一般農民になりたいのに最強達がそれを許してくれません   作:ワンカン

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お久しぶりです。正直どちらを投稿しようか迷い、文字を打っては消して、打っては消しての連続をしてました。まあ、どちらを早く投稿しようがどうでもいいのですが、変なところで迷ってしまいました。私の悪い癖ですね。


※今回もハリネ君視点じゃありません。とある新米教師視点でございます。


プチョヘンザ!!(聞き違い) 前編

 私はいま目の前の映像を見て衝撃を受けていた。それは私が生まれて初めて見る光景だった。試験場が光に包まれ、それが徐々に消えていくと、そこには何一つ存在せず、砂漠のように砂煙が立ち込めていた。中央に大きな陥没したような穴があり、そこには短い白い髪をなびかせた少年が一人立っていた。先ほどまでそこには対戦していた少年二人と少女がいたはずだが、その影はどこにも存在していない。どういうことだ、その言葉が頭を支配するが、それが私の口から洩れることはなかった。

 

 無表情で辺りを見渡しながら、その現状を淡々と確認するその少年に私を含めた教師陣一同が恐怖を覚えたのは言うまでもなかった。この試験を見に来ていた大神官達もこの光景に驚かれ、誰一人として言葉を発することができずにいた。ギャラリーとして見ていた在校生も我々と同様の感情が支配していると思われる。

 

「な、なんていうことだ……」

 

 とうとう言葉を発したのはここの最高顧問にして大神官の一人であるウルゴ様であった。歳の所為かそれともこの悲惨な光景の所為か弱々しい手を震わせながら、口元を抑えながら、必死に何かを耐えている様子だった。無理もない。私だってきっと立場が違えばそうしていたに違いない。そう思いながら、ウルゴ様に話しかけようと口を開こうとした。その瞬間だった。私の隣からグラスが割れる大きな音が響いた。

 

「あは……アハハ!!」

 

 笑い声がこの特別観覧席に響き渡った。大きく笑いながら、手を叩く青年……シンラは少年を見つめながら、大神官とは思えない下品な笑い声をあげていた。その口からは涎が垂れており、その姿はまさしく狂人だった。

 一定のリズムで刻まれるその手拍子、口から垂れる涎にシンラの隣にいた女性はひどく驚いていた。

 

「し、しんらさま?」

 

 彼女の言葉が聞こえたのか、彼は徐々にいつもの表情に戻り、口元を手で乱暴に拭った。

 

「いや、失礼、これはあれだ、俺の狂気だ、いや、なんとも……」

 

 シンラの言葉の意味が理解できず、我々は彼に対しての恐怖が一段と上がった。彼はまだ興奮がやまないのか、時々小さく肩を震わせながら、ぶつぶつと呟いていた。

 

「こんなクソみたいな茶番をいつまで見なければと思ったが……まさか、大きな収穫があるとは……」

 

 シンラはそう言いながら、立ち上がり大きな拍手を少年に送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……見事であったな」

 

 試合を見ていたこの学校の最高顧問であり、大神官であるウルゴ様は伸びた髭を触りながら小さくそう言った。近くにいた兵士が次の試合をする者のリストをウルゴ様に渡すと、そのリストをじっと見つめながらほぅと小さく呟いた。

 

 このエイシタン王国唯一の高等機関であるエイシタン高等学校では、入試試験の際にはこの学校の教師陣と国から選ばれた者しかなれない大神官が合否を決めなければならない。理由として将来このエイシタン王国を背負って立つ人物かどうかを見極めなければならないからだ。そういうことを踏まえて考えると、この学校に通っている生徒は極めて優秀な生徒であり、力もそこそこある人物でなければならない。かくいう私はこの高等学校の教師という立場だが、まだなったばかりであるため、合否を決められる立場でもない。しかし、見ていて損はないという意見をもらいこの特別観覧席にいるわけである。

 

 大神官はいわゆる皇帝を支える立場の人であり、その人物たちは決まって魔法や剣、あるいはスキルの才能が特化している人たちである。国の大事な物事の決定、あるいは行事にはこの大神官が参加し、それぞれ意見を述べ決定されている。

 ウルゴ様は他の大神官の人と話ながらリストを捲っていく。

 

「次はあのキリス出身の子か……」

 

「キリスというと、あの冒険者ギルドがある街ですか」

 

「そうですな……。名前はケンタ、コレイ、イレイ………ふむ、聞いたことはありませんな」

 

 キリスという街には冒険者ギルドがあり、よく冒険者のたまり場となっている。ほとんどそのギルドを中心で栄えたと言ってもいいくらいには、その周辺には酒場や宿泊施設などが立ち並んでいる。お金がない子どもたちは酒場で働いたり、冒険者の世話をしてお金を稼いだりしている。中には冒険者と仲良くなって、魔法や剣の技術を教えてもらう子どもも少なくないらしい。実際に街には行ったことはないので、聞いた話でしかないが、こうやってキリスから子どもが来るということは、この話は本当だろうと考えられる。

 

「かくいう対戦相手は……エイリアス出身か」

 

「ハリネ……こちらもきいたことありませんな」

 

 エイリアスというと、誰もが知る田舎の村だ。発展していくエイシタンとは異なり、いまだに農業が盛んな村で、人口もそこそこ。森に囲まれているということもあるため、狩猟をしている人もいる。キリスとは違い、冒険者はめったに来ないため、誰かに何かを教えてもらうということが、あまりないのが有名だ。時たま綺麗な景色を見ようとお金を余らせた貴族や雇われ魔術師などが観光として訪れることはあるらしいが、それ以外には基本的に都に住んでいる人は訪れない村である。そんな村の子どもがこの国の最高機関の一つであるこの高等機関を受けること自体が珍しいことである。

 ウルゴ様は若干目を鋭くさせながら髭を触り始めた。

 

「このハリネという人物は何者じゃ」

 

「まったくですな」

 

 ウルゴ様の言葉を聞き、私も手に持っていたリストに目を向けた。リストには推薦欄と得意としているもの、略歴が載っているため、その人物がどういった人物であるかはこのリストによって一目で解る。例えば、このキリス出身のケンタという人物は剣が得意とされ、街の冒険者に稽古をつけてもらっていたとされる。推薦欄にも冒険者の名前が書かれており、中には最高ランクの冒険者の名前がある。この国では名高い冒険者に推されているということもあり、技術としては相当のものがあると見込まれている。したがって、キリス出身の残りの二人も相当な腕前であることが解る。

 その紙を一枚捲ると、ウルゴ様の仰っていた人物の略歴が書かれていた。 その名前にはアグフォース・ハリネと書かれており、その推薦欄にはイルクの名前が書かれていた。

 

「イルクといえば……」

 

「ええ、王国の精鋭部隊であり、次期総統候補でございます」

 

「あの者からの推薦とは……」

 

 イルクとは、現在入学試験を受けているアカネという妹と、その姉であるミカサの兄にあたる帝国最強の精鋭部隊に所属されている貴族だ。しかも、次期その部隊のトップになられる御方である。その貴族の推薦という前代未聞な推薦である。

 しかもそれだけではなく、このハリネという少年はリストを見る限り、スキル、魔法、剣の才に長けており、得意なものとしてこの全てを掲げていた。ただでさえ、その一つを極めようとするのに生涯を費やすかというレベルであるのに、そのどれもを得意としている。もし、このことが本当であるならば、あの精鋭部隊所属のイルクが推薦をしていることも頷ける。さらには……。

 

「しかもこの実技、一人で受けるとは……」

 

「相当腕に自信があるのでしょうな」

 

 そう。この実技の試験、急遽チーム戦に変わったものの、このハリネという少年は一人でこの実技を受けようとしている。確かに事前に用意されていたパーティメンバーリストにもハリネという名前はどこにも存在していなかった。彼の妹であるアグフォース・ミーナはイルクの妹であるアカネ、ハリフォント家の最高峰とされるカズキと共に受ける予定であるにも関わらず、その中に彼の名前がなかった。少なくとも妹がアカネやカズキと交友関係がることがこのリストを見れば明らかであるため、この少年もこの二人と交友があると考えられる。以前開催されたU―18の魔法大会優勝者であるミーナという少女が一人でこの試験に臨むというならまだ理解できるが、この兄はその大会にも出場した形跡はなく、なにか特別な成績を残したとされる記録も存在していない。彼にも妹みたいなすごいものを持っているのだろうか。そもそも、この妹もエイリアス出身であるにも関わらず、魔法が使えることがすごいことであるが、それでもパーティを組んでこの試験に臨んでいるのだ。それを考えても、彼がよほど自分の力に自信がある表れだと言っていいだろう。

 

「ともかく、この試合は見ものですな」

 

「そうですな」

 

 ウルゴ様たちの会話を聞きながら、私も心の中で頷いた。この試合は先ほどのような試合とは違い、何かが起こるような気がしている。キリス出身者の冒険者推薦の少年が勝つか、それともこの謎が多いエイリアスという田舎の村の少年が勝つか……。見ものである。

 

「へっ……こんな茶番に、見ものもクソもあるか」

 

 ウルゴ様の言葉に横槍を刺したのは、大神官の一人であるシンラという青年であった。彼はくるくると茶色い液体の中に黒い球体が入ったグラスをゆっくりと回し、舌打ちをした。首から何個もさげている金のネックレスが彼の動作により左右に揺れる。

 彼はその若さから、まだ大神官という役職が似合わない青年ではあるが、特例により皇帝の推薦を受け、去年に大神官の役職に選ばれた者であった。

 

「こんなくだらない試験のためになぜ俺が出向かなければいけないんだ」

 

 シンラの呟きは独り言としては大きく、まるでウルゴ様のことを揶揄しているようだった。彼はゆっくりとグラスを口に持っていくと、再び言葉を並べた。

 

「俺の時間を返してもらいたい。ガキの試合なんざ見たところで、飯のタネにすらならないんだよ」

 

 シンラの言葉をじっと聞きながら、この場の空気に耐えていると、とうとうしびれを切らした他の大神官がシンラの名前を叫びながらその場で立ち上がった。

 

「シンラ!!」

 

「なんだよこの能無しが」

 

 席を立った大神官はすかさず、彼の目の前まで歩き拳を握り、怒りをあらわにしながら肩を震わせた。

 

「ウルゴ様に向かって何たる態度だ!!」

 

「じじぃの名前なんか忘れたよ」

 

「きさまぁ……!!」

 

 大神官がシンラに殴りかかろうとした瞬間に、大神官の動きが止まった。まるで金縛りにあったような強い何かにより動きが止まったのだ。どうしたのだと、疑問に思い目をやると、シンラの隣に座っていた黒髪の女性が大神官に向かって手をかざしていた。まじまじと見ると、小さな魔法陣がその手に形成されていた。彼女はもう片方の手で長い髪を触りながら、言葉を並べた。

 

「あら、だめよぉ。シンラ様に手を出しちゃいけないんだからぁ」

 

 のんびりとした口調とは違い彼女の力は強力であった。いち大神官がこうもあっさり動きを止められてしまうことなんてあるのか。私は目の前の光景を疑いながら、生唾を飲み込んだ。

 

「サアラの言うとおりだ………。貴様は誰に向かって手を出そうとしているんだ?」

 

 このシンラという人物は、昔から素行が悪く、よく都に住む住民からも多数のクレームが入ってくるらしい。都に住む誰それの娘をナンパした、タダ飯を要求されたなどこれまた犯罪になり得そうな行為が頻発に行っているらしい。そんな奴がなぜ大神官の位を有しているかと言われれば、これは噂でしかないが、彼の力があまりに強力なため、職をわざわざ皇帝が与え、彼の行動に制限をかけているらしい。この噂は都では有名な話だが、本当にそうであるのか疑問であった。しかし、この状況を踏まえて考えると、そうであってもおかしくはないように思えてくる。

 

「んで?じじぃの言うガキはこいつのことか?」

 

 シンラはパンとリストを叩きながら、床にその紙を放り投げた。片方の手でグラスを持つと、やけに太いストローを口にくわえた。

 

「座学の試験はゼロ点、おまけにその解答だってめちゃくちゃ……はなからこいつは受ける気ゼロだ。とうとう目がぼやけたんじゃないか?くそじじぃ」

 

「き、きさま……」

 

 金縛りのように動けなくなった大神官が身体を震わせながら、その言葉を吐く。その光景をじっと見ていたウルゴ様は傲慢な態度をやめないシンラを見かねてか小さくため息をついた。

 

「やめんかシンラ……。こんな公の場で騒ぎを起こすものではない」

 

「騒いでいるのはこいつだろう?」

 

「だとしてもじゃ。ほれ、シンラの付き人……魔法を解いてやれ」

 

「どうします?シンラさまぁ」

 

「あーわかったよ」

 

 彼女はシンラの言葉を聞き、魔法陣を消して大神官の拘束を解いた。やっと動けるようになった大神官は怯えながらも、シンラを睨むがそれをウルゴ様が制止させた。その光景を見ながら、シンラは小さく鼻で笑った。

 

「う、ウルゴ様いいんですか!?」

 

「よせ、お主が勝てる相手ではない」

 

「し、しかしウルゴ様を侮辱__」

 

「もうよい、第一シンラの言うことはあながち間違っとらん」

 

 ウルゴ様はこめかみに手を当てながら、困った表情を浮かべながら、水を飲み干した。

 ウルゴ様の仰ったあながち間違っていないという言葉はシンラが先ほど口にしていた座学の試験のことだろう。このハリネという少年、座学の試験の解答はどれも正解をしていない。例えば魔法に関する小論文であっても、畑の耕し方について書いていたり、スキルの発動条件に至っては、キゾクオブキゾクの略し方についてという訳の分からないものを書いていたりと、ともかく内容が無茶苦茶である。たまに記念受験のように受ける者もいるそうであるが、先輩教師に聞くとここまでいい加減な書き方をされたのは初めてだったと語っていた。

 

 シンラはそのことを引き合いに出したのだろうと推測できる。先ほどまで金縛りにあっていた大神官はまたシンラの元まで歩んでいく。

 

「お前がそうやれるのも今のうちだからな……!!ゆくゆくは私が__」

 

「うせろタコ」

 

「きさま……!!そもそもなんだ!?その得体のしれない飲み物は!?気持ち悪い!!」

 

「とうとう言葉が無くなって論点の切り替えか?これはだなぁ……これは俺の故郷で流行っていたタピオカミルクティーというやつで、この黒い球体のタピオカが癖になるんだよなぁ」

 

「貴様の故郷はこの都ではないか!!」

 

「うっせー野郎だな……ともかく、流行ってたんだよ、東京ではな」

 

「なんだそのトーキョーというのは!?」

 

 彼らの喧嘩は発展してゆき、とうとうシンラが飲んでいる飲み物にまで悪態をつくようになった。はたから見てもこの大神官の立ち位置は噛ませ犬という立場がぴったりであり、誰が聞いてもそうとしか答えないだろう。

 大神官は自分の席に戻り、大きく舌打ちをした。もう自分が勝てないのを知ったのか、その瞳には悔しさがにじみ出ていた。ウルゴ様はその様子を見て、小さく咳ばらいをした。

 

「そろそろじゃな……」

 

「そうですな」

 

 各自の机に備えられた転映水晶の映像を見ると、試験場に先ほど話題に上がっていったハリネという少年とキリス出身の三人がそれぞれ入ってきた。

 案の定キリス出身のケンタは剣を腰に備えており、イレイという少女とコレイという少年もそれぞれ杖や短剣をもって試験場に現れた。一方ハリネという少年は何も武器をもっておらず、試験場を見渡しながら歩いてくる姿が映し出された。

 転映水晶はその映像の音声も拾うので試験場の会話が聞こえてくる。

 

「まずは名を聞こう!!」

 

 声を大きくしてそういったのは、ケンタであった。後ろに立っている二人もそれぞれ身構えながら顔を険しくさせた。一方ハリネという少年はそれに対して目を鋭くさせ、それ以上の様子はない。

 その様子を見て、ケンタは小さな声で二人と会話した。

 

「応答なしか」

 

「話す気がないということだね」

 

 ケンタの言葉に反応したのはコレイという少年だった。彼は小さく頷きながら、持参したポーションの蓋をあけ、勢いよく飲み干した。

 赤色の液体であったため、身体強化のポーションであることが確認できる。

 

「イレイ、アイツの特徴は?」

 

「ちょっと待って」

 

 ケンタの言葉に今度はイレイという少女が杖をハリネにかざした。小さな光が杖から発光されると、彼女はすぐにケンタに報告する。

 

「あの人に魔力は感じないよ?それにスキルも持ってなさそう」

 

「なに?」

 

 ケンタはイレイの言葉に目を鋭くさせながら、対峙しているハリネをまじまじと見つめ、ハリネを見つめた。

 

「じゃあ剣か?いや、見たところ何かを持っている様子もないし……」

 

「……ステゴロという説は?」

 

「それこそないだろ」

 

 ケンタとコレイの会話にイレイが注意を催した。

 

「ただ、あの宝石にだけは注意して」

 

「なんだ?なにがあるんだ?」

 

「あの宝石、よくわからないけど、すっごく魔力が込められているみたい」

 

 彼女の言葉に二人が眉間に皺をよせながら、ハリネの胸辺りを見る。確かにそこには歪な形をした宝石がぶら下がっていた。

 

「なんだあれ?気持ち悪い」

 

 ケンタがそう言ったのは、あの青く光る宝石のことであろう。あれがどういう作用をもたらすのかは定かではないが、あの形はともかく不気味な形をしていた。

 私もハリネという少年が首から下げている宝石が気になり思わず転映水晶を拡大する。歪というか、なんというか……。この形はいかにも心臓の形だ。

 

「あれは心臓だな……」

 

 小さな声でそう言ったのはシンラだった。その声に横にいたサアラという女性はうなずいた。

 

「あれに強力な魔力を感じますわね」

 

「だな。だが、それだけだ。それ以上はない」

 

 彼らの会話がウルゴ様にも聞こえたのか先ほどのように髭を触り始めた。

 

「そうじゃな……。わしの勘違いだったかのぉ」

 

 ウルゴ様の呟きにシンラは鼻で笑い、またグラスを口につけた。その姿にサアラはシンラと同じように鼻で笑った。

 

「つまらん試合だ……」

 

 シンラがそう言った瞬間、大きな音が響き渡った。転映水晶から反映された音かと思ったが、それにしては随分大きい。であるとしたら、試験場から直接響いた音ということになる。

いったい何が起きているんだ?そう思いながら水晶を覗くと、そこには大きな穴ができており、その中央に先ほどポーションを飲んでいたコレイが口から血を流しながら倒れていた。

 

 私がシンラに気を取られていた隙に何が起こったのだろうか………。誰が見ても、コレイの傷は致命的であった。これでもかというくらいの傷跡からは絶え間なく血が流れ、目からは完全に光を無くしていた。

 これにはさすがの大神官全員が驚きを隠せないでいた。あのシンラでさえグラスを飲むのを忘れ、水晶を覗いていた。ここにいる全員の目をくぎ付けにさせた張本人は冷めた目で、その現場を覗いていた。

 

「あーあ、やっちゃった」

 

 ハリネは他人事のように言いながらその大きな穴に向かって歩き出す。これは彼らが戦い始めてからまだ数分の出来事であるが、それを自覚しているのは多分誰一人もいないだろう。ハリネの顔が微かに笑っているのを見て私は何かとてつもない恐怖を感じ、手が震えた。

 

「すごい力だな……。これはいいものが見られそうだ」

 

 シンラの言葉が私の耳に入り、思わずシンラの方に顔をやった。彼は私が見たこともない笑みを浮かべながら、食い入るように水晶を見つめていた。

 

 




長くなったのでいったんここで切ります。
次の投稿は土曜日です。それができなかったら、火曜日には絶対投稿しようと思います。
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