陽の光が全く入らない場所に男が一人佇んでいた。周りには多くの大きな機械が置かれているが、その殆どが活動しておらず、半ば廃墟に近い感じであった。その中で唯一動く男は懐中電灯を片手に書類を読んでいた。一通り目を通すと「チッ」と舌打ちをし、忌々しそうに機械群を見つめた。
「私ではだめか…」
ここでは独り言もよく響く。自分の声でさえ癪に障る程男は苛立っていた。多くを壊し、そして奪ってまでも欲しかったものが目の前にあるが、獲ることはできなかった。それに加えて、男の中にはモヤモヤしたものを抱えていた。仮に
外は眩しかった。今の男には十分すぎる程の明るさだった。やはりもう自分には陽の光さえ毒になるほど穢れてしまったのだと感じていた。
もう生きていても仕方ない、何か人知れず綺麗な場所で最後を迎えたいと歩いていた時だった。すれ違った人の中で興味深い話が聞こえた。振り返った時、その人物に見覚えがあった。男は持っていた書類をパラパラとめくり、目的のページを見つけた。
(コ、コイツは!)
その瞬間、男の中であることを思いついた。そしてそれは心の霧を晴らし、且つ
「やぁ、困りごとかね?」
「パルデア?アカデミー?」
食事中、少年は聞き慣れない単語に逆に聞き返してしまった。
「そうよ!そこの推薦状!やったわねハルト!」
「はぁ…」
テンション高めな母親とは対象的に、ハルトと呼ばれた少年は冷静だった。どうやらハルトが学校へ行っている間に届いてたらしい。
「パルデア?だっけ、何処にあるの?初めて聞いたんだけど?」
「ちょっとここから離れてるけどね、ここよ」
母親は地図見せ、パルデア地方がある場所を指差した。
「ゲッ!辺境の地じゃんか…」
「何言ってんの、写真で見る限り自然豊かでいい場所じゃない。出不精のアンタにはもってこいの場所よ」
ハルトは高層ビルが建ち並ぶ言わば都会に住んでおり、パルデア地方は真逆の場所だった。それもあってか、外よりも家で遊ぶ方が多かった。
「別に引き篭もりじゃないって…それに今通ってる学校はどうするの?」
「それならあっちで手続きするから心配ないそうよ。後は引越しの準備だけすればいいだけね。」
「はぁ…」
ハルトはあまりの用意周到さに言葉が出なかった。推薦状を見てみると、ご丁寧に校長直筆の文章で書かれていた。付属のパンフレットも見ると、伝統がありながら自由な校風で学べる様であった。元々ポケモンが好きなハルトからすれば悪くない話だった。
「まぁ、面白そうだし行ってみるよ」
「そう、わかったわ」
母親は嬉しそうにハルトを見た。
「じゃあみんなで引越しの準備でもしますか」
「あら、行くのはハルトだけよ」
“ズル‼”
ハルトはそれを聞いてズッコケた。
「はぁ!なんでだよ‼」
「当たり前でしょう。私もお父さんだってここで仕事してるんだから、いきなり引越しなんてできる訳ないじゃない」
「じゃあオレはどうやって生活すんの!?」
「パンフレット読んでなかったの?そこは全寮制だから衣食住には困らないわよ?」
見返すと確かにそう書いてあり、子どもでも安心できる環境が整えられていると銘打たれていた。
ハルト自身、親元を離れて生活することに抵抗はそれほどなかったが、母親の顔からは微塵も心配そうな気が感じられず、寧ろ自分よりもノリノリだった為、呆れていた。
「それならいいけどさ、直接アカデミーに向かえばいいの?」
「ああそのことなんだけどね、アオイちゃんって覚えてる?」
「アオイ?」
その名前には勿論聞き覚えがあった。幼稚園の頃家が隣同士でよく遊んでいた女の子だった。だがアオイの家は卒園後遠くに引越してしまったために、それ以来会っていなかった。
「覚えてるけど、なんで?」
「実は入学前に制服とか諸々アカデミーから届くらしいんだけど、ここだと遠いでしょう?だから
(アイツ、パルデアに住んでたのか…)
アオイの引越し先をハルトは今初めて知り、その流れで母親同士は未だに交流があったことを聞いた。さらにアオイも今年からアカデミーに通うことも。
しばらく母親と話し合い、パルデアに行くまでの段取りを決めていた。その結果、出発は1週間後となった。
「でも、久し振りに会うから何話していいかわかんないなー」
「何照れてんのよ、これから毎日会うんだから迷惑かけないようにね」
母親はそう言っていたが、ハルトはやはり多少気まずさを感じていた。
(まあ、なるようになるか…)
これ以上考えるのをやめ、食事の片付けをし、部屋へと戻っていった。
出発当日。空はよく澄み渡っており、絶好の出発日和となった。
「ちゃんと全部持った?忘れ物は無い?」
「大丈夫だってかあさん」
この歳になってもまだ信用無いことにハルトは少し思うことがあったが、母親からすれば、初めて息子が親元を離れて生活することに心配していた。ハルトもそれをわかっていたので、あまり言わなかった。
ここからは飛行機や船など、様々な乗り物に乗って向かう長旅だ。しっかりと睡眠を取り、体力も万全を期した。
「本当はお父さんも一緒に見送りたかったんだけど、ごめんね」
「しょうがないよ、忙しいんだしさ」
父親とは前日までに色々と話し合い、気を付けてこいとだけ言われた。いつもは賑やかな人だが、寂しさもあり、その日は多くを語らなかった。
「じゃあ行ってくるよ」
荷物を持ち、笑顔で言った。
「いってらっしゃい!」
母親は息子の姿が見えなくなるまで見送った。
一方その頃、パルデアにいるアオイはハルトの到着を待ち、家で飼っているホシガリスを撫でながら思いを馳せていた。
(直接見るのは久しぶりだなぁ)
「アオイー行くわよー」
「はーい」
母から呼ばれ、アオイは玄関へと向かった。
ハルト達のパルデアでの冒険が始まる…
一応ハルトとアオイは中学生位に設定してます。その方がやりやすかったのですみません。