AnotherSEED   作:another12

21 / 79
伝説の系譜ーー1

 

 

 

 ーーオーブ近海海上“アテナ”

 

 ヘリが飛行甲板に着陸すると、ハルバートは発令所への道を急いだ。艦の二重船殻が閉鎖をはじめ、くぐもっと閉鎖音が通路に響いた。

 

 第二甲板通路を足早に歩いていると、後ろからリナ・ハマチが追いついてきた。

 

「リナ少佐。あなたは格納庫で待機のはずだ。」

 

「このまま撤退するんですか?」

 

「えぇ。」

 

「ゼルと同じように、ユウイチとレベッカも見捨てて?」

 

「入隊契約の範疇です。少佐。」

 

 それでもリナは食い下がった。

 

「彼らは私の部下です。責任があります。二時間……いや、一時間だけ行かせてください。それまでに見つけて戻ります。お願いします。」

 

「五十億の艦と、二五〇名の乗員をきけに晒すのかね? お願いしますの一言で。」

 

「無茶は分かってます。ミラージュミストコロイドを使えば……」

 

「気象班の報告によれば、これから2日は雨が降るらしいですよ。」

 

 ミラージュミストコロイドには弱点があった。多量の水――雨に打たれ続けるとスパークするのだ。青白い炎が無数に生じ、透明化どころか広告塔になってしまう。ハルバートが救出作戦を急いだ理由もそこにある。

 

「ただの天気予報じゃない? 当てにならないわね」

 

 彼は頑丈な防水扉の前で立ち止まり、振り返った。

 

「ここから先は発令所要員の区画です。」

 

「私は少佐ですよ?」

 

 階級だけなら、ハルバート大尉より上になる。

 

「えぇ。しかし、現場に残るのを選んだのはアナタだ。彼のそばに居たいとね。」

 

「……いつもそうなのね。どうしたらそこまで冷淡で居られるんですか?」

 

「そうなる事が必要なんです。本来ならアナタがやるべき役目だ。」

 

 ハルバートはリナに背を向けた。

 いくつかの扉を開き、ブリッジに入る。艦長席のバーバラ・ロス・ホームズは、潜航の命令を発したばかりのところだった。彼女はハルバートを一瞥もせずに、

 

「どれだけ待てるか聞きに来たんでしょ?」

 

 当然のように言った。この少女には敵わない、とハルバートは本気で思った。

 

「今は一分たりとも待てないよ。敵の武装哨戒船が三隻、機雷を満載して接近してる。このあたりの海は浅いし、ろくに隠れ

る場所もない。大至急、ここから五〇キロは離れなきゃ。」

 

「ごもっともです。」

 

 バーバラはポニーテールに結んだ自身の後ろ髪を、きゅっと握って自分の口元に押し当てた。

 

「でも、ユウイチ君達は助けたいよね。」

 

「はい。まだウィガー少尉にも生存の可能性はあります。」

 

 あれで死ぬ程度の男なら、ハルバートはゼルをこの艦における部隊員として“BD-X1”を任せていない。

 

「私が夜明け前までに沿岸部で、数分間だけ浮上時間を割り出したら……ハルバート君はどんな手を発案できる?」

 

「可能なのですか?」

 

「普通の艦なら無理だろうね? でもこの艦と、ここに私が居る。」

 

 バーバラは強気な笑みを見せた。まるで自分の息子を誇る母親のようだった。

 

「……ゼル君が撃墜されたのも気にかかる。私の考えが正しければ、アレを使う必要がでてくるね。」

 

「……アレ、ですか?」

 

「リナ少佐の許可は取っています。然るべき時に備えて最善の準備を。」

 

 バーバラはこの言葉を口にした時、この艦内のどこかに繋がれた凶暴な獣が、悦びのうなり声をあげた気がした。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。