AnotherSEED   作:another12

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序ノ終

序ノ終

 

 

 

 

 戦闘を終え、機体を降りたリナを待っていたのは防衛隊の面々だった。

 ザンザスと、カレンがこちらを見つめている。

 

「ご無事でなによりです。」

 

 リナは社交辞令染みた声をかける。

 

「いえ、我々の方こそあなた方の助けがなければ命も国も無くしていたかもしれません。」

 

 カレンが滑らかな口調で告げる。その表情には疲れが見える。

 遅れて機体から降りてきたジェノスも会話をそばで見守る。

 

「これで、終わってくれればいいのだがな…」

 

 ザンザスが呟く。

 これで終わり、そんな事があるのだろうか。敵の狙いはわからないままだ。

 ユーフェミアを狙ったり、かと思ったら国を焼いたり、いや、むしろユーフェミアだけが狙いだったのだろうか。リナが思案していると、ユーフェミア本人が使用人を連れて現れた。その表情は悲しみに包まれている。

 

「ご苦労様でした。勝ちはしましたが、また犠牲を出してしまいましたね…」

 

「この程度で済んだのです。むしろ、不幸中の幸いかと」

 

 リナが毅然として告げる。あくまでも彼女は武力のない解決を望むというのか。

 

「ようやく前大戦の傷から立ち直ろうとする今、何故この世界に亀裂を入れるような事をするのでしょうか…」

 

 デスティニープランにより管理され、世界はある程度の平和を守ってきた。

 デュランダル総裁の提唱したデスティニープラン。戦争を起こさないようにと、徹底的に管理された世界。ナチュラル・コーディネートター間による確執、能力差を埋めるために全ての軍を統一、ZEUSとしてナチュラルであろうと、コーディネーターであろうとその能力を遺憾なく発揮できるように取り計った。そして、決定的なのがコーディネーターの出生率だ。コーディネーターの下がり続けていた出生率を上げるために遺伝子適正で婚姻相手を決める。これにより、コーディネーターはここ十年に渡りその出生率を飛躍的にあげている。

 無論、良い点ばかりではないが少なくとも世界は一定の幸福を保っている。

 

 そして、敵はそれを拒んでいる。

 敵の用意周到ともいえるその規模、手口、かなり前からこの時を待っていたようにも感じる。

 

「……新型機を含め、ここまで姿を晒したのです。恐らく敵は今後大規模な行動に移すでしょう。」

 

 リナが身に感じていた不安をぶつける。

 

「レクイエムを手中に収めているZEUS相手に戦えるほどの自信が奴らにある、と?」

 

 ザンザスが問う。

 

「こんな大胆な作戦に出たんです。少なくともZEUS相手に互角にやり合うだけの自信がある。」

 

 リナがやりきれない表情で呟く。

 グラリ、と世界が揺れている気がする。大きな、大きな波が来る。

 

「……戦争になる、とおっしゃるのですか?」

 

 ユーフェミアが沈痛な面持ちで尋ねた。

 巨大な軍事組織を相手に戦争を挑むというのか、馬鹿げている。

 馬鹿げてはいるが、もはやそれを疑う余地もない。

 

「ええ。恐らくここ十年に無かった規模の大きな戦いになるでしょうね。」

 

 全員が知っている。十年以上前に繰り返された二度の戦争で、どれだけの人が死に、どれだけの国が焼かれ、どれだけの被害を地球、プラントにもたらしたのかを。

 しかし、この平和に管理された世界において戦いを挑もうとする者達がそんなにもいるものなのだろうか。

 最下級の扱いを受けている者達の事がユーフェミアの頭をよぎる。

 SEED因子保持者。

 遺伝子により管理された世界における異分子。遺伝子の優劣で全てが決まるなら優れた遺伝子を持つSEED因子保持者達が優位に立つのは見え透いている。そして、それを憂慮してデュランダル議長はSEED因子保持者を最下級の存在とした。ナチュラル・コーディネーター間の軋轢は、同族内でのSEED因子保持者に向き、優れた遺伝子を生まれた時から持っている彼らを世界は迫害した。

 

「また、罪のない人達が惨禍に会うのですね。」

 

 ユーフェミアが沈痛な口調で訴えかける。

 

「…そういえば、あの赤い髪の青年は?」

 

 ザンザスが暗くなった場を切り替えるように話題を振った。

 

「そうだわ。あのガンダムを倒してくれたんだもの。御礼を一言伝えたいんだけど…」

 

 カレンが続けてユウイチの所在を尋ねる。

 しかし、ジェノスとリナはというとバツが悪そうに顔を逸らし、しどろもどろに、なりながらリナが答えた。

 

「彼は、ちょっと……ウチのメカニックにお説教を……」

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、ユウイチぃ!!」

 

 帰還して早々にヘルメットを外したパイロットスーツ姿のまま、ユウイチはRAVENのメカニック、ミナミ・マクスウェルに怒鳴られていた。

 ――帰ってすぐにこれか。

 

「なんなのコレ、ボロボロじゃないっ!? ガンダムがっ!」

 

「しかし、敵は倒した。」

 

 無表情で告げるユウイチの頭をバチィンと丸めた資料で殴られた。

 

「痛いじゃないか。」

 

「勝てばいいってもんじゃないよ! ジェノスとリナの機体は損傷無しなのになんで“スパイラル・フリーダムガンダム”だけこんなボロボロなのぉ!?」

 

 わざわざガンダムと付けるあたりにミナミのこだわりを感じる。

 ミナミの指差す先には右足を失い、左腕と左翼を失った愛機の姿があった。

ユウイチは目線をアスカに戻し

 

「手強い敵だったんだ。」

 

 バチィンバチィンと二発今度は頭を殴られる。

 こんなにも人に頭を殴られたのは久しぶりな気がする。

 

「痛いぞ。ミナミ」

 

「いい!? ユウイチ! ユウイチにとってはただの兵器かもしれない、けどね? ユウイチが命を預ける相棒でもあるんだよ、モビルスーツってのは!」

 

 ミナミがわぁわぁと囃し立てる。

 相棒? 機械の塊の人を殺す兵器にすぎないこの塊が、相棒というのか。

 少し無理があるんじゃないだろうか。

 

「モビルスーツっていうのは銃とは違う、肉体の延長線上なんだよ!」

 

「肉体の…延長線上…」

 

 ユウイチがその言葉を繰り返す。

 相対するミナミはわなわなと怒りに震えている。背後に炎まで見えるような怒りだ。

 

「全く! いい? かつてガンダム神話を作り上げたーー“ストライクガンダム”はオーブ近海の孤島で、ザフトが奪取した“イージスガンダム”と一騎打ちになり、激闘を繰り広げた。」

 

 “ストライクガンダム”。MSに詳しい者ならば聞いたことはある。

 連合が開発したGシリーズの一つで、圧倒的な戦果を上げたこの機体は後のMSに多大な影響を与え、主兵装にビームライフル、格闘戦用のビームサーベル、重装甲を施さない代わりのシールド装備等のコンセプトは現在のMSのスタンダードとして定着する原形となったという。

 また、戦局すら左右したその活躍は連合軍内部にガンダム神話を生み出す事となり、この機体以後も「ガンダム」の名を冠した、その時々の最先端技術を結集しG開発計画等で開発されたシンボル的機体が多数登場している。

 “デスティニー”や“フリーダム”も同じようにガンダムの名を冠して神話を残している。

 

「お互いに武装を使い果たし、エネルギーも底をついた状況で“イージスガンダム”のパイロットーーアスラン・ザラは、“イージスガンダム”で組みついて自爆したの。」

 

 アスラン・ザラ、という名前に妙な引っかかりを覚える。存在は知っている。

 元プラント最高評議会議長パトリック・ザラの息子で、ザフトレッドとして活躍、三隻同盟の一員としてヤキン・デューエを生き延びたエースパイロットだったのだが、C.E.74年にFAITHとしてザフトに復隊の後、何故かザフトを離反、脱走、シン・アスカの“デスティニー”により討たれたという。

 

ーー何だろう、アスラン・ザラ…懐かしいような、悲しいような…

 そんな郷愁にも似た感情がユウイチを包む。

 

 

「で、逃げ遅れた“ストライクガンダム”のパイロットは、爆発に巻き込まれるも命は助かったーーーメカニックの間ではこの奇跡をこう語られてるの……“ストライク”がパイロットを助けたんだって。」

 

「モビルスーツ…が?」

 

 その素っ頓狂な思想に思わずユウイチは聞き返してしまう。

 しかし、ミナミはコクリと真剣な眼差しで頷き話を続ける。

「本当ならあり得ない話しだけどね。でも、目の前で機体を自爆されて五体満足で帰還するなんてあり得ないと思わない?」

 

「あ、あぁ…」

 

「だから“ストライクガンダム”がパイロットを助けたって言い伝えられてるのよ。さて、ユウイチを“スパイラル・フリーダムガンダム”が助けてくれるかな?」

 

 ユウイチは愛機を見上げる。

 なんだか上手いこと言いくるめられたような気もするが、少しばかり愛着が湧いた気がする。

ーーー想いだけでも、力だけでも守れないものを、守って下さい。

 

 “スパイラル”を受け取った時にモニターに流れたティア艦長が言っていた言葉が脳裏をよぎる。

 そうだった。俺はこいつで守らなければならないんだった。

 

「どう? ちょっとは反省してくれた?」

 

 ミナミが右頬のえくぼを咲かせて笑いかけ、ユウイチの顔を覗き込む。

 思わず、彼女の魅力に惹きこまれそうになり目を逸らす。

 

「あぁ…すまなかった。」

 

「分かればよろしい! で、もいっこなんだけど?」

 

 まだなにあるのか、とユウイチは暗澹たる気持ちになる。

「なんだ?」と聞き返すと、再びわなわなとミナミは肩を震わせる。

あれ?怒っている?

 

「敵のガンダムを海に墜とすなあああああ!!!!」

 

「ぐぼぁ!?」

 

 格闘家にでもなれるんじゃないかと思えるミナミの鋭いドロップキックが腹部に突き刺さる。痛すぎて思わず、胃液を吐き出しそうになってしまった。

 

「あんな藻屑にされたら敵のガンダムのスペックもなにも分からないじゃない!!」

 

 彼女の言うこともごもっともだが、なんて理不尽なんだろうと頭が痛くなる。

 彼女の考える事だ、どうせガンダムをバラしてハァハァしたかったとかそういう事なんだろう。ユウイチはくどくどと説教を続けるミナミを一瞥して、どこからかカロリーメイトを取り出して食べ出した。

 

「流れるような動作でカロリーメイトを食べるなあああああ!!!!」

 

 本日二度目のドロップキックを喰らい、ユウイチはハルバート大尉よりもミナミの説教の方が痛いし嫌だな、と内心毒づきながら格納庫の壁に吹き飛ばされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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