人間不信の大魔女様   作:皆方 ho_

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 お久しぶりです。生きてます。
 今から四話だけ毎日投稿します。




2.3 文明と宗教は悲しき双子

 

 

 

『”メデューサ”被害拡大。背後には邪教徒か』

『有害な煙。フルフナで死者500人超える』

 

 センセーショナルな見出しが並ぶ紙面。伝聞調は少し読みにくいが、文明開化を感じる事ができ、気分がいい。

 王国では読むことのできない活版印刷の新聞は共和国の発展を伺える。

 

 あくる朝、私は宿の食堂で新聞を読んでいた。

 

 昨夜の成果である手に入れた記憶は一通り目を通したのだが、結局めぼしい情報は見つからなかった。あまり期待はしていなかったけど、いざ何もなしと言われると少し落胆してしまう。

 成果としては最近の社会情勢を理解したことだろうか。聖教国と私が呼んでいた国は、現在は教皇領と名を変えてローラシア共和国を形成するうちの一つになっているそうだ。

 その経緯は読んだ記憶が犯罪者のものばかりであったので、完全にはわからなかったけど、独立国ではなくなったからと行って聖教会そのものの勢力が減ったわけではないようだ。むしろ増えている。

 現に私の目の前でも白神の朝の祈りの言葉を唱えている人間が居る。

 眼の前でそんなこと(神への祈り)をされても不快なだけなのだが。

 

 早く弟子、来ないかな。

 

 結局、私は昨夜は一睡もしていない。

 戻ってきて弟子のベッドに潜り込んだまでは良かったのだが、その後は記憶を読むことに集中してしまい、読み終わる頃には日が昇っていた。

 まだ寝ている弟子を起こさないようにベッドを抜け出し、記憶だけでは手に入らない情報があるかもしれないと思い、新聞を読もうと思ったのだ。

 しかし、宿の従業員に尋ねると、新聞は食堂に取り揃えてあると言われたので、部屋に書き置きを残して来たのだが。

 

 周りの人間が私を微笑ましいものを見るような目で眺めてくる。背伸びして新聞を読んでいる良いところのお嬢ちゃんとでも思っているのだろうか。居心地が悪い。

 

 朝食は提供される時間が決まっていて、今はまだ準備中らしく、食堂は朝食を待つ人が数人、新聞や本を読んだりして時間を潰している。

 この場にいる全員活字が読めるあたり、上流階級らしい。

 

 

「魔女様、何を読んでいるんですか?」

 

 

 ふと後ろから声がかかる。

 弟子がやってきたようだ。

 振り向くと、準備をしてから来たのだろうか。寝癖を直して寝巻きから着替えた弟子がしゃがみこんで紙面を覗き込んでいた。首からは昨日買った宝石のネックレスを下げている。

 

 

「おはよう、弟子。これは新聞だよ。こんな感じで最近の出来事が紙にまとめられて知ることができるんだよ。王国で言う伝報官*1みたいなものだよ。」

 

「面白そうですね。私も読みたいです!」

 

「今読んでるからちょっと待ってくれ」

 

「今読んでいるところからでも、構いませんよ。」

 

 

 そう言うと、私が読んでいるページを横から読み始めた。弟子は街に行ったときに伝報官が話している内容をずっと聞いていたらしいので、こうなるのも当然か。

 そのまま二人で一つの新聞を読み進めていると、少し嫌な内容の記事に突き当たってしまった。

 

『社説 王国を征服し、魔女を崇める邪教徒の国を滅ぼせ』

 

 

 政府発表によると昨年301年度の王国からの脱出者の数は5万人に及び、過去最多を更新している。

 母国を脱出する理由は貧しさだ。ほとんどの脱出者は産業革命に成功した我が国の豊かさを求めてやってきている。

 農業人口の減少のために政府が行なった移民に土地を与える政策は移民の増加に拍車をかけている。王国に行けば重税はなく、土地は与えられるから暮らしを立てていくこともできるからだ。

 移民は安くて質の良い穀物を生産することができる。つまり、王国の高い農業技術を我が国にそのまま移転することができている。

 

 かの国は農業大国であるが、その生産された穀物の大半は国が徴収し南方に輸出されている。民のもとには最低限の食料しか残らない。

 王国は外貨を獲得するために民衆を犠牲にしているのだ。

 

 旧王国は150年前に崩壊したが、その混乱の時代に街一つを犠牲にして魔女が召喚された。その魔女は勇者を邪教に寝返らせ、共和国と聖教会の連合軍は奴らに敗北を喫した。

 あれから120年。もうすでに100年にわたって続く対王国禁輸措置は王国を十分に疲弊させている。

 王国は魔女が民を食い物にしている地獄だ。

 今こそ圧政に苦しむ王国の民を解放し、邪教徒と魔女の治める国を滅ぼす時だろう。

 

 

 

 読み進めていくうちに弟子の気配が剣呑なものになっていく。落ち着かせた方がいいかな、爆発されたら困る。

 

 

「弟子、わた「魔女様、こんなものをわざわざ読む必要はないです!」

 

 声をかけようとした瞬間、弟子の怒りが爆発した。

 私の手から新聞を奪い取ったかと思うとその場で破り魔法で燃やし尽くしてしまった。

 

 何事かとこちらに集中する視線。

 怒りを接客用笑顔の下に隠した宿の従業員が近づいてくる。

 

 

「お客様、他のお客様もいらっしゃるので、そのような……」

 

 

 弟子はそれを無視して他の新聞を何やら一通り探している。同じような記事が載ってないか確認しているのだろう。

 燃え滓がヒラヒラと舞い落ちる中で私はため息をついた。

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 新聞は文明の象徴だ。

 

 近代化の徒花とも言えるそれは、なぜなら人々が生活に余裕ができて、あるいは知識を身につけて、政治やその他の情報など、自分たちに直接関係ない事柄を金を払ってでも知りたくなるようになってからではないと成り立たないものだからだ。

 

 十年間で、共和国は着実に進歩していた。

 まず一つは新聞の種類が増え、情報量も増えたことだ。

 

 昔からあった瓦版よりもはるかに記事の内容がよくなっている。社説の展開などもそうだ。

 さらに、昔は木版印刷だったのが、活版印刷に変わっている。

 

 技術の進歩は必ずしも倫理の進歩を招かない。それは知っている。だが、技術の進歩は人々を物質的に豊かにし、それが間接的に倫理観を育むのだ。

 極論的には、人間は環境によって神にも獣にもなりうる。神はそれを恐れている。

 

 

「魔女様、食べる手が止まってますよ。」

 

 

 この世界の言語は白神から下されたものだ。

 神は自らの名が他の文字と同列に記される事を嫌っていた。物事の本質を記し、人間が進歩する事も。

 それは神の領域に踏み入る行為だからなのだろうか。

 

 それゆえに、この世界の言語は表意文字であり、さらに単純なニュアンスしか扱うことができない。まるで初期の楔形文字のように。

 

 

「あの、魔女様? 考え込んじゃってる……

 

 

 それらを改善する取り組みは、何度も見たことがある。私が見てきた百年間でも、何人もの知識人が文字を改良し、豊かな表現力を持つ文字にしようとしてきてた。

 しかし、それらに成功した例は一度も見たことがない。私が知っている者も、途中で突然それをやめてしまうか、天に召されてしまっている。

 王になったあとのあいつは会うたびに私に愚痴をこぼしていたが、文字の不完全さも言っていた気がする。王国の伝報官制度は少しでも情報伝達をスムーズにするために作られた制度だからね。今はどうやら王国の政府新聞兼国内諜報機関と化しているようだけど。

 

 神は人間が言語を発展させる事を阻害している。それは間違いない。

 神を引き摺り下ろす可能性? 手がかりにはなるかな。

 

 

「冷めちゃいますよ、ご飯。考え事の前に食べましょう。美味しいですよ?」

 

 

 考え事はやめて、そろそろ現実に戻ろう。

 

 私の目の前には着飾ってとても可愛らしい弟子がいる。美味しそうなご飯も。

 

 朝食を宿でとった後。市場に繰り出した私たちは、まず弟子が興味を示した大衆向けの服屋に入ってしまった。

 大衆向けとはいえやや高級よりだったその店は、その場でワンポイントアクセサリーを追加で縫い付けれるサービスを行っており、店主のこだわりも相当だった。

 弟子は私を着せ替えさせたがり、私は逃れることができなかった。

 数時間拘束されて、私は弟子(と店主)のコーディネートに付き合わされたのだ。

 

 そして今、私の服装は、赤いリボンが付けられた白い長袖のドレス風ワンピースを着て、普段のフードは影も形もない。

 弟子も、服屋で買ったワンピースに身を包んでいる。

 

 昼食を食べるために近くのカフェに入ったは良いが、テラス席しか空いていないと言われてこの有様だ。

 

 弟子の美少女ぶりは着飾ったことによって最大限に引き立てられ、卵やハムの乗ったガレットを美味しそうに食べる様子に釣られてさまざまな視線がこのテーブルに集中しているのだ。

 

 弟子が様々な目に晒されているのはとても不快だ。弟子が気づいていないのがさらに性質が悪い。

 

 早く立ち去りたいけど、私の頼んだグラタンは少し失敗だった。

 半分くらい食べたところでお腹が膨れてしまって先程から少しも進んでいない。

 

 そうこうしているうちに、弟子はガレットを食べ終わり、私の方を少し物欲しげな、不満そうな表情で眺めている。

 

 もう無理。食べれない。そう考えたところで、気づく。たぶん弟子なら食べれるだろう。弟子が食べていたのはガレットだ。そこまで量はないはず。それに、こちらを物欲しそうな目で見てきたではないか。

 

 

「弟子、これ、食べるか?」

 

 

 グラタンを一口分、スプーンで掬って弟子の口元に運ぶ。

 

 

「ふぇっ⁉︎あ、え⁉︎ 魔女様、それ……」

 

 

 いきなり差し出されたスプーンにあたふたとする弟子。

 そこまで驚くだろうか? 弟子の胃袋の容量は知っているし弟子も私がどれくらい食べるかは知っているはずなのに。

 

 

「食べないのか?」

 

そう問いかけると、

 

「ぃや、その……食べます!」

 

 

 そう言って、覚悟を決めたようにスプーンに乗ったグラタンを食べる弟子。

 もぐもぐ、ごっくん。

 そんな擬音がつきそうな食べ方で食べると、次を催促するようにこちらに目を向けてきた。

 

 ん? まだするの? 

 

 その目につい、スプーンと皿を弟子の方にやりかけていた手を止めて、再びスプーンでグラタンを弟子に差し出す。

 

 繰り返される先ほどの情景。

 

 うん、昔こんなことしたことがあったな。

 弟子が一度だけ、熱を出した時だ。

 

 使役魔法の勉強で火の精霊を呼び出した弟子は、ほとんど成功するはずの火の精霊との交渉になぜか失敗。軽い呪いをかけられてしまったのだ。

 

 私が解呪するより弟子自身の解呪の練習になるだろうと思って、解呪できるまでの数日間を介護したのだが、その時もこんな感じだった。

 

 今みたいにお粥を一口づつ口元に差し出して、お腹に手を当てて呪いの感覚を把握させる。そうやって少しずつ解いていったのだ。

 

 懐かしいな。

 

 でも、そのときもそう思っていた気がする。

 前世で、もう名前も思い出せない子供が熱を出したときを思い出していたんだ。

 

 ……懐かしいなぁ。

 

 前の世界へは帰れるのだろうか。そもそもこの世界と前の世界の繋がりとはなんなのだろうか。神が関わっている? それとも前の世界の理論がこの世界で適用できるのかもしれない。この世界は多元宇宙論や他の昔の世界の理論で説明できる範囲内の世界なのだろうか。

 

 そこまで考えて、ふと我に返った時にはグラタンはすべて弟子の胃の中に消えていた。

 そこにあったのは、満足そうな顔をした弟子と、先ほどの数倍に増えた視線が、私達に集中していたのであった。

 

 こっちを見るな、人間。

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

『……御魂送りを行うかもしれないので人員を集めるように。』

 

 枢機卿から送られてきた封書を読んでいると、シスターから急に声をかけられました。まだ朝の礼拝も始まっていない早朝なのですが。

 

「あの、司祭様。娼婦たちが教会の前に集まっています。どうしましょうか。」

 

「どういうことだい? 神の御前で騒ぎを起こす気ですか?」

 

「それがどうも、私たちを助けてくれ、と。」

 

「ふむ。敬遠な神の子供として、私たちはともに助け合って生きなくてはならない。聖書で神がそうおっしゃっています。何か事情があるようですね。とりあえず、落ち着かせて話してみましょう。」

 

 この街の歓楽街は王国との密貿易を行う犯罪組織が蔓延っています。全く、麻薬は教会のみが神の許しを得て使うことができるものであるはずなのに。神の許しを得ず使うというのは、なんて罪深い。

 王国産の麻薬の流通の大元を担う彼らは、間違いなくこの国の癌でしょう。

 娼婦といえばそんな彼らの傘下の者のはず。

 貞淑に信頼ある者のみとの性交渉を許す神の教えを守らない不届者どもです。一体何用でしょうか。

 

 

「この教会の司祭です。あなた方は何の用でここにお集まりになっているのですか?」

 

 

 最大限優しい声で神聖術を込めて話します。

 相手の態度を軟化させる効果があるはずです。

 

 

「お願いです! この教会に私達全員を保護して欲しいのです。衰弱している者もいます。どうか!」

 

 

 悲痛な叫び声です。

 見ると、彼女らの中には体に傷がある者もいます。

 

 

「そういうことですか。わかりました。少し待っていただけますか?」

 

(彼女らの受け入れ準備を。)

 

 そばで様子を伺っているシスターに念話を送りました。

 急いで走っていくシスターは他の者にも伝えに行ってくれるようです。

 

 

「受け入れる前に確認しておきたいのですが、ここにいる者は全員、我が神を信じておりますか? 教会の洗礼を受けていない者は教会に入る資格がありません。」

 

 

そう言うと、何人かの女性が慌て始めた。

 彼女らは遅れた地の神の信徒でしょうか。

 聖書を読めば神は白神だけで、地は白神から生まれた天使が神を僭称してることなど一目瞭然なのに。あと一押しですね。

 

 

「私たちは穢れた売女でも悔い改めて神に共に祈りを捧げるのなら許します。それは地の信徒でも変わりませんよ?」

 

「あの、今から洗礼を受けることはできませんか?」

 

 

 すぐに自ら改心してくれる人が現れました。

 信じるものが弱い人の心とは変わりやすいものです。白神を信ずるならばそんなことにはならないでしょう。

 

 

「構いませんよ。彼女だけですか? 他に洗礼を受ける者は?」

 

 

 そう言うと、さらに何人もの女性が立ち上がって私の前に出てきました。

 

 

「お願いします。司祭様。」

 

 

 頼み込む彼女らは敬遠な信徒になってくれるはずです。人間を信じなくては。

 太陽を指し示しながら答える。

 

「ええ、こちらこそ。きっとあなた方の未来は幸福ですよ。何せあの白神様が常に見守ってくださっているのですから。」

 

 

 さて、御魂送りの儀式に出す人員はこれで足りそうですね。一安心です。

 他のシスターも引き連れて準備が終わったと報告した先ほどのシスターに些事を任せて部屋に戻ります。

 洗礼をする人は聖堂に向かってもらい、枢機卿への返信を書きはじめようとすると、またもや先ほどのシスターがやってきました。

 

 

「一応耳に入れておきます。彼女らがなぜ娼館から逃げ出したのか聞いたところ、魔女に助けられた、そう答えてきたものがいます。他の者は何も言いませんでしたが、この国にもしかしたら王国の大魔女が入ってきてるのかもしれません。」

 

「本当ですか!? 大変なことですよ、それは。」

 

「ええ、ですがその女性以外からは証言はないんです。嘘を言っているとは思えないので、他者を信じるべきかと。」

 

「そうですね。枢機卿に報告しなくては……」

 

 

 シスターが部屋を退出したあと、再度返信を書き始める。

 

『魔女が十五年ぶりに共和国に侵入している可能性があります……御魂送りの人員はおそらく足りるかと思われます。……』

 

 

*1
王国の制度。定期的に各行政区画、役場ごとに王都から派遣され、各地の情報や法令を知らせ、また情報を集めて王都に持ち帰る役割をしている役人





弟子 魔女様に間接キスとあーんをされて嬉しかった。
魔女 考え込むと周りが見えないタイプ。
   自分にも視線が向けられていることに気づいていない。

 この世界の文字は神に統制されています。
 具体的には新聞記事の表記は魔女の視点から直訳すると、
国主の知らせで昨年の敵国から逃げ出た者の数は五万人だった。それは今までで一番多かった。
敵国から脱出することは豊かであることにつながる。我が国は敵国より豊かだ。

こんな感じになります。現在進行形や未来形、一部の指示語や助詞などが存在しません。これにより、新聞や書物の発達は遅れています。
 魔女様はこれを嫌って自分の実験記録などは日本語でつけています。

 しばらく書いてなかったので少しづつでも更新できたらと思っています。
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