは少し顔を伏せながらも微笑む

 

「……いいんです。私はもう、スレイユ星に帰るつまりはありませんでしたから」

「ミラ…⁉︎いいの…?」

「うん。争いは苦手だけど、だからって他の星を疑ったり、勝手に有害と決めつけて滅ぼしたりなんて…本当はやりたくなかったから」

 

ミラは未来に向き直り、微笑む

 

「ーそれにこの星には、未来がいてくれるから」

 

「……でも、住むところがなくなってしまったから探さないと…ずっとグインジェで寝泊まりしてたから…」

「あう…私のとこ…は、ちょっと学校から遠いし、おばあちゃんも大変だからな…」

 

それを聞いていた灯が星奈の隣に腰掛けながら告げる

 

「行くとこ無いんだったら、うちに来ない?おばあちゃんがよかったら、未来ちゃんも一緒に」

 

「い、いいんです、か…?私、宇宙人なのに…」

「あたしはそんなこと気にしないわよ。丁度息子が独り立ちして寂しく思うこともあったし、暇な時にちょっと店を手伝うくらいはお願いするかもだけど…」

 

未来とミラが顔を見合わせる

 

「星海さんがいいなら…」

「私も…おばあちゃんは寂しがるかもだけど、引き留めはしないだろうから…」

 

「よっし、じゃあ決まりね!よろしく!ミラちゃん、未来ちゃん。あたしのことは気楽に灯って呼んでくれたらいいわ」

 

ニッと笑う灯に2人が恐縮しながらも頭を下げる

その様子を星奈は安堵の笑顔を見せながら見ていた

 

 

「しっかし、陰険なことするのもいるもんね。宇宙人投票だなんて…」

 

テーブルの上に置いた拳をギュッと握りながら灯が呟く

 

「……ただ生まれた星が違うだけで、なんてことない人間なのに」

 

「…………」

 

その言葉に星奈は申し訳無さそうに俯く

星奈も、宇宙人だからとキリカのことを拒絶していたこともあった。だからこそ、他人事には思えなかった

 

そんな様子を見ていたキリカが星奈の頭を小突き、ユウがその肩をさする

 

「ー何考えてんのか丸わかりよ。もう気にしなくていい。私たちも気になんかしてない」

「過去のことは過去のことだ。俺たちは元より、セイナから見て宇宙人と呼ばれるような連中からも嫌われているから、慣れている」

 

「な、慣れてるとか…関係ないよ…‼︎」

 

ユウの言葉に星奈が反論する

 

「……違うからとか、そんなことで拒絶されるのが辛いって…私は、よくわかるから…そんなのに慣れちゃ…ダメだよ…」

 

恵美との一件がフラッシュバックし、ギュッと星奈が自分の震える肩を握りしめる

 

「……そんなセイナだから、私は気にするなって言えるのよ」

「……ああ、ありがとう。セイナ」

 

キリカが星奈の頭を撫で、ユウが照れ臭そうに頬をかく

そんな2人の様子を見て、星奈も自然と顔が綻んでいた

 

 

「何、これ…なんで…⁉︎」

 

未来が自分のスマホを見ながら目を見開く

 

「今度は何?もう星奈に当たったりとかはやめー」

「これ‼︎見てください‼︎」

 

未来が星奈たちに自分のスマホの画面を突き出す

そこにあった文字列をただ呆然と眺める

 

 

《宇宙人投票・結果発表!》

《1位は…》

 

《高等部1年B組 市ノ瀬(いちのせ) 星奈(せいな)

 

《お前は、宇宙人だぁ〜‼︎》

 

 

☆☆☆

 

いつもの朝、いつもの道

いつも通り学校にたどり着く

 

だが、学校はいつも通りではなかった

 

教室に入ると、皆が見てくる

まるで、珍しい生き物を見つめてくるかのような目

 

背を丸めながら自分の席に急ぐ

その歩みを避けるように、人垣が割れていく

 

ヒソヒソ、と囁く声が聞こえる

 

「あれってマジなのかな…?」

「どうだろ?ただの冗談じゃない?」

「わかんないぜ?そういえば、この学校だけピンポイントに宇宙人に狙われたことあったな」

「こーわ。それってじゃあ…」

 

 

『ーあいつがいるからってこと?』

 

 

「ーッ‼︎」

 

耐えきれず、星奈が立ち上がる

目を泳がせ荒い呼吸のまま教室から星奈が飛び出す

 

すれ違ったキリカとユウが心配そうに振り返る

 

「ちょ、セイナ⁉︎」

 

 

教室から離れた星奈は思わず校舎裏に来て壁によりかかり、ずるずるとへたり込んでしまう

 

はぁ、はぁ、と荒い息しかできない

ばく、ばく、と心臓がうるさい

 

私にしかできないことだから

私だけが助けられるなら

 

そう思って何度も、何度も戦ってきた

誰かを助けられるなら、と

 

忘れようとしていた

自分の力が得体の知れないものだという事実を

 

 

『ーあんたは、私と同じだよ…』

 

 

体液を吐き出しながら笑う異形ーリーチ星人ファルデが

優里(ゆうり)の顔でありながら、優里のものじゃない裂けた口で高らかに笑うあの声が脳裏に過ぎる

 

何度も、何度も考えようとして避けていたことが嫌でも突きつけられてくる

 

 

ー私は、本当に地球人なの?

 

ーこの学校は、この町は、私がいなかったら襲われなかったんじゃないの?

 

 

思わず口を押さえて俯く

考えたくない。考えたくない。考えたくない…‼︎

 

 

「あれぇ?こんなとこにいたの、宇宙人さん?」

 

 

誰かの声に顔を上げる

 

校舎裏の影と、校舎入り口側の光との境界線

そこに、高等部の制服姿の少女が立っていた

 

黒の長い髪と気の強そうなつり目

髪を留める白亜の髪飾りから、どこか高貴な雰囲気と、併せて高圧的な雰囲気を共に感じる少女

 

直接話しかけたことも、話しかけられたことも無いが、恵美たちから話は聞いたことのある同級生の中でも有名な人物

 

黒鳥(くろとり)……御影(みかげ)、さん…?」

 

フンッ、と気の強そうな笑みを見せ得意げに右手を広げながら少女ー黒鳥 御影がうずくまる星奈に歩み寄ってくる

 

「あらあら、宇宙にも黒鳥の名声は響いているみたいね」

 

黒鳥(くろとり) 御影(みかげ)

服飾系の大会社ーBLaCK Swanの社長の娘であり、その歳で製品のデザインやプロデュースも行い、いくつかのヒットを飛ばしている鬼才

 

もちろん同年代の女子高生にも流行っているものがあり、それ故に学校でも持て囃され、チヤホヤされている場面が多い

 

「ちが…私は、宇宙人なんかじゃー」

「白々しい。ただの適当な投票でこんな票が集まったと思う?」

 

御影がスマホを操作し、ある画面を出して見せる

例の裏掲示板のコメント欄。その一部だった

 

 

《あのウルトラマンってのが出てくるとこにこの子は必ずいる》

 

《怪獣騒ぎにほぼ全部遭遇してるらしい》

 

《逃げるのかと思ったら逆方向に走って行ってた》

 

 

「ーあ…」

 

そこには、星奈の怪しい行動を挙げてより「宇宙人説」を補強してきていたコメントがあった。表示アドレスを見るに、どれも同じ人物の書き込みらしい

 

《学校に怪獣が襲ってきた時、あの怪獣の側にいるの見た》

 

「…え?」

 

その中の一つを見て星奈の思考が止まる

 

(あの時…周りにはキリカと、恵美しかいなかった…キリカはこんなことする理由が無いし…)

 

考えたくない、一つの結論に向かいつつある頭を抱え、星奈がうずくまる

 

それを見下ろしながら御影が笑う

 

「どういうつもりかは知らないけど、皆を代表して言ってあげる」

 

星奈の前にかがみ込んでわざわざ視線の高さを合わせながら御影が微笑み、告げる

 

「疫病神なのよ、あなた。あなたがいるせいで、学校にまで怪獣が来ちゃった。たくさん死んだし、学校だって一時閉鎖されたし。迷惑甚だしい思いをしたのよ」

 

御影が星奈の耳元に顔を寄せ、囁く

 

 

「ー全部、あなたのせいよ。市ノ瀬 星奈。宇宙人のあなたが、いつまで私たちに迷惑かけるつもり?」

 

 

御影の言葉に星奈が目を見開いて固まる

酸欠の魚のように口をぱくぱくさせることしかできない星奈を、立ち上がった御影が見下ろす

 

「セイナから離れろよ。クソ女」

 

響いてきた言葉に星奈が顔を上げ、御影も視線を動かす

 

校舎裏の影にキリカがずんずんと踏み込んできて、御影を睨みつける

その瞳が薄らピンクに光を放っていた

 

「何、あなた?宇宙人を庇うつもり?」

「友達を庇って何が悪い」

「友達?友達ですって」

 

キリカの怒りを孕んだ言葉にも怯まず、御影が愉快そうに笑う

 

「バケモノと友達になんか、なれるわけないじゃない」

 

その言葉を聞いたキリカがダンッと地団駄を踏む

 

「バケモノ…?セイナがバケモノ…それだったら、あたしはー」

 

「ーキリカッ!!!」

 

キリカの言葉を星奈の叫びが遮る。よろよろと立ち上がった星奈は、憔悴しきった顔で、それでもキリカに微笑みかける

 

「……もういい、もういいから…ッ」

「セイナ……」

 

星奈はよたよたと校舎裏から離れていく

ただ見送ることしかできなかったキリカも、すぐにその後を追って去る

 

校舎裏の影には、笑みを浮かべながらスマホの画面を眺める御影だけが立っていた

 

☆☆☆

 

「………」

 

教室に戻って先生に気分が悪いから早退することを伝えた星奈は、ただ1人俯いたままとぼとぼと街を歩いていた

 

ふと、近くの店の窓ガラスに写り込む自分の顔を見る

 

「ーはは…っ」

 

憔悴しきって、目元も少し腫れたひどい顔に思わず自嘲の笑みが溢れてしまう

 

胸ポケットにしまったキグナスクロスをポケットの上から握りしめる

 

目を背けていた、いや、ユウやキリカたちと過ごして、那由多と知り合って、未来とミラを助けて、日常の中に確かにいた非日常だったみんなの「日常」と過ごすうちに気にしなくなっていたことに、胸が痛む

 

(私は…私は何なの…)

(何で私が…戦わないと、なの……)

 

呆然と街を歩いていく星奈の耳に、風切り音が響く

同時に、衝撃に思わず尻餅をついてしまう

 

「な、に…⁉︎」

 

周りの人達も困惑している中、ぽつぽつと見上げた人達が何かを見つけて指差す

 

そこには黒い巨大な「剣」が突き刺さっていた

 

先程の風切り音と合わせて、その剣は空から落ちてきたらしい

周りを見渡すと、他にも3つ同じ剣が突き刺さっていた。四角を描くかのような配置で屹立した謎の巨大剣を見て、人々は困惑し、あるいはスマホで珍しげに写真に写していた

 

「また…なんなの…⁉︎」

 

困惑している星奈達をまた新たな衝撃が襲った

 

剣が描く四角の中央。その上空に開いた渦を巻く「穴」から巨体が地上に降り立つ

 

ーギャオォォォォォォォォォン!!!

 

その姿を見た星奈が驚きに目を見開く

 

「あの時の…怪獣⁉︎」

 

そこに現れたのは、頭頂部に一つ目と三叉に分かれた口を持つ怪獣ーカノープス。星奈がキグナスとして初めて戦った、あの怪獣だった

 

ーギャオォォォォォォンッ!!!

 

咆哮を上げたカノープスは鋭い爪で近くのビルを破壊する

ようやく事の重大さを認識した人々が、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく

 

星奈は人々の波に押されながらも、路地裏に飛び込み、キグナスクロスを取り出してその手に握る

 

ーギャオォォォォォォォォォンッ!!!

 

カノープスの咆哮に、星奈が顔を上げる

 

「ーあ」

 

弱気になっていた星奈の脳裏に、あの時の恐怖がフラッシュバックしてきた

 

迫る怪獣、異形の顎、突き立てられる爪や光線の痛み

 

それに加えて、先程の御影の言葉が脳裏に響く

 

 

『疫病神なのよ、あなた』

 

 

ぱくぱくと、ただ口が動く

いつもならキグナスとなるために紡ぐ言葉が、出てこない

キグナスクロスを持つ手が震える

 

踏み出す勇気が、出てこない

 

(行かなくちゃ……行かなくちゃいけないのに…‼︎)

 

星奈が震える肩を抱きながら過呼吸気味に息を吐き出す

 

(ーそもそも、)

 

 

(ー私ガ戦ウ意味ハ アルノ ?)

 

 

脳裏に過ぎる黒い思考に、星奈が思わず頭を押さえる

 

「ー戦わないのか?」

 

そこに、聞こえるはずのない誰かの声が響く

星奈がその主を探すと、そこには簡素な黒い服を着た背の高い女性が立っていた

 

編み上げにした左髪の下から覗く耳に下がる宝石飾りを揺らし、黒衣の女性が得意げに笑う

 

「あなた、は……」

 

女性は握りしめた右拳を胸元にかざす

 

「なら好都合だ」

 

女性が斜め上に右腕を掲げ、開く

開かれた手のひらから溢れ出す光に思わず星奈が目を瞑る

 

ようやく目が慣れ、開いた先

そこにいた「存在」に星奈は思わず放心した

 

 

「……キグ、ナス…⁉︎」

 

 

自分が何故か手に入れていた力

銀色の巨人の姿

 

自分から眺められるはずがないそれの背が、星奈の目の前に聳え立っていた

 

 

ーギャオォォォォォォォォォン!!!

 

現れたキグナスを見て、カノープスが威嚇の咆哮を上げる

 

それを見たキグナスは胸の前で伸ばした両手を山を描くように合わせ、鋭い脚技の演舞を見せた後に右膝を上げながら独特の構えを取る

 

ーシェェェアァァァァァァッ!!!

 

相対する2体を取り囲むように、空の渦から新たに3機の黒い円盤が出現して赤い目のようなものを輝かせる

 

辺り一帯のモニターや携帯端末が一時ブラックアウト、2体が相対する様の中継映像に切り替わった

 

 

様子を伺うカノープスに、キグナスは手をこまねき挑発する

 

ーギャオォォォォォォン!!!

 

カノープスはそれを見ると、頭頂部の目から光線を放つ

華麗な動きで翻ったキグナスは踵落としを光線に当てて撃墜し、返す刀でフィギュアスケートのように回転しながらカノープスの頭頂部にハイキックを直撃させる

 

派手な音と共に頭頂部の目が弾け、火花を散らす

 

ーギャオォォォォォォン!?!?

 

苦悶の声を漏らすカノープスを見てキグナスは右手の人差し指をチッチッチッと揺らし、勝ち誇るように両手を広げる

 

怒りの様子を見せ、三叉の口を広げながら涎を撒き散らすカノープスを更にくいくい、と人差し指でこまねいて挑発を加える

 

ーギャオオォォォォォォン!!!

 

カノープスが長い舌をムチのようにしならせ振り回す

キグナスはそれを最低限の動きで回避し、振り切られた舌を掴んでカノープスの体を引き寄せる

 

舌を押さえられ身動きできないカノープスに一発、二発と膝蹴りが打ち込まれ、空いた手による手刀がカノープスの体を引き裂き、鮮血が吹き出す

 

ただ見ていることしかできなかった星奈もあまりに凄惨な光景に思わず口を押さえる

 

ーシェアァァッ!!!

 

キグナスのハイキックが張り詰めた舌を切り裂き、返す刀で放たれた連続ハイキックがカノープスの頭を殴打。脳震盪を引き起こしたのかカノープスが膝を突き、倒れ伏す

 

ーシェアッ!!!

 

その倒れた怪獣の首に、高く足を振り上げた巨人のストンピングが落とされる

 

ーゴギンッ!!!

 

鈍い音が響き、怪獣の体が一度びくりと跳ねた後動かなくなる

死に絶えた怪獣が光となって消滅していく様を見たキグナスは勝ち誇るように両手を広げて周囲を見渡す

 

その様を眺めていた数人の人間が歓声を上げ、心地よい様子を見せながらそれをキグナスは一身に浴びる

 

呆然と見上げていた星奈を見下ろし、再び手を合わせるような構えを取った後、キグナスは空へと飛び立って消える

行き違いに、その様子を映していた黒い円盤たちも渦の中へ姿を消していった

 

 

「なんで……あの人がキグナスに……」

 

「この星で無用な戦いを避けるためだ。私の望む血湧き肉躍る死合い以外の、無駄な戦いをな」

 

星奈の背後からキグナスに変身したあの女性が耳飾りを揺らしながら再び姿を現す

 

「……あなたは…誰⁉︎ この星で何を…」

 

女性は腕組みをして不敵に笑いながら告げる

 

「私はシェダル。ヘラクレス座M-16惑星グレゴール星より、星々を渡って血湧き肉躍る死闘を追い求める格闘士だ」

 

女性ーシェダルが切れ長の瞳で星奈を見下ろしながら告げる

 

「死闘…?」

「そうだ。命を賭けた果し合い…それが私が唯一望むもの。侵略者としてこの星の矮小な人類に攻撃されたとて、それは味わえない」

 

シェダルは手を広げながら語る

 

「この星の様はしばらく眺めさせてもらった。素晴らしい星だ。入れ替わり立ち替わり、侵略者や怪獣が現れくる。一体一体は小粒だが、この星にいれば死闘に飽くことはないだろう…」

 

星奈を指差し、シェダルは獰猛に笑う

 

「加えて、お前のようなウルトラマンがいたおかげで、私はこの星の英雄としていつも以上に容易く侵入することができた。デモンストレーションを見た地球の人類も、私がヒーローたり得る力を持つことを理解し、その存在を容認するだろう」

 

「デモンストレーション…?」

「先程の怪獣は、私がここに来るまでの間に捕獲して改造しておいた怪獣だ。尤も、闘争本能を底上げしただけで他はそのままだがな」

 

星奈を見据えながら黒衣の女は続ける

 

「あのピラーには地上に現れた怪獣たちを惹きつける電磁波を放出させてある。これから現れるだろう怪獣たちは、この一帯にのみ集まり、それを私が…『ウルトラマン』が戦い始末する」

 

「街が壊れたりもするだろうが、この星は結果的に救われたようなものだ。安いものだろう?」

 

シェダルの言葉に、星奈が口を開く

 

「本当にあなたは…侵略のつもりは、ないの…?」

「くどいな。無いと言っている。怪獣が現れる頻度が減れば、宇宙かは呼び寄せるくらいはするだろうが。どのみち私が倒すから問題あるまい」

 

シェダルは星奈を指差す

 

「だが、ヒーローと呼ばれる存在は2つといらない。私が『キグナス』となるなら、お前は降りてもらおう」

「⁉︎私が……キグナス、を…」

 

星奈が手にしたキグナスクロスを見下ろし、呟く

 

「悪くない話だろう?怪獣が現れたというのに、お前は変身をためらいだした。お前は、戦う理由を見失いかけているんだろう?」

「私……は……」

「……まぁいい。明日の夕刻までは結論を待ってやる。明日再び、このピラーの中央で話を聞こう。ただし、降りないというならば」

 

シェダルの姿がかき消え、星奈の目前を黒いものが高速で横切り、路地裏の壁が大きな音を上げて粉砕される

 

「ーっひっ⁉︎」

 

自分の目と鼻の先に、シェダルの強烈な蹴りが突き刺さったという事態をようやく理解した星奈がへたり込む

壁から脚を引き抜き、へたり込む星奈の肩に手を置き、耳元で囁く

 

 

「ー私は力ずくでも、お前を降ろしてこの星に居座らさせてもらう。これだけ怪獣に溢れた星…見逃す手は無いからな」

 

 

反論も、立ち上がることもできない星奈を置き去りにし、シェダルは路地裏の闇に消えていった

 

☆☆☆

 

シェダルが去ってから、なんとか家にたどり着いた星奈

母ー陽子にとても心配されたが、ひとまず自分に怪我は無いことと、明日も学校を休ませてほしいことを伝えた

 

「……わかったわ。でも、辛いことがあるなら、隠さないで話してほしい。私も、力になれるはずだから」

 

それだけ告げてくれた陽子の笑顔に、星奈はちくりと胸が痛んだ

 

夜、どうしても眠れずに過ごしていた星奈は被った布団の中でスマホの画面をじっと見ていた

恵美への通話画面のままになっていた画面をそっと閉じる

 

(前は…夜にも恵美と通話したりして、悩みとか聞いてもらってたけど……)

 

御影が突きつけてきた書き込み

星奈とキリカと、そして恵美しか知らないはずのこと

 

そして自分を避けていた恵美の態度

 

どうしても繋がってしまうそれに胸が痛む

 

(……ずっと友達だって…思ってたけど…)

 

 

ーコンコン

 

塞ぎ込んでいた星奈の耳に窓をノックする音が聞こえてくる

 

「……?」

 

起き上がってカーテンを開けた星奈

そこにいたのは、ベランダの柵に乗ったキリカだった

 

「キリカ…⁉︎」

「……部屋の中、いい?」

 

キリカの言葉に星奈は頷き、窓を開けて招き入れる

 

ベッドに並んで腰かけ、2人の間に沈黙が流れる

 

「………昼間のあれ、大丈夫…?」

 

キリカが先に口を開く

 

「……学校でのことも…あの、偽物のことも…」

「…キリカは…私じゃないってわかってくれたんだ」

「当たり前でしょ?あんな、力を見せつけるような…怪獣を壊すことしか考えないような戦い方…あんたの戦い方じゃない‼︎」

 

キリカがそう告げるのを聞いて、星奈は微笑む

 

「なんだか嬉しいなぁ…そんな風に見てもらえてるってわかると…」

 

星奈はキリカを見て微笑みながら言う

 

「……私は大丈夫。なんともないからー」

 

キリカはそんな星奈をそのままベッドに押し倒し、馬乗りのような姿勢で見下ろす

 

「へ、キリカ⁉︎」

 

 

「ーあんなこと言っておいて…自分が一番慣れてんじゃないわよ‼︎」

 

 

見たこともない顔のキリカの悲痛な声が響く

 

「大丈夫、なワケないでしょ⁉︎突然ウルトラマンの力手に入れて、あんだけぼろぼろになっても戦ってきてたのに、同じ地球人からあんなことされて…今までの友達だって失って…‼︎」

 

星奈の顔にぽたぽたと雫が落ちる

 

「友達とか、仲間とかは、私には無縁だったけどさ……今は、セイナとか、未来とかミラとか…色んなヤツと会ったから……私にだって痛いほどわかんのよ……」

「………キリカ…」

 

キリカが顔を拭って立ち上がり、背を向ける

 

「……ごめん、急に押しかけて。明日は学校来れそう?」

「……ううん、ごめん…」

「謝んな。それならそれでいい。無理に来て笑わなくていいから」

 

 

「……辛くなったら、守らなくたっていい。あんなヤツらのことなんかで…ユウも私も、灯や未来、ミラだって…きっとナユも、セイナに傷ついて欲しくない…」

 

 

少し鼻声のままそう告げたキリカが窓枠に足をかける

 

「……じゃあ、また」

 

照れ隠しのようにそのまま手を振ると、キリカは窓から夜の暗闇に飛び去っていった

 

1人取り残された星奈はそのままベッドに腰掛け、マットに体を預けるように倒れる

 

ベッド脇のテーブルに置いてあるキグナスクロスをチラと見て、星奈は再び布団を被った

 

☆☆☆

 

翌日の学校

昼休みとなった高等部。星奈のクラスを覗き込む女子生徒が1人

 

「ー何してんの?」

「!?」

 

突然背後から声をかけられ、驚いたように女子生徒が振り返る

声をかけたキリカがその顔をー恵美の顔を睨みつける

 

「……セイナなら今日休みだけど」

「休み…?」

「あんなことがあって、来ると思う?」

 

たっぷり皮肉を込めた言い回しのキリカの言葉に、恵美が首を傾げる

 

「あんなことって…」

「しらばっくれる気?宇宙人投票のことよ」

 

キリカがスマホを取り出してその画面を恵美に見せる

 

キリカや恵美しか知らないことが書き込まれたそれを見て、恵美が目を丸くする

 

「私やあんたしか知らないこんなこと、私じゃなきゃあんたしか書き込めないでしょ?」

 

恵美がキリカからスマホを取って画面をスクロールする

星奈が宇宙人だと決めつけられた文面を見て恵美が固まる

 

「………知らない…」

 

恵美はキリカへスマホを突き返すと、背を向けて去っていこうとする

 

「……友達って、そんなのなの?」

 

キリカの言葉に恵美が足を止める

 

「……私は、セイナがあんたの家に何度も尋ねていってるのを見た。あんだけしてくれるのを見て見ぬふりするどころか…こんなことまでするのが、友達なの⁉︎」

 

恵美が唇を噛み締める

 

「あなたに……何がわかるの……」

「……何?」

 

振り返る恵美

その目に浮かぶ涙を見てキリカがたじろぐ

 

 

「ー友達が…いきなり得体の知れない姿になる怖さが、あなたにわかるの!?」

 

 

恵美の怒りとも、悲しみとも取れないその表情を受け、キリカは口を開く

 

「……今のセイナは、本当に前のセイナと違うの?」

 

「………ッ」

 

キリカの言葉に返答することなく、恵美は廊下の向こうへと姿を消していった

 

ギュッと痛みを堪えるように、胸を握りしめながら

 

 

夕刻

 

約束の時間となり、宣言していたピラー群の中央。不気味なほど人気の無くなった噴水広場に、シェダルは1人立っていた

 

その背後から、1人の人物が近づいてきた

 

「ー招かれざる客、だな。ギラッガス」

 

近づいてきた少年ーユウを振り返りながら見据えるシェダル

ユウは、シェダルを強く睨んでいた

 

「……お前はこの星にとって有害だ。グレゴール人」

「はっ、追放者ごときがヒーロー気取りか?笑わせる」

 

ユウはフードを脱ぎ、人間大のままギラッガス・Uの姿を露わにする

カットフックをシェダルに向け、構える

 

『お前は、俺が排除する!』

 

ギラッガス・Uが光弾を放ちながら接近していく

シェダルは人間の姿のまま、鋭い蹴りで光弾を叩き落とし、ギラッガス・Uの振り回すカットフックを最低限の動きで捌いていく

 

眼前に迫るカットフックを、I字バランスのように持ち上げた足で受け止め、それを軸に回転蹴りを浴びせてギラッガス・Uを吹き飛ばす

 

よろめいたギラッガス・Uに対して左右入れ替えながら連続蹴りを打ち込み、的確にギラッガス・Uを追い詰める

 

ギラッガス・Uがカウンター気味に放ったカットフックを太ももとふくらはぎに挟む形でシェダルが止める

 

『ーッ!?』

 

ギラッガス・Uが気づくよりも早く、必殺の回転蹴りがギラッガス・Uの頭を打ち据えて吹き飛ばす

 

「が、はーッ!?」

 

人間の姿に戻り地面を転がるユウをシェダルは悠然と近づきながら見下ろす

 

「歯応えがないな。ギラッガス」

 

シェダルが高く足を振り上げ構える

ユウが悔しげに目を伏せる

 

 

「ー待って!!!!」

 

 

響いてきた声にシェダルが脚を下ろす

 

「ー待ちくたびれたぞ。ウルトラマン」

 

シェダルが体を向けた先に、息を切らして駆けつけてきた星奈がそこに立っていた

 

「……セイナ…」

「⁉︎ユウ!!!」

 

シェダルの側にいたユウの下に星奈が駆けつけて助け起こす

 

「なんで…こんなこと……」

「……俺たちも、この星は平和な星でいて欲しい…」

 

ユウは星奈をまっすぐ見据えながら答える

 

「……キミにだけ、背負わせて…傷を負わせるのは…嫌だった……」

 

「これが……友達を、思う…ということなの、か…」

 

「ユウ……」

 

ユウに寄り添う星奈にシェダルが手を伸ばす

 

「さぁ。ウルトラマンになるためのそのデバイスを渡してくれ。お望み通り、私が代わりにこの星の平和を守ってやる」

 

その言葉を聞いた星奈は、胸ポケットからキグナスクロスを取り出す

 

「………セイナ」

 

どこか悔しげにユウがその手のキグナスクロスを見つめる

 

手にしたクロスに視線を落としながら、星奈が口を開く

 

「………あなたがキグナスになったら…また怪獣と戦うんですか?」

 

フン、とシェダルが鼻で笑いながら答える

 

「そう言っただろう?怪獣たちは私が倒してやる、と。足りなくなれば、呼び寄せてしまうのもいいだろう」

 

「……その怪獣が暴れて、誰かが辛い目に遭って、泣いていたら?」

 

アルトゥールに襲われた父親に縋り付いて泣いていた子供を思い出す

 

「知らないな。地球人が数十ほど死んだところで興味はない。結局の平和が守られるなら、それで十分だろう?」

 

「………あなたと怪獣の戦いで、日常の風景が壊されたら?」

 

カノープスが破壊した行きつけのCDショップのあったビルを思い出す

 

「はっ、どうでもいい。どのみち地球人がまた作り直すだろう?」

 

「………」

 

シェダルの言葉を聞いた星奈は、キグナスクロスを握りしめる

 

「……ウルトラマンの力なんて、訳がわからない。怖い。痛い思いだってもうたくさんだし、学校のみんなからも、怪物扱いされて…戦いたくなんか、ない…」

 

ギュッと、空っぽの胸ポケットを握りしめる

それでも、震える足で星奈は立ち上がる

 

「…でも、でも…‼︎誰かが泣いていても、ありきたりだけど、何より大切な日常を壊してもなんとも思わないあなたに…」

 

キッ、と星奈はシェダルを真正面から睨む

 

 

「ーあなたにだけは、ウルトラマンを名乗らせたくない‼︎」

 

 

星奈の啖呵を聞いたシェダルはつまらなそうに肩を竦める

 

「面倒なことになったがまぁいいか」

 

シェダルは右手を握りしめ、胸の前に構える

 

「ーどのみち、ウルトラマンとは死合ってみたかったところだ‼︎」

 

シェダルに向き合う星奈の左拳が震えていることにユウが気づく

 

「セイナ…お前…‼︎」

「……大丈夫」

 

星奈はユウに振り返り、精一杯の苦笑いを見せる

 

 

「ーユウたちも大好きだって言ってくれたこの星が…この日常が好きで、壊れて欲しくないのは…私も、同じだから…」

 

 

星奈がキグナスクロスを握り、胸元に当てる

 

 

「ー力を貸して…キグナスッ!!!」

「さぁ、はじめようかッ!!!」

 

 

キグナスクロスと、シェダルが掲げた右手から同時に光が溢れ出す

 

 

夕暮れの街に、2人の白銀の巨人が姿を現した

 

ーリュオァッ!!!

 

左肩に向けて伸びる翼飾りを持つ巨人ーウルトラマンキグナスが低く構えを取る

 

ーフッ、シェアァァッ!!!

 

右肩に向けて伸びる翼飾りを持つ巨人ーニセウルトラマンキグナスが手を合わせた構えの後、脚技の演舞を魅せると共に右膝を高く上げて独特な格闘技の構えを取る

 

空にはシェダルの中継円盤が展開され、町中のスクリーンに2人の巨人が並び立つ夕景が映し出される

 

人々が突如現れた巨人たちに注目する中、2人の巨人はジリジリと距離を測りながら円を描くように回る

 

 

ー格闘に強いなら…光線でッ!!!

 

先手必勝。キグナスは白銀の十字を描いてノーザンクロスシュートを構える

それを見たニセキグナスは同様に漆黒の十字を描いて同じ構えを取る

 

ーリュオァッ!!

ーシェアァァッ!!

 

白銀の光線と黒銀の光線が衝突して拮抗する

が、ニセキグナスが力を込めるとその拮抗は途端に崩れて白銀の光線が押し込まれていく

 

ーシ、ェアァァァッ!!!

 

押し込まれた黒銀の光線が直撃し、キグナスが吹き飛ばされる

 

ーリュオァァァァッ!?!?

 

倒れ伏したキグナスを見据え、ニセキグナスが悠然と跳び上がる

 

起き上がったキグナスは一瞬ニセキグナスの姿を見失うが、直上から降り立ってきたにせキグナスの直下蹴りが胸に直撃し、よろめく

 

キグナスの正面に着地したニセキグナスは手を合わせた構えを再び取り、右膝を掲げる

 

負けじと突進し、キグナスが手刀を振るう

ニセキグナスは最低限の動きでそれを回避し、振るわれた右手を掴んで捻りあげると共に、膝蹴りを関節に打ち込む

 

ーぁ゛あッ!?

 

痛みに怯んだキグナスの腹にに容赦ない浴びせ蹴りが何発も打ち込まれ、更に掴んだ腕の関節を肩に叩きつけて軋ませて投げ飛ばす

 

悶えるキグナスにニセキグナスのストンピングが一発二発と打ち込まれるが、三発目をなんとか掴み、放り投げる形でニセキグナスを引き剥がす

 

投げられたニセキグナスは空中で体を翻して回転させながら、悠然と着地する

 

集中攻撃された右手を庇いながら立ち上がるキグナスを見据え、ニセキグナスはくい、くい、と手招きして挑発してきた

 

 

「余裕綽々ってワケ…⁉︎」

 

噴水公園からユウの肩を支えながらキリカがギリ、と唇を噛み締めながらキグナスとニセキグナスを見上げる

 

「……グレゴール人の格闘センスは随一だ。鋼の魔人と言われた宇宙チャンピオンもいるほどに……」

 

キグナスがなんとか組み付き、拳やチョップ、蹴りを当てようとするが、ニセキグナスはそれを回避、もしくは受け流し、より鋭い一撃で返礼してダメージを与えていく

 

「……戦い慣れていない星奈には、荷が重すぎる…ッ‼︎」

 

 

ーリュオァァッ‼︎

 

突進してくるキグナスの胸に鋭い蹴りを打ち込み止める

 

ーシェアァァッ!!!

 

その脚を軸にし、回転を加えて身を翻して連続で蹴りがキグナスに叩き込まれる

 

ーリュオァッ!?

 

キグナスはその蹴りのダメージに耐えかね、膝を突く

 

『弱い。弱すぎる…』

 

ニセキグナスが呆れたように呟き、首を振る

 

『何故貴様のようなヤツが力を手にする?力を振るう理由も、信念もない弱者が…何故だ?』

 

満身創痍になりながら、キグナスが横腹を押さえながら立ち上がる

 

ー……何故か、なんて…私にはわからない…

 

よろめきながらも、確かな目でキグナスはニセキグナスを睨む

 

 

ーでも、信念も理由も無いのはあなたも同じだ…ッ、あなたが戦うのは、勝手な理由を作っているだけだッ‼︎

 

 

震える手で構え直すキグナスを見据え、ニセキグナスは冷然と直立する

 

『言いたいことは、終わりか?』

 

ニセキグナスがキグナスへと跳躍

その肩をストンピングしながら更に高く跳躍する

 

翻ったニセキグナスの踵落としがキグナスの肩口に直撃、大きな火花を散らしてキグナスをうつ伏せに倒れさせる

 

ーが、は…ッ!?

 

あまりのダメージにキグナスは起き上がることができない

そこへニセキグナスが迫る

 

 

「セイナッ!!!!」

「く、そ…ッ⁉︎立て、セイナッ‼︎」

 

キリカとユウの声も虚しく、キグナスのカラータイマーが赤く点滅し始める

 

 

『ー終わりだ。ウルトラマン』

 

 

ニセキグナスが、高く脚を振り上げる

 

その瞬間ー

 

 

 

「ー負けるなぁぁぁッ!!!ウルトラマァァァァンッ!!!」

 

 

 

誰かの声が、キグナスー星奈の耳に響いた

 

☆☆☆

 

キグナスとニセキグナスの戦いが始まった様を、多くの人々が見ていた

もちろん、星乃宮(ほしのみや)中央学園から帰っている途中だった生徒の多くもその戦闘を見上げ、もしくはスマホのモニターで見ていた

 

 

「何?ウルトラマン???」

「なんで2人いるの?怪獣は??」

 

「待ってなんか戦いだしたんですけど、ウケる」

「うわー片方弱ぁ…」

 

 

自分たちの街が大変な事態になっているのに気づき、逃げ出す生徒もいる中、少なくない生徒たちは身勝手な感想を口にしていく

 

 

「宇宙人同士で喧嘩とか迷惑じゃね?」

「ウルトラマンも結局宇宙人じゃん。さっさと帰れよな」

 

「あの激弱なほう、もしかしてニセモノなんじゃね?」

「わかる!この前の怪獣倒した時みたいなキレも無いし、ホンモノがニセモノボコボコにしてくれてるんだよきっと!」

 

 

見物を続ける生徒たちが口々に優勢なニセキグナスへ声援を送り始める

 

そんな中、1人の女子生徒は橋の欄干を掴みながら劣勢な方ー本物のキグナスを見据えていた

 

「…………」

 

女子生徒ー河村(かわむら) 恵美(えみ)は黙ってキグナスに視線を送る

他の生徒たちは、強いニセキグナスが本物だと思っているが、恵美は劣勢になっている方が本物だとー星奈が変身した姿だとわかっていた

 

幼馴染の、友達だった少女の見たこともない姿に手が震える

 

『……友達って、そんなのなの?』

 

フードの少女ーキリカにかけられた言葉が頭に過ぎる

唇を噛み締め、俯く

 

ーリュオ…ァァ…ッ‼︎

 

悲痛なウルトラマンの声に恵美が顔を上げる

 

ボロボロになりながら、キグナスはまた立ち上がってニセキグナスを睨んでいた

 

その時、恵美はあることに気づく

 

立ち上がる銀の巨人

その握りしめた拳が、震えていることに

 

それを見た恵美は、あることを思い出して目を見開いた

 

 

小学校に通っていた時

河村 恵美はクラスでいじめられていた子を咄嗟に庇って、いじめられっ子に目をつけられてしまったことがあった

 

いじめの標的が移ってくるのを恐れて、多くのクラスメイトは恵美のことを庇おうともしなかった。庇ってあげた子ですらも、見て見ぬふりをしてきた

 

 

『………やめて!!!』

 

 

そんな中でも、恵美の前に立ってくれた子がいた

 

その少女は震える声を上げ、手を震わせながらも、両手を広げて恵美を庇ってくれた

 

涙を浮かべて、手も膝もがくがく震えていた

その子も、とても怖かっただろうに。でも、立ち上がってくれた

 

その後、もう1人の子が先生に事情を話したり、恵美たちの側に立って色々と話をしてくれ、いじめっ子たちは大いに叱られていじめはなくなった

 

その時の出来事がきっかけで3人は

河村 恵美、鷹宮 優里、そして市ノ瀬 星奈は無二の友達となったのだ

 

 

「ーッ!!!!」

 

恵美は駆け出した

無我夢中に、全力で

 

ただただまっすぐ、あの巨人のーキグナスの方へ

 

 

『ー今のセイナは、本当に前のセイナと違うの?』

 

 

キリカのもう一つの言葉がフラッシュバックする

 

「ばか…私の、バカッ!!!!」

 

恵美の頬を涙が伝う

 

怖かった。恐ろしかった

優里が死んで、星奈は訳のわからない巨人になって

 

2人とも私を置いていった

 

 

そう、思っていた

 

 

でも、違わなかった

 

私を庇ってくれた、あの震えていた小さな手

必死に立ち上がって立ち向かう、巨人の震える拳

 

私の無二の友達はそんなヤツだった

 

困っている人がいたら、声をかけようとして…それでも勇気が足りなくて手を引っ込めて、辛そうに俯くのを知っていた

 

とても怖がりで、内気で

でも、それでもー

 

 

ーそれでも、誰かのために立ち上がることのできる

 

ーそんな、最高の友達

 

 

「変わってない…変わるワケないじゃん!!!!」

 

衝撃によろける

目の前に、倒れ伏す巨人の頭があった

 

それが、無二の親友だと理解して恵美は息を吸い込んで思いっきり叫びを上げる

 

 

 

「ー負けるなぁぁぁッ!!!ウルトラマァァァァンッ!!!」

 

 

 

ーこの、声…

 

キグナスは、目の前を見つめる

自分の顔の前に立つ少女ー幼馴染でずっと一緒で、でももう元に戻れないと思っていた、河村 恵美が息を切らせてそこにいた

 

「ごめん…ごめんね……私、怖かった……昔から変わってしまったんだって…思い込んで……口も聞かなくて…ッ」

 

恵美が大粒の涙を溢しながらキグナスをー星奈を見上げる

 

「でも、変わってなかった……昔の、私のヒーローのままだった…恐がりで内気で…でも、それでも誰かのために立ち上がれる……そんな、そんな最高の親友……」

 

 

「ー今まで、1人にしてごめんッ!!!!立ってよ、私の…私たちのヒーロー…最高の友達……‼︎そんな、そんなニセモノなんかに、負けんなぁッ!!!!」

 

 

ニセキグナスが叫ぶ恵美を見下ろし、肩を竦める

 

『喧しい。消えろ』

 

ニセキグナスが恵美に向けて脚を振り下ろす

思わず恵美が顔を覆ってしゃがみ込む

 

が、衝撃は訪れなかった

 

 

ーリュオ、ァァァァッ!!!

 

 

ニセキグナスのストンピングをキグナスは受け止め、持ち上げていた

 

『ーッ、何故、まだ立ち上がる…ッ⁉︎』

 

ニセキグナスを押し返し、キグナスはー星奈は叫ぶ

 

ー確かに、私は怪物扱いされて、酷い目にもあった…でも、でもッ

 

 

ーそれでも、私は…守りたいもののために、この力を、使いたいんだッ!!!

 

 

ーリュオァァァァッ!!!

 

キグナスがニセキグナスを押し倒し、立ち上がる

 

 

「行っけぇ!!!先輩!!!!」

「負けないでください‼︎ウルトラマン!!!」

 

橋の欄干から未来とミラが並んで声を上げる

 

 

「負けるなぁ!!!根性見せろウルトラマンッ!!!」

 

食堂から飛び出して灯が声を上げる

 

 

「行け、セイナ‼︎」

「私たちがついてる‼︎負けんじゃないわよ‼︎」

 

ユウとキリカも精一杯の声を上げる

 

 

「負けないでウルトラマン‼︎」

「頑張って!!!」

 

 

街中から、少ないながらも確かに、キグナスに向けた声援が上がっていく

 

キグナスは確かに立ち上がり、ニセキグナスへと組み付く

受け流そうとするニセキグナスの手や脚を掴み、キグナスもチョップやキックを打ち込んで押し込んでいく

 

『ーッ!?この力、どこから!?』

 

キグナスのパンチをガードしながらも後ずさるニセキグナス

 

 

ーリュオァァッ!!!

 

構え直すキグナス

 

ーシェアァァァァァァッ!!!

 

拳を握りしめ、怒りを表しながらニセキグナスも構える

 

キグナスとニセキグナスの腕が交錯し、間髪入れずにニセキグナスの蹴りがキグナスの脇腹に突き刺さる

が、キグナスはそれを掴み、そのままタックルするかのように懐へと潜り込んでニセキグナスを持ち上げる

 

ーリュオァァァァァァ…ッ!!!

 

持ち上げたニセキグナスを肩で背負いながら回転し、近くの空き地に向けて投げ飛ばす

 

今までダウンすらしなかったニセキグナスが倒れ伏す

 

体のバネを使って跳び上がるニセキグナスは怒りも露わにキグナスに向けて跳躍し、鋭い蹴りをその肩に浴びせながら直上に跳ぶ

 

ーシェアァァァァァァッ!!!

 

必殺の踵落としがキグナスの肩に再び降ろされ、衝撃と共にキグナスが膝を突く

 

が、キグナスは再びその脚を押さえた

 

『ーしまッ!?』

 

 

ーリュオァァァァァァッ!!!

 

 

裂帛の咆哮

 

ニセキグナスが左脚を振り上げんとするよりも早く、キグナスの右拳が力強くかち上げられる

 

見ていた皆に緊張の沈黙が走る

 

確かな衝撃と感触

 

キグナス渾身のアッパーカットが、ニセキグナスの顎を捉えていた

 

「ーやった‼︎」

 

「よしッ!!」

 

ユウとキリカが喜びの声をあげ、恵美がガッツポーズをする

 

 

ービキビキッ

 

アッパーが突き刺さった顎を中心に、ニセキグナスの顔が割れる

よろめき、膝を突くニセキグナスの前にキグナスがよろよろと立ち上がる

 

ひび割れた顔が真っ二つに剥がれ落ちると共に、ニセキグナスだったものはその正体ー金縁の赤いマントを羽織る黒と黄金の体とひび割れた黒い頭部、鋭い赤い目を持つ異星人・グレゴール人シェダルの姿を露わにする

 

 

シェダルもよろよろと立ち上がり、キグナスを睨む

 

『…どうやら、信念も魂もなかったのは、私だったらしいな』

 

清々しさを感じる声でシェダルが自嘲気味に笑う

 

『いい拳だった…私の完敗だ。ウルトラマン』

 

シェダルがマントを翻す

それを合図として、リングの柱のようになっていた剣型のピラー群と円盤たちは空に現れた渦の中に姿を消していった

 

それを見送り、シェダルは今一度キグナスを見遣り、続いて近くのビルの屋上まで登ってきていた恵美を見る

 

『守るもの、か。考えたことも…なかったな』

 

『ー聞いていなかった。お前の名前はなんだ?ウルトラマン』

 

シェダルの問いにキグナスー星奈が胸を張って答える

 

ー市ノ瀬 星奈。ウルトラマン…キグナス

 

『キグナス……セイナ、か。いい名だ』

 

マントをたなびかせ、シェダルが背を向ける

 

『またいつか会うときもあるだろう。さらばだ、セイナ』

 

シェダルはマントを広げ、空へと飛び去っていく

 

夕焼けの空に黄金色の体が溶けて消えていった

 

 

「ウルトラマーーーーーン!!!」

 

飛び立とうとするキグナスの耳に恵美の呼び声が響く

そちらを向くと、恵美はスマホを取り出していた

 

「ピースして、ピース‼︎」

ーえ?こ、こう…?

 

困惑しながらも言われた通りピースする

それを恵美はスマホのカメラ機能で撮影した

 

 

「ありがとーーーーー!!!」

 

 

つきものが落ちた笑顔で恵美が手を振る

いつもの恵美に戻った姿を見たキグナスは確かに頷くと、夜の帷が降りつつある空へと飛び立っていった

 

☆☆☆

 

痛む体を押さえながら噴水広場に戻ってきた星奈

よろけて倒れかける体を、誰かが抱きしめて支える

 

「ごめん……星奈ごめん……私、私ぃ……」

 

わんわん泣きじゃくりながら恵美が星奈を強く抱きしめる

 

「優里が…あんなんなって……星奈も急に、巨人とかに、なるから…訳わかんなくなって……何回も家来てくれてたのに……私、私……」

 

「……ううん…恵美…だいじょ…」

 

大丈夫、と言おうとした星奈だが、言い切れなかった

決壊した大粒の涙が何度も、いくつも頬を伝う

 

 

「……ぅうん…怖かった…私、私……‼︎ウルトラマンになったの怖くて……ッ、でも恵美たち巻き込みたくなくて……ッ辛くあたって酷いこと言っちゃって……ッ‼︎ごめん、ごめんなさい恵美ぃ…」

 

 

ずっと言いたかった

でも言えなかった言葉が溢れ出す

 

抱き合ってへたり込んだ幼馴染の2人は、しばらくお互いに謝りながら泣き続けていた

 

それを見ていたキリカはユウに肩を貸しながら優しく微笑む

 

「……友達、か。やっぱ…いいわね…」

「……あぁ、同感だ」

 

 

「ねぇ星奈。あのウルトラマンって、名前あったりする?」

 

ベンチにユウとキリカも加えて並んで腰掛けた恵美が星奈に問いかける

 

「……よくわからないけど…なんか、頭に残ってるのはあって…」

 

胸ポケットを押さえながら星奈が答える

 

「私は、キグナスって呼んでる…」

「キグナス……ウルトラマンキグナス!いい名前〜」

 

恵美はスマホで何かを撃ち込んで星奈に見せる

 

「ねぇねぇ、こんなのどうかな?」

 

 

《話題のウルトラマンさん、ピースしてくれた‼︎》

《キグナスって言うみたい!優しい人だよ!》

 

 

先程写したピースサインを見せるキグナスの写真と合わせてそんな文面が書かれたSNSを見せる

 

「もちろん、星奈がウルトラマンってことは内緒!でも…ずっと得体がしれないって思われ続けるのも、なんか嫌だからさ…」

 

恵美がスマホで口元を隠しながら俯く

 

「……私にできる罪滅ぼし…これくらいしか、ないけど…」

 

星奈は首を振り微笑む

 

「ううん、すごく、嬉しい…‼︎ありがとう、恵美」

 

それを隣で聞きながらキリカが恵美に水を向ける

 

「忘れてるかもだけど、宇宙人投票サイトのアレは結局どういうことなの?」

 

キリカの問いに恵美はぶんぶんと手を振って否定する

 

「わ、私じゃないよ‼︎こんなサイト始まって…星奈まで投票対象になってるの見つけたから…どうしたらいいかわからなくて…でも、投票とか書き込みはしてないよ、私‼︎」

 

恵美の言葉にキリカが眉を寄せる

 

 

(……じゃあ、私とエミ以外にセイナの変身を見たヤツがいるってこと……?)

 

 

暗い、どこかの一室

スマホとパソコンディスプレイの明かりのみが照らす中、フードから垂れる艶やかな黒髪が闇に浮かび上がる

 

スマホの画面を反射する赤い瞳の中、キグナスと名付けられたウルトラマンがフレンドリーなこと、本当は怖い人じゃないのかもといったキグナスに肯定的なSNSへの書き込みが踊る

 

チッ、と舌打ちを一つし、少女ー黒鳥 御影がスマホをベッドに投げ捨てる

 

 

その背後のパソコンディスプレイには、《宇宙人投票》の「管理者用ページ」が開いていた

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

【ウルトラマンキグナス】

《2032/11/27修正》

【詳細不明の40m級の巨人】

【長らくウルトラマンとだけ呼ばれていたが、2032/11/20頃とあるSNSにおいて「名前を教えてもらった」との投稿があり、そこに記されていた名前が現在定着している】

 

【今現在、友好的な存在だと思うなど好意的な認識は70%代にまで伸びている】

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

■■数値:20%減少

■■■■指数:0654 理想数値を大きく下回る

 

迅速なる対処の協議を実行

 

提案:■■率をプラスへと変動。より強力な■■因子の誘導を喚起

 

 

P:4 N:2 A:1

 

 

議題承認

■■■■デバイス駆動

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「そういえば、そろそろあの日だったんだね…」

「お父さんに、届くかな…」

「……市ノ瀬さん。あなたならどうするんですか…」

「みんなでとびっきりのヤツ、選びに行くわよ!」

『オーッ!!!』

次回ウルトラマンキグナス
「届きますように」

甲虫怪獣タガヌラー登場















ークァァァァウゥゥゥン……


コス■イー■ー
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