AnotherSEED   作:another12

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世界に抗う者

 

 

「逃がすかっ!!」

 

 あまりに唐突な退却に、ヒロキは一瞬、反応が遅れた。

 その遅れを取り戻すようにバーニアを全開し、追跡に入る。

 チヅルの“ゲルググ”もそれに従った。

 

 それにしても、さっきの“クラッシュ”はなんだったのだろうか。

 あれほど執拗に攻撃をしかけていた敵が、退却する直前の数秒間、完全に無防備になった。パイロットになにか不具合でもあったのだろうか?

 

 先を行く三機を見上げながら考える。あの三機との戦闘に入ってからというもの、彼には気になっていることがあった。あの三機に乗っているのは何者か?

 ーーという疑問だ。

 あの特殊な新型機を、奪取した途端に残りこなすほどの技量、反応速度や判断力にしても、コーディネイターを上回っているようにすら感じた。

 

『むむぅ!?』

 

 ヒロキの思考は突然上がったチヅルの声にさえぎられた。サイドモニターを見ると、後方、チヅル機が盛大に黒煙を吹き出し、みるみる遅れていく。どうやら機体にトラブルが発生したようだ。

 

「チヅル、戻れ!」

 

 ヒロキが声をかけると、心外そうにチヅルは「しかし…!」と言い返す。

 

「無理をするな、チヅル」

 

「……分かった。死ぬなよ…」

 

 ヒロキの落ち着いた声に、チヅルはしぶしぶと機体を返した。

 

 

 

 

「今なら…!」

 

 頭上に空いた穴を見つめ、ティアは好機とばかりに上空に飛び上がった。

 今なら、ドサクサに紛れ込んで脱出可能だ。外に出れさえすればーー!!

 ふと、耳のインカム越しに雑音に混じって、声が聞こえてきた。

 

『ア……! ティア! 聞こえる!?』

 

 ようやくサポート役の声がティアに届く。

 通信が取れなくなって以降なにも応答がなかったので最悪の事態も想定していたかがどうやら無事だったようだ。

「聞こえてるわ! なんとか無事よ!」

 

 死にかけたけどね。と内心愚痴る。

 インカムの向こうの主はティアの声に聞いて安堵のため息をついた。

 

『よかった…それで、状況は…?』

 

「私達が破壊予定だった新型三機が何者かに奪取されたわ。」

 

『なんですって!? それで、その三機は……いや、いいわ確認した。』

 

 外で待機していたサポート役も外に出て退却していく三機を視認したのだろう。

 

「それと! もう一機、新型があったんだけど!? どういうこと!?」

 

『えぇ!? だって、情報には三機の新型だって…』

 

 インカム越しに狼狽する女性の声。

 それは自分もそう聞いていた。だが、問題はそこではない。

 

「情報に見逃しがあったんじゃないの! その新型一機と奪取された三機が戦闘していたのよ。おかげで中はグッチャグッチャよ!」

 

 強く、操縦桿を握りしめる。

 なんともまあ後手に回らされたものだ。新型三機を破壊するという目的すら果たせないどころか、もう一機の新型まで現れるなんて。

 

「とにかく、どれか一機だけでも破壊するわ…! エリカ! “フェンリル”の用意をして!!」

 

 ティアはインカム越しに外で待機しているサポート役ーーエリカ・シモンズに声を投げた。エリカは嬉しげにその言葉を待っていたとばかりに

 

『連絡が途絶えてからすぐにいつでも発信出来るように準備してあるわ! いつでも射出出来る!』

 

「流石! 自動運転で指定する座標に射出して頂戴!」

 

『オーケー!』

 

 このままおめおめと帰れるものかと、てぃあ

 は前方を飛ぶ漆黒のモビルスーツを睨みつけた。

 

 

 

「ナスカ級撃沈!」

 

満身創痍になりながら、なおも戦い続けていた二隻めのナスカ級が、“アラクネ”の主砲を受けて沈んだ。

 

「左舷後方より、“グフ”、新たに三!」

 

 港の方は予定通りのようだ。新たに出撃してくる艦影はない。

 だがモビルスーツまで封じ込めることは無理だ。副官のバズ・イワンコフは表情一つ変えずに命ずる。

 

「アンチビーム爆雷発車と同時に加速二十パーセント、10秒。一番から四番、“スレッジハマー”装填! モビルスーツを呼び戻せ。」

 

 のんびりした風情で肘をついて戦闘を見ていたレン・リューインが、おもむろにオペレーターにたずねる。

 

「アイツらは?」

 

 オペレーターは短い問いかけをすぐ理解して首を振る。

 

「まだです。」

 

 その答えを聞いて、レンはやや困惑したように息をついた。

 バズはあっさりと問いかける。

 

「失敗、ですかな?」

 

 “コペルニクス”に潜入した別働隊のことだ。すでに戻ってくる予定の時刻をかなり割っている。

 

「港を潰したといっても、あれは軍事工廠です。長引けばこちらが持ちませんぞ。」

 

 バズは上官に注意を喚起した。冷たいようだが、これ以上この宙域にとどまることは望ましくない。襲撃してくるモビルスーツは増える一方で、封鎖した港も予想より早く復旧しないとも限らない。

 

「わあってるよ。けど失敗するような連中なら、俺だってこんな作戦、ハナっから立てたりしないよ。」

 

 レンは進言に気を悪くするような様子もなく応じたあと、手元のモニターを見つめて言った。

 

「仕方ない。後衛を投入しろ。」

 

「良いのですか?」

 

「時間稼ぎにはなるだろ。」

 

 バズはそれ以上意見することもなく、頷いた。

 

 

 

 

 

「しつこいですねぇ。」

 

 ふと、追いすがるヒロキの目の前で“フォートレス”が背面にマウントされた小さな筒型のユニットを分離した。タイミングを合わせたかのように“バヨネット”がその前面に滑り込み、背中に装着された巨大な砲塔を構える。

 

「ちっ!」

 

 ビームバズーカーの砲火が解き放たれる。一撃で“ザク”も沈める威力を持つ火力だ。すばやくヒロキは機体を動かして砲火を避ける。

が、さきほど“フォートレス”から分離した筒型の小さいユニットーーー“ドラグーンビット”と呼ばれるその武装は、まるでそれ自身が意思を持ったかのように、無重力の中を自在に飛び回り、鋭いビームの矢をヒロキに浴びせかける。

この“ドラグーンビット”は10年前に開発された“ドラグーン”システムを改良、小型化したもので本体から分離して個別に攻撃が可能としている。

 

「なんて奴らだ! 奪った機体でこんなにもーー!!」

 

 ヒロキの声に焦りが滲む。“ドラグーン”システムの操作など、正規のパイロットでも困難だったはずだ。だからこそなおさら、これらの機体がこのまま敵の手に落ちてはまずい。

機体と乗り手は“ZEUS”と世界にとって必ず脅威となる。

 

ーー脱出される前に何としても捕らえる!

 

 一連の攻撃は牽制だったらしい。三機はまたヒロキから距離を開け、コペルニクスの外壁へ向かっていく。ヒロキの“フォルテ”が加速してそれに続く。

そのときーーー

 

「………!?」

 

 ヒロキの身体を奇妙な感覚が貫いた。

 反射的にシートの上で身を起こす。

 

ーーなんだ!?

 

 背筋を電流が駆け抜けたようだ。ヒロキは機体を確認したが、どこにも異常は見られない。一瞬の感覚はすでに消えている。だがほんのかすかに、見えない誰かに頭をおさえつけられているかのような圧迫感をおぼえた。

 プレッシャーによる肉体の変調だともいうのか?

 ヒロキにとって、これが初の実戦だ。

 ここにいるのは自分だけーーつまり、あの三機をいま止められるのは自分だけなのだ。

 

 

 

 

「ダメです! 司令部、応答ありません!」

 

 工廠内の司令部を呼び出していたオペレーターの報告に、シン・アスカは顔をしかめて見せた。

 港との連絡もさっきの震度以来、途絶えたままだ。おそらくあれが、外部から港への攻撃だったのだろう。

 

「工廠内にガス発生! 第四〜第八地区までレベル四の避難勧告発令!」

 

 別系統で情報収集にあたっていたオペレーターのエリー・ルルシアの報告も、シンの気分をますます苛立たせた。艦長のアーサー・トレインが不安げに尋ねる。

 

「隊長……これ、まずいですよね? もしこのまま逃げられでもしたら…」

 

 まずいに決まっている。

 人柄はいいのだが、どうもアーサーは昔から言わずもがなのことを言いすぎる性格は変わらない。グラディス艦長も苦労していたのだろう。

 かつて、十年前に“ミネルバ”で共に戦ったタリア・グラディス艦長、そして副長のアーサー・トレイン。今ではアーサーも艦長を任せられるほどの男だ。しかし、十年という時を経ても彼のヘタレは治らない。

 

「……バタバタと首が飛ぶでしょうね。」

 

 むっつりとした顔でシンが答えた。

 アーサーはさらに情けない顔になった。自分達の首は無事だと開き直るぐらいの度胸はないのか。

 それにしてもーーーこの状況、あまりにも十年前の“アーモリーワン”での一件に似ている。奪取された新型三機。それを追うルーキーと新型。工廠内を襲う敵。

 一体なんだろうか、この身体を伝う懐かしい思いと違和感は。

 嫌な予感がする。誰かの手のひらで踊らせているようなそんな気分だ。

 

 

「チヅル!? 大丈夫!?」

 

 バーニアに異常が発生したチヅル機が着艦し、エリーが驚いて無事を確認している。

 

「しかし……」

 

 シンは顎に手をやりながら呟く。

 

「こんな事をしでかす連中ーー何者なんだ…?」

 

 モニターにはヒロキの追撃を振り切って外壁を目指すフォースシリーズ三機が映っている。必然性から考えればテロリストーーだが、あれだけあの新型を動かせる程の熟練したテロリスト達…にもかかわらずこれほどの作戦を成功させる部隊がこの世界のどこかにまだいるというのか。

 

 シンの握る拳に力が入る。

 

ーーまだ、この世界に議長の邪魔をする奴らが…!

 

 

 

 

 

 

 

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