一般農民になりたいのに最強達がそれを許してくれません 作:ワンカン
まぁ、水曜日?木曜日?に投稿できたのでよかったです。
人の感情はコントロールできる。昔、アカネが僕に教えてくれた言葉だ。
人の気持ちはいつも不安定であり、どこか壊れやすいものを持っている。本当に強いものは感情を持っていない、心を有していない者。しかし、実際には人間であるならば、心を持っているし、感情の起伏に悩まされることもしばしばある。生物の性といっても過言ではない。
その深層心理を覗いて、うまいこと操ることができれば、いつでもコントロールすることができる。しかし、人間という者は元来見栄を張る習性があるのを僕は知っていた。弱い生き物は肉食の生物に襲われれば、当然逃げる。それと同じように、人間は嘘をつく、見栄を張るといった習性がある。最強と謳われるアカネにだって、それはある。彼女のその言葉にこれをつけ足せば、その意味が分かるだろう。人の感情はスキルによってコントロールできる。
感情も心も、あまつさえ記憶もすべてを都合のいいように書き換えることができる。僕は何度もそれを見てきた。また、魔法によってもそれはできることを、ミーナによって知ることができた。本来、魔法とは相手に攻撃をしたり、自身の身を守ったりといったことが主としてあげられるが、ミーナはそれ以外の特殊魔法もつかえるらしい。アカネの兄であるイルクはミーナは別枠としてとらえた方がいいと助言してくれた。
さらに、人間は元来、信頼できる人の言葉を疑わないという習性をもっている。これは恐怖によって心を支配するのとは違い、培った時間がそのまま人の感情を支配しているため、簡単に人は相手の言葉を信用してしまうらしい。このことは、僕が今それを実感していることだ。
にこやかにこちらを見つめるカズキを見ながら、そのように思ってしまった。なんだ、人は簡単に言葉を信用する生き物なんだ。猜疑心も芽生えることなく、彼の言葉を信用する。それもそうか、あのハリフォント家の最高峰が言った言葉を信用しない人は相当人に対して猜疑心を働かせている頑固者だけか。けれど、この村は数百人といないし、横のつながりも大きいから、そんな人も自分の友人が彼の言葉を信じたのなら、信じるしかない。
いやぁ……参ったね。本当にどうしたものか。僕は一般農民だから、彼のように人を信用させるほど力も持っていないし、彼女たちのようにスキルも魔法もないので、どうしたらいいのかわからない。こういうところが自分に足りていないなと感じるが、どうにかしてできるものでもないし、全力で否定しても信じてはくれないだろう。
神様がいるなら、助けてほしい。僕が農民であることがそんなに嫌いなら、どうかこの僕にも彼らみたいな最強と呼ばれる才能を一つ与えてほしい。もし、それができないというのなら、せめてこの現状を打破できるくらいのものを僕に授けてほしい。
「神の子だ!!神の生まれ変わりだ!!」
「神様!!どうかこの私に幸せを!!」
「神聖の子よ!!どうかこの村に恵みを!!」
僕は神様でも神聖でもない。普通の農民です。
あの貴族の家に遊びに行った翌日、僕はいつものように、鍬をもって畑に行こうとした。父が誕生日プレゼントにくれた馬に乗り、畑に行く自分の姿を想像すると、なんだか幸せな感情が芽生える。すこし高価なものを買った日のように、気分が高揚する。僕はあの馬にエクリエンスと名前を付けた。
この名前の由来は、元来、この国に伝わる神様が元となっている。
かつて、この国を支配していた魔王を倒したといわれている英雄の名前だ。その人物はスキルを駆使し、魔王を翻弄させ、魔法を使用して、自身を強化し、その見事な剣術を用いて魔王を倒したといわれている。なんだその化け物みたいな奴と言われるのも無理はないが、伝説というものは決まって、誇張される。ミーナに聞けば、そんな奴は見たことはないと言っていたし、きっと嘘だろうと思われる。しかし、この国ではその化け物は神様として祀られている。
僕はこのエクリエンスに跨り、畑に向かおうとしたのだが、準備をしている最中に家の玄関からノックする音が聞こえた。今日は父と母は試験の手続きを行うため、朝早くから、都に行っていたので、家にいたのはミーナと僕だけだった。
ミーナは朝が弱いため、今も僕のベッドの中でぐっすり夢の中だろう。お兄ちゃんとしては、そんなミーナをかわいいと思うのだが、加減を知らない魔王様のせいで、毎日骨とか筋肉が悲鳴を上げることになっている。抱き枕感覚で僕を抱きしめないでほしい。週一回の割合で、ミーナがいないことがあるのだが、その時はカズキが椅子に座って僕をじっと見つめている。深夜から僕が起きる早朝にかけて、寝ずに僕の顔をじっと眺めているそうだ。最初はすっごく怖かったが、慣れてしまえば、ああ、今日は君なのね、おはよう。という具合に挨拶ができる程度にはなる。慣れって怖いよね。
ともかく、今日は父も母もいない日だったので、僕が代わりに玄関を開けなければいけない。そう思い、玄関に近づくと、何やらドアの向こう側が騒がしい。押すな、騒がしいと怒られるぞといった声が聞こえてくる。はて、なんだろうか。そう思いながら、玄関を開けると、村長を先頭に村の人が僕の顔を見るや否や、わぁっと押し寄せてきたのだ。
「神様!!」
「神聖のお顔じゃ!!」
「この子に救いを!!」
いろいろな声が耳元でうるさく騒がられる。いきなりのことだったし、しかも早朝だ。こちらも想定外の来客数であったため、許してほしい。あんなに騒がれたら、こちらも発狂するしかないのだ。
「うるせぇぇぇぇ!!!!殺すぞ!!!!」
僕の声を皮切りに、今度は悲鳴が耳元で響いた。
「神様!!」
ことの経緯を聞くと、どうやらこうなったのは、最強と魔王の仕業らしい。ある男性は、ハリネがすっごい剣術を披露し、森を一瞬で伐採した。またある女性は、ハリネがスキルを使用し、貴族のお偉いさんを黙らせた。またある老人はハリネがすっごい魔法を使い、森を壊滅させ、その後、再生魔法を使い、復活させた……。これらのことをあの最強どもは村人達に吹き込み、このクソみたいな戯言を彼らは信じてしまった。いや、信じさせられてしまった。
そして、それらを信じた村人たちは僕がスキル、剣技、魔法すべてのものが最強であるとして、僕をエクリエンスの生まれ変わりであると思ったらしい。いや、ほんとになんでだよ。
僕がそんなことできるはずがないだろうと言うと、これまたたちが悪いことに、一部、改竄されてはいるが、事実を僕に突きつけるのだ。
「嘘じゃねぇ!!数日前におらぁ見たんだ!!森が一瞬でなくなるところを!!」
それ、ミーナちゃんです。あの時僕は大きな木の下で日向ぼっこしていました。
「俺も見たぞ!!ズドーンッてでっけぇ木が倒れていくんだ!!それも一つじゃねぇ!!」
それはカズキだね。鍬と鎌でそんなことできるはずないだろう。
「私も前に見たわ!!貴族が地面に頭をこすりつけている姿!!その貴族が神様って言っていたのをこの耳で聞いたわ!!」
もうやめてくれ。僕がかわいそうだとは思わないのか。
もうこうなっては仕方がない。全部事実であり、全部嘘。もう歯止めが利かないのだ。まさかとは思うが、ミーナと一緒に貴族の家にお邪魔したとき、やることがあるといったのは、これのことではないだろうな。村の人達みーんな洗脳されちゃった。おっかね、あの子たちまじでおっかね。
まさかとは思った時点で、僕の周りに止めてくれるものはいなくなっていた。もうまともな人は僕か母くらいだろう。マザコンではないが、母だけはあの邪知暴虐な最強達から守らなければいけない。
僕はため息をついて、頭を掻きながら彼らを見る。
きらきらとした目でこっちを見るな。農民の憧れの存在など、僕は嫌だぞ。逆に君たちはそれでいいのか。こんな十五歳になったばかりの子どもを崇めていて。洗脳されたからといって、少しは疑ったらどうだ。
僕が避け澄んだ目をしていると、なにか言いたそうにもじもじしていた村長が口を開く。
「あ、あのぉ!?」
声が裏返り、気持ち悪い声を発しながら、僕のほうに一歩近づいた。
正直気持ち悪い。七十を超えた老人の裏返った声ほど、気持ち悪いものはない。
「あれらの話は本当ですか!?」
気持ち悪い村長、キモ村長が目を見開きながら僕にそういった。
このキモ村長がいうあの話とは先ほど言われたことだろう。村長は年配ということもあり
、たくさんの知識がある。それが功をそうしたのかほかの人たちとは違い、どうやら洗脳がうまくいかなかったのだろう。僕にそういう風に言うということは、そういうことに違いない。流石は僕に雨ごい踊りを教えてくれただけはある。ただ、そのもじもじした態度はやめてほしい。気持ち悪いから。
「いえ、違いますよ。あれは全部僕の幼馴染と僕の妹が全部やりまし__」
「そうよ!!全部本当の話よ!!」
「俺の相棒はまさしく最強なんだよ!!」
赤髪の女性と金髪の男性は、村人たちの密集をかき分けながら僕の言葉を遮った。女性のほうはいつもの赤色の瞳が金色になっており、男性のほうは僕の腕を握り、その腕を高く掲げた。
「このハリネという人物は、アンタらが思っている以上にすっごい人なんだから!!昨日話した通りよ!!」
うっわぁ……この子、本当にスキル使って洗脳してる。もうやめてあげて。僕がかわいそうでしょうが。その自信満々な表情で小さくあとは任せなさいとか言わないで。すっごく怖いから。
アカネの言葉を聞き、人々は感嘆の声を漏らす。
「伝説はそれだけじゃないんだぜ!!」
カズキ、君は何を言っているんだ。もう十分だろ。これ以上僕を神格化して何があるっていうんだ。おい、こっち見ろ、やってやると言わんばかりの表情をしないでくれ。君の親友が怖がっていることを知ってくれ。
「ハリネは都で開催された十年に一度の地下最強騎士トーナメントで優勝したことがあるんだぞ!!」
なんだそれ、そんなもの聞いたことがないわ。
君らもそんな感心していないで、もっとこのアホの言葉を疑ってくれ。
「しかも飛び入り参加で優勝するから正直俺もビビったぜ……」
その言葉必要かな?暇だし出てみようかな感覚で、その大会優勝できるものなの?子ども向けの大会かな?
「それだけじゃないわ!!その大会を優勝した後に、十年に一度の開かれる地下最強魔法大会でも優勝したのよ!?」
そんなに十年に一度の大会が開かれるわけないだろう。地下最強の剣士であり、地下最強の魔導士。地下から地下か……一回地上にあがってこい。僕はそんなアンダーグラウンドな生活送ったことないわ。なんでも地下をつければそれっぽいとかならないから。
「どう!?これでわかったでしょ!!」
「俺らが言いたいのは、ハリネはこの村に収まる人物じゃないってこだ!!」
もうやめて、この二人を誰か止めて。
僕が白い眼をしながら、その場で固まっていると、村人たちは、僕を再び神様と連呼し始める。いったい、いつから、この最強達は躊躇というものがなくなったのだろうか。道徳を暗記科目として教えられてきたのかな?さすがの僕も疑ってしまう。
不意に僕の口が勝手に動いた。
「僕、神様……最強」
単語で区切られたその言葉が誰の正体か分かった。
後ろを見ると、魔王様が二階から僕達の様子を伺っていた。目には小さな魔法陣が形成されている。うっわ……この状況で起きてきたよ。この三人、またそろったよ。
歓声をあげる村人たちをよそに僕はそっと家の玄関をそっと閉める。玄関を閉めても、歓声が聞こえてくるが、間接的に聞くのと、直接聞くのではやはり違いがあり、落ち着きを取り戻す。ふぅっと息をついて、彼らを見ると、やってやったと言わんばかりに、胸を張っていた。
「これでようやくハリネのすごさが伝わったわね」
君たちの道徳のなさが僕に伝わりましたが、そこらへんはどのように考えているのでしょうか。
「やっぱりこれくらい言わないと駄目だったんだって」
「そうね……次に活かすわ」
活かすの?活かしちゃうの?ていうか、次があるの?君たちはどこまで僕を翻弄させれば気が済むの?できれば、僕を巻き込まないようにお願いしたい。
頭が働かなくなりそうになったので、椅子に座りながら、ぐったりとその場でテーブルに身体を預ける。いやぁ、参ったね。これからどうすればいいのか考えなくてはいけない。
村の人たちに会ったら、なんて言えばいいのだろうか。あ、どうもこんちは最強ですと言えばいいのだろうか。そういう対応も考えないといけない。
ここで考えられるのは、いかにして村の人々の洗脳を解くか、ということではなく、いかに最強として、平穏に村で過ごせるかだ。僕がこの子たちをどうにかできるとは思えないので、そういうところに重きを置くしかない。
「それはそうと、アカネ、例の件は成功したんだよな?」
「当然よ、ハリネのためならなんだってするわ」
「まだ企んでるの!?」
さらっと告白されたような気がしたが、それどころじゃない。本当に何個仕掛けをしているんだ。怖いどころじゃないよ。
「おにぃ、つかれた?おててにぎる?」
「……ありがとう」
疲れた。お兄ちゃん疲れた。君たちのせいで疲れた。だからそんなちょこんと首をかしげながら、こっちを見られても、僕のこの疲れはニーナちゃんのせいでもあるんだよ?間違っても、お兄ちゃん大丈夫?みたいな目でこっちを見ないで。あといつのまに二階から降りてきたんだ?全然気づかなかった。気配消す必要あったかな?
「なぁ、相棒」
やめてくれ。一緒にされたら困る。
「明日は空けとけよ」
「……どういう意味?」
ぐったりしながらカズキの言葉に返答すると、アカネが自信満々に胸を張る。なんだ君は。何かしたことには間違いないが、そのない胸を張るのはよせ。せいぜいニート貴族くらいでっかくなってから張ってくれ。
「アカネがよ、入試試験の座学のテスト問題を入手したから、それ全員で覚えようぜ」
「私にかかれば、このくらい楽勝よ。あと、テストの実技、あれをグループ試験にするように頼んどいたわ」
それは本当に頼みました?お願いチャンスを使いました?君のスキルで洗脳したとしか思えないんですが。
「あと、お金の心配はする必要ないぞ」
そこは気になっていた。僕の家はただの農民だ。学校に行く余裕がある程度のお金を持ち合わせていない。しかし、父も母もそこに関しては何も疑問に思っていなかったのか、そのことは全く僕やミーナに言っていなかった。親だから、お金の心配をさせるわけにはいかないと思って、何とか工面していると考えてはいたが、どうやら違うらしい。
カズキの言葉に、ミーナちゃんが鼻息ミーナちゃんへと変貌する。
「俺らで、危険度最大の依頼こなしたから、そのお金で__」
「まてまてまて」
頭痛くなってくるって!!頭がキャパオーバーしてるって!!
鼻息ミーナちゃんが僕の袖を引っ張る。
「今の魔物、弱い」
やめて、そんなこと言うのやめて。それで苦しんでいる人もいるからやめてあげて。魔王様がこんにちはしてるから、その鼻息もやめて。
「案外いけるものね。あんなことなら、いっそ冒険者でもよかったわ」
「だなぁ……まぁ、ともかくここからだぜ!!入試試験!!絶対に受かろうな!!」
三人は声をそろえながら、おー!と言うと、腕を大きく上げた。一方、僕は頭を抱えながら、この先の未来に恐怖している……まじでどうしてこうなった。
ああ、卒業したら、兵士じゃなくて、冒険者になるのか……僕の未来、終わったな。
今気づきましたが、まだこの子たち入学していないんですね。びっくりしちゃった。
早く入学させたい。
気づいたら、お気に入りが五十突破していました。感想とか評価とかいろいろもらえるように頑張りたいですね。