出発してどれ位の時間が経っただろうか。飛行機・バス・船と乗り継いだ長旅と船酔いの影響で、出発してしばらくは船室に籠もり寝ていたが、船内アナウンスが聴こえると目が覚め、体調もすっかり元に戻っていた。目を擦りながら船室から外に出ると、空は快晴であり、心地よい風も感じられた。
再びアナウンスが聴こえ前方を見ると、ようやく目的地であるパルデア地方がハルトの目に入ってきた。その中でも大きく聳え立つ雪山に目を奪われた。手に持っていたパンフレットを見ると、その雪山は「ナッペ山」と書かれており、その下には詳しい説明も書かれていた。今まで見た中では一番大きく、新たに踏み入れる地に大きな期待が生まれた。
形が大きくなるに連れ、ぞろぞろと乗客が出てきた。ハルトはそれを見て、もうすぐ港に到着することを感じ取った。部屋に戻って荷物を取りに行こうと、人の流れとは逆方向に歩き出した。
ドサッ
すれ違った際、その中の一人が物を落とした。落とし主はそれに気付かず、そのまま行こうとしたため、ハルトはそれを拾い、声を掛けた。
「すみません、コレ落としましたよ」
努めて優しく声を掛けたつもりであったが、落とし主は全身をビクッ!と震わせ、振り返った。
(そんなに驚かなくても…)
ハルトは内心そう思ったが、表情には出さずに差し出した。相手は少し怯えた様子で素早く受け取ると、頭を下げて何も言わずに立ち去った。
「変な奴」
良いことをしたつもりが、モヤモヤした気分になってしまった。それに、落としたものは複雑な機械のようなもので、あまり見られたくない様に思えた。一体何者なのかと考えたが、無駄だと思い、すぐさま自分の船室へと向かった。
港に到着し、手続きを済ました。先程母親連絡があり、港でアオイ達が迎えに来ているとのことだった。しかし、会うのはかなり久しぶりなので、目印となりそうな場所を伝え、そこで待つことにした。
数分後、こっちに向ってくる二人組が目に入った。何年も会っていないといっても面影はあり、すぐにアオイ達だとわかった。少しだけ大人びていたが、雰囲気は昔のままだった。
「ハルトくーん」
アオイママがこっちに手を振ったのを見ると、ハルトも歩み寄り、頭を下げた。
「お久しぶりです」
「本当ね!とても逞しくなったわ!」
「ハハハ」
アオイママは昔と変わらずとても明るく話しかけてくれた。軽く談笑し、今度はアオイの方を見た。嬉しいでも悲しいでも嫌そうでもなく、無表情でこっちを見ていた。
「久しぶりだな」
ハルトは取り敢えず、挨拶をした。
「久しぶりだね、ハルト君」
やけに素っ気無いとハルト感じたが、それを見たアオイママが口を挟んだ。
「なに緊張してんのよ、さっき迄あんなにソワソワしてたのに」
するとアオイは顔が赤くなり、
「ちょっ、ママー!!」
と叫んだ。それを見たハルトはふふっと笑った。
「アンタも何笑ってんのよ!」
「いやーそういう所は変わってないなーと思って」
「なんですって!」
ヒートアップしそうになるアオイをアオイママはまぁまぁと収めた。
「アオイ、ハルト君は長旅で疲れてるんだから、困らせちゃダメでしょ?」
「だって~」
このやり取りにもハルトは懐かしさを憶えた。成長しても、人となりは変わっていなかった。そこに嬉しささえも感じた。
「別に、今更畏まる必要もないよ。そのままでいーよ」
「えっ」
アオイは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔に変わり、うん!と頷いた。
「これから宜しくな!」
「こちらこそ」
二人は笑顔で硬い握手を交わした。アオイママもそれを微笑ましそうに見ていた。
アオイママの車に乗り込むと、近況について話し合った。家族の事、学校の事、様々話し合った。それが終わると昔話に話を膨らませ、到着するまで話が尽きなかった。
数十分すると到着したようで、車から降り、辺りを見渡した。
「どう?随分田舎町でしょ?」
アオイはやや自虐的に言った。
「うん。でもこの雰囲気結構好きだな」
それをアオイは驚くと同時に、少し嬉しく感じた。そしてハルトの前に立つと、町の説明を始めた。
「ここはね、コサジタウン!ちょっぴり控えめな町だけど、ここから見る景色は絶景だよ!」
そう言って、海の方を指差した。時間帯的にも夕日によって、海がオレンジ色になっていた。
「おぉ~すげーなぁ」
「でしょう?」
アオイは嬉しそうに言った。そして今度は反対を指差し、
「でね、あっちのでっかいお屋敷が…」
「アオイーハルトくーん!こっちよー!」
途中で、アオイママの呼ぶ声が聴こえた。見ると家の玄関からこっちに向かって叫んでいた。
「ごめーん、今行く!」
アオイが走っていくと、ハルトもそれに続いた。
「もう、何やってたの?」
「ハルトにこの町を紹介してた」
「それも良いけど、明日からアカデミーに行くんでしょ?今から準備しないと慌てることになるわよ」
「はーい」
アオイはそう言うと、自分の部屋へと向かっていった。
「ごめんねハルト君、疲れてるのにアオイが連れ回しちゃって」
「大丈夫ですよ、それに昔もこんな感じでしたし」
一緒に遊んでいた頃もハルトはアオイによく連れ回されていた。非常に好奇心旺盛で、ハルト以上にわんぱくな子どもだった。今でもその面影が感じられ、懐かしいと感じていた。
「そうだったわね。あ、そうだ。ハルト君、今日泊まってもらう部屋何だけど、右曲ってすぐの部屋だから。少し狭いけど、ごめんなさいね」
「いえ、お気遣いなく。泊めて頂くだけでも有り難いです。」
「そんな謙遜まで覚えちゃて、アオイも見倣ってほしいわ」
そう言うとアオイママはキッチンの方へと向かった。ハルトは持ってきた荷物を持ち、「おじゃまします」と言ってから上がった。
「えっと、右曲ってすぐだから…ああこれか」
部屋のドアを見つけると、ドアノブに手をかけた。するとポンと肩を叩かれ、
「何してるの」
と声が聴こえた。振り返るとアオイがこちらを睨んでいた。
「うわ!何だよいきなり!」
「何してるのって聞いてるのよ」
「いやだから部屋に行こうと…」
「そこ、ママの部屋何だけど」
「え?」
ハルトは驚いて、固まった。アオイはハルト腕を掴むと、
「アンタの部屋はこっち」
と言って、別のドアの前に連れて行った。
「ったく、ママの部屋で一体何する気だったの」
アオイは腰に手を当て、再びハルトを睨んだ。
「ち、違うって!おばさんが右曲ってすぐの部屋だっていうから!」
「ホントに?」
「う、嘘じゃないって!」
ハルトがそう言うと、ハァとアオイがため息をついた。どうやら誤解は解けたようだ。
「わかったわ、後でママに注意するから。ほら入って」
アオイがドアを開け、ハルトに入るよう促した。中に入ると、確かに少し小さ目の部屋であり、そこにはベットがポツンと寂しく一つだけ置かれただけだった。
「ここ、少し前まで物置として利用してたから、何もないの。ごめんなさい。でも、掃除はしてあるから」
アオイは申し訳無さそうにハルトに言った。
「気にしなくていいよ。どうせ明日からはアカデミーで過ごすんだしさ。ベットがあれば十分十分」
そう言いながらハルトは荷物を置き、ベットに腰掛けた。それを聞いてアオイは少し安心した表情を見せた。
モサッ
「ん?」
真後ろから音がして、ハルトが振り返る。すると、少しベットの一部分がこんもりと盛り上がっていた。そしてモソモソと動くので、ゆっくりとめくり上げた。
「むちゃありー‼」
「うわ!!!!」
黒い影がいきなりハルトの方へと飛びかかった。ハルトは驚いた勢いで、ベットの下にドシン!と音を立てて落ちた。
「イテテ…」
そう言いながら目を開けると、リスの様な生き物が上に乗っかっていた。その生き物も可愛らしい目でこちらを見ていた!
「コラー!ジェリーちゃん!」
アオイはそのジェリーという名の生き物に向かって叫んでいた。
「じぇ、じぇりーちゃん?」
「イタズラしちゃ、駄目でしょ!ごめんねハルト。痛く無かった?」
「いや、大丈夫だけど、その子は?」
ハルトはジェリーに指差し、アオイに尋ねた。
「この子はね、ホシガリスのジェリーちゃん。私の家で飼っているポケモンよ。普段は大人しくて良い子何だけど…」
アオイはそう言って、困った顔をしていた。ハルトはというとあまり気にしておらず、寧ろそのポケモンに興味を持っていた。
「可愛いね!抱っことかできる!?」
ハルトは少し興奮気味に尋ねた。アオイは少し驚いたが、うんと頷くとハルトに渡した。触って見ると暖かく、毛並みも良く、とても可愛らしいかった。
すると、ハルトは何かを思い出したようで、一旦ホシガリスを置くとバックの中からあるものを取り出した。それはアーモンドであった。袋を開けて二粒程取り出すと、手のひらに乗せて差し出した。ホシガリスは近づくとアーモンドを手に取り口の中に放り込んだ。
「あ、食べた!」
ハルトは嬉しそうに言った。アオイもそれを微笑ましそうに見ていた。しかしホシガリスの方は物足りなかったのか、アーモンドが入った袋を見つけると駆け寄り、ガサゴソと音を立てて次々と口へと入れていった。
「ああ、ちょっと!」
見ていたアオイが止めに入ろうとしていたが、ハルトの方は気にせずそのまま眺めていた。
「まぁいいって、好きにさせなよ」
「そうは言っても…って、ジェリーちゃん!!」
ホシガリスは袋を持ったまま部屋から飛び出し、アオイもそれを追っかけていった。
「ハハハ、賑やかだなぁー」
ハルトはそれを微笑ましそうに眺めるのだった。
夕食を済ませ、お風呂にも入り、ハルトは用意された部屋から窓の外を眺めていた。空はすっかりと暗くなり、僅かな証明と月の光が照らされているだけだった。
最初緊張していたものの、アオイとアオイママ、そしてホシガリスのジェリーのお陰で全く無くなっていた。ここでならもう一度ポケモンと触れ合える。そう感じていた。
「ふぁぁ~〜」
ハルトは欠伸をかくとベットに行き、眠ることにした。明日はいよいよアカデミーに行く日だ。大きな期待に胸を膨らませ、ハルトは眠りについた。
次はいつになるのやら天