一般農民になりたいのに最強達がそれを許してくれません 作:ワンカン
二話分を一話にギュッと濃縮しました。
あの悪魔の誕生日パーティの翌日、僕は村の中央にある日陰でぼんやりと空を眺めていた。
雲はゆっくりと頭の上を通過し、のどかな雰囲気が漂っている。たまに小鳥の囀りが聞こえてくるあたり、やはりこの村は平和だなぁと感じる。
このままゆっくり寝られたらどんなに楽なものだろうかと考えながら、その場で寝転ぶ。地面に固い雑草が生えているため、背中がチクチクしてむず痒い。上ではやはり雲がゆっくりと動いており、何も仕事がない唯一の休みを満喫したくなった。
この部分だけを切り取れば、なんて平和な休日だろうと自分でも思う。いっそのことこのまま、目を閉じて眠りについても誰にも怒られないような気がする。しかし、これはあくまで気がするという話だ。現実というものは、そううまいこと進まないというのは、いやというほど知っている。
僕も子どもながらにして、一応農家の手伝いをしている身だ。天候の悪化、気温の変化、害虫、家畜の体調……。数えていけばきりがないが、そういうものが続くことだって十分あり得る世界で努力していたのだ。思いがけないことなんてしょっちゅうである。だからこそ、そういうものだと割り切らなければいけないのだ。つまり、不幸を受け入れる覚悟というものが人間には必要ということだ。
だから、後ろの草原でズドーンという音が聞こえることくらい気にせず寝なければいけないのだ。
父に僕の実力を見せる時間が近くなると、僕はのそのそと準備しながら外に出る。
すごく重たい剣を左手に、なんかよくわからない水晶を右手に持ち、体でドアを開けると、アカネとカズキ、そして妹のミーナが待っていた。妹は鼻息を荒くし、幼馴染二人が屈託のない満面な笑みなのがムカついてくる。
「おっす!いい天気だな。まさしく試験にふさわしい試験日よりってやつだ」
そんな言葉聞いたことないわ。
「まったくだわ!!私の力を見せるいい天気ね!!」
私って言っちゃった。今私って言いましたよね?僕が受けるって話はどこへいったんですかね?
「魔法はまかせて」
任せられないよ。お兄ちゃん、すっごく心配になってくる。頼むからこちら側に来てくれ。邪知暴虐な二人を止めてくれ。
あと二人もうんうんと頷くのやめてくれませんか。すっごく怖い。
この瞬間に僕はハッと気がつく。この三人は絶対に何かをやらかすくさい。僕の直感が正しければ、何かとてつもないことが起こりそうなのは間違いない。見ろ、この二人のすっごい笑みを……前にも見たぞこれ。それぞれ違う場面でこの顔を見たことあるぞ。
二人一緒の時にこの表情を見るのは初めてだが、これはいつぞやに見た笑みとそっくりだ。ミーナもそのやってやるみたいな鼻息やめて。それも前に見たことあるから怖い。
この笑みを浮かべているカズキを最初に見たのは、僕が薪を作るための木を切らなければならないから、遊ぶことはできないと話した時だ。そういった時、彼は屈託のない笑みを浮かべながら僕に向かって、じゃあ、俺もついていくよと言われた。森に入るや否や、辺りの木々は一瞬にして薪になり、僕はその木々の中心で放心状態だったが、彼はそんなことお構いなしに、きれいな笑みを浮かべた。
「仕事、終わったよな?終わったんだよな?遊べるようになったよな?」
ああ、この子頭おかしい。
この言葉が口から出なかった僕を誰かほめてくれ。それかなぐさめてくれ。
彼はどうなんだと言いたげな様子で僕に迫る。そんなの頷くしかないじゃん。僕が首をヘッドバンキングすると彼は僕の手を引いて、薪を拾い上げる。
「この手の仕事は全部俺がやるから、お前は俺と遊んでればいいんだよ」
ああ、この子やっぱり頭おかしい。
二人で薪になってしまった残念な木を拾い上げ、父に持って行った。あっという間に帰ってきた僕となぜかいるカズキを見て父は疑問を感じていたが、薪を見せると腰を抜かしながら口をあわあわさせていた。
「おま、おま……は!?」
「ハリネが一人でもっていくのは大変だからって俺をこき使うんだぜ?ひでぇよなぁ」
カズキ、君がもし今後も僕と仲良くしたいなら、そういう言い方はやめてくれ。それだと僕が一瞬で薪を作ったみたいになるでしょうが。
その後、村に噂が広まったのか、僕は薪割の新生と呼ばれるようになった。
アカネのこの目を最初に見たのは、お忍びで来ていた貴族の息子に泥を投げつけられ、腐れ農民がとかなんとか言われた時だ。泥が服につき、洗わなければと思っていた矢先、アカネが遊ぶために僕のところにやってきた。泥だらけな服を見て、驚きよりも心配な表情を浮かべながら、どうしたのと聞いてきたので、素直に答える。僕はあまり思うところもなかったが、アカネはうつむいて、身体を震わせていた。あ、これ怒るなと思い言葉をかけようとすると、彼女は素早く顔を上げた。彼女はどんな男子も落とせるような笑みを浮かべながら、僕の手を握る。しばらく見つめあったのち、彼女が先に口を開いた。
「殺させる?遺書書かせて自殺させる?」
「お願いだからやめて。謝罪だけでいいから」
僕は間髪入れずに彼女の考えを否定する。それでも、彼女はさらに握る手に力を込めながら、顔を近づける。
「ええ?殺した方がよくない?ハリネのそういう神すらも超越するくらいのやさしさはいいけどさ、それにつけこむバカで幼稚なクソの役にも立たないドクズのような人もいるんだよ?ハリネ、私うまくできるコツ知ってるの。自分のスキル試したいし……で、どうする?誰かに殺させる?自殺させる?」
君のスキルはそういうこともできるのか。完全犯罪できるね。わかったから早口でまくしたてないで。怖いから。あと恐いから。
そんな冗談が頭に浮かぶほど、彼女は行き過ぎている。頭のネジが外れちゃっているのことが分かったのはこの出来事があったからだ。うーん、スキルを神様はなんでこんな子に授けたのだろうか。恨むしかないね。
その後の展開はどうにかしてアカネを宥め、ことなきを得た。
しばらくすると貴族の息子と父親が僕の家に来て、泣きながら土下座をし、自身の財産をすべて差し上げますとか言いながら、契約書を持ってきたことで終わった。
「かみさまぁぁ!!すいませんでしたぁぁ!!」
「僕はドクズで生きる価値もございません!!どうかこの泥を投げたこの腕を神様自身で切り落としてもらえませんか!?」
僕はもちろん家族もどうしていいかわからず、混乱状態に最初はなったが、そんな契約書を見て、さらにドン引きしていった。なんだこいつら、というよりアカネに対してのお前なにしたのというのが僕の中では強かった。
お金も腕もいりませんと答えると、二人とも僕向かって、かみよ……。おお、神よと言いながら僕の手に唇をつけていく。それを見たミーナが、そっと黒色の魔法陣を形成していく。それを見た僕は彼らの前に立ち、帰れと命令すると彼らは走って帰っていった。
後日、アカネにそのことを話すが、彼女はさも当然のように答える。
「当然の結末ね。ハリネ、これからはこういうことがあったら私に言いなさい。私がいれば、あなたは傷つかずに済むから。あ、私も手を汚さずに始末できるから安心して。今回はアンタから許可もらえなかったからできなかったけど、そういうこともできるのよ?私を誰だと思ってんの?」
……そういう意味じゃないんだなぁ。やっぱりこの子も頭おかしい。
この時カズキの顔が頭に浮かんだ僕はまちがっていないだろう。
妹のその鼻息を見たのは、僕に新しい友達ができそうになった時だった。
畑でいつものように耕していると、いつも見ない少女が畑仕事をしていた。じっとこちらを見ていたので、会釈すると、笑顔で小さく頭を下げた。休憩中に彼女に話かけると、どうやら、僕よりも一個上ということが判明した。少女の家族は娘の一人っ子で、後を継ぐ者がいないらしく、仕方なく、畑や家畜の世話などを任せられているそうな。当時の僕は十三であるから、彼女は十四。その前までは家で裁縫の練習をしていたのだが、いい加減彼女にもこちらの仕事をするべきだということで、父親が無理やり働かせているらしい。仕方ないとはいえ、少し同情はする。
そんな話をしていると、ミーナが現れた。どうやら裁縫にあきたらしい。君らしいね。街を壊滅させたり、勇者やっつけたりするのが前の仕事だからか、なかなか細かい仕事ができないらしい。ミーナは、こてんと首をかしげながら彼女を見て、誰?と呟いた。
彼女の性格は物静かでおしとやかといった印象で、アカネのような活発さがないので、人見知りだと判断した僕が、彼女の代わりに自己紹介をすることにした。
『僕の友達のエレナだ』
ここで僕が友達といったのは単に仲良くなりたいという意味も込めれている。エレナは恥ずかしそうに会釈をし、ミーナを見る。うーん、このおとなしそうな性格はいいな。ぜひとも僕の仲間になってほしいものだ。ほら、最強しかいないと僕と同じような子の友達が欲しくなる。そう思っていると、ミーナは間もなく彼女に向かって問い詰めた。
「おまえ、つよい?街、滅ぼせる?」
ミーナ、農民に対してそんなこと言うものじゃありません。元魔王が顔をだしているぞ。 ほら、エレナを見なさい。困っているでしょうが。
彼女は困惑しながらもあわあわと両手を左右に振りながら、首も左右に揺らす。うーん。この表情、動作……。もう言うことなしだ。まとも枠決定だね。
僕はこの時、ますます友達にしようと思った。幼馴染二人はすっごくぶっ飛んでいるし、ミーナも性格が怖い。そう思うとまとも枠が僕だけじゃ不安だらけだ。
僕がそう思っていると、エレナの否定はますます強くなる。
「そ、そんな……。街なんて壊滅できないよぉ」
語尾によぉって伸ばすとかもう最高。君、僕の親友枠決定で。
「そう、じゃあ必要ない」
ミーナは独り言のように呟いた。
「へ?」
「うん?」
僕とエレナの疑問な声が漏れると、ミーナは手を彼女にかざした。掌から黒い魔法陣が見えると、エレナは黒色の炎に包まれ跡形もなく消えていった。最後の言葉が小さく漏れた、あっという一言だった。
どういう状況下掴めず、その場で固まっている僕を覗くように見るミーナ。その顔からはお兄ちゃん、どうしたの?という声が聞こえてくるような表情だった。
僕は乾いた唇を動かしながら、理由を聞いた。まとも枠が一人減ってしまったじゃないかという感情をのせながら話す。
ミーナは自信満々に鼻息を荒くし胸を張る。おっとぉ?怪しくなってきたぞ。お兄ちゃん、少し怖くなってきたぞ。背筋ゾクッてなったぞ。
「ミーナ、アカネ、カズキ、みんなつよい」
「……ん?そうだね。でもそれが殺すことと関係ないよね?」
「つよいやついがい、おにぃの周り、いらない。だから消した」
ミーナちゃん、出ちゃってるよ。魔王様がこんにちはしてるよ。鼻息荒くしながら、自慢するように言わないで。消せた私最強みたいに言わないで。
「そ、それでも僕にはひつ____」
「ひつようじゃない、だから消した。ミーナ、すごいつよい」
「さいですか。お兄ちゃんちょっと頭痛くなってる」
もうだめだ。考え方が魔王様になってるわ。いや、前からこんなものだったかな。考えるのやめたくなってきた。
僕はこの魔王には何を言っても無理だろうと判断し、視点を変えて、それでも人が消えると、村がパニックになるからやめてくれと頼む。このとおりと言わんばかりに手を合わせながら、魔王にお願いチャンスをしてみることにした。
最恐の魔王はじっと僕を見つめる。
「つよいやつしかいらない」
「わかったからあの子生き返らせて」
「わかった」
魔王はすぐさま普通の魔法陣を形成し、エレナを蘇らせた。
彼女は何がなんだかわからないという表情を浮かべながら、魔王と僕を交互に見ると、誰ですか?と問いかける。ハリネですと言いながら、彼女に近づくと酷く嫌な顔をしながら、一歩後退した。
その事実は僕を困惑する材料になったのは言うまでもない。
「な、何だか知らないけど、近寄らないでください」
「……エレナ?どうしたの?」
「な、なんで私の名前知っているんですか!?気持ち悪い!!」
彼女はそういいながら、走っていった。
なんだ?という疑問感じながらミーナを見ると彼女は僕を見ながら、腕を腰に当てながら、また鼻息を荒くさせる。
「つよいもの以外、おにぃの隣は必要ない」
君はさっきから、それしか言わないな。説明になってないよ。どうやら隣にいる魔王様は頭が弱いらしい。僕の考えが理解できないのは頭が弱いからというのは理解できた。元魔王様は戦闘狂だったのかな?お兄ちゃん的には魔法じゃなくて普通の女の子になってほしいな。
後日、幼馴染二人にそのことを話すとカズキは首をかしげながら、アカネは吹くように笑った。
「普通のやつと遊べないだろ?お前、何考えてんだよ」
「わかってないわね。ミーナの力を試したくて話しかけたのよ。そうよね?」
「あっ、そういうことか……わりぃ!!俺さ、剣の才能しかないから頭悪いんだよ」
「全く……。ハリネもそんな言い回ししたら、カズキが理解できないでしょ?」
「悪かったよ。今度は俺が話しかけてくるよ……弱いやつに」
声を出して笑いあう二人についていけなくなった僕はその場から離れようとしたが、いつの間にか両隣に彼らがいた。最強の考えがとうとう分からなくなったのは、この年のこの事件からだった。
そんなことがあってか、この三人のうち、誰一人としてやばくない存在はいないと同時に、この笑み浮かべているときは、絶対にろくなことがおきないのだ。しかも鼻息ミーナが結託しているときた……もうあきらめてもいいよね。そんな感情が芽生えるが、僕としても譲れないものがあることを思い出す。
都に行けば、毎日勉学や魔法の勉強、騎士としての技術に、スキル強化等の僕が何一つできないものが待っている。羞恥プレイといっても過言ではない毎日だ。君らだけで行ってくれよ。頼むから、そんなことに巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。
僕は三人に向かって口を開く。
「あのさ、僕の試験だから、君らは関係ないよね?」
「はぁ?なんでだよ」
「そうよ、親友でしょ?」
「妹としての義務」
あれ、なんでそんなこいつ何を言っているのかわからないみたいな顔しているの?
君らが活きこんでどうするのという話をしているのだけど。
「君らが意気込んでも僕の試験だよ?関係ないじゃん」
「だからお前は受けなくてもいいの!!」
カズキ、全く訳が分からないから順を追って説明してくれ。
「それこそアンタが受けたら嘘だってお義父様にバレるでしょ?」
それは理解しているのね。じゃあ、なんでこうなっているのか説明してくれると助かる。
「三人でハリネになって試験する」
だからなんでそうなるのか説明しろって。頼むから、まじで。ていうか、そんなこともできるの?最強すぎるだろ。
僕の気力がなくなりつつあると同時に、恐ろしさが強くなる。 いったい何が始まるかなど見当もつかない。しかし、だからといってここであきらめるわけにもいかない。この三人にはあきらめてもらう。
「あのさなんどもいうけど____」
「ハリネ」
アカネが僕の肩に手を置きながら、僕を見つめる。その瞳が怖くてつい口を閉ざしてしまった。後ろの二人も、アカネを先頭に、一歩僕に近づいている。
「私たちに任せて」
「……あい」
腑抜けた返事しかでなかった。
もうどうにでもなりやがれ。
意識を眠るように集中させると、今度は樹木が倒れる音がした。カズキの仕業だろうか。きっとすごい剣術でも披露しているのだろう。父はどう思うのか、そう考えるとやはり眠れない。いっそ見に行くのもありかな。そもそも、あの三人は僕にどういう風になりすまして試験をしているのか、見当もつかない。不安が募るばかりだ。
気怠い身体を起こしつつ、音がしたほうを見るが、辺りは草原が広がっているだけだ。ずいぶんと遠くのほうで試験が行われているのが分かる。確か父の所有している森だったか。ここからだと相当遠い。まさかあそこからこんなにもすごい音が響いているのか。何やっているのかますます気になるし、めちゃくちゃ不安になる。
父が認める以前に、村の住民が僕を恐れるのではないだろうか。 そう考えると、いてもたってもいられない。
僕は森に向かうべく立ち上がる。
「ハリネ」
向かおうと意気込んだ瞬間、後ろから声がかかった。振り返るとミーナが立っていた。 相変わらずの無表情だったが、鼻息ミーナちゃん状態だった。
「終わったから、迎えに来た」
ああ、終わったのね。僕の人生が。
「そっか、ほかの二人は?」
「森の中」
ミーナは移動魔法が使える。僕の気配を察して、瞬間魔法でここに転移してきたらしい。チートというのは妹にふさわしい言葉ではないだろうか。いや、というよりあの三人にふさわしい言葉か。
そんなミーナに、結果はどうだったという質問をするのは無粋だろう。それよりも父の反応が知りたい。
「父上はどうだった?」
「……?」
おっと、ミーナちゃんには理解できなかったか。失敬、失敬。
「父上はどんな反応してた?」
まぁ、確実に立派な息子だなっという反応ではないことは確かだろう。なんせ、今まで農民です、といった感じの息子がすっごい魔法を使い、すっごい剣術を披露し、すっごいスキルを見せたんだ。驚くというより恐ろしいという感情が強いだろう。僕だったら、腰が抜けるレベルだ。
「もらしてた」
「……ん?」
もらす?もらすってなに?あ、声がもれた感じかな?ほぉすごいなみたいな反応ではないだろうから、多分前みたいにあわあわしながら、言葉にならない言葉を漏らしていたのかな?まぁ、そういうものだろう。普段から何も特技という特技を持っていない息子が、いきなり剣が使えて、魔法使えているからね。声が出なくなっても不思議ではない。
僕は苦笑しながらミーナを見る。
「またあわあわしてたんだ?まそうだよね」
「……?ちがう」
「なにが?声がでなかったんだろ?」
「おしっこ、もらしてた」
「……誰が?」
「父」
「うっそだろぉぉぉ……」
え?おしょんしょん漏らしたの?大の大人が?森の中で?十五の子どもと自分の娘の前で?
ていうか、どういうレベルのことしたの君たち。父の名誉もずたずただろう。
ミーナは現実を理解していない僕をよそに、魔法陣を形成させていく。一瞬光ったと思ったら、森の中だった。わーすごい。魔王様すごい。十三歳の女の子が転移魔法してる。
あたりを見渡したが、森の様子は変わったところがない。先ほどいた場所からでも聞こえるくらいには大きい音がしたので、きっと森も大変なことになっているような気がしたのだが、特段と変わった様子がない。
そんな僕を察してか、ミーナは服の袖を引っ張る。
「再生魔法は誰でも使える」
へー……。もう何でもありなのね。わっかんね、この子わっかんね。
「あそこ」
ミーナの指した方を見ると、二人の後ろ姿が目に入る。まっすぐ目線下げずに、グータッチをしているのが不覚にもかっこいいと思ってしまった。いけない、惑わされてはいけない。こいつら、幼馴染の父に汚点をつけたやつらだぞ。まちがっても、かっこいいとか思ってはいけない。
ミーナが連れてきたと呟くと、二人は振り返り、僕の顔をみるやいなや走ってくる。
「ハリネ!!やったじゃない!!」
やめて。そのテンションやめて。こちらはやられた側だぞ。
「相棒!!やったな!!」
だからやめろ。あと相棒じゃない。
アカネは走りながら僕に抱き着き、カズキは僕の右手を握る。女子特有のいい匂いと柔らかいものが当たるのはうれしいが、できれば頭を正常に戻してから抱き着いてほしい。
アカネはうれしそうな顔をしながら、抱きしめながらぴょんぴょんはねる。キスできそうな距離だが、間違ってもそんなことはしない。こちらとしては恋愛感情は皆無だ。
「認めてくれたじゃん!!さすがハリネ!やればできるじゃない」
もうむちゃくちゃだ。認められたのは君だろう。僕はなにもやっていない。
「すごい剣だな!!さすが相棒だ」
だから君の剣術だろう。そりゃ最高峰とまで言われているのだから、すごいのだろう。お願いだから、僕がやりましたみたいに言わないで。あと相棒やめろ。
「魔法もすごかった」
もう意味が分からない。なんだ?どういうことか説明をしてくれ。それぐらいの権利は僕にもあるだろう。
「僕じゃなくて、君たちだろう?」
「ハリネ!!!」
抱き着いていたアカネが僕の名前を叫びながら、僕の口をその小さな手で抑える。
彼女はそっと耳元近くまで顔を寄せる。息がかかってくすぐったい。
「お義父様にスキル使っているから、静かにして」
父に?そう思いながら、もう一度辺りを見渡す。森の変わらない風景が広がっているが、少し違和感を覚えた。端の方で死んだ魚の目をしながら倒れている父が目に入る。本当になにやったの。しかも本当に漏らしてるじゃん。地面濡れてるし。
「催眠スキルつかったから、違和感を与えたら、効力落ちるから、口合わせて」
幼馴染の父に催眠使ったの?え、この娘やばくない?本当に貴族の娘か?野蛮人の娘じゃなくて?
「お義父様、これでハリネを認めてくださるということでよろしいですね?」
「剣術も俺以上だったし」
「魔法も使えた」
もう何がなんだかわからない。僕をいじめて何が楽しいのだろうか。
父は依然変わらない様子で、半ば聞いているのかわからない。下手したら、きいていないかもしれない。そういった状態で、身体を震わせながら、僕ら四人を見上げる。父よ、同情するぞ。
「み、みとめまふ」
その言葉を聞いて、二人はもう一度喜び、妹は僕にブイサインを作る。
父の人生史上、もっとも恐ろしい日になったのはいうまでもない。
試験前、カズキ、アカネ、ミーナはそれぞれ森に転移すると、ハリネの父が立っていた。
来たか、という言葉を呟くと同時に振り返ると、息子の幼馴染と娘がいる。ミーナの魔法がすごいことは知っていたので、疑問はなかったが、そこに息子であるハリネの姿がないことには疑問を覚えた。
「ハリネはどうした?」
素朴な疑問を三人に聞くが、答える者はいなかった。むしろ、どこか様子がおかしい。なんともいえない圧迫感、いや、恐怖感を覚える。感情が理解すると、少しばかり冷や汗がでる。
そんな父をよそに、アカネが近づく。その表情はいつもの活発な女の子ではなく、絶対的な強者のような面持ちであった。無表情。その言葉が今のアカネにはぴったりであった。
「お義父様……」
「ど、どうした?」
普段と違うアカネに恐怖を覚えつつも、その場で耐えて見せる。
「この場にいるのはハリネです」
「……は?」
「ハリネしかいません」
私たちはいません。そういいいながら、また一歩近づく。今まで下を向いていたアカネが、顔を上げた。目の色が違うことにすぐに気づく。あ、いかんこの子たちやばいわ。そう思い、目を閉じる。彼女はスキルもちの天才だった。貴族の中でもその素質が認められるくらいには。父はハリネが以前言っていた言葉を思い出す。
アカネの迫力に一歩後退しながら、距離をとりつつ、目を開けてはいけないと強く心の中で思う。それと同時にこの試験の彼女らの企みも理解できた。
「ア、アカネちゃん……さすがにだめだ。俺はハリネの___」
「お義父様」
言葉を遮られ、その何も感情を読み取れないこえでつい顔が強張る。
それと同時に、手が握られた。冷たい感覚が自身の手から伝わってくる。
「私をなめないでくださる?」
___目を開けろ。
その言葉が頭に響く。
人間という生き物は命の次に大事な部位は脳だといわれている。だからこそ、兵士は脳を守るために鉄で頭を守る。
その脳からの伝令が目を開けろというものだ。身体は脳からの信号だと勘違いをし瞬時にそれに反応し、目が開かれた。アカネの顔が目の前に広がっていたのにぞっとした。金色に輝くその目がじっとこちらを見つめていた。
「ここにはハリネだけしかいません」
「……ハリネしかいない」
完全に脳をやられた父は三人の姿が認識できなくなり、ハリネの姿が目の前にいるようにしか見えなくなった。
父の顔から怖さがなくなり、いつも通りの表情に戻った。
「ハリネ、よく来たな。今から試験を開始する。準備はいいね?」
父の言葉を聞いて、アカネは二人のほうを向く。いつも通りの赤い瞳をしながら、作戦成功と言わんばかりに親指を立てた。二人も同じく、親指を立てる。
「どうした?後ろに何かいるか?」
「いえ、父上いません。このサインはやってやるぞという意気込みです」
「そうか、お父さんに見せてくれよ」
ハハッと笑いながら、アカネの頭をなでる。アカネは苦虫を潰したような顔を一瞬したが、すぐに笑顔を作りバレずに済んだ。
「では、お義父様……ではなく、父上、いかせてもらいます」
「いいぞ、まずは魔法からだなぁ」
言葉遣いに違和感を覚えるも、それ以上疑問に思わない父はそうだなぁといいながら、試験の内容を考え始める。
このあとお漏らしをすることになるとはこの時考えてはいなかった。
「……うまくいったな」
「当然よ、ここから本気で行ってちょうだい。私の出番はここまでだから」
「全力で魔法うつ」
「おう、ありがとな。俺も本気でやってやるよ」
次回は水曜日か金曜日だと思います。できなかったら、土曜日には絶対投稿します。