「こいつっ!!」
ジェイムはビームバズーカを手に、“フォルテ”をロックオンして放つ。敵は後退しながらビームシールドを展開し、ビームは機体をかすめることもなく弾かれる。
リーブが反撃の射撃をかわしながら呻くのが聞こえる。
『いい加減に…っ!』
「ーーしつこいっ!!」
ジェイムも吐き捨てた。
ーーあと一歩で外に出られるというのに……!
彼らの背後ではウェインの“クラッシュ”が外壁を目指している。
先を急ぐウェインに“フォルテ”が迫ろうとする。
「やらせませんっ!!」
リーブは“ドラグーンビット”を分離して両側から敵を狙う。ほぼ同時に二方向から発せられたビームを、漆黒の機体は凄まじい反応を見せ、シールドで防ぐ。が、その隙にジェイムは敵の懐に飛び込み、勢いのまま相手の振り下ろそうとした大型ビームサーベルをシールドで払う。
「このっ!!」
ーーいけるかっ!?
ジェイムはたたみかけるようにビームライフルを連射する。だがその連射すらビームシールドを巧みに展開し、かわしてみせる。
そのとき、視界の隅をなにかが横切り、ジェイムは一瞬そちらに注意を奪われた。
ーーなんだ? 先程のザク…?
漆黒の機体の後方、その後をゆっくりと“ザクイェーガー”がゆっくりと飛んでいる。
コチラに攻撃をする様子もなく、かといって漆黒の機体を援護する様子もない。
あのザクは一体何をしたいのだろうか。と疑問がよぎるも、すぐにジェイムは眼前に迫る漆黒の機体に視線を戻した。
バーニアを噴かせて突っ込んでくる。ジェイムはすかさずビームライフルで狙う。
が、いとも簡単にその射撃をかわし、瞬く間に“バヨネット”の目前に迫った。背面から抜き放たれたもう一方の大型ビームサーベルを辛くもかわし、ジェイムは唸る。
「コイツは……!」
一部始終を見ていたリーブも、圧倒された口調で叫んだ。
『ーースピードを増している!?』
リーブはジェイムを援護してシールド内の三連装ビーム砲を放つ。が、漆黒の機体はそれさえも楽々かいくぐり“フォートレス”に迫り、ビームシールドを展開して突っ込む。
『くぅぅぅぅ……!!』
“フォートレス”の機体が手もなくはじき飛ばされた。
自分達との戦闘において、漆黒の機体のパイロットは成長しているような素振りを見せている。反応速度、判断力が増している。
それに、漆黒の機体のバックパックに備えつけてある巨大な二門の砲塔ーーそれをまだ一度も使う素振りを見せていない。
あの装備を使える環境ではないーーーとでも言うのだろうか?
漆黒の機体はジェイムとリーブのタッグを斥け、“クラッシュ”に肉薄した。
ウェインが怒りの声を上げる。
「来るんじゃねえ!! 邪魔すんなっ!!」
「堕ちろぉぉぉっ!!」
ヒロキは叫びながら、“フォルテ”を駆って“クラッシュ”に迫った。そのとき背後から強烈な熱線が放たれる。“フォートレス”が肩のビーム砲、兵装ポッドのビーム砲をいっせいに発射したのだ。が、それらのビームはヒロキを標的にしたものではなかった。
外壁の一点にビームを集中させる。自己修復ガラスが、ついに熱に耐えかねてその穴を広げた。
ーーーしまった!
ぽっかりと空いた巨大な穴の向こうに宇宙が見える。付近は急速に減圧され、機体が乱気流に翻弄される。流出する空気と共に、オレンジの機体が穴をくぐって逃げ出すのが見えた。懸命に機体を立て直そうとするヒロキの横を駆け抜け、“バヨネット”と“フォートレス”がそのあとに続く。
「くっそぉ!!」
ヒロキは歯噛みした。
ーーやっとここまで追いつめたというのに! これじゃあやられっぱなしじゃないか!
せっかく手に入れた力を活かすことも出来ず、奪われるがままに翻弄される。ヒロキにとってそれは耐えがたい事だった。義務感というより執着心に突き動かされ、ヒロキはためらう事なく、外壁に空いた穴に身を躍らせた。
ーーアイツらを逃がしてたまるかっ!!
「隊長っ!!」
“フォルテ”がコペルニクスの外へ飛び出すのを見て、アーサーが驚きの声を上げる。
「あいつ、なにを勝手に! 外の敵艦はまだ……」
困惑する艦長の声にかぶせ、エリーが鋭い声で報告した。
「“フォルテ”のパワー! 、危険域ですっ! 最大であと300っ!」
「ええっ!?」
アーサーの顔が青ざめた。
シン・アスカはため息をひとつついたあと、毅然として立ち上がり、告げる。
「“ユーピテル”、発進させろ!」
シンが宣言するとクルーの間にどよめきが走った。だが港が潰され、他艦の増援が望めぬ限り、自分たちが援護に向かうしかない。艦長のアーサーと目が合う、苦渋の表情で頷いてみせる。
「わかりました…!」
シンはアーサーの表情を見て再び、席に着いた。
「“ユーピテル”発進シークエンス、スタート! 本艦はこれより戦闘ステータスに移行する!」
発進シークエンスがはじまった。
ーーよしっ!
新型四機の戦闘を後方から追いすがりながら機体を移動させていたティア・キサラギは大きく口元を緩めて見せた。
目の前に空いた巨大な穴を潜り抜け、ナニかが潜入してきた。
コペルニクスの人工光に煌き、輝きを見せる純白の戦闘機ーーー。
ティアはその先に漆黒の宇宙空間が見えているにも関わらず、“ザクイェーガー”のコックピットハッチを開いた。
「うっ……!」
強い乱気流が彼女の華奢な身体を空高く舞い上げる。
このままいけばティアは漆黒の宇宙空間に放り出されてしまうだろう。パイロットスーツを身につけていないユイにとって、それは死を意味する。
だが、彼女はそんな状況においても強気に笑う。
「ーーー来てっ!! “フェンリル”!!」
純白の戦闘機に向かって叫びなから、右手を強く突き出した。
彼女の綺麗な右手首には時計型のリモートコントロール端末が巻きつけている。
ーー“マニピュレートギア”と呼ばれるこの次世代戦闘機用に開発されたリモートコントロールシステムは、このギアに対応したシステムを持つ機体ならば、使用者の声紋に反応し、登録してある使用者が生きている限り、一定の遠隔操作が可能となる。
純白の戦闘機が、ゆっくりと彼女を包み込むようにそのコックピットハッチを開きユイに接近してくる。
まるで意志を持ったかのように優しい動きでユイを自身のコックピットへと誘う。
「お利口よ、“フェンリル”ーー!!」
素早くコックピットに座り、コックピットハッチを閉じながらユイは愛機に声を掛ける。
「ユイ、オカエリ! オカエリ!」
機体コンソールに設置されたソフトボールを少し大きくしたサイズの独立マルチAI端末ーー“ハロ”が耳をパカパカさせながらご主人の帰りを待ちわびた飼い犬のように声を上げる。
「はいはい、あなたもお利口よ」
ティアはネイビー色の相棒の機械の頭を撫でてやる。
「オマエモナー! オマエモナー!」
わけのわからない関西弁を話し、ハロが喜びをあらわにする。
この人工端末には簡易的な言語記憶能力を持っている。誰が仕込んだのか、関西弁やよく分からない言葉を発する事も多い。誰かが遊び半分で仕込んだのだろうが、暇な人物もいるものだ。
「さて、と…!」
純白の愛機ーー“フェンリル”の操縦桿を握りしめ、ティアはペロリと舌を唇に這わせる。
慣れしたんだエンジンの駆動音、コックピットに伝わる揺れも、匂いも、全てが彼女の心を落ち着かせ、そして彼女のスイッチを切り替える。ゆっくりと大きく深呼吸をして、眼前の漆黒の空間を睨みつける。
「ーーー反撃開始と行きましょうか!!」
「テヤンデェ!!」