AnotherSEED   作:another12

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夜長に想う

 

 

 

 

 その夜、輸送艦“シュヴァルべ”に帰還し、思い思いの時間を過ごしていたユウイチ達“RAVEN”の面々に思いがけない知らせが届いた。

 

「…コロ爺夫妻が亡くなった。」

 

 無表情で、押し殺し冷静さを保とうとするザンザスがそう告げた。

 

「……どういう事?」

 

 信じられない、とばかりにリナが問いかける。

 

「厳密に言えば心中だ、奥さんがコロ爺に毒を飲ませて……奥さんも後を追うように……遺体のそばにはこの袋が…。」

 

 言って、ザンザスはユウイチ達に茶色い袋を見せた。

 それは紛れもなく、ユウイチとリナが昼間届けたものに違いはなく――――

 

「っ!」

 

 ザンザスの言葉を最後まで聞くまでもなく、ユウイチは弾かれるように走り出した。

 

「ユウイチっ!」

 

「行かせてやってくれ……今回ばかりは、あの人にも説明の義務がある。俺も行く。アンタはカレンのそばに居てやってくれないか? だいぶ憔悴している。」

 

 ユウイチを追いかけようとしたリナに、ザンザスがそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとうございます。少しだけ、落ち着きました。」

 

 リナに促されカレンの部屋のテラスから外の空気を吸い、少し落ち着きを取り戻したのかカレンはようやく話し出した。

 

「……コロ爺夫妻は、身寄りのない私とザンザスにとってはお父さんとお母さんのような方だったんです。」

 

「……身寄りが?」

 

「この時代、珍しくもないでしょう? 私とザンザスは両親を戦時で亡くし、防衛隊だった両親達のおかげで孤児にならず王宮でユーフェミアと三人、兄弟のように育ちました。」

 

 告げるカレンはふと、ほろ苦く口の端を歪めた。

 

「……そんな私達にコロ爺夫妻は暖かみをくれました。戦う知識ではなく、生きる術を。大切な事だからと、人を想う生き方を。本当にたくさんの事を教えてくれたから――私達は曲がらずに育つ事ができた。」

 

 カレンがカレンである理由。その今のカレンを形作る一助になったのが先の夫妻だったのか。精神的に頼りしていたのだろう事は、彼女の様子から容易に察する事が出来る。

 

「……素敵な方だったんだね。」

 

 奥さんとしか語らえなかったが、一度コロ爺と呼ばれていた方と話しをしてみたかった。彼女らの育ての親がどんな人だったのか。

 

「最後はあんな悲劇的な結果でしたが……本当にお互いを愛していました。誰よりも互いを大切に思っていたからこそ、あそこまで追い詰めてしまったのかもしれません。」

 

「愛していた……」

 

 愛ゆえの悲劇。そんな簡単なものなんだろうか。

 これはもっと根深い気がしてならない。それだけ大切に想いあっていた二人ですら些細な亀裂が原因で最悪の決断をしてしまう。人の脆さと生命の儚さが垣間見えた。

 そして、そのトリガーは間違いなくデスティニープランで――

 

「……でも悲しい結末だったとしても、二人は満足して逝けたのかもね。」

 

 ぽつり、とリナが言った。

 

「……貴女がそう思う理由は?」

 

 目尻に涙の跡を残したカレンが問いかける。リナの答えをじっと待つ。リナもまた逃げる事なく自分の気持ちを吐露した。

 

「……だって、最愛の人に最期を決められるなんて素敵じゃない。」

 

 そう語るリナの人には哀切や心愛、様々なものが入り混じり重なり合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来ると思ってたよ。」

 

 矢のように店に飛び込んできたユウイチに、襟裳を絞められながらグレンは冷静に言った。その言葉が、態度が余計にユウイチを逆撫でる。

 

「……なぜっ!? なぜだ!」

 

「……まぁ落ち着け、ここでお門違いの怒りに任せて俺をぶん殴るのはやめとけ。話してやるから、まずは落ち着け。」

 

 グレンの言葉に、ユウイチはぎりと奥歯を噛み締め、やがて疲れたように力を緩めて手放した。

 

「ありがとよ。」

 

 なぜか被害者のグレンが礼を述べ、ポケットからタバコを取り出してマッチで火をつけた。深く煙を吸い込み、やがて吐き出す。甘ったるい独特な香りの葉だ。

 

「……今回の件、説明しなかった事は謝る。黙ってお前らに毒を運ばせた事も、な。」

 

「……やはりアレは毒だったんだな。」

 

 ユウイチとリナはむざむざ自殺を幇助させられた気分になって、さらに怒りが増した。

 

「……あの毒は、コロ爺の奥様からのご注文だ。俺はそれを仕入れるよう頼まれ、渡した。それだけの事だ。」

 

「それだけ? 人が死んだんだぞ?」

 

「人なら毎日どこかで死んでるだろ。今だって死んでる。今の世じゃ珍しい事でもねぇ。」

 

「そんなのは言い訳だ! アンタは死にたがっていた老夫婦に手を貸した。まだ生きれた命だ!」

 

 バン、とカウンターを叩きユウイチが詰め寄る。

 グレンの眉がピクリと動いた。

 

「……どこまでも頭のめでてぇやつだ。」

 

「なにを!」

 

「だって、高尚なもんだろ。アンタはたった小一時間話しただけであの夫婦が生きれた命だ、なんてぬかしやがる。頭がめでてぇ思考をしてなきゃ出ない発言だ。まるでうさんクセェ環境団体や宗教団体と代わりゃしねぇ! 理想論もたいがいにしな、てめぇは上っ面の正義だけを押し付けて彼らの死を冒涜しようとしてるんだぞ。」

 

「違う……! 死が救いな訳ない! 生きる事は戦いだ、辛いのも、苦しいのも全部生きているからだ! 間違えてしまって、取り返しがつかなくて、もう元に戻れないから共に死のうなんて……綺麗事だっ!」

 

「綺麗事はてめぇだ! あの夫婦は尊い選択をした。こんなクソみたいな時代で七十年以上を生き抜き、その生の終わりを戦争や争いで汚されねぇように愛した人と、花に包まれて眠るようにその人生に幕を下ろした! それともお前は爆弾で身体を焼かれ、別々に死んだ方が良かったなんて言うつもりか⁉︎」

 

 グレンの目に、怒りが籠る。

 突き刺された言葉に、ユウイチが詰まる。それでも、ユウイチはぶつからなければならなかった。この男から逃げる事を、許せなかった。

 

「そのために防衛隊や、俺達が居る!」

 

「ふざけるなっ! お前は神にでもなったつもりか? 世界中に降りかかる火の粉を戦う力のある者達だけで全て払えるとでも? それとも自分が関わり知ってしまった人間には生きていて欲しいと、他の命より重いなんて順序をつけるのか⁉︎ 」

 

「っ……」

 

「いいか? 人は死ぬ。生き方も、終わり方もシステムに決められちまう選択肢を奪われたこの世界で、あの夫婦は終わらせる事を選んだ。選んだんだよ! ……カッコいいじゃねぇか。」

 

 ぐしゃり、と手の中でタバコを握り潰しグレンは感情を押し殺す。やり場のない怒りを、悔しさを、それでもその死を汚すまいと必死に抑え込んでいる。

 

「お前らは暁光だった……ザンザス達に持っていかせるワケにも行かなかったからな。行けば、ご婦人の雰囲気から何か察しちまうかもしれねぇ、気づかなかったとしても、自分が毒を運んだと知ればもう立ち直れねぇかもしれねぇ。都合良く使ったのは謝る。俺が行きゃ良かったんだが……どうにも、俺もまだ青臭ぇらしい。」

 

 握りしめていたタバコを灰皿に落とし、グレンは鼻をすすった。暗がりでよく見えなかったが、彼の目は腫れているように見えた。

 

「しかし、お前もそんな風に怒るんだな。」

 

「……どういう意味だ?」

 

 グレンの言葉の意図を図りかね、ユウイチは首を傾げた。

 

「お前が初めて店に入って来た時、人のフリしたロボットが入って来たと思った。」

 

「ロボット……?」

 

 何を言っているのか分からない。

 自分は紛れもなく人間だ。痛みも感じれば、怒りだって感じる心がある、自分で考える事も出来る。彼の言う事は見当違いもいいところだ。

 ――でも、自分をロボットじゃないと否定できない。

 

「顔面に無愛想を貼り付けて、感情の機微ってもんがねぇ……コロ爺を見てビビったんだろ?」

 

「やめろ。」

 

 やめてくれ。

 

「まるで自分を見ているようだった、ってな。」

 

 それは、鋭くユウイチに突き刺さる。

 避けたかった事実。いつか自分もこうなるんじゃないかと、怖かった。

 自分には笑う事も、泣く事もできない。

 ただ無機質に会話する。

 これがロボットではなくて、なんだと言うのか。

 

「お前の過去は何一つ知らねぇ、でも未来なら断言できる。お前は遠からず、“無感動症候群”を発症する。」

 

 できれば、考えたくなかった。

 知りたくなかった。椅子に揺られるだけのご老人が自分に見えたなんて、認めるわけにはいかなかった。

 

「……今更怒って、人間のフリなんてやめろ。お前に情動はない。ただ命じられた自分の中のプログラムに従うだけ、ゆらめきのような幽鬼だ。」

 

 それを、この男は遠慮なくぶつけて来る。

 自分が隠して隠して逃げてきた現実を。楽しい、悲しい、愛しい、それが分からない。分からないから自分は欠けた人間なんだと思っていた。葛藤していた。人と自分の“出来”に――

 

「割り切れよ。ロボットになればいい、冷徹なまでに心を殺せ。殺して殺して殺し尽くせ。鉄の心を手に入れたその先に――完璧な兵士としての道は開かれる。お前の理想は、血に塗れた先にしか手に入らんぞ。」

 

「……俺の、理想。」

 

 力無く、言葉が漏れる。

 

「でなきゃお前……本当に幽鬼になるぞ。」

 

 告げられた言葉は反論を許さない。

 声が出ない。否定しなければならないのに。

 何か――

 

 

 言葉を紡ごうと、唾を飲み込んだ時だった。

 

「グレン隊長っ! ユウイチ・レオンハート! すぐに来てくれ、中央街に火がっ!!」

 

 慌てて飛び込んできたザンザスの言葉に、全てがかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

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