結局ユウイチに出入り口を監視させながら急いで制服に着替え、隣に停めてあった電源車に二人は飛び乗った。
発進するやいなや後ろから銃撃。後ろのナンバープレートが吹き飛び、トレーラーに繋がっていた送電ケーブルが引きちぎられた。
「頭は低くしていろ。」
「もう、なんなのーーっ!!」
駆けつけた兵士たちが後ろから銃撃を続ける。だがそのころには二人を乗せた車両は時速八〇キロで基地の北を目指していた。
「これからいったいどうするの!?」
ヒナが叫ぶ。
「黙ってつかまってろ。」
右に左と車体を振り、敵の射撃をなんとかしのぐ。そうこうしているうちに、基地の北端の格納庫がぐんぐんと近づいてきた。
「伏せてろ。」
「な、なんで?」
「突っ込むからだ!」
「ちょっ……!?」
ヒナが身構えるのと同時に、電源車は格納庫のシャッターに激突した。錆だらけのシャッターは簡単にひしゃげた。格納庫に飛び込んだ車は、中に停めてあった牽引トラクターをかすめて横滑りし、大きなコンプレッサー車にぶつかって停まった。
ユウイチは運転席から立ち上がり、
「ヒナ、動けるか?」
「……もう死ぬ。」
「大丈夫そうだな。」
どこがだ。
「立つんだ。敵が来る。」
ヒナは格納庫の中を見回した。正面の壁に人影が並んでいた。合計三体。
「モビル……スーツ?」
「君は奥に隠れていろ。」
ユウイチはMSーー“ウィンダム”の足下に走り、コックピットへの梯子を登り始めた。
「う、動かせるの!?」
叫んだヒナを、梯子の上からユウイチが見下ろした。
「当たり前だ。プロフェッショナルだからな。」
ユウイチはMSの肩に乗り、コックピットハッチの開放レバーを引いた。高圧空気の漏れる音。
「とにかく身を隠していろ。」
ユウイチは叫ぶと、コックピットにすべり込んだ。
コックピットハッチを閉じ、ボタンを慣れた手つきで操作して、起動の手順をこなす。
その間に、格納庫のシャッターが撃ち抜かれ、無数の穴を開け火花を散らしひしゃげさせる。
ーー口径がデカい。歩兵じゃないのか?
シャッター脇のコンプレッサー車が爆発、炎上。くすぶる炎の向こうから、重たげな足音が迫る。足音、こちらに向かっているのは装甲車ではなくーーMSだ。まずい。
「さっさと起きろ」
古いOSの立ち上がりに苛立つ。轟音、シャッターを引き裂いて、こちらと全く同じ型の“ウィンダム”が外に見えた。
構えたビームライフルをこちらに向け、射撃しようと構えた瞬間。起動したユウイチの駆る“ウィンダム”が飛び出した。ライフルを放つより先に肩をぶつけて吹き飛ばす。
バランスを崩した敵機が腰を隣の建物にぶつけて、倒壊させる。敵機が落としたライフルを拾いその銃口を敵に向けーー
「さぁ、反抗開始だ。」
つぶやき、トリガーを引いた。
「うそ……」
トラクターの陰からその様子を見ていたヒナは、思わず声を漏らした。ユウイチの操るMSは、一瞬で敵を倒し、銃を奪いコックピットを撃ち抜いて撃墜した。敵を屠った巨人は、待ち構えていた装甲車にビームライフルを浴びせ、破片と閃光が跳ね回り、次々と装甲車が爆発していく。
「あ……っ!」
右側の死角、ユウイチの背後に別の敵MSが見えた。……が、次の瞬間、敵機は頭部と両手を吹き飛ばされ、火をふいた。
背後を一瞥もせず背中越しにライフルを撃ったのだ。
次の獲物を求め、ライフルを構えるユウイチ。
その動作には無駄がない。危なかっしさも、もたつきすら。
場違いなほどリラックスしている。
これが、あのユウイチ・レオンハート?
この当然のような強さは一体ーー。
彼は自分の事を何も語らない。どこの所属で、何のために私を守るのかも。ーー半信半疑ではあったが、こうなっては認めざるを得ない。
彼の話しは事実だった。本当にケタ外れの力を持つ戦士なんだ。
ハイジャック。これは大事件。
自分の秘密。これもよくわからない。
そしてダメ押しが彼の強さ。
夢の世界に放り込まれたみたいな気分だった。だが、彼女の髪をたなびかせる風、火薬の匂い、炎の赤さ、迫り来るキャタピラの音。それら全てが事実を突きつける。
彼のMSが彼女を見下ろした。
ーーようこそ、わが世界へ。
機体の大きな二つ目が無言でそう語っているようだった。
ーーオーブ近海 機動戦艦“アテナ”
ーー夜空は曇り、星一つ見えなかった。
天地の区別もない暗闇。その暗闇から染み出すように巨大な船体が浮上した。その見た目は巨大な鯨にも見える。
なんの前触れもなく、“アテナ”の背中が左右に開く。ゆっくり、重たげに。
二重式の船殻が開ききり、艦の飛行甲板が露出した。
わずかな準備時間のあと、大小のヘリが次々と離陸していった。
航空部隊の出撃が済むとーー飛行甲板にブザーが鳴り響き、下層の格納庫からエレベーターに乗ったMSーー“BD-X1”がせり上がってきた。
肩には“assault idiot”の文字がスプレーで殴り書きされている。ゼル・ウィガーの駆る機体である。
「さて……俺の出番だ。」
コックピットで1人、ゼルは静かにつぶやいた。
『BGMが欲しいな。定番で“ワルキューレの騎行”とか?』
そう言ったのは先に輸送ヘリで出発したレベッカ・ゲートだった。
「ははっ、ワーグナーってガラかぁ?」
『なら、ケニー・ワギンスね。“デンジャーゾーン”』
「遠回しに突撃バカって言ってる?」
『うるさいわねぇ。じゃあラクス・クラインでも流せっての?』
「いいね、PV付きで頼む。」
エレベーターが停止した。
『はいはい、無駄口は終わりでいいー? カタパルト接続。進路クリアー、ウィガー機、発進どうぞ。』
CIC担当のアリサの呆れた声が聞こえ、ゼルはバイザーを下ろした。
「あいよ。ゼル・ウィガー、“BD-X1”行くぜっ!」
機体が小さく沈み込む。
《3……》
蒸気カタパルトが力を蓄える。
《2……》
ノズルがすぼまり
《1……》
炎が尾を引き、
《GO》
カタパルトが、ブースターが吠える。わずか2秒で時速五〇〇キロまで加速。そのまま離床。“BD-X1”は夜の大気を切り裂き、ぐんぐんと高度を上げていく。
「さぁ、戦闘開始だ。」
はげしい振動に耐えながら、ゼルは上唇を軽く舐めた。