AnotherSEED   作:another12

37 / 79
凪の日

 

 

 

ーーーフェリクス島 “RAVEN”地球本部

 

 

 

 バーバラの目の前で執務室のドアが開いた。

 大きな机と椅子に腰掛け秘書官と言葉を交わしていたゲイブ・R・モリソン総帥がこちらに目をやり、バーバラの顔を認めると、ニカっと笑みを見せた。

 

「悪いね、バーバラちゃん。急に呼び出して。」

 

「総帥こそ、遠路はるばるお越しいただいたようで。」

 

 フェリクス島で“アテナ”と他の機体の整備をしていたバーバラ達の元に、“RAVEN”総帥ゲイブ・R・モリソンが地球本部に来訪したという知らせがあり、バーバラはゲイブに呼び出され執務室を訪れたのだ。

 

「オーブでの任務。ご苦労だったね。」

 

 白い肌、美しい銀髪、見るものを惹き込む鋭い目つきを持つ中年の男、ゲイブはバーバラにたくわえた自身の口髭をひとつまみながら告げる。

 

「いえ、最終的に敵に“スパイラル”を晒すという決断を迫られてしまったので…」

 

 と気落としがちにバーバラが言うが、ゲイブはニカっと笑ったまま返す。

 

「何を言うかね。君たちの活躍で、対象を奪われる前に確保出来た。それだけで充分だ。」

 

 確かに、任務には成功した。

だ が、様々な疑念がどうしてもバーバラには残っていた。

 

「総帥、私を呼び出した理由は…」

 

 バーバラが苦いものを含んだ口調で尋ねる。

 

「あぁ。実はな昨日“コペルニクス”で“ZEUS”が開発し、ロールアウト寸前だった新型三機が奪取された。」

 

「な!?」

 

バーバラが目を見開く。

噂にはバーバラも聞いていた。“コペルニクス”で秘密裏に開発が進められていた“フォースステージシリーズ”の新型三機の存在を。それの詳しい詳細は“RAVEN”である自分達には入って来てはいなかったが。

 

「うむ。シン・アスカ准将の部隊が交戦に入ったが逃げられたらしい。コペルニクスも外壁を破られる等被害も大きい。上官の何人かは責任を追及されるだろう。」

 

「民間人にも被害が及んだって事ですか…」

 

 呆然と尋ね返す。

 

「幸い、民間人には被害は出ていない。ただ有害ガスが出たために今も民間人は避難所暮らしらしい。だが問題はそこではない。」

 

 ゲイブが「これを見てくれ」と隣に立っていた秘書官ーーレハス・キャロルに促し、レハスがバーバラにパット型の情報端末を手渡す。

 

「これは…?」

 

そこには宇宙空間で戦闘をしている漆黒のガンダムと、純白のガンダムが映っていた。

 

「黒い方は“ZEUS”が隠してた新型の一機だ。やつらめ、かなり丁重にこの機体の情報だけ漏れないように隠していたらしい。」

 

 悔しげにゲイブが呟く。

 ごみ捨て場でもある“RAVEN”にそんなに大事に隠していたモビルスーツの情報が回ってくるとはとても思えないのだが。

 

「それよりも、だ。問題はその白いガンダムだ。」

 

 確かに、このタイプのガンダムは見た事がない。

“ZEUS”が開発を進めていた新型三機ともディテールが違う気がする。

 

「その機体だけが謎でな。ーーー新型三機を奪取した連中とは別の連中の可能性が非常に高い。」

 

「新型三機を守るように交戦しているのを見ると、同じ連中ではないのですか?」

 

 と、当然の疑問をゲイブにぶつける。

 しかし、ゲイブは神妙な面持ちで返す。

 

「その白いガンダムは新型三機を奪取した艦には戻らず、違う方向へ飛び去ったという。俺には、その白いガンダムは黒いガンダムを破壊しようとしている風に見えたんだがな。」

 

 確かに、新型三機を奪取した連中がもう一機の新型を破壊しようとするとは思えない。むしろ、どうにかして持ち帰る算段を自分が指揮官なら考えるだろう。

 

「つまり、第三勢力ーー?」

 

 バーバラが確かめるように聞き、ゲイブはゆっくりと頷いた。

 

「あぁ。兼ねてより動きを見せていたレジスタンスの可能性が高い。いわゆるーークライン派というわけだ。」

 

 ピクリ。とバーバラが反応する。

 一瞬、ゲイブの目がバーバラを凝視した気がした。

 総帥はゆっくりと続きを話す。

 

「“ZEUS”の連中は、この白いガンダムは“RAVEN”のもので、新型三機を奪取した連中の手引きを“RAVEN”がしたのではないか、と疑っているわけだ。全く忌々しい。」

 

 吐き捨てるようにゲイブが言う。

 自分達は世界から捨てられた者達の集まりだ。その扱いもプラントの軍属ではあるものの、最下級でもある。

 つまり、何かしらの事件が起きれば疑われるのは当たり前ともいえる。

 

「当日コペルニクスに居た“RAVEN”隊員を尋問させるように言ってきてな。」

 

 ぞわり。とティアの背筋を嫌なものが伝った。

 “ZEUS”が自分達に対して人道的な尋問などするものか。人権など介在しない非合法な手で尋問を行われる。尋問により肉体的にも精神的にも痛めつけられ、死んでいった隊員も少なくはない。

 

「…それで“コペルニクス”には…?」

 

 バーバラが愕然とゲイブに聞く。

 しかし、ゲイブから帰って来た答えはバーバラを安堵させるものだった。

 

「幸いにもその日に“コペルニクス”で任務についていた隊員はおらんかった。不幸中の幸い。とでも言うべきだな。」

 

 その言葉に、バーバラはホッと胸を撫で下ろす。

 しかし、ゲイブは挑戦的ともいえる口調でバーバラに告げる。

 

「しかし、安心もしてられん。“ZEUS”の奴らは我々を疑っている。この白いガンダムを見つけ次第破壊、排除するよう指令が下った。」

 

つまり、上層部の連中は自分達の軍の討ち漏らしを“RAVEN”に始末しろと言ってきたのだ。全く良いように使われるものだ。

 

「それが今後の任務ーーですか?」

 

呆れて返すバーバラにゲイブはニカっと笑みを浮かべて答えた。

 

「表向きはな。」

 

「表向き?」

 

 嫌な予感がした。ゲイブがこういった笑みを浮かべるときは大抵無茶な任務を押し付けてくる。下手をすれば上層部よりもタチが悪い。

 

「“アテナ”隊には、ある国へ行ってもらおうと思ってる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 “アテナ”の医務室を、ユウイチは訪れていた。

 そして、訪れた事を後悔した。

 

「……なにやっているんだ。」

 

「よう! ユウイチ、これ外してくれ!」

 

 ベットにグルグルと巻き付けられ、身動きの取れないようにされているゼル・ウィガーと、呆れたように隣のベットに腰掛けそれを眺めるレベッカ・ゲートの姿だ。

 

「……なにやっているんだ。」

 

「二回も聞くな!! 見たらわかるだろう!」

 

 分からないから聞いているんだが。

 呆れかえり、ユウイチはため息をひとつついた。すると、隣で同じように呆れていたレベッカが答えた。

 

「この馬鹿が何度も脱走しようとするから、縛り付けられたのよ。ヘレンに。」

 

「だって暇なんだよ!! 酒をくれ! 酒を!」

 

 ガキか。こいつは。

 すると奥から同じように呆れた顔でタバコを吹かせた白衣姿の女性が現れた。

 

「死にかけの怪我したんだから。ちっとは大人しくしてな、ウィガー。」

 

 ヘレン・ピエール・ロスタン。この艦専属の医師だ。

 腕はいいのだが、いかんせんかなりの愛煙家でタバコ嫌いなハルバート大尉なんかはここに近づこうともしない。

 

「もう治った!!!」

 

「そんな簡単に治ったら医者はいらないよ。」

 

 ヘレンがタバコを口に含み、椅子に腰掛け灰を灰皿に落としながらゼルに告げる。

 ゼルはなおも不満気に叫ぶ。

 

「酒を! 酒をよこせえええ!」

 

「あんまりうるさいと、傷口にエタノール被せるよ」

 

 ヘレンの冷徹な言葉に、ゼルがひっと悲鳴を上げた。

 それぐらいコイツにしてもいいのではないだろうか。

 

「レベッカも、しばらくは任務から外される覚悟しときな。」

 

「わ、私は大丈夫よ! ちょっと手の平に穴開いただけだし!」

 

 そう言って包帯でグルグル巻きにされている右手を見せつける。

 しかし、ヘレンは冷めた目付きのまま

 

「その穴、広げたくなかったら静かにしてな。」

 

「……はい。」

 

 医者には勝てないな。とユウイチは内心呟く。

 

「ユウイチ、あんたもコイツらで手一杯だから見逃してやってるんだからね。」

 

「恩にきる。ゼル、レベッカ」

 

「「お前を殺したい!!」」

 

 何故だ。

 ユウイチが哀れみを込めた目で二人を見ているときだった。

 

「ユウイチーーーっ!!!」

 

 医務室に響く叫び声と共にユウイチの頭にズシリと強烈な衝撃が走った。

 

「久しぶりっ!!」

 

 頭の上に平らな胸を乗せて嬉しげに声をかけるのはヒナだ。

 どうやらあれ以降スッカリ元気になり、何故か自分に懐いている。というかつけまわされている。

 

「重い。降りろ……」

 

「えー」

 

 とごねるヒナを無理矢理引き剥がす。

 そしてそのヒナの姿を見て、ユウイチを疑問が包んだ。

 

「……なんで制服なんだ?」

 

 “RAVEN”で保護する為に仮配属とはいえ、隊員用の蒼い制服が支給されたはずだ。

 しかし、ヒナの姿はオーブで見たときのセーラー服姿のままだ。

 

「えー、だってーあれ、動きにくいし、暑いし。」

 

 いかにも今時の女子が言いそうな文句である。

 

「しかし、アレは隊員である証みたいなものだ。着ていなければただの迷子と勘違いされるぞ?」

 

「大丈夫! ユウイチが着なくていいって言ってたって言っといたから!」

 

 何て事をしてくれるんだろうか、このガキは。

 そんな事が規律、規律といつもうるさいクリス副長に知られれば制服の必要性を説かれかねないではないか。

 

「ヒナ、頼む軍服を着てくれ。俺の為にも」

 

「んー、気が向いたらね?」

 

 ダメだ、これは。

 ユウイチがいかにしてヒナに制服を着せたものか考えていると、またもや医務室に誰かが入ってきた。

 

「あ、ユウイチ居た居た。」

 

 入り口を見れば、リナ・ハマチが自身の名を呼んでいた。

 

「全く今日は来客が多い日だ。ただでさえウィガーとゲートで賑やかだってのに。」

 

「そう思うなら解放してくれよぉー」

 

 ゼルの抗議の声すら無視してヘレンは新しいタバコに火を点けている。

 リナはゆったりとユウイチに近づいて来て声をかける。

 

「ハルバート大尉が呼んでるわ。任務よ。」

 

 リナに告げられ、ユウイチはこくりと頷いて見せる。

 

「俺たちは呼んでなかったー?」

 

 ゼルがベットに縛り付けられたまま尋ねる。

 その状態で行くというのか。

 

「あー、ゼルとレベッカも探してたわよ。」

 

 ゼルとレベッカの二人がおお!と嬉しげに声を上げる。

 しかし、リナはにっこりと笑い

 

「オーブでの任務態度について話しがあるみたいよ?」

 

 地獄への招待状を告げた。

 

「リ、リナちゃん……助けて……」

 

「私……あんな長い説教聞いてられない……死んじゃう……」

 

 二人が涙ながらに訴えかける。

 馬鹿である。全くもって馬鹿である。

 

「まぁ、レッキス大尉はタバコ嫌いだしずっと医務室で寝てれば大丈夫かもね〜?」

 

と、ヘレンが悪魔の笑みを浮かべて告げる。

 

「苦渋の選択だっ!!!」

 

 一生やってろ。とユウイチはぎゃあぎゃあ喚く二人と、それをニヤニヤと見つめるヒナとヘレンを置いてリナに続いて医務室を後にした。

 

 

ーーしかし、オーブの任務からあまり時間が経過していないというのにまた任務とは……

 

なにか先日から感じる変な胸騒ぎを覚えながらも、ユウイチはリナに続いてハルバートが待っているであろう戦隊長室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。