AnotherSEED   作:another12

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コックピットに、独り

 

 

 

 

 

 目の前で起きた現状に、レンは言葉を失ってしまった。

 自分の見たものを理解できず、呆然と目を見開いていた。

 

「何だ……? アレは……!」

 

 目も眩むような白い閃光が消え去ったのち、味方の後詰めが展開していた宙域には、なにひとつ残っていなかった。

 

「戦艦とおぼしき熱源接近! “スーパーミネルバ級”ーーこれは!」

 

 オペレーターの慌てた声が響き、モニターによく知られている形状の艦が映った。

 

「“ミレニアム”……シン・アスカの部隊かっ!」

 

 “ZEUS”最強の呼び声高いあの部隊がまさかコペルニクスに駐在していたとは。“デスティニー”が出てこなかっただけでも幸運だった。いや、出せないのか?

 先ほど光の束を放った漆黒のモビルスーツはピクリとも動かない。機体の色が灰色に染まっているのを見ると、どうやらエネルギー全てを使い切ったらしい。

 それもそうだろうあれだけの威力を持つ砲撃を行われてまだ動けていたとしたら、目を疑ってしまう。

 あれは、モビルスーツという枠組みに収まる威力ではない。

 

「チッ……! 面舵十五、加速三十パーセント、“イーゲルシュテルン”起動!」

 

 弾かれたようにレンが指示を飛ばす。

 敵があの機体の情報だけ大事に大事に隠していた理由がいまわかった。

 あれだけの威力を持つモビルスーツを奪取されるわけにはいかない、と大事にその存在を隠していたのだろう。

 

「やられたぜっ……!」

 

 敵艦の左舷から複数のミサイルが射出される。

 

「回避しろっ!!」

 

 船体下部の七五ミリ対空自動バルカン砲塔システム“イーゲルシュテルン”が、襲いかかるミサイルを迎撃し、撃ち落とす。弾幕を掻い潜った最後のミサイルが付近でかろじて撃破され、艦が爆発のあおりを食らう。

 

「撤収するぞ、バズ!」

 

 その言葉を待っていたとばかりにバズは操舵手に命じる。

 

「回頭、機関最大!」

 

 第二波までにわずかな間があった。敵艦は自軍のモビルスーツを収容しようと近づいている。主砲を発射し、さらにミサイルを放つ。

 

「敵艦なおも接近! ブルーゼロ、距離一一〇!」

 

 オペレーターの報告に、二人はモニターに目をやる。

 

「かなり足の速い艦です。厄介ですぞ」

 

 バズの苦い言葉にかぶせて、オペレーターが叫ぶ。

 

「ミサイル接近!」

 

「取り舵! かわせ!」

 

 後部“イーゲルシュテルン”が艦尾に食らいつこうとするミサイルを片端から叩き落す。近接の爆発に突き上げられるように船体が揺れるなか、レンが荒っぽい口調で怒鳴った。

 

「両舷の推進予備タンクを分離後爆破させろ! アームごとでいい! 鼻っ面に食らわせてやれ!!」

 

 バズは唖然として上官の少年を見上げる。自分には思いつかなかった戦術だ。

 彼はいつもの不機嫌そうな物腰からは想像もつかない、明晰な声で命じた。

 

「ーー同時に上げ舵三五、取り舵一〇、機関最大!!」

 

 

 

 

「このまま一気に“ボギーワン”を叩く!! 進路イエローアルファ!」

 

 アーサーの号令に応え、主砲“トリスタン”を放ちながら“ユーピテル”は前進する。

 前方には紅色の戦艦が船尾を見せている。敵艦もかなりの高速艦のようだが、こちらの俊足には敵うまい。このまま例の三機を抱えたまま逃すわけにはいかない。

 焦りを覚えながら見つめるモニターの中で、“ボギーワン”の両舷から突き出していた構造物が揺らりと揺らぎ、本体から切り離される。

 

「“ボギーワン”、船体の一部を分離!」

 

 逃げるために重量を減らしたのかーー?最初はその考えが浮かんだ。二基の構造物は慣性のまま、こちらの進路へ漂ってくる。突き出した支柱の先端に噴射口のようなものを備え、基部近くでタンクが支柱を取り囲んでいる。この戦術はーー。

 

「!!」

 

 アーサーは構造物の正体に気づき、かつて同じ戦術でやられた事を思い出した。

 鋭い声で叫ぶ。

 

「撃ち方待てっ!! 面舵十! 機関最大っ!!」

 

 操舵士のベル・リーリングがその命令に従って舵を切る。が、遅かった。艦の目前に迫っていた構造物のタンクは、次の瞬間膨れ上がり、炸裂する。

 視界がホワイトアウトする。至近距離でおこった爆発が目を灼き、艦は乱気流にのまれたように揺さぶられた。

 

「きゃああああ!!!」

 

 エリーのかん高い悲鳴が響く。アーサーはシートのアームをつかんで衝撃に耐え、唇を噛みしめる。

 

ーーやられた!

 

 敵が分離したのは予備の推進装置だ。タンクの中には推進剤がたっぷりと詰まっていたのだろう。そんなものを機雷よろしくこちらに叩きつけてきたのだ。

 かつて同じ戦術で逃げられた覚えがあったアーサーは歯噛みする。

 

 グラディス艦長に知られたらなんと言われたものか。

 

 

 

 着艦してなおも、格納庫にて自機の整備が終わるのを今か今かとチヅルは待っていた。ヒロキがアレを使ったと聞いた。今の彼はエネルギーが底をついた状態で宇宙空間を彷徨っている。一刻も早く助け出したいのだが、どうやらアスカ隊長は敵艦の撃墜を優先したらしい。

 ならば、早く機体の調整を終え自分が救出に向かうしかない。

 だが、整備担当が走り回るも中々整備は終わらない。

 全身の神経がピリピリと逆立っている。

 

ーーヒロキ、無事でいてくれ。お前がいなくなったら……私は……

 

 考えていたとき、艦を激しい衝撃が襲った。

 

「なんだっ!?」

 

「ーー被弾した!?」

 

 衝撃でさまざまな器具が散らばり、無重力の空中を舞う。技術スタッフが次々に声を上げる。

 

「ブリッジ! なにがあった!?」

 

 すかさずチヅルがインターフォンをつかみ、問いただすが、通信が不能になっていたらしく、受話器を投げ捨ててブリッジの方へ向かった。

 

「くそったれええええ!!!」

 

 

 

 

「各ステーションっ! 状況を報告せよ!」

 

 アーサーが通信機に怒鳴り、シンは索敵担当に問う。

 

「敵艦の位置はっ!?」

 

「待ってくださいーーまだ!」

 

 爆発の影響で変調したモニターを前に、懸命にモニターを調整している。その結果を待たず、アーサーは指示を出した。

 

「近接防御火器システム起動、アンチビーム爆雷発射! 次は撃って来るぞ!!」

 

 幾度も共にこの艦で死線を潜り抜けてきたエリーは毅然としている。

 

「ーーー見つけました! レッド八八マーク六チャーリー! 距離五〇〇!」

 

 その座標の意味するところを悟り、アーサーが唖然として叫んだ。

 

「逃げたか!?」

 

 ざわめきの走るブリッジに、そのときチヅル・シライシが入ってきた。状況を確認しようと来たのだろう。

 

「隊長!」

 

 アーサーは忌々しげにため息をつき、シートにもたれかかった。

 

「やってくれる……まさかあの手を使われるとは……すいません、隊長……」

 

「手強い奴らだな……アーサーさんは、よくやってくれましたよ。あなたが回避を命じなければ艦は被弾していただろうし。」

 

 シンがそう告げて、アーサーは少し照れながら答える。

 

「しかし、ならばなおのこと逃すわけにはいかないですな……」

 

「あぁ。逃すつもりもないさ。」

 

 長くデスティニープランを推し進めるのが主となっていたことと、戦争が十年間起きていないことも手伝い、爆発的進化を遂げたC.E.70年代のモビルスーツ開発はその鳴りを潜め、長くゆっくりとした進化を遂げてきた。そのため十年経ったいまもあまりモビルスーツの性能が上がったとは言えない。それほどに軍事面には時間が割かれてこなかった。だが、デスティニープランが落ち着いてきた今となっては圧倒的な軍事力が必要となってきた。それを想定して開発されたのが“フォースステージシリーズ”だった。一騎当千の性能を持って反抗勢力を一掃する。逆らう気すら無くしてしまうほどに。それがコンセプトで作られた四機はいずれも一騎当千の性能を持っている。

だからこそ、そのうちの三機が奪われ、敵方に渡ることによって引き起こされるのはただの情報漏洩ではない。下手をすれば全世界を危険に晒す事となるのだ。

 

 シンはその危険性をよく理解していた。

 

「隊長! ヒロキを!」

 

 考え事をしていたシンをチヅルが背後で叫び、シンは柔和な笑みでチヅルに告げた。

 

「わかってるよ。“フォルテ”を回収後、“ボギーワン”の追跡戦を開始するぞ! 」

 

 シンが号令すると、水をうったようにブリッジの空気が動き出した。

 アーサーが艦内アナウンスを開始する。その顔にはありありと、とんでもないことになったーーという表情があった。

 

「突然の状況から思いもかけぬ任務になったが、これは非常に重要な任務である。各員、日頃の成果を存分に発揮できるよう、つとめよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 呆然と、ただ流されるがままに“ユーピテル”からの帰艦指示を待っていたヒロキは眼前に流される自身が破壊した機体の残骸を苦い表情で見つめていた。

 

ーーー負けた。

と思った。目の前で何人もの仲間がやられたというのに、敵に機体を奪われるがまま、なにひとつ取り返す事も出来ず、そのうえドラグーンを備えていたとはいえ、純白のガンダムにーー手も足も出なかったのだ。

 

「俺は……!」

 

 なんのために戦う力を身につけたのだろうか。

 なんのために、戦う道を選んだのだろうか。

 

「俺は……!!!」

 

 自分しかいないコックピットの中で吐き捨てるように言葉が漏れる。

 

「母さん……シズ姉……父さん……俺は……!!」

 

 自身の黒腕を握り締めながら、ヒロキは声を上げて涙を流した。

 

 

 

 

 

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