外に飛び出せば、すぐに強い衝撃がティアを襲った。
格納庫から数条の閃光が巨大な扉を貫く。扉は一瞬にして吹き飛び焼け落ち、ビームの飛んだ向かいの格納庫でなにかが誘爆する。
とっさにティアは物陰に飛び込んだものの、先ほどまでティアのいた場所を爆風が駆け抜ける。
「アイツら…!!」
ティアは物陰から顔を出して、爆発の方向を見やる。風に流されていく爆風の中から巨大なシルエットが現れる。
「あれは…! “クラッシュ”、“フォートレス”……“バヨネット”!?」
傍にいた作業員が信じられないものを見るかのように三機のモビルスーツ……ガンダムを見て叫んだ。
ーー厄介な事になった…!
ティアは内心毒づいた。
十年前にアーモリーワンで奪取された時と同じ手口で侵入出来た事に、“ZEUS”を危機管理能力のない奴らと馬鹿にしていたが、これでは自分が手伝ってやったようなものではないか。あの三人組が何者なのかは分からないが、あの三機をみすみす見逃すわけにはいかなかった。
『さぁて、派手にやりますかぁ!』
“クラッシュ”を駆るウェインが意気揚々と叫ぶ。
『まずは格納庫を潰せ! 迎撃隊が出てくるぞ!』
顔色一つ変えずに“バヨネット”に乗ったジェイムが叫ぶ。その背後にいた“フォートレス”に乗ったリーブが楽しげに答える。
『出てくる雑魚は潰してさしあげましょう…プチッとね!』
左方へ向けてウェインが“クラッシュ”を駆る。オレンジと白の“RPS”装甲をたなびかせ、疾風のように格納庫の間を駆け抜けながらビームライフルを格納庫に並べられた“ザク”へと放ち吹き飛ばす。
“フォートレス”の全身を覆う甲羅のようなシールドが開き、左右に四門ずつ突き出している砲口が火を噴き、別の格納庫を火の海に変えた。
ウェインが駆る“バヨネット”はビームライフルでずらりと並ぶ“グフ”を射的の的を射抜くように正確に狙い撃ちしていった。その様子はまるで新しいおもちゃを得た子どものようだった。
しかし、そろそろ敵も奇襲から立ち直り、反撃を開始しようとしていた。空戦専用シルエットを装備した“グフボルケーノ”が飛び立ち、大火力を持つ“ガズウートⅢ”が戦車形態から二足歩行へと切り替わって此方に銃弾を向けてくる。
「ハッハァ! 当たるかよ!」
ウェインは射線を見切って地を蹴り、手の甲に備えられた短刀サイズのビームソードを両手に構えて鈍重な“ガズウートⅢ”をいとも容易く貫いていく。
たくさんの炎が太陽のない空を焦がしていく。躍動する鋼鉄の新しいおもちゃを自由自在に駆り、ウェインの血が徐々に温度を高めていく。
ーー全員殺す…全員だ!!
「くそッ!」
「お嬢ちゃん! 大丈夫か!」
近くにいた軍人がティアに声をかけてくる。
恐らくVIPだと勘違いしたのだろう。なにもない一般人がこんな場所にいるはずがない。
「俺についてこい!」
ティアは、ひとまず従うことにした。こうなってしまった今では、自分にはどうにも出来ない。インカムからはいまだにサポート役からの連絡はない。
とりあえず、ここを抜けださねばならなかった。
気がつけば辺りは火の海と化していた。三機のガンダムの圧倒的な能力を前に、ティアは苦い思いになる。
あれらはかつての“ガイア”、“アビス”、“カオス”の流れを汲んだ次世代機だ。
強すぎる力は争いを呼ぶーーどうやら、あの人の危惧はまさに当たってしまった。
ティアが反抗勢力“AEGIS”《アイギス》として命ぜられた任務はあれらの破壊、及び可能であれば奪取であった。
しかし、何者かがあの力の存在に気付き、危惧、あるいは欲望のために、それを“ZEUS”から奪おうとしている。
そして、その“何者か”とは誰なのかーー。
男に先導されてティアは格納庫の間を走る。が、建物の影を出たところで、ティアは足を止めた。ほんの数十メートル先でガンダムとモビルスーツが戦闘を繰り広げていた。
黒と白の機体色のモビルスーツーー“バヨネット”のビームサーベルが“ザクイェーガー”の機体を貫く。それを見て取ったティアは一人建物の影へと飛び下がる。
爆発が起こり、反応の遅れた先導していた兵士があっという間に炎に飲まれる。
「……もうっ!」
案内人を失った今、ティアはできるだけ戦闘区域から離れようと違う道を走る。が、彼女の退路を阻むように、緑と白の機体ーー“フォートレス”が道路の向こうから躍り出た。その機体を空中から“グフ”が狙い撃ちし、ティアの目前に巨大な穴を穿つ。ティアは車の影に飛び込み身を隠す。
流れ弾が当たったらしく、建物の壁が崩れ、轟音と共に破片が道路に降り注いだ。
「…チッ、こうなったら…!!」
ティアが覚悟を決める。
まだ死ぬわけにはいかない。当初の予定とは違うが、仕方ない。
ここでみすみすあの機体を逃すよりはマシだ。どれか一機だけでもーー
「破壊する…!」
苛立ちを込めて暴れまわるモビルスーツを恨めしげに睨みつける。
そして、路上に倒れているモビルスーツーー“ザクイェーガー”を見つけると迷うことなくそちらに向かって走り出す。
素早く慣れた手つきで機体を立ち上げるとエンジンが駆動音を伝え、モニターに光が灯る。立ち上がらせ、胸の排気口から熱せられた排気が噴き出し、機体の上に積もっていた瓦礫がバラバラと落下していく。
が、すぐに敵がその動きに気付いた。開けたばかりの視界にオレンジと白の機体が映る。
ーー望むところよ……!!
“クラッシュ”がビームライフルを構える。ティアは考える事なくレバーを操作し、ペダルを踏込んだ。“ザクイェーガー”がスラスターの噴射と共に横へ飛び退くと、放たれたビームが背後の壁を焼いた。
ティアは敵機へと突っ込む。
そのスピードに敵は虚を衝かれたのか、“ザク”のショルダータックルをまともに受けて大きく背後に吹き飛ばされる。
『ぬおおお!?』
予想していたよりもパワーと機動性が高い。
自分も背後に飛び退きながら、ゼウスが開発した新型量産機の性能に舌を巻く。
「これなら、イケるかーーー!?」
体制を立て直した敵機が両手の甲にビームソードを発生させる。
ティアはすばやく武器を探り、肩に装着されたシールドからビームトマホークを抜き放ってこれに応戦した。
刃と刃がぶつかり合う。
「くっ……!」
「んなろおおおおお!!!」
中々倒れない敵にムキになったのか、“クラッシュ”がしゃにむに打ちかかってくる。反撃の隙すら与えてくれない。
ーーやるじゃない…!
「でもーーあの人程じゃないわね!!!」
自分にモビルスーツの戦闘技術を叩き込んだ人物を思えば、目の前の敵など二流だった。
ーーなんとしても、破壊する…!!
『いいな、ヒロキーーー敵機は三機、全て可能であれば捕獲しろ。まぁ無理だろうけどな』
と、モニター越しに上官であるシン・アスカが告げる。
戦闘区域からほど近い場所に停泊させていたアスカ隊のスーパーミネルバ級戦艦“ミレニアム”。全長は430メートル程あり、この度開発を進めていた新型機を収容、運用する為の艦であった。その姿はどことなくシンのかつての旗艦“ミネルバ”に似通っている。
シンと話していたヒロキはいまだ状況が掴めていなかった。
ただ知らされたのは、工房内で最終調整待ちをしていた新型の三機が奪取されたという事。その機体が暴れ回っているという事だった。
「なんだってそんな事に…!」
『愚痴を言ったって仕方ないだろ。奪われたもんは奪われたんだ。』
そうモニター越しに言うシンはどこか嬉しそうに見える。
「……なんでそんな楽しそうなんですか?」
『ん? あぁ、ちょっと懐かしい気がして、さ…』
かつて、アーモリーワンで同じように新型の三機が奪取された時に自分もヒロキのように憤っていた。なんでこんな事になったんだーーと。あの頃から比べれば少しは、大人になったという事だろうか。
『いいか、ヒロキ。容赦はしなくていい。徹底的にやれ。』
「さっき捕獲しろって言ってませんでしたか?」
機体を調整させながら、ヒロキが返す。
『敵は平和になった世界を乱す奴らだ。そんな奴らに容赦する必要があるのか?』
強い口調でシンが言う。
『また、俺やお前みたいな人間を生み出しちゃいけないんだ。絶対に……』
画面越しにでもシンが身体に力を入れているのが感じ取れた。
そうだ。あの日、家族を全て失ったように、あの日から変わると決めたんだ。
あんな目に誰にも合わせない、と。自分の力で全て守る、と。
そして、あの日自分を救ってくれた恩人ーーシン・アスカに向かってヒロキは告げる。
「敵を…排除してきます…!」
『いってこい!』
ヒロキの機体、“フォルテ”を載せたカタパルトデッキがゆっくりとせり上がる。
同時に目の前のハッチが開き、薄青い空が覗いた。
「ヒロキ・ディンーー“フォルテ”、行きますっ!!」
ヒロキは左手のスロットルを全開にした。
同時にカタパルトによる加速度がシートに身体を押し付ける。 一瞬のうちに視界は開け、ヒロキはわずかに目を細めた。
見下ろせば工房内のあちこちから黒い煙が上がっている。
ーーー何人の人が死んだのだろうか。
「くそっ!!」
思った以上の被害にヒロキは毒づき、怒りが頭を支配する。
ーー好き勝手やりやがって…!!
間もなく、その目標をヒロキは捉えた。
オレンジと白の機体が“ザクイェーガー”と対峙している。
奪取されている“クラッシュ”とやり合う“ザクイェーガー”は少し押され気味に見える。
そちらを目指しながら、ふとヒロキは気付いた。
その背後からもう一機のガンダムーー“バヨネット”が近づいている事に。
“ザクイェーガー”のパイロットは“クラッシュ”の猛攻をいなすのに必死で後ろに気づいていない。
「危ないっ!!」
“バヨネット”が“ザクイェーガー”の死角から躍り出た。
素早くシールドを構えようとするが間に合わず、ビームサーベルに左腕を持っていかれる。
体勢を崩した“ザクイェーガー”に“クラッシュ”がトドメを刺そうと襲いかかる。
ーーが、
『なぁんだぁ!?』
“クラッシュ”の背後からアラート音が響く。
ビームライフルを放つも“クラッシュ”にシールドで防がれる。 ヒロキは背中に装備された巨大なビームサーベルを抜き放ちながら、地上に降り立った。
焼け焦げた大地を踏みしめて立った機体は、全身を漆黒で包んでいた。
ZGMF-X77A“フォルテ”ーーそれがこの漆黒の機体の名前だった。
通常のビームサーベルより刀身が長いビームサーベルを構えながら、
「なんでこんな事…!」
ともに同系統の新型に向かって憎しみを込めて叫ぶ。
「また戦争がしたいのかよ!? あんた達はっ!」