AnotherSEED   作:another12

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嵐の後に

 

 

 

 医務室で手当てを受けてから、ユウイチは格納庫に戻ってきていた。ゼルとレベッカ、ヒナは今も医務室で眠っている。

 格納庫は静かだった。艦内に騒音規制が敷かれているため、整備兵の姿も見えない。

 包帯だらけになった彼は、“スパイラル・フリーダム”を見上げた。

 

 

「あ、やっぱりここにいた〜」

 

 ふと、声がかかり目を向けると困ったように笑うリナがいた。

 

「ヘレンさん怒ってたよ〜? 怪我人は大人しくさせていろ! って」

 

「肋骨一本を持っていかれただけだ。ゼルやレベッカに比べればたいした傷ではない。ヘレンの処置も良くて特に痛みはない。」

 

 とぶっきらぼうに答えるユウイチ。

 何故かじっといてる気にはとてもならなかった。何かが自分の知らない所でゆっくりと動き出しているようなそんな胸騒ぎがしてならない。

 

「マガシは?」

 

足元にあった弾薬ケースに腰掛けながらリナが言う。

 

「……死んだ、と思う。多分」

 

「そっか。」

 

 ユウイチは何となく、また愛機を見上げた。

 

「……気になる?」

 

「……本当に俺が乗っていいものか、とな。MSの操縦に関してなら君の方が上だろう。」

 

 “RAVEN”の創設時から支え続けて来た押しも圧されない絶対的エース、リナ・ハマチ。その実力は“ZEUS”が誇る英雄シン・アスカにも引けを取らないのではないかと言われている。

 

「……ユウイチにこそ、この機体は相応しいとの意向よ。私も含めて、ね。」

 

「あ、クリス副長は反対してたけどね。」と屈託のない笑顔で笑う。

 

「しかし……」

 

 それでも納得のいかないユウイチの言葉を遮るようにリナが告げる。

 

「守りたいんでしょ? 自分の守りたい想いを」

 

 守りたい。違う。

 俺は空虚な人間だ。空っぽの壊れた存在。

 マガシからみすみす奪われたように俺には誰も守れない。

 だが、それでも守らなきゃいけない。

 

「……俺は別に誰かを守りたいから強くなりたいわけでも、栄光や地位が欲しいわけでもない。そんなんじゃない。俺は…自分を守るのに精一杯なだけなんだ…。」

 

 誰かを守りたいと思う一方、空虚な自分を守るので精一杯。

 自分一人守れない人間が、誰かを守るなんて言えるだろうか。矛盾しているとしてもそれでも、誰かの為に在りたいと思ってしまう。

 この心の奥底から湧き出してくる感情は、一体なんだろうか。

 

「俺は、自分の事も何も知らない…」

 

「……記憶なんて、ただの記憶だよ?」

 

 リナがユウイチから目線を逸らし、その蒼い瞳を揺らしながら言う。

 

「……忘れたままの方がいい事もある。忘れたくても、忘れる事のできない思いもあるのよ。」

 

 そう言って膝を抱えるリナの目はユウイチが見た事のないほどに悲壮感に満ちていた。何故か、そんな彼女を見ていたくないとユウイチは思う。いつだって、彼女は笑顔で自信に満ちていてそして強くあって欲しい。と。

 

「すまない。」

 

「なんで謝るのよ?」

 

 膝を抱えながら無理をしてリナが笑う。

 そんな表情を見てさらにユウイチはバツが悪くなる。

 

「……これから、どうなるんだろうね?」

 

 ユウイチもリナと同じように弾薬ケースに座り、リナの言葉に耳を傾ける。

 

「……なんだか嫌な予感がするの。安定していたこの世界がグラリと揺れているような……そんな不安感…」

 

 安定している?

 この嘘で塗りたくられた世界が安定していると思うのだろうか。

 自分達にこの世界に優しい場所なんてない。

 

「……分からないが、オーブでの一件に見た事のないMS、そしてヒナを狙ったテロリスト達…何かが動いているのは間違いじゃないだろう。」

 

 結局黒幕は分からないままに、オーブから流されるままに脱出してしまった。

 あれだけの騒ぎがあってなお、オーブは何事も無かったかのようにするのだろうか。恐らくそれは不可能に近い。なら何かしらの動きがオーブにあるはずだ。そして、恐らくその予感は悪い方に傾く気がした。

 

「まぁ、いくら考えても仕方ないわね。」

 

 そう言って、リナは疲れた表情で苦笑する。

 彼女の不安も伺い知れる。ユウイチも同じように胸がざわついているのを感じている。リナから視線を再び整備されている愛機へと戻す。

 

 自分は守り抜けるだろうか?

 この機体、“スパイラル・フリーダム”でーーー

 

 

 

 

 Another SEED

 第一章

 螺旋の自由――――――――《了》

 

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