AnotherSEED   作:another12

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静かなる反抗ーー1

 

 

 

 

 

 ジャンボ機から五○○メートル離れた基地の片隅。

 資材置き場の一角で、ユウイチはいそいそとパラボラ・アンテナを開いた。コンパス付きの時計を見て、簡単な計算をすると、アンテナを南の空に向けた。ヘッドセットをつけ、通信機のキーを叩いていくとーー

 五秒と待たずに、彼方の“RAVEN”本部基地に繋がった。

 

 『はい』

 

 女の声。

 本部通信担当のノエル・コフィンだ。何度も話した事がある。

 

「こちらユウイチ・レオンハート少尉、コールサインはアサルト4 Y-1173」

 

 『……確認しました。レオンハート、無事?』

 

「あぁ、ノエル。いますぐ“アテナ”に接続できるか?」

 

 『えぇ。少し待って。』

 

 交信がとぎれた。衛星通信はさらに折り返して、海のどこかに潜んでいる“アテナ”へと転送された。

 

 『ユウイチ君、無事?』

 

 またしても女の声。

 彼の部隊の最高指揮官バーバラ・ロス・ホームズだった。

 

「大佐殿、肯定であります。」

 

 年下の少女に向かって馬鹿丁寧に返事する。

 バーバラ大佐が艦長ーー同時に部隊長である理由は知らなかったが、なにしろ、あのハルバート大尉がひとかどの敬意を払っている相手だ。

 

 『よかった、よかった。ちょっと待ってねぇ……少佐?』

 

 男の声が割り込んだ。

 

『……レオンハート少尉、レッキス大尉だ。状況の説明を。』

 

「はっ。自分は現在、オーブ領内ヤラファス島の外郭区の航空基地にいます。敵勢力は大きく分けて二つあり、一つはハイジャックを実行したグループ。もう一つは外郭区に存在する治安維持部隊かと思われます。概観した限りでは、基地の警備態勢は低レベルです。まずその戦力はーーー」

 

 二人の上官はユウイチの説明を聞き、要所要所を押さえた質問をした。ヒナが連れ去られたくだりでも、それは変わる事はなかった。

 だが、貨物室の爆弾の件を話した際には、さすがにバーバラの声がこわばるのが分かった。

 

 『なんて事だ。』

 

「無力化は非常に困難です。自分の装備では手がつけられません。」

 

 『……分かった。対策はこちらで検討しよう。』

 

 『少尉、ヒナ・シラカワの居場所は分かるかね?』

 

  レッキスが質問した。

 

「不明です。これから捜索しますが、基地内にいるかさえ分かりません。」

 

『安全な範囲で捜索しろ。君には陽動の任がある。』

 

 そう聞いて、“アテナ”に救出作戦の用意がある事を知った。しかも、ヒナの問題より乗客を優先する方針らしい。

 

「……了解。」

 

『君の情報でかなり見通しが立った。これから作戦の立案をする。あとでもう一度連絡をしろ。時間は……』

 

『ニニ○○時にします。現地時間で』

 

 バーバラが言った。

 

 『レオンハート少尉、聞いた通りだ。』

 

「了解、その時間に連絡します……交信を終了します。」

 

 ユウイチは通信機のスイッチを切ると、パラボラ・アンテナをたたんだ。装置を肩にかけ、移動しようとしたその時ーー

 

「動くな」

 

 背後で、拳銃の撃鉄が起きる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー“アテナ”第三甲板B通路

 

「先ほどのユウイチ君の言葉通りなら、敵はーー。」

 

「えぇ、額に傷のある男のテロリストとなると、マガシ・ウルフェンズで間違いないでしょう。」

 

 作戦会議室への通路を歩きながら、バーバラとハルバートは会話を交わす。

 

「まんまと獲物に食らいついてくれたワケだ。」

 

「えぇ。奴は危険なテロリストです。十年前の大戦の陰に隠れながらあちこちの陣営に金で雇われ暴虐の限りを尽くす。金さえ払えば従う汚い戦争屋です。」

 

 語るハルバート大尉の身体には力が入っているように見えた。“RAVEN”創設以降、幾度となく抹殺を試みるも尻尾すら見せなかった相手がようやく特上の獲物に食らいついた。

 もちろんヒナ・シラカワの護衛は最重要任務ではあるが、バーバラはこの最重要護衛対象を餌にマガシを釣り上げる計画を立てた。ヒナ・シラカワを欲しがる陣営はどんな手を使ってでも手に入れようとしてくるだろう。それが危険な男だとしても。

 

「何にせよ、あの“悪食の孤狼”を屠る絶好の機会に違いはありません。」

 

 それは間違いない。間違いないのだが、何故だろう。

 この胸のざわめきは、マガシは本当にヒナに食い付いたのだろうか? 嫌な予感がバーバラを包む。

 その悪寒を振り切り、作戦会議室に入った。

 

「じゃあ、はじめようか。」

 

 

 

 

 

 

「こちらを向け。ゆっくりな。」

 

 ユウイチは従った。拳銃を向けていたのは、二メートル近い大男だった。

 

「あの機の学生だな? 私の部下の目を盗み、よく抜け出したものだ。」

 

 油断なく距離を取り、口の端をゆるめる。大男は一人きりで、あたりに兵士の姿は見えない。

 

「貴様、どこと連絡を取っていた? 答えろ。」

 

 大男が詰問する。ユウイチはようやく口を開き、

 「俺が交信していたのはーー」

 言いかけ、自然な動作で通信機を投げつけた。無意識にユウイチの言葉に耳を傾けていた大男は、わずかに反応が遅れた。

 とっさに身を捻り、飛んできた箱を手で払う。

 

 そのすきにユウイチは一気に間合いを詰めると、相手の銃を蹴り飛ばした。

 

「ふん……!」

 

 ところが相手は全くひるまずに、大きな拳を振りかぶると、力任せにユウイチを殴り付けた。が、なんとか片手でブロックした。重く、鋭い。たまらずよろめく。息つく間もなく、回し蹴りが襲う。

 

「っ……!」

 

 なんとかさばくが、大男の蓮撃は容赦ない。何かしらの武術に精通があるのは間違いない。

 

「素手なら勝てると思ったか!?」

 

 ユウイチは答えず、数歩下がるとコンクリートブロックを踏み台にして跳躍した。

 

「このっ……!」

 

 顎目掛けての強烈な飛び蹴り。大男は背中を反らしてひっくり返った。そのままアスファルトに後頭部を打ち付け、大の字になる。すかさずユウイチは馬乗りになり、ベルトから抜いたスタンガンを押し当てた。

 

「う……ぐっ……お、のれぇ……っ!!」

 

 電撃を受けて痙攣し、大男はばたばたともがいた。

 

 ーーーしぶといっ……!

 

「き、さま、何者だっ……!」

 

「ただの掃除用具入れロッカーだ。」

 

「は、はぁ?」

 

 ようやく大男は喋らなくなった。

 資材置き場で念入りに手足を縛り、投げつけた通信機の状態を確認する。

 

「まいったな……」

 

 壊れている。

 “アテナ”と通信が取れなくなってしまった。

 ユウイチは大男から蹴り上げた拳銃を拾うと、ポケットにしまった。

 

 

 

 

 

 ヒナが実験機の中に閉じ込められて数時間。拘束具のせいで身動きひとつ取れない。

 

「ケツと尻が痛いんですがぁ」

 

「それはどちらも同じ意味よ。」

 

意味不明の映像だけが何時間も流され続け、注視させられ続ける。その映像が、ぷつりと途切れた。視界がまっくらになる。

 

「終わった?」

 

「まだよ。次はこれを見なさい。」

 

 そう言って見せられたのは、黒い円柱型の箱だった。

 なんの変哲もない。特に変わり映えもしない。

 ただ言われたままにその箱を見続ける。

 

「あ……」

 

 ほどなく不思議な感覚がした。妙な不安感と浮遊感。自分がいま寝ているの、浮いているのか、どちらを向いているのかすら分からなくなる。徐々に見当を失っていく。

 

「な、にこれ……っ」

 

 思考が加速する。

 知らない言葉が浮かんでは消え、聞いたことのない人の名前が頭に浮かぶ。そして、その全てが“なんであるかを”理解できていた。脳は止まらない。

 

『いたい。』

 

 声が、聞こえた。

 

「だれ……?」

 

『たすけて。』

『ここからだして。』

 

「……どこから?」

 

 『さけびたいのにくちがない。みたいのに目がない。にげたいのにあしがない。さわりたいのにてがない。いきたいのにからだがない。』

 

「なにを、言って……?」

 

 『たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて』

 

 頭いっぱいに誰かの思考が、ささやき声が悪寒と共にやってくる。

 

「あ、あぁ……あぁ……ぁああああああああああああっ!?」

 

 

 突然、ささやき声は途切れた。

 あの奇妙な感覚も消え、ヒナが横たわっていたベッドが、機械の外に出された。

 

 ひどく疲れた。今のは一体?

 あれは夢だったのだろうか? なにか、とても複雑な……。

 

「気分はどう?」

 

 女医がヒナの顔を覗き込む。眩しい天井の照明に、思わず目を細める。

 

「……最低だよ。」

 

「そう。気の毒だけど、まだ続けるわよ。」

 

 女は一片の同情も見せずに告げた。

 

「ねぇ、帰らせて……もうやだよ。」

 

「それは無理。これは貴女の遺伝子を呼び起こすための儀式なんだから。」

 

 女医は謎めいた口ぶりで言うと、注射器を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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