人間不信の大魔女様   作:皆方 ho_

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 書き溜めこれで最後なので初投稿です。




3.2 魔力と記憶の交換魔法

 

 

 私を引っ張ったまま、魔女様が移動した先は市場でした。

 

 町の規模に比べて店の多い市場には、隊商に加わっていた人々が休憩がてら立ち寄っているようです。

 衣服やアクセサリーから保存食まで、様々のものが売られていて活況を呈しています。

 

 

 魔女様の横に立って店を眺めながら歩いていると、魔女様が声をかけてきました。

 

 

「弟子、何か買いたいものはあるか?」

 

 

 先ほどから眺めていた店の中でも少し気になっていた店を指差しながら応えます。

 

 

「そうですね……あれを食べてみたいです。」

 

 

 その露店は、移動式の屋台で生地を焼き上げる料理のようでした。

 店主のお姉さんが鉄板の上にある生地にタレをかけ、客に提供しています。

 

 

「あの料理、なんて言ったっけな……まあいい。じゃああれを昼ご飯にするか。弟子、買ってきてくれ。」

 

「はい!」

 

 

 屋台に向かい、お姉さんに声をかけようとしたのですが、よく考えると料理の名前がわかりません。

 少し困ってあたりを見ますが、料金表のようなものもなく、魔女様の方を見ても、早く注文しろ、という目線が返ってきました。

 屋台の目の前であたふたとする私に、目の前のお姉さんも困惑しています。

 再び魔女様を助けを求める目で見ると、やっとこちらに来てくれました。

 

 

「おすすめのを二つ。私と弟子の分だ。」

 

 

 そういえばよかったのか。

 考えればわかることなのに、気づかなかった自分に少し落ち込みます。

 

 

で、弟子?はい。一つ2クロイツァーで二つだから4クロイツァーね。」

 

 

 魔女様が硬貨を取り出して渡すと、お姉さんは鉄板に生地を広げて料理を焼き始めました。

 

 

「今焼いてるから待っててね。十分くらいで出来上がるから。ところで君たち、旅の途中だよね。隊商に乗ってきたんでしょ?」

 

 

 魔女様は返答しないだろうな、そう思って魔女様の方を見ると魔女様は目を閉じて考えこんでいました。

 急にどうしたんでしょうか。そんなに考え込むことがあるのかな。

 なにか代わりに答えた方がいいのでしょうか。そう考えていると、それを遮るように女性は話しかけてきました。

 

 

「この町、きれいでしょ? たぶん他の町に比べても、そうでしょ?」

 

「ええ、そうですね……」

 

「数年前に魔術師さんが来てからね、一気にこの町が発展したんだよ。この町の繁栄はその人のおかげさ。この町の人はみんなその人に感謝しているよ。」

 

 そういいながら手際よく鉄板の上の生地に肉を載せてひっくり返すお姉さん。

 

 

「その人はすごいんだよ、上下水道を整備してくれたり、それに地母神の祈祷もできてね、この町にモスクも作ってくれたんだよ。たぶん、君たちも見ているはずだよ、広場の前にある大きい礼拝所さ。」

 

「そんなにすごい人がいるんですね。」

 

「そうなんだよ、しかもかっこいい。だから、何人かの女はあいつに求婚したんだけど、すっぱりと断られたらしいよ。いい気味だ。」

 

 

 お姉さんは話しながら、焼けた生地にタレをかけてさらに魚の削り節でか何かをかけるとそれを四等分に切った後、皿に移して箸とともに渡してきました。

 渡される二枚の皿。焼きたてのそれはタレのいい匂いでとてもおいしそうでした。

 

 

「ごめんね、話過ぎたよ。じゃあほら、どうぞ。食べ終わったら皿は返却してね。」

 

「はい」

 

 

 料理を二皿とも受け取って魔女様の方に向き直ると、先ほどから目を閉じていた魔女様が目を開き、そしてどこか遠くの方を見ていました。

 

 

「魔女様、完成しましたよ。早く食べましょう。」

 

 

 そして面白そうな表情をしていました。

 魔女様がこの表情をするときは何かを思いついたときです。

 少し嫌な予感がします。

 

 とりあえず声をかけると、こちらを向いてくれました。

 そして、料理を見て、

 

「なつかしいね、この料理。なんて言う名前だっけ……」

 

 

 なんて言いながら料理を食べ始めました。

 私も箸を手にとって食べ始めようとすると、基本的にマイペースな魔女様が、

 

「ねえ、弟子。この町にしばらく滞在するよ。」

 

「急にどうしたんですか? 魔女様。」

 

 

 急に予定変更を言ってきました。

 

 

「少し気になることがあるんだ。私の身体には関係ないと思うがね。」

 

「どんなことですか?」

 

「それは秘密さ。ところでそれを調べている間、弟子にはちょっとした課題を出そう。」

 

「え?」

 

「この町のおかしなところとその原因を突き止めてごらん。この町にいる間にね。」

 

 

 嫌な予感が当たっているのかはまだわかりませんが、少し厄介なことになったのは間違いないでしょう。

 にしても、この町で気になったことがあるのでしょうか。普通の町に見えますが……

 魔女様が身体以外で気になることってなにかあったでしょうか。異界の魂や黒神、邪教徒でしょうか。もしかしたら魔法かもしれません。候補が多くてよくわかりませんが、とりあえず何かしらこの町にあるのは間違いないようです。

 顔を上げると、もうすでに魔女様は料理を食べ始めていました。

 今度は逆に私が考えこんでしまっていたようです。

 

 

「魔女様、数日この町に泊まるということは、なにか調べるんですか?」

 

「ああ、だけどその間は別行動だ。弟子は課題を頑張ってくれ。」

 

 

 魔女様から告げられたのは、久しぶりの別行動でした。

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 アーレン市のどこか。街の中心にあるモスクの地下。ほとんどの人が立ち入ることのないその場所で、水晶玉から投影される映像に男が怒声を上げていた。

 

 

「どういうことだ!! あんなものが街に来るなんて、聞いていないぞ!! 出てこい影、説明しろ!!」

 

 

 男はかなり上等な衣服に身を包み、魔術師然としたローブに身を包んでいる。端正なその顔は、怒りというよりもむしろ恐怖に染まっていて、その恐怖を払拭するために、誰かを怒鳴りつけているようであった。

 唐突に、部屋の隅、ベッドの影になっている床が水のように波打ち、泥のように形を作る。泥は少女の形となり、黒い影が引くように床に落ちて少女の身体がモノクロに色づく。

 影から現れた少女は、そのまま近くにあったベッドにゴロンと寝転がった。

 

 

「僕も知らないよ。あれは僕たちも予想してなかった。想定外ってやつなんだよ。」

 

 

 飄々とした口調でベットに寝転がる少女が答える。

 

 

「クソッ本当にお前らは関わってないんだな!? 影!!」

 

 

 鋭い青眼で少女を睨みつける魔術師。

 

 

「影は関係ないよ。本当だって。そもそもそんな危険な真似、僕らがするはずがないじゃないか。」

 

 

 少女の姿は黒い髪に白い肌。白目の部分が黒く瞳孔は灰色だ。髪の毛は肩まで伸びている。

 そして何より、頭の上には神の使徒を表す光輪が影のように浮き出ていた。

 

 

「そうだな……確認するが、あれはサラーブ王国の魔女で間違いないな?」

 

 

 投影される映像に映る魔女と弟子を指さして確認する魔術師。

 

 

「うんそうだよ、間違いない。ところでそれ、もうバレてるよ?」

 

 

 返答は端的だった。

 映像の中の魔女がこちらを向いたかと思うと映像が途切れ、バキッと音がして、水晶玉にヒビが入る。

 魔術師が黙り込んで水晶玉を見つめる。

 

 

「一応言っとくけど、魔女からの隠蔽は契約外だし、戦いになったら逃げるよ? 流石に魔女の相手は厳しいし。」

 

 

 黙り込む魔術師に少女が声をかける。

 

 

「こんなところで終われるか……なんのためにここまでやってきたと思ってんだ……」

 

 

 そう言うと、魔術師は立ち上がり、自身の工房へ向かおうとする。

 

 

「おーい、どうする気だい?」

 

「戦いの準備だ。」

 

「そうかい、まあ好きにすれば? それともう一つ。契約は守りたいところだけど、君が派手な行動しても僕は隠蔽できないよ? それも契約外だからね。流石に一定以上だと教会の網にかかっちゃうから。」

 

「チッ」

 

 

 返答は舌打ちだけだった。

 そのまま振り返らずに部屋を出る魔術師。部屋に取り残された少女は一人ごちる。

 

 

「あーあ。せっかくの街まるごと好きにできる拠点だったのに。まあいずれ消えてたのは間違いないんだけどさ。残念だなぁ。」

 

 

 両足をベッドの端からはみ出し、パタパタと揺らすその姿は、まるで年相応の少女だった。

 

 ふと、少女の雰囲気が変わる。

 それまでの無邪気な様子は消え去り、禍々しい重い空気が場を支配する。少女の体は微動だにせず、口のみが言葉を紡ぎ出す。

 

 

「ナァ、我ガ人形ヨ。貴様、魔女ヲ味方ニスルト言ウ目的ヲ忘レタカ? 必ズ勧誘シロ。拠点ヲ失ウノハ残念ダガ、他ニモ拠点ハ有ル。貴様ガ何ノタメニ地上ニ居ルノカ考エテ目的ヲ達成シロ。」

 

 

 たどたどしい大陸語。

 さらに数秒の沈黙の後、少女が咳き込む。そして震えながら動き出す。

 その頃には少女の雰囲気も元に戻っていた。

 

 

「そうだった。魔女に協力を依頼しないといけないのか。あいつの前に立つのは嫌だな……そうだ、この街が消えるってことは、あの屋台のお好み焼きも食べられなくなるじゃん。せっかくの転生者の遺産なのに消えるなんてなあ。もったいない。今のうちに食べに行くかあ。」

 

 

 そう言ってベッドから立ち上がると、ベッドの影に溶けるようにして次の瞬間には少女も部屋から消えていた。

 

 

 






 書き溜めはこれまでなので次はしばらくかかります。
 誤字報告ありがとうございます。

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