ーーーーオーブ標準時間 12:35。出発から4時間後。
ーーオーブエアポート
「完璧だな。」
「全くだ。」
無事にオーブの検問を抜けたゼルとユウイチが勝ち誇ったように言った。
ユウイチ、ゼル、レベッカの三人はオーブへと入国するために、フェリクス島から東アジア共和国へと向かい、そこから偽造パスポートを使ってオーブ行きの航空機へと乗り込み、オーブ入りを果たした。
「アンタらの完璧基準に頭が痛くなるわ。」
いつもの“RAVEN”の青い軍服ではなく、白いシャツの上に薄手の黄色いカーディガンを羽織り、デニムのショートパンツにブーツのいった軽装をしたレベッカがジト目で二人を見やる。
「いいか? 普通ってのは逆に目立つんだよ。怪しいぐらいが怪しまれない。灯台下暗しってやつだ。」
「その意見には同意だな。」
怪しいグラサンにド派手な色合いをしたハイビスカス柄のアロハシャツ、下はハーフパンツにスニーカーというなんとも目立ちすぎる服装をした二人がスーツケースを引きずりながらドヤ顔で言う。
「なんだろ。まだ始まったばかりなのに、早く帰りたくなってきたわ。」
「トイレか?」
「違うわよ!!!」
聞いただけなのに、怒られてしまった。
女性の扱いというのは難しい。
「馬鹿言ってないで、さっさとリナと合流するわよ。」
ユウイチ達とは別で、単身オーブ近海からミラージュミストコロイドを展開してオーブ入りしているリナと合流予定のポイントがある。とりあえず、そこまで向かわねばならない。
「しっかし、この国はあいも変わらず平和だねぇー。」
皮肉混じりに、ゼルが吐き捨てる。
空港を大勢の人達の喧騒が包み、この国の幸福指数の高さをうかがわせる。
ユウイチはその喧騒の中でスーツケースを引きずりながら不審と感慨の混じった視線で見やる。
“オーブ”連邦首長国。かつての名はオーブ連合首長国。
南太平洋ソロモン諸島に存在し、複数の島々からなる国家で、C.E.70年2月8日にかつての代表首長 ウズミ・ナラ・アスハが行った中立宣言により、中立国家となった。 「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない」を国是とし、きわめて高い技術水準と、法による統治でナチュラルでもコーディネイターでも国籍を取得できる数少ない国、とされていた。
しかし、今はデュランダル議長の提唱するデスティニープランに一時的に反抗するものの、国民からの強い反発や“レクイエム”により、無条件降伏を宣言。
かつての中立の姿はなく、“オーブ”という名前を与えられた“ZEUS”の植民地のようなものとなっている。国のあちこちには、“ZEUS”の兵や、基地が点在し、事実上高度な技術の軍事協力をしているモルゲンレーテ社が国の経済を回している。
“オーブ”独特の政策を持ち、軍のお膝元という事もあり治安は世界でもトップクラスであり、デスティニープラン施工後の新体制に移行してからというもの、テロ等の問題は起きていない。
「綺麗な国、オーブねぇ。ただ隔てただけでしょう。」
レベッカもボソリと呟いた。
ユウイチの脳裏に、先程飛行機内から見えた光景が頭をよぎる。
透明なガラスを通して、眼下に広がる青い海に囲まれた島国。明るい日差しを受けて輝く海に緑の島々。発展した街。そしてその街を囲むように築かれた巨大な壁。
“イズモ”と呼ばれる巨大な壁は、オーブの首都オロファトを囲むように形成されており、オーブという国はこの壁の内側が中心となっている。
その壁の向こう側は、オーブ国民でありながら、存在を認知されていない人々。
つまり、デスティニープランから捨てられた人達が極貧の生活をしている。
オーブという国は、壁により仕切りデスティニープランを受けない者、受けていない者を隔離し、国民と認識しない事でテロ等の脅威から身を守って来たのだ。
一度非国民だと分かるような事があれば、非難と、人権も法律もないのない暴力が待っている。「いかなる時も中立を貫く。」というかつての意思は、歪んだ形で適応されてしまったのだ。
「オーブ…球体とはよく言ったものだな。」
自分の故郷になるかもしれない街を歩きながら、ユウイチは1人愚痴る。
こんな国が故郷だと、認める事ができるだろうか?
自分には、出来なかった。
やがて、タクシーをレベッカが拾い合流ポイントへとは、ぼうっと街を見ている間にものの数十分で到着してしまった。
「ここが? 合流ポイント?」
ゼルが呆気に取られたように尋ねる。
電携帯型の電子コンソールを開き確認しながらレベッカも返す。
「間違いないわ。ここが合流ポイントよ。」
「…普通に高級マンションじゃねぇか。」
50階建ての入り口からして、見るからに高級なマンションだ。
よく分からない観葉植物にカードキーで管理された巨大な入り口。
「ここが、しばらく拠点になるというわけか。」
「そうみたいね。やけに予算を割いてくれるわねぇ〜」
心なしか上機嫌のレベッカがカードキーを使い、マンションへと踏み入った。
ユウイチとゼルも後に続き、何を載せるんだと言わんばかりに巨大なエレベーターに乗り込む。ゼルが高速エレベーターのガラス壁面から外下を見やり感心した声を上げている間に、エレベーターは50階に止まった。
「しかも最上階かよ。」
ゼルが我先にとエレベーターから降り、ユウイチもカロリーメイトをくわえながら後に続く。
「アンタ鍵持ってないでしょ」
と、レベッカがキョロキョロと部屋を探すゼルに告げ、カードキーを持って目的の部屋の前への向かう。部屋の前に立つなりゼルが「扉まで豪華だなオイ。」
「リナ、もういるのかしら?」
とりあえず呼び鈴を鳴らしてみるも、反応はない。
「まだなのかな? 先に入るか。」
「そうね。」
カードキーを使い、豪華で分厚い扉を開ける三人。
中はさらに広く、玄関からして荷物を持った三人が並んでもまだ余裕が感じられるほど広い。ここでついに我慢していたテンションが振り切れたのか、ゼルとレベッカがバタバタと上がりこむ。
「うおおおおおおおお!!!!」
我先にと上がり込んだゼルの絶叫が奥から聞こえ、ユウイチもお邪魔します。と一礼し、二人に続いて部屋の奥へと向かう。
「見ろよ! ユウイチ!! 酒だ!!! カウンターだ! バーだあああ!」
まさか部屋にバーのようなカウンターと数十種類のアルコールが置かれているとは。これにはユウイチも驚いた。というか、一体何人呼べば窮屈に感じるのだろうかというほどに部屋は広い。リビングには巨大なガラスが張ってあり、一望とはいかないが、綺麗な街を見下ろせる。
「フカフカのベッドおおおお!!!」
任務がどうとか言っていたような気もするレベッカが、寝室らしき部屋から叫んでいた。基地や艦に備え付けられているベッドとは比べ物にならない程に心地のよさそうなベッドに寝転び、うへへ。と至福の声を上げているレベッカ。
ユウイチは部屋を見渡す。こんなに部屋も多く、広いのだから恐らく風呂も広いのだろうか。普段シャワーばかりで済ませているユウイチは、広い風呂というものが気になり、カロリーメイトを頬張りながら浴室を探した。
風呂。風呂はどこだ?
部屋をいくつか巡りやがて、トイレを発見した。その隣に脱衣所らしき部屋を見つける。
ユウイチは躊躇いもなく、興味の惹かれるままにドアノブに手をかける。
その瞬間。
『っ!?』
ユウイチが開ける前に、ドアが開いた。
しばしの沈黙。
中からは湯気と共に湿った肌に張り付いた金色の髪、豊満な胸元にはタオルを巻き、少しばかり赤らんだ顔。驚き、見開かれた吸い込まれそうな蒼い瞳…
あまりの彼女…リナ・ハマチのいつもとは違う美しさにユウイチは口にくわえていたカロリーメイトをポロリとこぼした。
何か言葉を、と思う前に目の前の人物が先に声を上げた。
「…き、きゃああああああああ!!!」
その後のことはよく覚えていない。
「ユウイチ。」
「なんだ。」
「お前も、女の子の裸に興味があったんだな。お父さん、安心したよ。」
「頼むから黙ってオーブの海の藻屑にでもなってくれ。」