AnotherSEED   作:another12

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錯綜する交渉

錯綜する交渉

 

 

 

 “フリーダム”のコックピットから這い出てきたユウイチを待ち受けていたのは好奇の視線を向ける防衛隊の面々だった。機体から降り、ユウイチがヘルメットを外すのを周囲が息を呑んで見守る。

そして、その姿を見て全員が目を丸くした。

 

「な…!」

 

「?」

 

 その周囲の反応に、ユウイチは首を傾げた。

 どうやら防衛隊の面々が期待していたパイロットのイメージと相違があったらしい。

 

「君がこのガンダムのパイロットか?」

 

 ざんばら頭に黒髪の青年がユウイチに声を掛けてきた。

 

「あぁ。この機体ーー“スパイラル・フリーダム”のパイロット、ユウイチ・レオンハート少尉だ。」

 

 淡々と答えるユウイチに、黒髪の青年は少し意外そうな顔をした。

 そして困った笑みを浮かべながら答える。

 

「てっきり、先程通信していた女性が載っているものだと思っていたよ。」

 

 なるほど。見るからに隊長機らしき“スパイラル”に好奇の視線が向くのも仕方ない。なにしろあの伝説の機体にあまりにもこの機体は酷似している。そして、そのパイロットが女性かもしれないと思えば興味が湧くのも無理はないだろう。

 

「これは、これは、私がパイロットじゃなくて申し訳ないですね。」

 

 と、RD-X1から降りてきたリナが皮肉混じりに群衆に言葉を投げる。

 黒髪の青年は申し訳なさげに頭を下げる。

 

「いや、すまないな。ガンダムというだけあってつい好奇心が勝ってしまった。」

 

「構いません。それより、ご案内していただけますか?」

 

 気を悪くした様子もなく、リナが手短に青年に告げる。

 青年は顔を引き締め、ユウイチとリナを見つめる。

 

「先程通信機越しに挨拶しましたが、私が防衛隊隊長のザンザス・ローヴィルです。そして、コチラが」

 

 ザンザスが促し、隣に立っていたパイロットスーツ姿の女性が言葉を引き継いだ。

 

「カレン・エマです。防衛隊の副隊長を務めさせていただいております。」

 

 手短に自己紹介を終え、ザンザスは言葉を続けた。

 

「では、コチラにお一人だけ残っていただき残りのお二人は私に着いてきて下さい。くれぐれも、怪しい動きのないようにお願いします。」

 

 ピシャリとユウイチらに釘を刺しザンザスが告げる。

 やはり一筋縄で信用を得れる相手ではない。それが突然現れた“RAVEN”という公にされていない部隊なので無理もないが。

 

「じゃあ、ジェノス中尉。後をよろしくね。」

 

 もう一機のRD-X1から降りて来ていたジェノス・ハザード中尉にリナが告げる。

 

「了解だ。」

 

 本来ならば階級がユウイチよりも高いジェノスとリナが交渉に向かうのが常だが、ジェノスの優れた判断力と、ユウイチの高い白兵戦力を考慮しての人員配置だった。リナを護衛するユウイチと、機体の機密を守るジェノス。この少人数でスカンジナビア王国の防衛隊に襲われればひとたまりもないだろう。しかし、スカンジナビア王国がそんな踏み込んだ行為をしてこないという確信もあった。

 それは、得体の知れない部隊相手に牙を剥くことほど恐ろしい事もないからだ。

 あれほどの技術を見せつけられ、尚且つ“RAVEN”に何かをしてくるなどと無謀な事もないだろう。

 

 ザンザスとカレンが先導し、ユウイチとリナがその後ろを歩き、最後尾を銃を持った隊員2名が随員してきた。

 綺麗に掃除されているものの所々に銃弾の後等が壁に見られる王宮内の通路を視線を這わせつつ一行は無言で歩き続ける。ほどなくしてエレベーターが見えてくる。ザンザス達が先に乗り込み、ユウイチとリナを促す。

 二人もそれに応じ、エレベーターに乗り込んだ。全員が乗り込んだのを確認し、エレベーターの階層ボタンを押し、小さな揺れと共にエレベーターが動き出した。

 

 リナはこの密閉された空間に流れる無言の空気が落ち着かないのか、パイロットスーツの首元にあるファスナー部分をカチャカチャと触っている。ふと、リナと視線が交錯した。その表情は普段の彼女からは見て取れない表情をしており、まるでいきなりポンと見ず知らずの土地に放り込まれた少女のようだ。

ーーーそんな顔されても、俺にはどうしようもないぞ。

心中で返したのだが、リナに伝わったのだろうか彼女はムッとして頬を少しお餅のように膨らませた。

 

「もうすぐ着きます。」

 

 やがて沈黙の空間にカレンの声が響き、同時にエレベーターがゆっくりと振動を止め、分厚い扉を左右に開いた。

 

「どうぞ。」

 

 ザンザスに促され、二人は慎重にエレベーターから降りた。

すると、部屋の奥から二人を待っていたとばかりに柔和な笑みを浮かべ、可憐な女性が歩み出てきた。

 

「この度は、我が国の危機を救っていただき大変感謝しております。」

 

 女性は二人に向け腹部の辺りに両手を置き、頭を下げる。

 

「ユーフェミア様…」

 

「よいのです、ザンザス。国を救っていただいた方々に礼を述べるのは至極当然の事です。」

 

 ユーフェミアの行動を制止しようとするザンザスの言葉をさらにユーフェミアが遮った。ユウイチはリナの隣に立ちながら素早く室内の安全を確認する。ユーフェミアの視線が、一瞬ユウイチとぶつかる。その凝視に少しばかりの違和感を感じユウイチは多少落ち着かない気持ちになった。

 ユーフェミアは、しかしこちらに何か声をかける事もなく話を続けた。

 

「わたくしは、スカンジナビア王国第一皇女、ユーフェミア・ラ・ルレッツァと申します。」

 

 ユーフェミアが名を名乗り、ようやくリナがその口を開いた。

 

「私はZEUS軍所属独立機動部隊“RAVEN”のリナ・ハマチ中佐です。コチラが随員のユウイチ・レオンハート少尉になります。」

 

 リナに紹介され、ユウイチは頭を軽く下げてみせる。

 すでに話を聞いていたのだろうRAVENという名に驚いた様子もなく、ユーフェミアは手近の革製のソファに二人を促し、気品ある口調で話しを続ける。

 

「あなた方の存在は風の噂程度には聞いています。」

 

 促されるままにユウイチとリナは座り心地の良いソファに腰掛け、話しを続ける。

 

「ただ、何故今回我が国に接触されて来られたのか、その要件をお伺いさせていただけますか?」

 

 如才ないユーフェミアの言葉に、リナは苦いものを含んだ口調で答えた。

 

「お話しが早くて助かります。今回、我々はあるルートからあなた方が狙われている事を知りました。」

 

「…あるルート?」

 

 ユーフェミアの後ろでカレンと立ったまま話しを聞いていたザンザスが口を挟む。

 

「それについてはお答えしかねます。」

 

 リナは強い目でザンザスを見つめた後、ふいに脱力したように呟く。

 

「…我々は今回の敵襲に少なからず、思い当たる部分がある。とだけ伝えておきます。」

 

 そして挑戦的ともとれる口調で、こう言った。

 

「しかし、何故あなた方の国を狙うのか、はたまたその原因があなた方の国そのものにあるのか、については計りかねています。」

 

「…なるほど。」

 

 リナの喉元に突きつけるような言葉に、ザンザスとカレンが緊張した表情になるが、ユーフェミアは気を悪くした様子もなく、興味深げに首を傾げる。

 リナは正面から相手の目を見据え、告げた。

 

「あなた方に、思い当たる節があるのではないですか?」

 

 今回狙ってきた“敵”。それもかなり本気で国を灼くつもりで攻撃してきている。

 その敵が何故対した軍事力や、資源も持たない貧困にあえぐ国を襲わねばならないのか。その原因が、必ずあるはずなのだ。

 

「…我々には、思い当たる節があり過ぎて困ります。」

 

 ユーフェミアは少し悪戯っぽい笑みを浮かべ自嘲気味に答える。

 

「何にしろ、我々は敗戦国ですので。疎まれるという点においては世界で最も適任なのではないでしょうか?」

 

「そんな理由で国を灼かれても構わない、と?」

 

 リナが強い口調で尋ねる。隣に座るユウイチの手に嫌な汗が伝う。

 

「我々の先代がして来た事を反故には出来ません。覚悟は決めております。」

 

 自らの国の過ちを言い訳にする事もなく毅然として答えるユーフェミアにリナが苛立つのを感じる。

 

「あなたは先の戦争においても最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれた方々の血を受け継ぐお方でいらっしゃいます。」

 

 理念を貫かれた方々の血を受け継ぐ、という言葉を持ち出されややユーフェミアは感傷的な表情になる。先代達は最後まで断固として世界と戦った。そして、その理念を自分達若い世代に託した。

 その理念を受け継ぎつつも、国を変えようと抗ってきた。

 

「またあんな悲劇を繰り返して欲しくないと思うからこそ、あなた方に聞いているのです。なにか、狙われる心当たりがあるのではないか? と。」

 

 背後で控えているカレンの握る拳が力強く結ばれていることにユウイチはチラリと目をやった。

 リナのほのめかしに対して、ユーフェミアは硬い口調で答えた。

 

「私達はどんな状況であっても、この国を革新させる。それだけです。」

 

「その結果、あなたが死ぬ事になっても?」

 

「国の為ならば私の身などいくらでも差し出しましょう。」

 

 うなずくユーフェミアを、リナは諦めたような笑みで見やり、リナもうなずく。

 そのリナの表情に、苛立ちは消えていた。

 

「あなたの意思は固いのね。負けたわ。」

 

 リナは柔和な笑みを浮かべたまま、こう続けた。

 

「でも、我々はあなた方を見捨てる事も出来ません。」

 

「…考えがあると?」

 

 ユーフェミアが尋ね、リナは頷く。

 ユウイチがいよいよ本題か、と背に力が篭るのを感じる。

 

「我々RAVENはあなた方の国を守りましょう。」

 

「…またすぐに敵襲があると?」

 

「あれで終わりではないわ。必ず次は本腰で攻めてくる。」

 

 自分達が介入した事はすでに知られているはずだ。

 そして、自分達の存在も。ならば、敵は前回以上の兵力で攻めて来るに違いない。オーブの一件で敵がなりふりを構うような相手ではない事は知っている。

 

「…守っていただける事は感謝します。しかし、その条件は?」

 

 ユーフェミアが素早く本題の根本を突いてくる。

 裏の仕事ばかり引き受けるRAVENが無償で国を守りましょう。だなんてするとは思えない。それなりの代償を要求するのだろうと予想していた。

 しかし、リナの要求はユーフェミアの予想していた答えを下回るものだった。

 

「我々RAVENは敵勢力のこの国からの排除。それに伴い、しばらくこの国に滞在させていただきたいのです。もちろん、排除後も秘密裏にではありますがスカンジナビア王国と密接な関係を築かせて頂きたい。」

 

「…それだけ、ですか?」

 

 呆気に取られたのかユーフェミアが目を丸くして尋ねる。

 

「もちろんあなた方の国で補給や、機体の整備はさせていただきます。そして、敵勢力の情報を知るために協力関係を結んで頂くそれだけです。」

 

「兵を駐屯させる基地を作るだとか、資金を提供するなど、見返りにZEUSの軍に組み込む等ではないのですか?」

 

 無理もない反応だろう。いきなり裏の仕事ばかり引き受ける部隊が交渉に現れたのかと思うと、無理難題を突きつけるのではなくただ協力関係を結んで欲しい。それだけなのだから。恐らくはもっと理不尽な要求を覚悟していた事だろう。

 

「協力関係という事ですので、もちろん敵の情報は全て開示してもらいます。この国を戦場にする事になるかもしれません。ただし、今回の件は全てプラント及び他国には部外秘でお願いします。」

 

「な、部外秘…? あなた方はプラント本国からの命で動いているのではない、という事ですか?」

 

 全くわけがわからないとばかりにユーフェミアが尋ねる。

 ザンザスとカレンの二人も動揺を隠し切れない。

 

「少なくとも今回の任務においては、部隊でも一部しか知られていない。とだけお伝えしておきます。」

 

「あなた方の狙いは、一体…」

 

 愕然とユーフェミアが尋ねるも、リナはニコリと笑って続けた。

 

「それも、部外秘です。我々を信じるか、信じないかもあなた方次第です。もちろん、協力関係を結べないとなると敵襲から守る事もしませんが。」

 

「なるほど、ある意味では脅迫と言えなくもない、か。」

 

 ザンザスが眉をしかめて言葉を挟んだ。

 用は守ってやるから協力関係を結べ。と言っているのだ。しかし、何故スカンジナビア王国でなければならないのか。こんな弱小国相手に協力関係を結ぶなんて利害があるとは思えない。

 

「先程おっしゃられたようにスカンジナビア王国は世界でも疎まれている国です。私達の隠れ蓑としては、適任という事ですよ。」

 

「……」

 

 リナの言葉に、ユーフェミアが押し黙る。

 誰もが口を閉ざし、ユーフェミアの言葉を待っている。いまこの国を背負っているのはまだあどけなさの残る女性だ。彼女の判断が、国を左右させる。だが、また同じ悲劇を十年前と同じ事を繰り返させるわけにはいかない。

 それは、彼女が第一皇女と成った日にザンザスとカレンと共に約束した事でもあった。

 

「……そのお話し、受けさせていただきます。」

 

 胸の内から絞り出すようにユーフェミアが声を出す。

 リナの肩から力が抜け、ザンザスとカレンが複雑な表情で下を向いた。

 

「あなたの判断は正しいと、そう思います。」

 

 リナが優しく声をかけ、ユーフェミアが強張った表情で笑みを見せる。

 

「…協力関係は認めよう。だが、防衛隊隊長として条件がある。」

 

 話しが纏まろうとしていた所に、ザンザスが告げた。

 

「国民に余計な不安を与えたくない。あなた方の滞在は許可するが、王宮外へは出ないで頂きたい。」

 

「…かしこまりました。そんな簡単に信頼も出来ないでしょうし、構いません。」

 

 ザンザスの辛辣ともとれる言葉に、リナはあくまで理性的な言葉を紡ぐ。

 

「付近に“ミラージュコロイド”を展開させた我々の輸送艦を待機させています。常駐の許可を頂けるかしら、防衛隊長さん?」

 

「ミラージュコロイドだと!? それは違法だろ!」

 

 ザンザスがリナの言葉に噛み付いてくる。

 条約で禁止された装備、それを当然のように展開させて艦を待機させているなどと言うのだ。しかし、リナはザンザスに動じる気配もなく、ゆるやかに告げる。

 

「私達は、世界から捨てられた人間達の集まりーーー法なんて適応する筈もないでしょう?」

 

 そのリナの挑戦的とも冷徹とも取れる口調に、ザンザスやカレン、ユーフェミアがどこか彼女から人間的な冷たさを感じ、身を強張らせたのが見て取れた。

ユウイチもまた、隣で見た事のない表情で笑うリナに不意に水を浴びたかのように心が冷たく震えるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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