AnotherSEED   作:another12

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戦いの予兆

 

 

 

 

 

「これは…!」

 

 地平が不気味に振動したのを感じとり、ティアはこれが内部での爆発ではないと瞬時に悟った。

 

「外からの攻撃…エリカ達じゃない…なら!?」

 

 三機のモビルスーツを奪った連中の背後に何かしらの組織があるならば、“コペルニクス”の外には脱出したこれらを運び出すための脚が用意されているに違いない。

 現に自分達はそういう手筈だった。

 ティアの脳裏に蘇る幼い頃の記憶。ザフトの強襲部隊によって崩壊したオーブのコロニー“ヘリオポリス”。それが崩壊したというニュースは幼いながらもユイにコロニーに住む者の恐怖を思い知らせた。

 後にその場所に彼らがいた事を聞いたが、特に攻めようとも思わなかった。

 だが、今はここには生まれたばかりの子供たちもいる。初等教育施設もある。

 もし、いまこの“コペルニクス”に穴が開けば年端のいかない子ども達が死ぬ事になる。

 そんな事は、許さない。

 

 奪取された三機目が新たに飛来し、戦闘に加わった。

 “クラッシュ”と接近して切り結んでいた“フォルテ”の死角から残りの二機が躍りかかる。“バヨネット”が突っ込むと見せて飛び上がり、その背後に身を隠していた“フォートレス”が胸の中央から拡散型のビームを放つ。寸前で“クラッシュ”が飛び退き、あわやというところで“フォルテ”もビームシールドを構えながら横っ飛びによける。

だが、その動きさえ読まれていた。

 

「っ!」

 

 飛び立った“フォートレス”が上空からビームジャベリンを抜き放ち舞い降りる。

 かろうじて避けた“フォルテ”をかすめ、地面を断ち切った。

 

 ユイは眼前で繰り広げられる戦闘をやりきれない思いで見ていた。

 これらの機体は火力、機動力、どれを取ってもここ数年に正式開発された機体とは段違いの性能を示している。だがさらに驚嘆するべきはこれだけの機体を操っているパイロットたちだ。漆黒のガンダムはともかく、残りの三機を操るのは今日はじめてあの機体に触れた部外者のはずだ。

 恐らく、自分同様に相当な訓練を積んでいるに違いない。

 

 着地した瞬間、“フォートレス”はすでに“フォルテ”を狙い、撃っている。

 “フォルテ”は恐ろしい反射速度でシールドをかざし、からくもビームの直撃から逃れた。が、同時に横から“バヨネット”のビームサーベルが迫っている。

 

「くそっ!」

 

 身を沈めて頭上ギリギリを光刃がなぎ払う。なんとか間合いを取ろうとしたヒロキだったが、ひるがえって迫るサーベルを受けたところで体勢を崩してしまった。

 

「ぐあああ…!」

 

ーーーやられる!

 

「…これで、終われ!」

 

 地表に叩きつけられた漆黒のガンダムに、“クラッシュ”のビームソードが迫る。

 

「くそっ! なんで私がっ!」

 

 そこに、ティアの乗った“ザクイェーガー”が疾風のように割り込んだ。肩から体当たりをまともに食らった“クラッシュ”は後方に大きく吹っ飛ばされる。

 

「ボケっとしてんじゃないわよ! 死にたいの!?」

 

 “フォルテ”に乗るパイロットに向けてユイが叫ぶ。

 

「な、女…!?」

 

 “ザクイェーガー”から聞こえてきた声にヒロキは目を見開いた。

 まさか女性に戦闘中叱咤されるとは。

 

 ティアはすばやく身を返し、逆方向から突進してきた“バヨネット”に向かってビームトマホークを投擲した。思い戦斧が唸りを上げて飛び、“バヨネット”ががうじて展開したシールドに弾かれる。

 

「こんのやろお! よくもっ!」

 

 ショルダータックルを受けて地面に沈んだ“クラッシュ”が身を起こし、右肩にある砲口から強烈なビームを放った。

 

「まずいっ!」

 

 ティアはすかさずシールドをかざすが、大出力のビームはそれすらも吹き飛ばした。反動で“ザクイェーガー”は背後の建物に叩きつけられた。コックピットを激しい衝撃が襲う。なおも迫ってくる敵機に気付いたティアは機体を操作する。

 直後、“フォートレス”の胸部からビームが放たれ、“ザクイェーガー”が先ほどまでいた壁を灼いた。

 やむを得ない状況だったとはいえ、こんな機体で戦闘に参加するべきではなかったなぁとティアは一人愚痴る。

 

「助けられた借りは返したわね。」

 

 ユイは誰にでもなく呟き、その場を離脱するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「はやくっ! 入れるだけ開けばいい!」

 

 チヅル・ホシカワがじりじりながら叫んだ。

 そこは爆撃を受けて倒壊した格納庫の中だった。作業員も兵士も総出で、使える機体の上から瓦礫を運び出している。

 三機の攻撃が開始してすぐ、チヅルは工廠内で調整されていた愛機を目指して走っていた。が、到達する前に彼女の機体が 待つ格納庫にミサイルが命中して爆発したのた。

 ある意味ではチヅルはラッキーだったといえる。あと少し駆けつけるのが早ければ彼女も瓦礫の下だろう。

 

「あいたぞ!」

 

 声がかり、チヅルは急いで愛機に飛び乗った。

 スタッフがコックピットハッチを開きながら慌ただしく注意を与える。

 

「中の損傷は不明だ! いつも通りに動くと思うなよ!」

 

 すばやくシートに着き、機体を立ち上げる。

 

「無理するな!」

 

「了解だ。」

 

 スタッフの言葉を理解したという意味で頷き。

 チヅルはハッチを閉じた。点灯したモニターに下がっていくスタッフたちが映っている。その機体を覆っていた瓦礫がバラバラと滑り落ちていく。現れたのは頭部に羽飾りのような角を持ち、両肩に大きな砲塔を身につけてZGMF-2025/F“ゲルググメナース”だ。“ザクイェーガー”の上位機に当たり、ヒロキの“フォルテ”同様にまだテスト段階の機体だった。

 ボディは濃いブルー。これは、チヅルのパーソナルカラーだ。

 

ーーヒロキ!

 

 シン・アスカの“デスティニー”がこんな時に限ってプラント本部で調整整備中のいま、まともにあの機体と渡り合えるのは恐らく自分とヒロキだけだろう。

 

ーー無事でいてくれ…!

 

チヅルは先に迎撃に出た同僚に思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 上空から増援の“ディンⅡ”が接近し、ヒロキの援護射撃を始める。

 すると“フォートレス”の肩にある巨大なシールドが開いて内部に並んだ砲口をさらす。

 次の瞬間には六つの砲口からまばゆい光が迸り、“ディンⅡ”の機体に吸い込まれる。

 ビームを食らった機体は空中で炎の花を咲かせ、破片が煙の尾を引いて舞い落ちる。それを見ていたヒロキは歯噛みしながら大型ビームサーベルを構えて突進する。

 

「そんなに好き勝手ばかりーーー」

 

 ビーム刃が白く長い弧を描く。が、“フォートレス”は刃の一閃をかわし、飛びのいている。背後から飛びかかってきた“クラッシュ”のビームソードをビームシールドで押し返し、ヒロキは叫んだ。

 

「ーーーさせてたまるかあああっ!」

 

 ビームの刃が交錯し、両者は激しく機体をぶつけ合う。

 

「くそっ!」

 

 “クラッシュ”はヒロキの気迫に押されたかのように下がり、バーニアを全開にして空中に逃れた。“フォルテ”はそれを追って飛ぶ。同様に空中に戦場を移した“バヨネット”がビームライフルを撃ちかける。急速旋回してそれをよけた“フォルテ”に、“クラッシュ”が横手から躍りかかった。

 

「いい加減にっ!」

 

「くっ!?」

 

 

 ヒロキは上昇して振り回されたビームソードの連撃から逃れる。

 

「なんで“クラッシュ”も“フォートレス”も“バヨネット”も…こんな事になるんだよ!!」

 

 “フォルテ”が背面のもう片方のビームサーベルを引き抜いて、投げつける。

 通常のサーベルより大きいビームを持つサーベルが回転しながら敵機に襲いかかる。ビームサーベルはとっさに突き出された“クラッシュ”のビームシールドにはね返され、弧を描いて地に落ちていく。反動ではじき飛ばされた“クラッシュ”の上空で、“フォートレス”が肩のシールドを展開した。

 

「っ!」

 

 ヒロキはハッとして両手のビームシールドを出力最大に展開して身を隠した。

 六本の熱戦が一斉に放たれ、“フォルテ”をかすめて地上を撃った。眼下に展開していた“ガズウートⅡ”や“シグーF式”がビームの餌食となって爆発する。

 

「コイツらっ…!!」

 

 ヒロキの深紅の瞳が怒りに燃えた。

 そのとき、ヒロキの左方からビームの矢が放たれ、“フォートレス”のシールドにはじけた。

 ヒロキは驚いてそちら見やり、見慣れた機影を目にして思わず頬を緩めた。

 青い“ゲルググ”ーーチヅルだ!

 

「遅刻だぞ!」

 

『すまない、後でチューしてやるから許したまえ!!』

 

 チヅルから軽口の返答が聞こえ、いつもの切れるようにムダのない動きでビーム突撃銃をコントロールし、

 

『ヒロキをレイプしてくれたツケは払ってもらうぞぉぉっ!』

 

 意味のわからない啖呵を切りながら撃ちまくる。

 突如現れたチヅルの猛攻に、奪取された三機は翻弄された。

 

 

「くそっ! なんで落ちないんだよ!!」

 

 ウェインは憎々しげに吐き捨てた。

 その視界には漆黒のモビルスーツが映る。さっきからどれだけしかけても撃墜には至らず、あまつさえ反撃まで受けてしまった。

ーーこっちは三機で攻めかけてるってのに!

 

『ジェイムさん! キリがないですよ! この子もパワーがっ!』

 

 通信機から流れ込むリーブの声に少しばかり焦りが見え、ジェイムは決断を下した。

 

『…仕方ない。離脱する! ウェイン、そいつを振りきれるか?』

 

 しかし、それらの言葉が耳には届いているものの、ウェインはその内容に興味などなかった。彼は殺気立った声で言い捨てる。

 

「……すぐに沈めてやるっ!!」

 

 完全に頭に血がのぼったウェインは、ビームソードを構えながらフルスピードで敵に突っ込んだ。

 

「こんな奴なんかに…こんなところで…っ!!」

 

 急速に目の前に迫る“フォルテ”もビームサーベルを構えて待ち受ける。両者の刃が一閃し、空中で機体が交錯する。

 

ーーこいつだけは…!!

 

 こんな所で立ち止まっている暇なんてない。自分には守らなければならないものが、その人のために取り戻したいものがある。その人の為にも、こいつは…!

 

『離脱だ! やめろ、ウェイン!!』

 

 ジェイムが怒鳴りつけるが、ウェインはなおもビームソードを掲げて敵機に襲いかかっていく。

 

「こんな所でぇぇぇっ!!」

 

 苛立ちに沸騰しそうなウェインの耳に、そのとき、リーブが皮肉げに投げつけた言葉が突き刺さった。

 

『じゃああなたはここで死になさい。あなたの思い人共々、ね』

 

ーー死…死ぬ!?

アイツも、自分も…こんな所で…なにも出来ずに…

 

 氷のひび割れが心臓に走ったようだった。熱くなっていたウェインの頭が真っ白になり、心臓から体のすみずみまで凍りつくような冷たいものが広がっていく。

 

『…。』

 

 ジェイムが制止しウェインを見つめ、リーブは意地悪く追い打ちをかけた。

 

『望むなら、私が思い人に伝えてあげますよ? ーーーサヨウナラ、ダイスキでした。ってね!』

 

ーー死ぬ…俺が? こんな所で?

 

 ウェインの操縦桿を握る手が震えだす。

 慣性のまま無防備に機体が流される。

 

ーー強く咲き誇る花ほど、脆いものさ。

 

 不意に彼女の声が頭を流れる。

 急に攻撃をやめたウェインに、ヒロキが迫る。間一髪のところでジェイムが割って入り、放たれたビームライフルをはじき返す。

 

『言い過ぎだ。リーブ』

 

『止まらないんじゃあ、仕方ないでしょう?』

 

 仲間達の声さえ遠く聞こえた。呆然とすくんでいたウェインは、ジェイムが割って入らなければ死んでいたことに気づく。

 

「ーーー撤退するぞ。」

 

 ウェインがつぶやき、機体を返す。

ーーこんな所では死ねない。

 急加速でその場を離脱し、天頂方向を目指す。

 

『俺たちも行くぞ!』

 

『喜んで従いましょう〜!』

 

 仲間達に追随しながら、リーブが悦に入ったように言い放った。

 

 

 

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