人間不信の大魔女様   作:皆方 ho_

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 書き溜めは以上です。
 ここから先はエターナルへ一方通行……なんてことにはならないようにします。




2.1 旅路

 

 

 それから数日。

 

 魔女の森の屋敷の前で、旅支度を終えた私達は旅装になっていた。

 

 私は黒いフード付きマントに革のブーツ、白色のシャツと茶色い半ズボン。

 弟子は、カーキ色の上着に私と同じ仕立ての白いシャツと茶色い半ズボンだ。弟子曰くおそろい、らしい。

 

 太陽がのぼり始め、日光を遮断するためにフードを深くかぶる。

 頭の上には黒色の幾何学模様が薄く描き出されている。

 

 

「弟子、いくぞ」

 

「はい!」

 

 

 森の中を歩き出そうとした矢先、一体の魔獣が私達に近寄ってきた。

 かと思うと、私達の前で身体を下げ、伏せた。

 敵意はない。

 巨大な虎のような姿をしたその魔獣の奇妙な行動に私が疑問符を浮かべていると、弟子がその魔獣を撫でていた。

 

 

「何なんだ、この虎。」

 

 

 敵意がないので倒す気にもならない。

 気になって触って見る。手に入った記憶によると、弟子が街に買い出しに行くときに弟子を乗せていた魔獣らしい。

 

 

「大丈夫ですよ、魔女様。いつも私を街まで乗せていってくれる子です」

 

 

 弟子の言葉からも大丈夫だろう。

 弟子は魔獣に声をかけている。魔獣も唸り声で返している。

 地妖精だから、地母神の子である動物たちと簡単な意思疎通ができるのだ。

 

 

「ええと、私達を乗せてくれるそうですよ、どうしますか?」

 

「どこまでだい?弟子と違って私はそいつの言葉がわからないんだ」

 

「魔女様が望むならどこまででも、らしいですけど」

 

「わかった。この森を出るまで。それでいいな?」

 

 

 再び弟子が魔獣に語りかける。魔獣が答える。

 

 

「喜んで、だそうです」

 

「しょうがない、乗るか」

 

 

 正直、騎乗に良い思い出はない。

 勇者の馬は私が乗ることを極端に嫌がった。勇者と同じ馬に乗ったのは助け出されたときだけ。それ以降も王国の式典やらなんやらで色々な動物に乗ったがほとんどの動物に嫌われていたようだ。私の持つ闇の魔力が怖かったのだろう。動物はそのあたりが敏感だから。

 

 私が前に乗り、弟子が後ろに乗る。

 弟子が私に覆いかぶさるようにして魔獣につかまり、魔獣が走り出した。

 

 

 森の景色がとても速く、後ろに流れていく。

 

 鬱蒼とした、魔女(わたし)の森。

 

 二時間ほどで、私達は森を抜けた。

 本来私達の足ならば丸一日程度かかる道のりが大幅に短縮され、少し嬉しい。

 

 

「ありがとう、魔獣。」

 

「ありがとう!次もお願いね」

 

 

 弟子の言葉に、任せろとばかりに魔獣がいななく。

 そして名残惜しそうに森の中に戻っていった。

 

 

「あの子、連れてくることってできなかったんですか?」

 

「あんなもの連れていたら、街に入れないに決まっているだろう。」

 

「すいません……」

 

 

 弟子も名残惜しそうだが、当然の判断だ。

 それにあんなもの、私と弟子の旅についてくる必要はない。

 

 さて、勇者から与えられたこの森は、サラーブ王国の北辺に位置する。この森の北側は三つの国が国境を接している。南にサラーブ王国、西にバルティカ、東にローラシアだ。

 

 

この森を東に抜け、国境である山脈を超えれば隣の大国、ローラシア共和国。ローラシアのさらに北西には、聖教国がある。

 

 私達はまず、ローラシア共和国の首都、フルフナへ向かいそこから聖教国へ向かう。

 この国を出るまでは街には立ちよらず、森と山脈を踏破してローラシアを目指す。

 王国に干渉されたくないし、干渉されなかったとしても住民に魔女だってバレたら何かしらろくでもないことが起こるだろう。だからこの国を出るまで、街に立ち寄る気はない。

 

 聖教国へ向かう目的は情報収集だ。

 聖教の本部には多くの情報が集まっているし、人を殺さなくても多くの情報が手に入るだろう。

 だが、聖教は私を魔女と呼んで敵視している。入国の時点で何かしらあってもおかしくはない。注意しておく必要があるだろう。いくつかの国では聖女やら天使として崇められている私に対して公然と襲ってくることはないと思いたい。聖教の総本山には白神が直接加護を授けた勇者がいるはずだ。勇者以上の戦力である異界の魂や天使はいないだろうが、それでも勇者を侮ってはならないだろう。

 弟子でも勇者程度なら……倒せるかな。経験を積ませるのもありかもしれない。

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 一週間後。

 私と弟子は北の山脈を越え、ローラシア側の国境の町、コンスタンシアに到着した。

 町が見え始めた時点で弟子のテンションが高くなっていて、頻繁に話しかけてくる。

 

 

「魔女様、魔女様! 城壁ですよ、とても高い! 初めて見ました! でも、案外壊せそうですね!」

 

「そんなことするなよ? でも、昔来たときはここまでの城壁は無かったはずだ。最後にここに来たのは何年前だっけ。まあ大体十五年くらい前かな? 」

 

 

 コンスタンシアはローラシアとサラーブ王国を隔てる湖のほとりにある要塞都市だ。

 重厚な防壁はこの町にかけられている防衛予算が大きな額であることを示している。重要なのはその城壁がここ十年程度で数倍の規模で強化されているということだろう。ただの補修というわけでもなさそうだ。

 

 城門をくぐるとその内側にも城壁が敷かれ、城門が二重になっている。

 ここが入国審査をする場所だ。

 

 三つの列、外から来た旅人の列と町へ戻る市民の列、そして馬車の列があり、旅人の列の方にならぶ。

 この町の市民証を持っている市民たちの列は、あまりならんでいないし処理も早い。外出帳簿と市民証を突き合わせて確認するだけだから、その分だけ早いのだ。

 一方で旅人や行商人が並ぶこの列は長く、処理も遅い。

 旅証を確認し、荷物をあらため、行商人なら物品税を徴収し、商業許可証を確認する。

 処理が遅いのも当然だろう。

 この町が国境の町だからひと際厳重に確認しているのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、私と弟子の前にならんでいるいる行商人らしき男が弟子に話しかけてきた。

 

 

「やあお嬢さん、女性だけで二人旅というのは珍しいね、ところで見ての通り私は行商人なんだが、髪飾りなどいかがかな? いまなら物品税の分、安くできるけど。」

 

 

そう言うが早いか背負っていた行李から髪飾りやブレスレットのアクセサリーをいくつか取り出してセールスを始めた。

 

 

「さてさてこちらは南方のカラニアでとれた赤結晶をパルディカの貴族御用達の工房で加工した髪飾りだ。赤結晶は炎の神が見守ってくださる証だから、燃え上がるような愛を願うならぜひとも一つ買ってみないかい?」

 

 

 どうしましょうか。と少し困ったような表情で弟子がこちらを向いてくる。

 好きにしろ、そんな視線を返すと弟子は行商人に向き直ってセールスを聞き始めた。とりあえず話を聞くようだ。

 

 人が多いのはどうしようもないし、その程度なら構わないが、話しかけられるとなると話は別だ。

 どうも、私は他人と対面すると悪い方向に思考が進んでいってしまうのだ。

 

 だから、行商人と弟子の会話に入る気はないし、こちらには来ないでほしい。

 

 だけど、入門審査の行列は少なくとも一時間はかかりそうだし、弟子という貴重な話相手を失った私はとても暇になってしまった・

 入るまでは特にすることもない。ぼんやりと弟子の様子を眺めていたら行商人が私にも話を振ってきた。

 

 

「そこの妹さんもどうだい?アクセサリーに興味があるんだろう?」

 

 

 この行商人、嫌いだ。私を妹扱いしやがった。

 しかも、弟子を完全に買う気にさせているようだ。

 

 

「魔女様、どれが似合うと思いますか?」

 

 

 弟子も振り返って笑顔で私に話を振ってくる。

 私のファッションセンスに期待しないでほしいのだが。

 行商人の持つアクセサリーを見てみる……というかこれ全て安物ではないな。本物、それも結構上質なものだ。

 普通の行商人はここまで良いアクセサリーを扱わない。商品の単価と一個当たりの利益は良いが狙われた時のリスクが大きすぎるからだ。高価な貴金属は隊商を組める中堅商店以上が扱うことが多い。

 ただの行商人ではないのだろうか。最悪、記憶を取り出して……いや、それは駄目だ。

 

 少し気になる。

 

 とりあえず、弟子に似合いそうなものを探してみる。魔法を宝石に篭める宝石魔術の媒体にちょうどいいものが何かないものか。

 

 ……あ、これいいな。

 

 赤結晶を銀の枠にはめ込んで革の首輪に繋げた首飾りだ。

 きっと弟子に似合うだろう。

 

 

「行商人、これを買う。いくらだ?」

 

 

 それなりの額。農民程度には支払うことができない、市民でも数年間貯めてやっと手が出るかどうかの額だがおそらく相場よりは安い。

 提示された額を魔法で取り出して支払う。れっきとした法定通貨だから文句は出ないだろう。

 行商人も客相手に顔色を変えることもなく金を受け取る。もともと払えると踏んで商談を仕掛けてきたのだから当然か。

 

 金貨を渡すときに手を行商人に触れさせる。

 流れ込んでくる記憶。

 

 それは、行商人の正体であった。

 この男はサラーブ王国の密偵だ。行商人として他国を回り、賄賂やその他工作を行い、情報を手に入れる、そんな仕事をしている。

 ということは、私が魔女だということも半ば察しがついているのだろう。

 私が王国を出たということはもうすでに連絡係から伝わっているだろうが、どこにいるのかはわかっていなかっただろう。そのうちわかると思っていたが、思ったより見つかるのが早かったな。

 

 記憶の断片を見る限り、性格は善、冷静と言ったところか。

 これならまあ対処する必要はないかな。

 

 

「ところで、この町で一番いい宿屋はどこか知らないか? できれば浴場があるところで。」

 

「それなら町の東、湖岸地区にある「ボーデンのアヒル亭」がおすすめだよ。景色も立地もいいし警備もちゃんとあるからね。」

 

「わかった、ありがとう。それと、追跡するなら介入はしないでくれと上に伝えろ。一応戻る気はある。」

 

「っ! わかりました。上にはそう伝えます。」

 

 

 見つかったのならしょうがないので、釘を刺しておく。ついでに宿屋の場所も聞いておく。

 滞在中はそこに泊まってみるか。行商人がおすすめというなら、まあ質は高いのだろう。相手もバレたと気づいた以上、下手なことはしてこないはずだ。

 

 

「弟子、それじゃあこれ。ちょっと着けてみて?」

 

 

 弟子に買ったばかりの首飾りを着けさせてみる。

 思った通り、結構似合う。

 

 

「魔女様……ありがとうございます。」

 

 

 自分で買う気だったものを横から買ってしまったが気を悪くした様子はない。

 むしろとても嬉しそうだ。喜んでいるのならよかった。

 さて、魔法を篭めるか。

 

 

「弟子、ちょっと。」

 

「ふぇっ!? 魔女様、何を?」

 

 

 弟子の胸元の宝石に手を当て、魔法を封入する。

 どんな魔法がよいだろうか。

 いざとなったら弟子を守ってくれるような魔法。半径数百メートルの敵と指定した対象を焼き尽くす魔法。こんなところだろう。

 

 周囲に魔力を展開し、魔方陣を構築する。

 構築した魔法陣を高密度で圧縮し、宝石に封入する。

 篭めた魔力が安定化したところで手を放す。

 

 完成だ。

 

 弟子はすごく嬉しそうな顔で喜んでいる。

 

 

「さすがです、魔女様!」

 

「今くらいの奴なら弟子も出来るようになるよ。宝石魔術の基礎は教えた通りだからね。」

 

「大魔女様。今のは……」

 

 

 そこで気づく。周囲の喧騒が消えていることに。

 

 振り返ると、行商人だけではなく列に並んだ人々や兵士も私の方を向いていた。

 沈黙が場を支配する。

 この場でやるべきでは無かったかもしれない。

 

 思わず行商人を睨みつけてしまった。こんなところで宝石を売ってきたのが悪い、なんて八つ当たりで。

 大層慌てた様子の行商人が周りに宝石を掲げて叫ぶ。

 

 

「すまない、宝石魔術を誤って発動してしまっただけだ。」

 

 

 その言葉で周囲に喧噪が戻ってきた。

 

 

「すまない行商人、」

 

「いえ、大魔女様。これくらいでは。それより今後こんなことを人前ではしないようにしてくださいね。」

 

「ああ。」

 

 

 行商人の返事は本当にやめてほしい、そんな響きがあった。そういえば、いつの間にか行商人の口調が敬語になっている。

 正直またやってしまいそうなので、私はおざなりに返事をする。

 

 

「それよりも、何をしたんですか?私の技量では一部しか見えなかったのですが……」

 

 

 行商人がさらに話しかけてくる。

 

 

「魔女様、大体は見えたんですけど、使い方とか教えてください。」

 

 

 弟子も気になっていたのか、行商人に被せて質問してくる。

 

 

「わかった。篭めた魔法は炎魔法と座標指定の術式だ。起動するまでの魔力を篭めたらあとは内臓魔力で魔法を撃ってくれる。最大で数百メートルの範囲の六百人くらいなら軽く焼き尽くせるだろう。宝石魔法のやり方は、本来ゆっくりと浸透させるところを魔力で無理やり焼き付けて暴走しないように調整しただけだ。」

 

 

 軽く説明すると、行商人はそんなやり方でできるのか、なんて驚いていた。

 そのあとは、弟子と魔法の話をしながら待っていると、自分たちの順番も近くなってきた。

 

 

「大魔女様、旅証はありますか? なかったら私の予備の旅証から適当に偽造しますが……」

 

「いや、大丈夫だ。王国政府から送られてきたやつを持っている。これでいいんだろう?」

 

 

 行商人が心配になったのかこちらに確認してくる。

 王国から渡された旅証を取り出して見せる。十数年前に旅証制度が条約で決まったらしく、その時に送られてきた少し豪華な装丁の手帳は、以来一回も使う機会の無かったものだ。

 見せた瞬間に、行商人が呆れ顔になった。

 

 

「そのー、ええと、その旅証、手帳型のものは貴族旅証というもので、わざわざ列に並ぶ必要が無いんですよ。兵士に伝えれば最優先で入国審査を受けることができます。」

 

「そうなのか?」

 

「そうなんですよ。」

 

 

 まじか。

 

 旅証の後ろの方に書かれている条約文には確かに貴族旅証の説明が書いてあった。

 私はその説明は読んでいて、弟子を私の従者とすることで入国可能だということは知っていた。

 

 けれど、実際の扱いが列に並ばずとも優先的に入国できるなんて考えていなかった。

 

 

「大魔女様、その旅証は大魔女様ご本人のものですか?」

 

「ああ、私の名義の物だ。」

 

「それでは、あなたの地位について、何と書かれていますか?」

 

「名前の横の欄か? ……サラーブ王家、とだけしか書かれていないが。」

 

「まさかの王室旅証だった……」

 

 

 行商人曰く、ただの旅の入国のために使うようなものではないらしい。国賓待遇の政治的な会談や公的な外遊以外ではまず使わないものだとか。

 

 

「私の予備の旅証、から二人分、つくりましょうか?」

 

「すまない、そうしてくれないか?」

 

 

 そういうと、行李から貴族旅証と普通の旅証を一つづつ取り出して、その場で刻印術式と精密加工術式をほどこし始めた。

 ものの数分で出来上がったそれを、貴族旅証は私に、一般旅証は弟子にそれぞれ渡してくる。

 いきなり渡された旅証に混乱する弟子に行商人が王国の密偵であることを伝える。

 

「弟子の分の一般旅証はいるのか?」

 

「お弟子様の分が無ければ、お弟子様は魔女様から離れられません。法律上は、ですけどね。従者とはそういう扱いなのです。」

 

「そうか、なら助かる。」

 

 

 弟子が私から離れられないならそれはそれで良いのでは、とも思うが、弟子が単独行動できないのも困る。

 弟子の旅証もあったほうがよさそうだ。

 

 

「見事だな。」

 

「いえいえ、そもそも物は本物で、作り方も正規の作り方です。偽物に見えるわけがありませんよ。」

 

 

 偽装防止の文様まで再現された旅証は偽物には見えない。そう思ったが、そもそも本物を国から渡されているので当然か。

 

 

「だが道具もなく即興でとなるとこの完成度はすごいだろう。」

 

「まあこれが仕事なのでこれくらいは。けれど、大魔女様にそう言ってもらえると嬉しいですね。」

 

 

 そう言っている間に順番が回ってきた。

 兵士に旅証を渡し、確認させる。

 

 兵士にも、貴族旅証なら並ばなくてもよいと言われたが、貴族旅証なら持ち物検査が免除されるのはありがたかった。わざわざ見せるものでもないからな。

 

 

 弟子とともに門をくぐって町の中に入る。すると、すぐ後ろから行商人もやってきた。

 

 

「やけに早く終わったな、行商人。」

 

「それはこれですよ、これ」

 

 

 悪い顔をした行商人。

 人差し指と親指をこすり合わせるジェスチャー。賄賂か。

 

 

「まあ、いいだろう。これ以上ついてくるなよ。わかっているな?」

 

「それは重々承知しています。」

 

「それじゃあな。」

 

「ええ、では。」

 

 

 その言葉とともに立ち去っていく行商人。

 実際、私と弟子の居場所は旅証の履歴なりを調べればわかるのだろう。首輪をつけられたかもしれないが、王国政府は首輪程度で私をどうにかできるとも思っていないだろう。

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 行商人、そう魔女から呼ばれた男が魔道具を操作している。

 長距離通信魔道具は、それそのものが国家機密だ。それを持ち運び、操作できる彼の立場は、実際に王国諜報部の中でも低くはない。

 

 

──クリカエス コチラ 630ゴウ フゴウ473612A。オウトウ ネガウ。

 

 

 何度目かの呼び出しの信号文の後、応答が返ってくる。こちらは音声だ。

 

 

――こちら王国北部通信局。符号を確認。音声通話を許可。中央と繋ぎます。

 

 

 その言葉で彼の身体が姿勢を正す。

 通信の反対側にいるのは王国の中枢、諜報機関のトップだ。それだけの重要情報なのだから当然だろう。

 

 

「こちらはコンスタンシアに潜入中の630号です。コンスタンシアの城門の入国審査列に魔女を発見しました。」

 

「本当か? 魔女を語る偽物などたくさんいる。確認は? どの程度の確度の情報だ?」

 

「間違いなく本物です。魔女と弟子、どちらも容姿は一致しました。事実上偽造不可能な王室旅証を持っていて、さらに目の前で戦術魔法を宝石に篭めていました。間違いないです。確度はAクラスです。」

 

「わかった。他に情報は?」

 

「追跡するなら介入はしないでくれと上に伝えろ。一応戻る気はある、と言われました。彼女は我々の介入を望んでいません。極力接触は避けるべきでしょう。しかし、彼女はまだ王国を見捨ててはいないと思われます。」

 

「待て、魔女に密偵だとバレたのか?」

 

「はい、しかし、推定される魔女の権能を考えるとそれを悟らせるのは至難の業でしょう。」

 

 

 相手の声に怒気が混じるが、魔女に睨まれたときのあの恐ろしさに比べると大したことの無いように思えてしまう、と彼は考える。

 

 

「まあ、そうだろうな。しかし魔女がまだこの国を見ているのなら行幸だな。それで、今の居場所はわかるのか?」

 

「今の正確な居場所はわかりませんがおそらく今晩は「ボーデンのアヒル亭」に泊まるとおもいます。後でそちらのスリーパーに確認を入れてください。それと魔女の求めに応じて偽造旅証を与えました。旅証番号は魔女が貴族旅証8673、弟子が一般の94752445です。」

 

「わかった。王国の戸籍は書き換えておく。」

 

「以上です。」

 

 

 通信が切れる。

 

 

 その通信の反対側に座っていた、この国の諜報部を束ねる男。

 その男がいる、薄暗い地下室には大量の通信機材や情報が記された紙が整然と並べられている。

 受話器を下す。爛爛と光る眼は彼の鋭さを表しているようだった。

 

 

「見つかった、か。素晴らしい。実に素晴らしい!! 国母、魔女様、王であるべき御方。どんな賛辞もあの御方を表現するには足らない。この国の宝、それを!!!」

 

 

 怒りに任せて机を叩く。壁には世界地図が貼られ、大量の情報が書きこまれている。机の上に乗せられたインク壺が転がる。

 

 

「この国は蔑ろにしている。あまつさえも国内に黒神の信徒……技術力だけはある正統学派の蝙蝠どもを招き入れ、魔女に頼らない強国などとほざいている。王はもはやこの国の王である資格を失った。」

 

 

 怒りに任せてつぶやくその姿を見たものは、彼が普段切れ者として諜報機関のトップに立っている男だとは信じられないだろう。

 

 

「だからこそ、魔女は十年間森から出なかったのだ。そしてついにこの国を出たのだ。勇者と魔女の盟約に何と書いてある!? 魔女が認めた者こそが、この国の王なのだ!! それを忘れる王など、もはやそれは魔女に対する反逆者だ。フッフハハハハ!!! 直に王もわかるだろう。この国の本来の役割を。そして王家が犯してきた罪を償う時が来る。いや、償わせるさ。ハハハハハ!!!」

 

 

 ひとしきり、狂ったように笑った後、一人きりの部屋で男はつぶやく。

 

 

「ああ、魔女様、見ていてください。私こそが貴方をお救いする騎士です。」

 

 

 その姿を見た者は、彼をこう呼ぶに違いない。まるで狂人だと。

 

 





魔女は相手を信じるために、心を読むというステップが必要です。前世では普通にやっていたことが今世ではできないのです。

狂人はただの変なおっさんです。

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