AnotherSEED   作:another12

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静かなる反抗ーー3

 

 

 

 

 

 ユウイチは錆びついたコンテナの影から、駐機場に停められた3台の車両を伺った。

 

 ーーあれか。

 

 大型のトレーラーが二輌と、高出力の電源車が一台。

 尋問した敵兵士の情報によれば、電源ケーブルの繋がったトレーラーの中にヒナが居るはずだ。

 時計を見ると、“アテナ”に連絡を入れる時間は当に過ぎていた。

 

 ーーどうしたものか……。

 

 ユウイチは思案した。

 もっとも無難なのは、ここで息を潜めている事だ。

 そして味方の救出作戦と同時にこちらも動き、ヒナを助け出す。

 しかし、あのトレーラーの中で一体何が行われているのだろうか。先日ムルマンスクで救い出した少女を思い出す。

 少女に投与された薬物が、彼女の精神にいかな被害を与えるかユウイチはよく知っていた。

 

 ヒナの屈託のない笑顔、人を忌避しない明るい性格、たまに見せる寂しげな表情。それらが全てが徹底的に破壊される。

 2度と戻る事はない。

 

 彼女は殺されない。だが、ずたずたに壊される。

 そう思うと、ユウイチの中で焼け付くような焦燥が膨れ上がった。

 いますぐ飛び出して、彼女を救いに行きたい。ーー記憶を取り戻して以来初めての強い衝動。彼はそれに驚き、困惑した。

 

 ーーあせるな…………。

 

 自分に言い聞かせる。最優先順位はジャンボ機の人質の安全。ヒナはその次だ。

 それにいくら連中でも、苦労して手に入れたヒナを一晩で廃人にはしないはず。それがどんな実験にしろ、ゆっくりと真綿で締めるように……。

 

 ーーくそっ

 

 堂々めぐりの思考の中で悶々としているとーー

 

 トレーラーの中から銃声が響いた。が、ここで慌てて出ていくのは得策とは言えない。プロの兵士としての直感はそう告げていた。下手に動けば状況は悪くなる。作戦開始の時刻はわからないし、本当に救出作戦が行われるのかも分からない。

 ここはこらえて、様子を見る。

 

 そう。ここで出ていくのは馬鹿のアマチュアだ。俺は違う。

 だが、しかし。

 床に這いつくばったヒナにあの傷の男が銃口を向けていたとしたらーー?

 

 ずっと昔に忘れていた感覚が、彼の心臓を鷲掴みにする。あまりにも懐かしい感覚だったので、彼はすぐにその名を思い出せなかった。

 彼が感じているもの……それは、恐怖だ。

 だめだ。行くな。任務は絶対だ。

 

 理性がユウイチに厳命するーー

 

 しかしーー

 

 

 2度目の銃声。

 

 

 次の瞬間、考えるより先に身体が動いていた。

 

 

 

 

 

 

 ユウイチが銃声を聞く二分前ーーー

 

「大人しくしなさいっ! 目を開けて、アレを見るのっ!」

 

 女医の声がするが、構わず足をばたつかせ、頭を動かそうとみじろぎする。

 

「うるさい、出せ、このーーっ!」

 

 頭がおかしくなったわけではない。ヒナは単純に、怒っていた。軽蔑していた。目の前に出されたあの円柱型の箱、その中身に。こんな事をしているコイツらの所業に。

 

 考えるるのも弱気になるのも飽き飽きしていた。大声を出して、身体を動かさなければ本当に頭がおかしくなってしまいそうだ。

 

「みんなの所に帰してよっ! じゃなきゃこんな機械ぶっ壊してやる!」

 

「まったく、いい加減になさいっ……!」

 

 ヒナの隣にやってきた女医が苛立ちもあらわにヒナの頭を抑えつけた。

 

「なんてガキかしらっ! 優しくしてればつけあがって!」

 

「どこが優しいのよ、オバサン!」

 

「なんですって!?」

 

「あんた誰かに似てると思ってたけど、中1の時の先生にそっくり! 実験一筋で婚期を逃して、やたら生徒に当たり散らして、意地悪な宿題出して! 教育実習生がいる時だけ変にめかし込んで色目使ってーー」

 

 バルカン砲のように罵りながら、なおも彼女はジタバタと暴れた。腕の拘束具がかなり弛んでいたので、女医はそれを締め直そうとした。手首を押さえつけて、空いた片手でベルトをーー

 

「きゃあっ!!」

 

 汗で手がすべり、ヒナの右腕が勢いよく跳ね上がる。そのはずみで彼女の肘が女医のあごに直撃した。女医はその場でよろめいて、薬品棚に後頭部をぶつけ、そのまま棚にしがみつくように倒れた。

 

「あ。……生きてますかー?」

 

 怒鳴るのをやめて尋ねたが、返事はなかった。

 気づくと、右腕が自由になっていた。彼女は左腕を拘束具しているベルトをはずしてみた。

 

「お、これは意外と……。」

 

 自由になった両手で頭と腰、脚のベルトをはずし、身を起こす。床を見ると、女医は小さな声をもらして身を起こそうとしているところだった。

 

ーーど、どうしよう…………。

 

 逃げようか、でもどこに?

 ゆっくり、一歩、また一歩と出口に足を向ける。扉の前まできたところで

 

「どこにいく気?」

 

 苦しげに立ち上がった女医が、ピストルをこちらに向けて言った。

 

「ベッドに戻りなさい。従わなければ、タダではすまないわよ。」

 

「い、いやだね。こんな検査もうごめんだ。」

 

  女が発砲し、トレーラーの壁に弾丸が食い込んだ。

 

「な……っ!? ちょっとっ!」

 

  続けてもう一発。次の弾はヒナの後ろにあった液晶スクリーンを叩き割った。よく見ると、女の顔は冷たい怒りで凍りついている。本気でヒナを撃ちかねなかった。

 

「なに事だっ!?」

 

 発砲音に驚き、外で見張っていたスーツ姿の男性達が拳銃を構えて車内を見回す。

 

「ちょっとしたトラブルよ。お灸を据えてやっただけ。」

 

「だからって銃を? あの設備がいくらするとーー」

 

「六億よ。あんた達に言われなくてもわかってるわ。……さぁ、こっちに来て、大人しくベッドに戻りなさい。」

 

 拳銃をしまい、女は手招きした。ヒナは男達に背中を押される。女医は薬品棚から何かを取り出し、注射器で適量を取り出しながら、

「ちょっとその子、ベッドで押さえつけてくれる?」

 

 男達は有無を言わさずヒナをねじ伏せた。彼女の目の前で注射器から透明な液体がしたたった。

 

「な、なにを……」

 

「ちょっとばかし、人を従順にさせる薬よ。いろいろと身体にーー特に女の子の機能に障害が残るから使いたくはなかったのだけど。」

 

 相手の恐怖を楽しむように、女医は説明した。

 

「や、やめて……」

 

「アナタが悪いのよ。せっかく優しくしてあげたのに」

 

 今度はいくら暴れてもダメだった。男達の力はすさまじく、一歩間違えれば骨が折れてしまうと思えるほどだった。

 

「いやだ、お願い。もう暴れないから……!」

 

「ふふ……無理よ。」

 

 右腕に注射器が押し当てられたその瞬間ーー彼女を抑えつけていた男達が、次々にうめき声をあげて倒れた。

 

「え……?」

 

 いきなり自由になった事に驚き、彼女は顔を上げた。まず視界に入ったのは狼狽えながら後ずさる女医の姿。ヒナではなく、その背後にいるなにかを見ている。不審に思って振り向くとーー

 

「ユ、ユウイチ……?」

 

 そこに立っていたのは、まさしくユウイチ・レオンハートだった。右手の拳銃を女医に向け、左手にはスタンガンを握っている。首からはサブマシンガンをぶらさげている。

 

「怪我はないか、ヒナ」

 

「え……だ、大丈夫。」

 

「そうか。じゃあ俺の後ろにいろ。離れるなよ。」

 

「あ、あの飛行機の学生ね? いったい、いつの間にーー」

 

「質問するのは俺の方だ。言え、これは何の設備だ。なぜ彼女をさらう?」

 

「そんな事言えるわけがーー」

 

 ユウイチは女のそばにあった電子機器に弾丸を二発撃ち込んだ。

 

「答えろ。次は貴様を撃つ。」

 

「やめて、話すわ! この設備は彼女が本物の“アコード”かどうかを調べるためのものなの」

 

「“アコード”? なんだそれは。」

 

「簡単に説明できないわ。“アコード”は人の未来。コーディネイターの次の進化人類とされる存在。世界を導くための先駆者として不思議な力を持って生まれてきたのが“、アコード”」

 

 そこまで聞いたところで、いきなりユウイチがヒナの腕を引いて設備の陰に飛び込んだ。直後に銃声が響き、二人の周りで火花とプラスチックの破片が跳ね回った。

 

「きゃっ!?」

 

 ヒナと女医が同時に悲鳴を上げた。

 ユウイチがすぐさま身を翻し、拳銃だけを陰から突き出し、残りの全弾をトレーラーの出入り口に向かって乱射した。

 

「がぁっ!?」

 

 今度は知らない男の悲鳴。ユウイチは弾切れの銃を捨て、サブマシンガンのレバーを前後させながら、立ち上がって出入り口の様子を見た。

 ヒナはうつ伏せに倒れている女医を見て、息を呑んだ。流れ弾が当たったのか、床に血の染みがみるみる広がっていく。

 

「逃げるぞ、ヒナ」

 

「あの人、死……」

 

「まだ生きてる。だが、手当てする時間はない。」

 

 彼女の手を引き、空いた手でサブマシンガンを構えると、出入り口に向かった。

 

「ま、待って! ユウイチ、あの子を……円柱型の箱を開放してあげて……」

 

 ヒナの言葉に訝しみながら、ユウイチはサブマシンガンで円柱型の箱を撃ち抜いた。

 

ーーありがとう。

 

 瞬間、ヒナの頭に優しげな声が聞こえ、片目から自然と涙がこぼれた。

 

「いくぞ」

 

「ま、待って。こんなカッコじゃ歩けないよ!」

 

 膝上二〇センチのガウンだけでは、いくらなんでも心細い。

 

「あきらめろ、時間がない。」

 

「無茶言わないでよ! ちょっとユウイチ、何いやらしい目で見てんの!?」

 

「違う。その格好のどこに問題があるのか観察をーー」

 

「ウソだっ! どさくさに紛れて変なことするつもりでしょ!?」

 

「そんなわけないだろう、こっちに来い。」

 

「やーだ! 絶対嫌!」

 

「言うことを聞いてくれ。俺は君の身を案じてこんな無茶をーー」

 

 そこで、またしても外から銃撃。

 トレーラーの出入り口で銃弾が弾け、ユウイチはとっさにヒナの方へ身を投げ出した。真っ正面から二人はぶつかり、絡み合うように床に倒れた。

 

「きゃあっ――!? どこ触ってるのー!?」

 

「だから違う。」

 

「あっち行け! ヘンタイ! チカン!」

 

「いい加減にしてくれ!」

 

 見苦しい事この上ない。敵の銃撃が続くのをよそに、二人はトレーラーの中でじたばたともつれ合い、押し問答を繰り返していた。

 

 

 

 

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