一般農民になりたいのに最強達がそれを許してくれません   作:ワンカン

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日曜日に投稿できてよかった。



話はあとにしてまずは食べましょう

 勉強の休憩には、甘いものを食べるとよいとされている。

 甘いものを食べることでリラックス効果や眠気覚ましといった効果があるからだ。ほかにも、集中力や認知能力の向上なども期待できる。記憶力の向上に役立つのかは不明だが、食べることに越したことはない。

 

 いま、目の前にあるのは、都で次にブームが来ると期待されているものだ。見た目からして、甘そうなその食べ物の名前は、少し噛みそうになる名前をしており、僕も本当にそう呼ぶのか疑問に思う。円形型で、はみ出るくらい詰められた生クリームが特徴的で、とてもではないが、手で食べるのを躊躇してしまう。この食べ物の名前はマリトッツォというらしい。

 なんでも、都に住む女性陣はこのマリトッツォと、前に食べたパンケーキの二つの勢力に別れているらしく、どっちの方が美味しいかという議論がなされているらしい。この食べ物を生み出した人物はパンケーキを生み出した人物と同じらしいが、ここまで流行するとは考えてもいなかっただろう。

 

 僕はナイフとフォークを使いながら、この謎の食べ物に切り込みを入れる。しかし、クリームとパンの柔らかさが邪魔をし、ナイフで思うように切れない。見た目はきれいな円形をしていたのに、すぐにその形が無くなってしまった。挟まれていたクリームの大半は、皿に広がり、パンもその原型が崩れた。

 いったいどんな味だろうかとわくわくしていたのもあり、残念な気持ちがこみあげてくる。ああ、僕のマリトッツォ……君のことは忘れないからね。

 僕はそのまま手でその潰れたパンを掴み、ベタベタとパンにクリームを塗りつけ、口に入れた。やはり、口にも手にもクリームがついた。いったいどういう食べ方が正解なのか、教えてほしい。味は最高にいいのだが、これだけは少し嫌だ。

 僕は隣に座っているカズキに目を向ける。彼もこのマリトッツォというものを食しているため、いったいどうやって食べているのか気になる。しかし、カズキは今だマリトッツォに手を付けてはいなかった。

 

 カズキは対面に座っている人物に目を向けながら、猛獣でも怖がるくらいの睨みをきかせ、腕を組んでいた。ここは貴族の屋敷だ。そんなみっともない姿はよしてくれ。僕みたいに、スマートにこのマリトッツォを食べてみたらどうだ。手についたクリームをちゅぱちゅぱするのなんかいかにも貴族らしいだろう?

 ほら、アカネもそんな睨まないで、マリトッツォを食べてくれ。君が自信満々にこのスイーツを用意してくれたじゃないか。貴族の娘だからといって、そんなはしたない行為はみっともない。君の隣に座るミーナを見習って、目の前に置いてあるマリトッツォにつんつんしてみたらどうだ。その方が貴族らしく見えるぞ?

 

「どういうことよ」

 

 どういうこともなにも、マリトッツォを食べろという話をしているんだ。僕にこの食べ方の正解を見せてほしいと言っているんだ。

 向かい側に座っているアカネのお姉ちゃんであるミカサが、すぐに反応した。

 

「我々がオールドマスターと共に試験を受けると言っているのだ」

 

「ふざけんな、殺すぞ」

 

 いきなり殺すぞはやめてくれ。今のカズキなら本当に殺しかねない。頼むからマリトッツォを食べてくれ。食べないなら僕が代わりに食べるぞ。

 カズキの言葉に反応したのは、ミカサの隣に座っている、少し耳が長く、緑色の髪をしているエルフの少女だった。

 

「あんたらがマスターと組むのなんて百年早いのよ。せいぜいそのぶら下がっている一口サイズの小さな小さなウインナーに毛が生えてから言うことね」

 

 挨拶もままなっていないのに下ネタを言うのはどうかと思いますが。エルフはみんなそういう感じなのかな?エルフというのを初めてみたけど、こいうことを平然と言うタイプが多いのかな?

 

「そいうことだ、ハリフォント。おけっけが生えてからものを言え」

 

 口を開いたのは、下ネタエルフの隣に座っている青年だった。青色の髪をきれいに後ろで結び、青色の宝石を首から下げているのが特徴的な美青年だった。美青年がおけっけとか使うなよ。恥ずかしい。イケメンが台無しだぞ。

 

「ハリフォント、それにアカネ……お前らは何か勘違いをしている。真の最強とはそこに座っている御方ただ一人だ」

 

 いえ、違います。マリトッツォを食べているだけのただの農民です。

 

「そんなことなんか百も承知よ!!」

 

 アカネちゃん……そんなに勢いよく立ち上がらないで。それに美青年の言葉に同調しないで、もう少しスマートになってくれ。ほら、もう僕のマリトッツォ無くなってしまったよ?おかわりはないの?

 美青年はやれやれといった感じにため息をついた。

 

「わかっていない能無しだな……。なんでお前が俺の許嫁なんだ?」

 

 え、そうなの?この子、アカネの夫さんになる人なの?是非とももらってあげてください。大変危ない子ではありますが、根はいい子なのでもらってあげてください。じゃないと僕の身が危なくなるので。ていうか、貴族だったんだ。君、貴族のくせにおけっけとか使うの?はしたないにも程があるだろ。

 その言葉にアカネは鼻で笑った。

 

「すでにお父様を洗脳して解消済みよ。残念ね?この身体はハリネしか許せないの」

 

 まじでこの子危ないな。自分のお父さんにスキル使用したんだ。本当に貴族か?蛮人に育てられたとかじゃないよね?まともな教育をうけずに育ちましたといっても納得するよ。躊躇がない最強がいっちばん怖い。

 そのまま、お互いが黙ってただ睨み合っていると、アカネの隣から可愛らしい声が聞こえた。

 

「まりとんぼ、おいしい」

 

 ミーナちゃんは普通だね。ただおしいな……これ、トンボじゃないんだ。マリトッツォなんだよ。別に僕たち虫を食べているわけではないからね?もっと女の子らしくものを言ってほしい。アカネの隣に座っているのが惜しいな。お兄ちゃん、ミーナちゃんの隣に座りたかった。こんな怖い顔をしている二人に挟まれたくなかったな……ああ、もっと食べたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験に向けてアカネの屋敷で勉強会を開いていた。勉強会というのは名ばかりで、実際には暗記というものだ。教科ごとの答えをアカネからもらい、それらを暗記していく。案外楽な作業だなと感じていたが、一つの教科を覚えたと思ったら、すぐに忘れていく。完全に記憶するのは難しかった。おまけに、別に頭を働かせているわけではないため、やる気が出てこないし、どうも自分自身に気が乗らない。それはそうだ、僕が選んだ道ではないし、入学したいとも思っていないからだ。そもそも受ける資格すら持っていない。そんな状況では、やる気なんか出るはずもない。

 

 そんな自分とは違い、ほかの三人はやる気があり、互いに問題を出し合ったり、指摘したりしている。普通、そういうのは勉強の時にするものだろう?暗記の時にするものじゃないのではと感じたが、彼らはこれが勉強だと考えているらしく、僕とは大違いのスピードで覚えていった。

 僕のやる気のない表情を見かねて、アカネが僕の方に近づいた。

 

「どうしたのよ?そんな浮かない顔して」

 

 この状況が嫌なんです。その言葉が口から出かかったが、喉元に引っ込め、違う言葉を探した。

 

「いやぁ、おなか減ったなって」

 

 事実そうだ。今は昼の三時……貴族なら、ちょうどおやつタイム兼もぐもぐタイムの時間である。前に君のお兄ちゃんがそう言っていた。

 僕の言葉にアカネは時計を見ると、小さくそうねと呟き顎に手を添えて考え始める。おっと?これは三時のおやつが出て来るパターンではないだろうか?貴族のおやつといったら、やはり都で流行のものが一般的だろう。前はミカサにパンケーキというものを食べさせてもらったが、あれは絶品だった。こういうところは来てよかったと感じる。

 カズキはそんなアカネに口を尖らせる。

 

「そんことより、早く覚えようぜ。最悪、俺らが受かればいいし。そのあとにハリネを不合格にした馬鹿をどうにかすればいいだろ」

 

 君はもう少し落ち着いた考え方をするべきだ。今の君の言葉には知性のかけらも感じなかったぞ。騎士の息子としてはその発想やばくないか?もっと騎士らしい考えをしてくれ。

 僕の傍でアカネから受け取った紙を見ていたミーナが僕の服を引っ張る。

 

「おなか、すいた」

 

 そうだ、そういうのを僕は待っていたんだよ。お兄ちゃん、やっとミーナちゃんが普通の女の子みたいになってくれてよかった。魔王様になるのはもうやめようね?次出てきたらおしょんしょんどころじゃないかもしれないから。おうんうんとか漏らしたら、もう大変なことになるから。

 

「そうね……私も食べたいと思っていたのよ」

 

 この展開は、何か用意してくれる展開じゃないか?都で有名なものが食べられるかもしれない。ミカサはパンケーキを用意してくれたし、アカネは何を用意してくれるのだろうか。

 

「なにかあるの?」

 

 わざとらしく聞くと、アカネは自慢げに胸を張る。ない胸を強調する癖はどうにかしないとね。

 

「マリトッツォよ!!」

 

「まり……なんだって?」

 

 初めて聞くその名前に、思わず聞き返してしまった。聞いたことのない名前であり、どういう食べ物かもその名前を聞いただけでは解らない。しかし、都で流行っているらしい。アカネが用意してくれるというのだから、そうに違いない。

 カズキはその言葉を聞いて、苦い顔をした。

 

「あー……あれ嫌いなんだよなぁ」

 

「……なんでよ?美味しいじゃない」

 

「食べづらいし、それに甘いから嫌いなんだ」

 

 会話の流れ的に、どうやらカズキはその食べ物のことを知っているらしかった。流石は貴族の家の息子だ。都のこともよくご存じでいらっしゃる。甘いということは、パンケーキのようにクリームを使用しているのだろうか。それとも、別の要因から甘さが出て来るのだろうか。

 

「ハリネは食べたい?」

 

 アカネは僕の顔を向きながらそう言った。食べたい。カズキが言った言葉も気になるし、何より甘い食べ物は僕の大好物だ。どのような形をしているかも気になるし、都で流行っているものであるというのなら、なおさら興味が湧いてくる。

 

「僕はマリトッコ食べてみたいな」

 

「マリトッツォよ。これから都に行くんだからちゃんと覚えなさい」

 

 失敬、なにせそんな言葉使ったことがないものだから、間違えてしまった。トッツォという言葉なんて初めて知ったよ。 僕はアカネにごめんと言うと、アカネは全く……と言いながら、ため息をつく。

 

「しっかりしなさいよね?将来そんなことも知らないようじゃ、貴族の夫は務まらないわよ?」

 

 貴族の旦那さんになる未来なんて僕は嫌だぞ。え、もしかして君の旦那さん?それだけは勘弁してくれ。洗脳されて廃人みたいな人生になんかなりたくない。

 

「おにぃ、ミーナの妻」

 

 アカネの言葉に反応しないでくれ。ミーナちゃんはお兄ちゃんと結婚したいの?だったら魔王様になるのはやめようね?普通の女の子になってくれないとそれに応えることはできないよ。それにお兄ちゃんと血がつながっていること忘れてないよね?

 

「はぁ?ミーナは嫁だろ?妻はアカネだって決めただろ」

 

 え、なにそれ。初耳なんだけど。僕の知らないところで勝手に僕の将来決められているの?妻に最強迎えて、嫁に魔王迎えるの?ていうか、二人と僕は結婚する予定なの?マジで?やめてくれ。僕は普通の女の子と結婚したい。

 

「そうよ、じゃないと辻褄が合わないでしょ?」

 

 もう合ってないから。僕の気持ちをフル無視したその予定がもはや破綻していますよ。貴族様も騎士様も魔王様も何言っているのですかね?

 

「そんで、俺が夫になるわけで……と、そんなことより早く食って、勉強しようぜ」

 

 そんことより君の今の発言を詳しく知りたい。なんですかその夫というのは……。君たち、結婚という言葉を今一度調べてきた方がいいと思いますよ。最近胃が痛くなる。

 

「そうね、これからのことは将来また話し合いましょう?ほら、ハリネもお腹を空かしているし」

 

 そんなはずないだろう。君は僕のこの状態を本当にそう思って言っているのか。だとしたら君の頭はお花がたくさん詰まっている証拠だ。僕に今必要なのはお菓子じゃないくてお薬だ。誰か僕の代わりになってください。

 アカネはメイドを呼びつけ、マリトッツオを用意するよう頼むと、僕の手を引いて立ち上がらせる。ニコッと明るい笑顔はどの男性陣もイチコロになってしまうものがある。しかし、僕はそれに恐怖した。

 

「食堂に先に行ってましょう?旦那様」

 

 うっわ……そのジョークすっごく笑えない。

 

 

 

 

 

 

 大きな食堂でしばらく待っていると、マリトッツォが運ばれてきた。綺麗に僕たちの目の前に配膳するメイドさんの一人と目が合う。メイドさんは僕の顔を見ると、少し嫌な顔をしながら僕の目の前にマリトッツォを置いた。

 この人どこかで見たなと感じ、その雰囲気で気が付く。前にイルク会った時にいたメイドさんだ。久しぶりだね。

 そんな意味も込めて、小さく頭を下げると、メイドさんは誰にも気づかれないくらいの大きさで、舌打ちをした。はて、何かしたかな。貴族の嗜みを真似していたはずだが、それが気に食わなかったのか?そう思っていると、隣に座るカズキが僕の耳元に顔を寄せた。

 

「アイツ、いまお前に舌打ちしたぞ……殺るか?」

 

「やめて、見逃してあげて」

 

 なんで君はいきなり荒くれ者になるんだ。荒くれ者になるのだったら、先に言ってくれ。こっちも準備ができないから。君の相棒が困っちゃうから。

 一番端にいるミーナがつんつんとマリトッツォをつついている姿が目に入る。ミーナはこの食べ物に興味があるらしい。こういうところは僕と似ているなと感じる。

 

「これがマリトッツォよ。どう?驚いたで__」

 

 彼女の言葉を扉の音が遮った。その扉に目を向けると、アカネのお姉ちゃんである、ミカサが真剣な表情でこちらを見つめている。ミーナはチラッとミカサを見たが、興味がないのか、マリトッツォに再度つんつん攻撃をし始めた。

 

「オールドマスター」

 

 その呼び方は止めてくれ。ほら、最強達がこっちを見てるじゃないか。どうしてくれるんだ。

 

「最強の精鋭部隊を作りました」

 

 いま?このタイミングで紹介するの?ちょっと待ってください。

 

「ニート貴族が何の用だ」

 

 カズキ、喧嘩腰にならないでくれ。変な刺激を与えると彼女も引けなくなるから。

 

「ニートなんかおよびじゃないわよ」

 

 お姉ちゃんに向かってその態度はよろしくないですよ。そんなこと言ったら、君のお姉ちゃん怒っちゃうから。魔法かなにかよくかわからないけど、すっごく強そうな剣がこんにちはしちゃうから。

 ミカサはアカネの言葉を無視し、入れと言うと、魔法陣が形成され、男性と女性が姿を現した。彼らは僕の顔を見るなり、すぐに片膝をつき、以前のミカサのように深く頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります。オールドマスター……この度の入学、おめでとうございます」

 

 緑色の髪をした女性が静かな声でそう言った。

 まだ入学してないからね?あとそんなこと言うのは止めようね?最強達がこっちをずっと見てるから。喧嘩に発展しちゃうよ。

 

「これからは我々がサポートしていきますので、世界の王として安心して君臨なさっていただければと思います」

 

 だからそんなこと言うんじゃない。カズキ、君も男性の言葉に反応するな。僕の腕を握るのはよしてくれ。すっごく痛いし骨が変な音しているから。ミーナを見習ってマリトッツオにつんつんしていればいいだろ。

 

 ミカサも彼らに続いて、片膝をつき、深く頭を下げた。その行為に固まっていると、アカネがこちらをじっと見ていることに気が付く。カズキも同様にこちらをじっと見つめている。え、なに?僕が何か言えばいいの?いやぁ、ちょっときついでしょ……。この状況を僕だけに任せないで。一応こっちは被害者だからね?そのことを忘れないでくれ。

 

 僕は深く頭を下げている彼女らの姿を見ながら、ごくりと唾を飲み込んだ。マリトッツォを食べたかっただけなのにどうしてこんな目に合わなければいけないんだ。ミカサ、君のタイミングはどうしていつもこうも悪いんだ。頭が弱いからか?どうしようもないニート貴族だな。

 

 僕はカズキによって痛みが走り続けている腕をさすりながら、小さく呟いた。

 

「マリトッツォ……たべりゅ?」

 

 嚙んだのはご愛嬌ということで許してほしい。





主人公にマリトッツォと言わせたかった!!

入学まだしてないのはさすがにやばい……。十話行くまでにはなんとか入学させたい。

次は水曜日か火曜日に投稿しようと思います。できなかったら、木曜日には絶対投稿します。

お気に入りの数が増えて嬉しいです。感想とか評価もいただけるように頑張りますのでよろしくお願いします。
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