王族用のヘリポートに、一機のヘリが止まった。
中から神妙な面持ちをした美しい女性が黒いスーツ姿のボディーガードに付き添われ降りてくる。腰まである長く深い海のような藍色の髪を風にたなびかせ、翡翠色の瞳は伏せ目がちだ。どこか薄幸の美女をイメージさせる彼女の佇まいは、見るものの目を惹く。
ユーフェミア・ラ・ルレッツァ。
スカンジナビア王国の第一皇女。この国の先頭に立つ女性だ。
ツカツカとおぼつかない足取りでヒールを鳴らして歩く彼女を待っていた男が近寄り声をかける。
「ユーフェミア、おかえり。」
「ザンザス…ただいま。」
ザンザス、と呼ばれた青年は若干20歳ながらこの国の防衛隊の隊長を務める男性だ。
そんな彼の隣に立っていた綺麗に揃えられた前髪に、同じように綺麗に揃えられた黒髪の毛先に、薄い青空のような瞳を持つ女性ーーカレン・エマ防衛副隊長がユーフェミアに心配げに声をかける。
「大丈夫? すごく疲れた顔してるよ?」
ユーフェミアの顔色を伺うカレンに向け、ユーフェミアは精一杯の笑顔を向ける。
「ありがとう、私は大丈夫です。こんなところでへこたれるわけにいいませんから。」
「今回も、ダメだったのか?」
ザンザスが尋ねる。
今回も、と言われユーフェミアは沈んでいた気持ちをさらに沈めさせた。
そう。今回もダメだったのだ。
スカンジナビア王国。C.E.と呼ばれる現在でも王制を敷いている珍しい国だ。
そして、オーブ、赤道連合、汎ムスリム会議と同じく連合・プラントに属さない中立国として存在してきた。その世界における役割や存在は大きく、C.E.72年には地球連合加盟国のなるが、停戦後に中立を再び宣言。コーディネイター・ナチュラル間の戦争の停戦後にユニウスセブンで交わされた停戦条約、ユニウス条約の締結においては主導的役割を果たした。
C.E.74年における戦争において再び地球連合加盟国となるが、それは世界の目を欺くためのカモフラージュであり、“アークエンジェル”とそのクルーを匿っていた。
が、しかしギルバート・デュランダル議長が提唱したデスティニープランに対して世界で一番最初に反抗の姿勢を見せたのを切っ掛けに、ザフト軍とそれに賛同する各国の連合軍の総攻撃により壊滅的打撃を受けてしまった。多くの国民の犠牲者と国の主導者達、最愛の国土を焼かれ、スカンジナビア王国は戦前の世界における影響力は崩壊。一点してデスティニープランに反対した敗戦国として扱われるようになってしまった。その後数年間に渡り王制は衰退の一途を辿り、C.E.80年に第一皇女だったユーフェミア・ラ・ルレッツァをプラント側が皇女に指名。彼女がまだ20歳の時に、衰退の一途を辿るこの国の長を命ぜられたのだ。
「……畜生が住む国に、支援する物資等ない。って言い切られてしまったわ。」
「くそ…! 同じ地球に生きる人間だろう!」
やりきれない思いをザンザスが吐き出した。
彼の心情も無理はない。敗戦国となり、デスティニープランの施工率も世界最低レベル。それに加えて国民の幸福指数も世界最低。国民達は食糧難による飢餓や流行病、国内で幅を利かせているテロリスト達により常に危機と隣り合わせだ。
今となっては世界で一番危険な国。とまで呼ばれる始末だ。そんな絶望的状況を覆そうとユーフェミアやザンザスら若い力は手を尽くしてきた。しかし、世界のスカンジナビア王国に対する目は冷ややかなままだ。
「辛うじて、オーブのカミラ代表は食糧の提供をしてくれると手配してくれたわ……」
「いつもいつもオーブには迷惑をかけてしまうわね……。」
カレンが伏せ目がちに呟いた。しかし、カレンの言葉にザンザスは皮肉たっぷりの口調で答える。
「あの国だって敗戦国だ。ただ、世界に対してヘコヘコと頭を下げ続けている理想やプライドも無くしてしまった国だ。国民は世界で一番幸せだと高らかに自負し、国を焼かれた事は忘れてはならないと吐きながら、世界に兵器を分け与える。知っているだろ⁉︎ アイツらは国にとって不必要な人間を、壁の外に追いやる事で始末した! そんな国の手を借りなきゃならないなんてな…!」
かつては同じ中立国として競い合っていた両国もいまでは貧富の差が激しくなってしまった。敗戦国となり、プラントの監視下に置かれてもなおスカンジナビア王国はその意思を曲げなかった。ZEUSの基地を作る事を許さず、ZEUSの兵を置く事を許さず、自分達で何とかしようと頑張ってきた。しかし、それは“アメノミハシラ”からのエネルギー供給を受けないという事になる。北欧の辺境にあるスカンジナビア王国がニュートロンジャマーの影響による電力問題を解決する術をもたないという事だ。
「それも、限界なのかもしれませんね……」
ユーフェミアが寂しげに呟く。
情勢は厳しくなる一方だ。世界が一つに纏まろうとしている今、スカンジナビア王国という異質は邪魔者でしかない。国民の幸せを考えるならば自分達の理念など捨ててしまうべきなのではないだろうか?
王宮内をザンザスらと歩きながら、ユーフェミアは暗澹たる気持ちになる。そして、突如として王宮内をけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「っ! 敵襲!?」
ザンザスが馬鹿な、と叫ぶ。
平和になった今、一体どこの馬鹿が一国に対して攻め立てて来るというのか。
「隊長!!」
防衛隊のメンバーが息を切らせて走って来るなり、ザンザスに息を整える間もないまま状況を報告する。
「謎のMS部隊が、王宮目指して進軍中です! 海から大量に来ます!」
「所属は! 反抗勢力か!?」
ザンザスが矢継ぎ早に問いかける。
しかし、部下の答えは曖昧なものだった。
「わかりません…! MSの識別信号も機体も、バラバラで…!」
「ザンザス! とりあえず行かなきゃ!」
カレンが厳しい口調で促す。
そうだ。こんな所で敵の正体を考えている場合ではない。
「あぁ! 管制塔の奴に敵に向かって停止するように呼び掛け続けるように伝えろ! ユーフェミアはシェルターへ!!」
「了解です!」
と、返事するなり防衛隊のメンバーが走り去る。
ユーフェミアはボディーガードに促され、シェルターへと連れて行かれる。
「ザンザス……!」
カレンと走り出そうとするザンザスの背に、ユーフェミアが声を投げた。
ザンザスが振り返ると、ユーフェミアは不安げな眼差しでザンザスとカレンを見つめ
「ご無事で…!」
「あぁ。」
「任せて! 国は焼かせたりしないから!!」
防衛隊の二人が意気揚々と返事をし、走り去って行く。
なんだろうか。この胸をざわつかせる嫌な胸騒ぎは。
ーーどうか、どうか、皆さんご無事で…!
ユーフェミアはボディーガードに連れられながら、出撃していく防衛隊の無事を願うしかなかった。
パイロットスーツに着替え、ようやく出撃したザンザスの耳に届いたのは絶望的な状況だった。
『隊長、第一防衛ラインは突破されました! 管制塔の連中も呼び掛け続けていましたが、管制塔ごと撃たれました!』
黒いカラーリングを施された“ウィンダムⅡ”を駆っていたザンザスに、隊員からの報告が入る。
「遅れたか……!」
『敵は海から大挙してやってきます…! 母艦の姿は確認されず、一体どうやって攻めて来たのかも見当が…!』
海から来たというのに付近に母艦の姿を確認出来ないだと?
敵ははるばる海を渡って来たとでもいうのか? そんな非効率的な事をするとは思えない。
『防衛隊の戦況は!?』
隣を飛んでいた青いカラーリング仕様の“ウィンダムⅡ”を駆っているカレンが叫ぶ。
『圧されています…! すでに第一防衛ラインは壊滅し、ベル少尉達がなんとか持ちこたえてはいますが、このままでは第二防衛ラインも突破されます!』
「ベルが!?」
洗練された防衛隊のメンバーでも、指折りの実力を持つメンバーのベルが圧されている敵とは一体何者だというのか。第二防衛ラインを越えられれば、王宮前に広がる街がある。そこまで行かれてしまうと人も街も焼かれてしまう。それだけは避けなければならない!
ザンザスとカレンはフットペダルを踏み込み、戦場へと機体を急がせた。
「なんだってんだ! コイツらはよぉ!」
ベル・リグレッドが機体を駆りながら叫ぶ。
一機の“ジン”がマシンガンを連射しながら、ベルに向かってくる。
ベルは機体を素早く動かし、マシンガンの雨から逃れるとビームライフルをお返しとばかりに放つ。しかし、その反撃の一射をいとも簡単に敵の“ジン”はかわして見せた。
「くっ! パイロットもだが、機体性能がおかしい!」
もはや十年以上前に活躍したザフトの主力量産型MS“ジン”。今では“ザク”にその存在を奪われてしまった旧世代の機体が、この“ウィンダムⅡ”よりも早いだなんて事があるはずがない。
ようやく、ベルのビームサーベルが背後から迫る“ディン”の機体を貫いた。
「なんて数だ!」
周囲を見渡せば、絶望的な状況が広がっていた。
防衛隊のメンバーが必死に戦ってはいるものの、“ジン”や“ストライクダガー”、“ディン”、“ゾノ”等の旧世代のMS達に圧倒されている。
また一機、防衛隊のメンバーの“ウィンダムⅡ”が腹部を“ゾノ”の腕部クローで貫かれて散った。“ウィンダムⅡ”を貫いた“ゾノ”の背後から別の防衛隊の“ウィンダムⅡ”が切り掛かり、サーベルで右腕を切り落とす。
突然の襲撃に大きく仰け反りなから地を転がり態勢を立て直し反撃しようとした“ゾノ”の背後から別の“ウィンダムⅡ”のライフルが貫き、爆散した。
なんとか耐えてはいる。だが、こんな消耗戦を続けていては被害が広がるだけだ。
ベルの背後から“ディン”が対空散弾銃を放ちながら迫る。
ベルはシールドを掲げ、その散弾銃から距離を取った。そこに、“ディン”の6連装多目的ランチャーから放たれたミサイルが迫る。シールドに全てのミサイルが衝突し、ベルの機体を大きく揺さぶった。
「こんの……!」
ベルは爆煙が晴れる前にシールドを掲げ、右手にサーベルを握りしめて“ディン”に肉薄した。素早くコックピットにサーベルを突き立て、空中から蹴り落とす。
落下していく敵機を見送りながら息を切らせていたベルの耳に聞きなれた声が響いた。
『警戒を緩めるな! なんとしても持ちこたえるぞ!!』
「ザンザス!!」
王宮方面から猛スピードで迫る黒と青の“ウィンダムⅡ”が二機。待ちわびていた防衛隊の隊長と副隊長の来援だ。
あちこちから眼下に煙と火が上がり、散らばる部下達のMSの残がいを確認しながらザンザスは鋭く敵機を睨みつける。背中のビームサーベルを抜き放ち、素早く手近の“ストライクダガー”に迫るとあっという間にその機体のコックピットを貫き、爆発する前に次の目標へとロックオンする。
カレンの青い“ウィンダムⅡ”が到底他のメンバーには出来ない動きで鮮やかにザンザスに向けて放たれる砲撃をかわし、空中で逆さを向きながら肩に備えられたレールガンを連続で放つ。放たれたレールガンは確実に敵機を貫き、爆散していく。
「まさかここまで押さえ込まれるとは…!」
『コイツら…旧世代の機体だよ!』
ザンザスが憎々しげに吐き捨て、カレンが答える。
どれもこれも今となっては珍しい機体ばかりだ。生産もストップしている機体をどうやってこれだけ集めたというのか。それにーー
また一機の“ゾノ”を真っ二つに切り裂きながらザンザスはその違和感に気づく。
「切った感触が、違う…」
旧世代の機体の手応えではない。
自分の勘違いかもしれないが、敵機の機体性能から鑑みればザンザスの予感は当たっている気がした。
『ザンザスとカレンちゃんに遅れを取るなよ! 俺らも続くぞ!!』
ベルの威勢良い声が聞こえ、圧されていた防衛隊の士気が上がるのを感じる。
各メンバーがその勢いを取り戻している。
上空を旋回していたザンザスに向け、エールストライカーを装備した“ストライクダガー”と特化重粒子砲を手にした“ジン”の群れが向かって来た。
どうやら、隊長機である自身を狙って来たらしい。
『きたわよ…!』
「わかってる!」
短く返事をし、レールガンを放ちながら突貫する。敵機はザンザスのレールガンを上手くかわすと、“ジン”が手にした特化重粒子砲を放った。
放たれた緑色のビームがザンザスの先ほどまでいた空間を穿ち、背後の防衛基地を灼いた。このままでは被害が広がるだけと判断したザンザスはカレンに指示を飛ばす。
「重粒子砲を装備したジンを狙え! いちいち建物を壊されてはたまったもんじゃない! 」
『了解!!』
カレン機が手慣れた操縦桿捌きで“ジン”の重粒子砲をかいくぐり、すれ違いざまにその腕を切り捨てる。“ジン”を通り過ぎたその直線上で素早く旋回し、レールガンで背後からトドメを刺す。ザンザスもカレンに続き、“ジン”へと迫った。それをさせまいと“ストライクダガー”がビームサーベルで切り掛かり、ザンザスの“ウィンダムⅡ”と鍔迫り合う。そこに向けて、“ジン”が重粒子砲を放ちザンザスはすかさず離れた。
「こいつ! 味方ごと!!」
隊長機を落とすなら味方ごとも厭わないという事か。
その覚悟は認めよう。だが。
「相手が悪かったな…!」
ザンザスは両腰に装備されたスティレット投擲墳進対装甲貫入弾を“ストライクダガー”に向けて投擲した。すかさずシールドを掲げた“ストライクダガー”のシールドに突き刺さり、そのままシールドごと爆発する。シールドを失い、大きく仰け反った“ストライクダガー”に接近し容易く切り捨てる。と同時に急旋回して“ジン”に向けてレールガンを4連射し、そのうちの2発が“ジン”の右腕と腹部を穿った。
空中で態勢を整え、辺りを見渡せばあらかたの敵機は片付こうとしていた。
「かなり片付いたな。」
『えぇ。なんとかここで抑えられそ『隊長っ!!』
と、ザンザスに返すカレンの言葉を遮り切迫した声で通信担当が割り込んで来た。
ザンザスは目をしかめ、通信担当に聞き返す。
「どうした?」
『援軍がさらに海から…! 物凄い数です!』
「っ!!」
ーー後詰めの部隊が控えていたとは!
ザンザスは歯噛みする。これで終わりではないらしい。
他のメンバーも通信担当の報告を聞いていたらしく、絶望的になっている。
初期対応していた防衛隊メンバーの機体のエネルギー残量も少ないだろう。武装も消耗している。この疲弊した状況で、相応の数を相手にするのは絶望的ともいえるだろう。
『ザンザス、まずいわ…! この疲弊したままだと!』
カレンが切り掛かる“ストライクダガー”を切り捨てながら叫ぶ。
『第二防衛ラインを越えられちゃう…スカンジナビア王国が、街が撃たれる!! 』
分かっている。
ここは絶対防衛ラインだ。これより先に進軍させてはならない。
また、また十年前の悲劇をーーー人が、国が、街が焼かれてしまうーー!!
大切な人達を、愛すべき家族達も失う事になる。それだけは、それだけは避けなければならない。
だが、このまま戦い続ければ防衛隊メンバーは甚大な被害を被るだろう。
「ーーー各員、覚悟を決めろ…」
心を悲しみと憤りでいっぱいにさせながら、ザンザスが各メンバーに通信する。
自分達は防衛隊。この国をその身を懸けても守らなければならない。
「国を焼かせてはならないーーなんとしても、ここで食い止めろ!!」
この絶望的状況でそれは死ね。の言っているに等しい。
しかし、身を守る術を持たぬ人々を死なせるわけにはいかない。ここで、なんとしても食い止めなければならない。
『了解です!』
自分のそんな無茶苦茶な要求にも、隊員達は威勢良く答える。
ザンザスの胸を無力な悔しさが込み上げる。
ーーなんとしても、守りきる。
前方に広がる敵機の後詰めの群れを憎々しげに睨みつけ、ザンザスは機体の操縦桿を握りしめた。
その時だった。高速で回転する何かが、後詰めの先頭を進んでいた“ダガーL”を真っ二つに切り裂いた。
「ーーなんだ!?」
ザンザスが目を凝らし、状況を把握しようと見渡す。高速で回転し、敵機を切り裂いた何かは弧を描いてザンザスより上空へと舞い上がっている。
ーーー上っ!?
ザンザスがその武装の戻る先を見上げれば、そこには天高くに二振りのビームサイトを両手に構え、真紅の翼を持つMSが悠然と立っていた。
『“フリーダム”…?』
隣で同じように愕然としていたカレンが呟く。
音に聞く伝説の機体“フリーダム”がそこにはいた。
いや、よく目を懲らせば細部が異なっている。とても似通ったフォルムをしているが、教本に乗っている物ではない。なら、あれはなんだ?
天に立つ英雄の機体に酷似したMSは二振りのサーベルを手に、ヴォワチュール・リュミエールを転用した高出力スラスターを展開し、高速で敵機の後詰めに突っ込んだ。
あっという間に敵機の中に飛び込んだ“フリーダム”もどきは、圧倒的なスピードで敵を真っ二つにしていく。自分達が苦労していた相手をいとも簡単に切り捨てていく姿は、英雄シン・アスカが載っているのではないかと思わせるほどだった。
『ザンザス、まだ!』
カレンの声が響き、ザンザスはさらに上空を確認した。
すると、見慣れないフォルムの蒼いフォルムのMSが二機、上空から舞い降りた。
背中にエールストライカーを装備し、その細部はどこか自分達の駆る“ウィンダム”に似通っている。後から現れた二機も華麗な連携で後詰めに突っ込み、撃ち落としていく。
呆然とその光景を見ていたザンザスだったが、ハッとして我に返り指示を飛ばす。
あれがなんなのかは分からない。だが、敵機と戦っているなら信じるしかない。
「ーーー俺たちも続くぞ!」
それからはあっという間だった。
ものの数分で介入してきた三機のMSの目にも止まらぬ機体捌きに翻弄され、敵の後詰めは壊滅していた。
レーダーを確認しても、それ以上の援軍は無いようだ。
『…なんとか、なったわね…』
ホッとカレンが胸をなでおろす声が聞こえ、ザンザスは安堵の笑みを浮かべる。
あの謎のMS三機が介入してから、自分達の部隊に被害はない。
フリーダムもどきは勿論のこと、他の二機も被弾した様子もない。それだけで、自分やカレン、いやそれ以上の手練れだと言う事がうかがえる。
一体何者だ?
ザンザスが謎の三機を訝しんでいると、先に空中を浮遊していた向こうが動きを見せた。
『コチラはZEUS軍所属、独立機動部隊ーー“RAVEN”です。』
全周波数に向けて通信機から凜とした女性の声が聞こえ、ザンザスは耳を疑った。
RAVEN、聞いた事はある。
ZEUSが裏の仕事を一任している部隊があるとこいう事。その存在は公にされていないが、世界から捨てられた優秀な人材で構成されているという。
まさか、そんな部隊が実在して今まさに自分達の援軍に駆けつけたというのか。
しかし、裏の仕事ばかり引き受ける部隊が何故この国に?
ザンザスは厄介な部隊に助けられたものだと頭を抱えた。
『我々に敵意はありません。指揮官の方はいらっしゃいますか?』
女性の声が響き、どうやらコチラと接触を計っているようだった。
ザンザスは少し逡巡した後、ポツポツと返事をした。
「スカンジナビア王国防衛隊隊長のザンザス・ローヴィルだ。援軍には感謝する。だが、ZEUSの所属部隊が何の用だ?」
世間にひた隠しにされている部隊がわざわざ接触を計ってきたのだ、何かしらの理由があるに違いない。
『ーーー私はRAVEN所属リナ・ハマチ少佐です。あなた方の国の皇女とお話しさせて頂きたく接触を取らせていただきました。』
「皇女と?」
ザンザスが猜疑の目を三機のMSに向ける。
何となく分かってはいたが、皇女との接触を望んできたか。
『ザンザス…』
秘匿回線で、カレンが心配げな声色で声を掛けてきた。
「心配するな。助けられて奴らを無下にも出来ん。」
窮地を救われたのは間違いない。そして、彼らの介入が無ければ自分達は全滅していた可能性すらある。
「その案件、了承した。ユーフェミア皇女にお目通り願おう。但し、一応コチラは武装した随員を付けさせて頂く。」
『お話しが早くて助かります。我々も機体の護衛に武装した隊員を待機させます。機体に触れようとした場合は覚悟して下さい。』
リナ・ハマチという女性も鋭い声色で答える。
互いに警戒を見せ探り合いをしつつも、ザンザスは三機のMSを王宮へと案内する事にした。わざわざこんな手の込んだ真似をして接触を計って来たのだ。それなりの要件があるに違いない。
世間から存在を隠し続けてきた部隊の突然の接触、そして謎の部隊の敵襲に、ザンザスの胸をもどかしさが苦しく迫るのを感じていた。