AnotherSEED   作:another12

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運命の交差点

運命の交差点

 

 

 

 

 宇宙港を出ればそこは人々で賑わっていた。

 シャトルから降り立った少女ティア・キサラギは、その喧騒の中に郷愁の目を向けた。

月面都市“コペルニクス”。

直径93kmの月面クレーター内に建設された大規模な都市国家。C.E.10年から建設が始まり、12年に完成した。自由中立都市として地球連合・プラントのどちらにも属していない。それが表上だが、実際はプラントの圧力に圧され事実上“ZEUS”の支配下にあると言える。

 ティア大きく伸びをして、数年ぶりのコロニーの空気を吸い込んだ。

 

「懐かしいなぁ〜」

 

 コロニーの人工太陽光に煌く自身の黒い髪をかきあげて呟く。

 ティアは、かつてプラントに住んでいた。

 そしてプラントで育ち、プラントに捨てられた。

 もう随分前の話である。

 しかし、決して忘れる事はないだろう。自分が世界に捨てられ、そして世界を憎むようになったあの日を。

 

『聞こえてる?』

 

耳元につけたインカムから、女性の声が響く。

 

「感度良好。予定通り順調にコペルニクスに入れたわ。」

 

 周りに聞こえないようにインカムの先の主へと返す。

 スタスタとコペルニクスの地を歩く。

 

『まだまだ始まったばかりよ。首尾よくね。』

 

「わぁ〜かってますよ〜、だ。」

 

 もう聞こえていないインカムに向かってティアは呟く。

 あいも変わらず口うるさい女性だ。心配性なのだろうが。

 今日の日の為に周到に準備してきた。なんとしても、作戦を成功させなければならない。

 

「ここが、彼らが育った場所…かぁ…!」

 

 街を歩きながら、ティアは嬉々として呟く。

 “ZEUS”の傘下にある。という事で気が滅入っていたが、ここで“彼ら”が出逢い、そして育った運命の場所。それを聞かされてティアはこの任務を引き受ける事にした。

 自分の運命を変えた人の、運命の変わった場所。

 ここから全ては始まった。と言っていた。

 そんな国を見てみたいと、ティアは思ったのだ。

 

 かつての戦争の悲惨さや、この世界の現実等忘れ、笑う人々にも目をくれずティアは目を輝かせて歩く。

 C.E.74年に起きた70年代最後の戦争と言われている第二次オーブ攻略戦。

 それ以降、世界は大きく変化した。

 デュランダル議長により提唱されたデスティニープラン。

 人々を管理する社会システムが構築され、世界中の人々の多くはそれを受け入れた。

 受け入れない人々も居たが、逆に時代に置いて行かれた旧世代の人間として世界から阻害されていった。

 今ではデスティニープランの世界施行率は90%を超えており、もはや人々の生活の支えとなっている。デュランダル議長のお陰で世界は安定の一途を辿っている。

 そう人々は口にする。

ーーだが、現実にはーー。

 

 ティアは小さく溜息をつき、ふと通りかかったショーウインドウのガラスに映る自分の姿に気がついた。絹のようにしなやかな自慢の黒髪、自分ではないような自分が見つめ返してくる。青いお洒落なワンピース、中にはショートパンツを履いており、足元は白いショートブーツだ。

ーーこんな服を着るのも久しぶりだなぁ。

とティアは心中で思う。

 長く埃や泥にまみれた生活を送っていた。

 決して楽な生活ではなく、世界から目を隠して生きてきたのだ。

 18歳の彼女も本来ならそこらを歩く少女達のように年頃の女の子だ。

 だが、知っているのは年頃の遊びではなく、銃の扱いや人を殺す為のテクニック。そして、MSの操縦技術だ。

 自分で選んだ道ではあったが、自分にこの選択肢を与えた世界が許せなかった。ティアは少し浮かれていた自分を納めるように、歩を進め始めた。

 そして、角に差し掛かった時だった。

 

「うぉっ…!?」

 買い物袋がドサリと足元に落ちる。はずみで飛ばされそうになったティアの身体を、誰かの手が後ろから抱きかかえて止めた。

 

「ご、ごめん…大丈夫?」

 

 無造作に頭上からかけられた声を、ティアは振り仰ぐ。

 すぐ目の上に深紅の瞳があった。自分と同い年ぐらいの少年だ。驚きに目を見開いた顔は少しあどけなささすら感じる。

 

「ーーー…。」

 

 しまったなぁ。とティアは思う。

 誰かに顔を見られて印象付けさせるなんて失敗をしてしまった。と。

 

 しかし、コチラを心配そうに見つめる紅の瞳にティアはかつての友の瞳に似ていると思った。

 

 

 

 

 

 ヒロキは同僚のチヅル・ホシカワと、街に出ていた。

 これから任務に就く前に二人はしばらくはないであろう最後の非番を与えられていたのだ。

 

「なんだかこうしているとでぇとみたいだな。」

 

 隣を歩くパープルの髪をたなびかせ、同じくパープルの瞳でニヤニヤとコチラを見つめながらチヅルが言う。

 

「そうか? ただ俺はお前の買い物に付き合わされ、貴重な非番を奪われた可哀想な付き人って気分だけどな。」

 

 そう言うと普段は少し気だるそうな表情をしているチヅルが、ムッとして口をすぼめて見せた。

 

「なら、腕を組むとかどうだ? きっと恋人のように見えるぞ。」

 

「やめてくれ。そんな風にしてお前と居るのを軍関係者に見られたら、俺は死にたくなる。」

 

「なに、私は気にしないぞ。」

 

 俺が気にするんだっつうの。

 全くどうしてこうも、コイツはいつもーー

 ふと、隣でニヤニヤと腕を組むタイミングを見計らっているチヅルに警戒しながら路地から大通りに出ようとした時だった。

 急に目の前に女の子が現れる。チヅルに警戒していたヒロキは気づいさ時には少女とぶつかってしまっていた。相手もコチラに気づいていなかったようだ。

 倒れそうになるところを慌ててヒロキは手を伸ばし、抱きとめる。

 

「ご、ごめん…! 大丈夫?」

 

 チヅルのものとは違うふっと鼻先を甘い匂いがくすぐる。絹のようにしなやかな黒髪が目の前にあった。相手は驚いた様子でヒロキの顔を見つめる。

 きょとんとした目が印象的な、凛とした美しい雰囲気の女性だ。

 

「ーー…。」

 

 少女はなにも言わずヒロキの目を見つめる。

 ヒロキもまたその少女の紫水晶のような瞳に魅入られる。が、次の瞬間少女の表情が一変する。

 彼女はヒロキを蔑むろうな視線で

 

「あたしの胸、触ってるんだけど。」

 

「いっ!?」

 

 指摘されてヒロキは初めて気づき、手から伝わるやわらかな感触を確かめるように動かす。

ーーやわらかーー

 

「なぁにをやっているかああああ!!」

 

「うぼぁ!?」

 

 直後に襲う顔面への強烈な一撃。

 強制的に少女から引き剥がされ、ヒロキは大きく弾き飛ばされる。

 見ればチヅルが鬼の形相で繰り出した足をコチラに向けていた。

キッ! とヒロキを睨みつけると、少女に向き合いーー

 

「ウチの変態が失礼しました。」

 

 と、深く少女に頭を下げる。

 少女はキョトンとした顔から、少し呆れたように笑みを見せると立ち上がり、お尻の部分を手で払いながらチヅルに返す。

 

「ちゃんと躾しとかないとダメでしょ? でも、私も不注意だったからごめんなさい。」

 

 そう言って少女も深々と頭を下げる。

 二人の少女が頭を下げ合い自分は地に尻餅ついているとは異様な光景である。

 

「では、私は急ぎますので。」

 

 そう言って去り際にヒロキを蔑んだように一瞥すると青いワンピースの裾をひるがえして去っていく少女の後姿を見送りながらヒロキは理不尽なものを感じる。

 自分も不注意だったくせになんで俺だけ蹴られてあんな目で見られなければならないのだ。これじゃあまるで自分だけが悪者だ。

 するとチヅルがヒロキに顔を突き出して言った。

 

「…そんなに小さい胸がいいのか。」

 

 そう言って自身の豊満な胸を揉み揉みしながら不満そうにするチヅル。

 小さいかどうかははじめて触ったので比較対象は無かったが。

 

「…。」

 

 自身の手に残るやわらかな感触を確かめるように左手を見つめる。

 偶然とはいえ胸を触られたらあの少女が怒るのも仕方ない、か。

 ぼうっと自身の手の平を見つめるヒロキにチヅルは冷ややかな視線を送り、軽蔑しきった口調で言い放った。

 

「この浮気者め。」

 

「待て。いつから俺とお前は浮気だなんだと言われる関係になったんだよ。」

 

「なにを言う。ずっと前からだ。すでにお前の部屋の私物は…」

 

 そこまで言いかけてチヅルはハッ! として口を塞ぐ。

 今なんて言いかけたコイツは。

 

「さ、さぁ! 隊長がお待ちだ! い、急いで帰ろう!!」

 

 ヒロキが問いただそうとしたが、すでにチヅルは足早に背を向けて去っている。

 溜息混じりに地面に落ちた買い物袋を拾い上げ、ヒロキはチヅルの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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