AnotherSEED   作:another12

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革命同盟軍ーー3

 

 

side AIGIS

 

 

 

 

 

 

 

 自室で休んでいたユイは、呼び出されるままに艦橋へと赴いた。すでにマユラとディアッカも到着しており、マユラがチラリとこちらを見ながら「遅いよ。」と制した。

 

「これでもダッシュしたんだから……!」

 

「まずい事になったわよ。」

 

 矢継ぎ早にエリカが言葉を告げる。

 ユイが訝しげにしていると、隣に立っていたディアッカが口を開いた。

 

「戦争になるってさ」

 

「えぇ!?」

 

 ユイが驚きの声を上げる。

 

「これを見て頂戴。」

 

 エリカが促し、艦橋の前面モニターにある男の姿が映し出された。

 

 

 

『……人類最初のコーディネーター、ジョージ・グレンの告白から数十年。人類は長きに渡り遺伝子という人が生まれながらに持つ枠組みに捉われて来た。パレスティナ会議、トリノ議定書、月面会議、コペルニクスの悲劇という幾度となく交わされた話し合い…!アラスカ宣言、そして忌まわしき血のバレンタインを経て二度に渡るナチュラル・コーディネーター間の戦争…その先に示されたのは、ギルバート・デュランダル議長による強制的ともいえる遺伝子の優劣による徹底的な管理社会制度、デスティニープランの施行! 何故こうも我々は遺伝子に捉われなければならない! 』

 

「これはっ!」

 

 嫌な予感をユイが包む。

 

『この世界、この宇宙に住むデスティニープランに飼われた人々へ、突然のご無礼申し上げる。私はアロク・ダ・リーフ。かつて人類最初のコーディネーターと呼ばれたジョージ・グレンの遺伝子を受け継ぐ男である。だが、我々はその遺伝子に捉われてはならない!! 遺伝子で優劣を決めて管理されさ世界で腐っていて良いのか! 否、断じて否! 遺伝子をより良く改変したコーディネーターがデスティニープランなどとのたまり牛耳る世界を私は認めない!現に見よ! SEED因子保持者は蔑まれ、デスティニープランを受けていない者達は迫害されている!』

 

 ジョージ・グレンの遺伝子を受け継ぐ者、という言葉にユイは耳を疑った。

 まさか、そんな……と。

 なんてくだらない能書きを垂れるのだろうか。

 こんな風に焚き付けてはならない。こんなものは……!

 

『知恵なき者は小さな知恵に酔いしれてしまう。力無き者は小さき力に酔いしれてしまう。刃物を持つ者はその刃物に酔いしれてしまう。ZEUSなどと全知全能ぶる貴様達に我が軍ーーー革命同盟軍は決して屈指はしない!! 見よ! この軍事力を! この兵力を! 我々がたかがテロリストと侮っているのなら見識違いも甚だしい! 我々は同盟軍ーーつまり、世界中の各国が我々と協力関係にあるのである! さて、どうでる? 全知全能たる神よ! 鎮魂歌を奏でて地球を片っ端から焼き尽くすか!? 我々はたかが思想家の集団ではない、人間の生きとし生ける自由を取り戻すための聖職者、聖戦である! ギルバート・デュランダル、及びそれに伴う我々の攻撃対象に宣戦布告させていただく、これよりオペレーション・パンドラを開始させていただく!! 我等と意見を異にする者達よ、我々を殺しに来るがいい!我々は逃げも隠れもしない。だが、我らの言葉に賛同するならば反旗を翻せ! 我々革命同盟軍が世界を変革させるのだ! 青き清浄なる世界を取り戻す為に!!』

 

それを最後に、長い演説が終わりを告げた。

 

「ふざけてるっ……こんなのっ!」

 

 映像を見終えたユイが吐き捨てるように叫んだ。

 デスティニープランにより抑圧された世界はある意味火種のない爆弾のようなものだ。

 人は、抑圧された欲求に逆らえない。

 従わねばならないという恐怖で押さえつけられ、デスティニープランを受け入れて来た人々をこんな風に焚き付ければどんな事になるか、想像に容易い。

 

「すでに世界中で反プラント、反ZEUSの抗議活動が起きているわ。」

 

 コーディネーターに抑えつけられていた感情を爆発させる者達が現れた。

 この幸せをこれでいいと受け入れていた者と、仕方なく受け入れていた者、もし革命同盟軍との戦争になれば世界は大きく二分される事になる。

 反抗しようにもその手段、きっかけがなかった。

 

「集団心理ーーですね。」

 

 強い眼差しでモニターを見つめていたマユラが口を開いた。

我々は、自分には信念もモラルもあり、いかなる状況においても惑わされないと思いたがっている反面、ほとんどの人が、他人の行動に引きずられてしまう傾向にある。特に、個が確立されていない社会や、精神的に未成熟な子どもにはこの傾向が強いと言われている。

 火種のなかった爆弾に、火が注がれたのだ。

 

「ったく、人は集団になると、いったいなんだってこんなに、意味不明で、暴力的になるんだろうねぇ。」

 

 腕を組んで黙っていたディアッカが、しみじみと言った。

 いつもは斜に構えたような笑みを浮かべているが、今回限りは真剣な表情が浮かんでいる。

 

「人だからですよ。欠陥だらけだから、人と人が分かり合うのは難しいんだよ。」

 

 噛み付くようにマユラが返す。

 ピンクの眼鏡の奥には悲しげな光が差している。

 そうなんだろうか? 本当に、人と人は分かり合えないのだろうか。

 だとしたら、自分達がこうやってやっている事も…

 

「だから私達は戦っているんでしょ。人々が分かり合う世界を作る為に。」

 

 エリカが強い口調で言った。

 そうだ。自分達は革命同盟軍のようなテロリストではない。

 

 成し遂げたい思いがあって動いている。

 そして、それを叶える為に一つになったのだから。

 

「そうね……」

 

「まぁそう気を落とすなって。俺達も付いてるから、気楽に行こうぜ? なっ?」

 

 ディアッカがウインク混じりの笑みをユイに向ける。

 彼なりに気遣ってくれたのだろう。

 しかし、ユイはジトっとした目つきでディアッカの顔を覗き込む。

 

「…………なんか、ディアッカに言われても、ねぇ?」

 

「どういう意味だよっ!?」

 

「馬鹿ばっかりですね。」

 

 二人のやり取りを呆れたように見ながらマユラがまた、始まった。とばかりにため息をつく。

 

「はいはい、気を抜いてないで。アメノミハシラはもう目の前なんだから。……私達の任務は変わらないわ。革命同盟軍が奪取した新型3機、及びZEUSの新型MSの破壊よ。」

 

 エリカが場の空気を戻すように声を上げ、ユイ達は視線をエリカに戻した。

 新型ーーと聞いてユイは胸を締め付けられるような感覚になる。

 あの時、みすみす敵の手に渡るような事になっていなければ、被害は少ないものになったかもしれないのに。

 自分の失態で招いた状況に、拳に力がこもる。

 

「ぶっ壊せばいいんだろ? 楽勝、楽勝ーっ!」

 

「……間違って、アメノミハシラを壊さないでくださいよ?」

 

 マユラが眼鏡の奥でジトっとした目を向けながら告げた。

 

「わぁかってるって!」

 

 マユラに指摘され、バツが悪そうにディアッカが返す。

 

 砲戦仕様のディアッカの“アストレア”なら一撃でアメノミハシラに穴を開けられるだろう。そんな光景を考えるとゾッとする。下手したら自分達が革命同盟軍以上のテロリストになりかねない。

 

「あ、見えて来たわよ…!」

 

 艦橋の前面に映し出される地球へと突き刺さる巨大な人工の塔。

ーーー“アメノミハシラ”。

 

  オーブが10年以上前から静止軌道にて建設を進めていた軌道エレベーターの宇宙基部。一時は開戦と同時に計画が中止されたものの、終戦からしばらくしてプラントの協力を経て再開発されたオーブを象徴する一大施設だ。

 今ではモビルスーツの開発だけでなく、地球から容易に宇宙進出を図るための宇宙港として機能しており、世界においても重要な拠点と化している。

 

 いちいちシャトルを打ち上げたり、大気圏突入のリクスを負わずに物や人の交流が可能になり、かつてより遥かに低いコストで宇宙と地球の貿易が可能になった。地球と宇宙との貿易量は爆発的に増大し、これによる利益も極めて莫大なものになる。

 オーブ首長、カミラはこの宇宙貿易利権をプラントと共有する事で莫大な国益を手にしている。

 

 

「ほんじゃまぁ、準備するとしますかっ!」

 

 ディアッカが威勢良く告げて地を蹴り、エレベーターの方へと向かう。

 

「私達も行くわよ! マユラっ!」

 

 ユイとマユラもディアッカに続いてエレベーターへと向かう。

 

「アメノミハシラに近づき過ぎちゃダメよ! マイクロウェーブの影響でビーム兵器が阻害されるわっ!」

 

 エレベーターに乗り込もうとする三人に向けてエリカが声を上げた。

 アメノミハシラの周囲に浮く太陽光発電パネルからアメノミハシラに送電するマイクロウェーブによりビーム兵器が阻害される特殊なフィールドが発生している。そのため、先の大戦中もザフトは攻めあぐねていた。

 

 「りょーかいっ!」

 

 ディアッカは片目を閉じ、ユイはグッと親指を突き出し、唯一マユラだけがまともな敬礼をエリカに送った。

 

 

 

 

 

 

 

「イエロー五十マーク二八チャーリーに大型の熱源! 距離8000!」

 

 センサーを読み取っていたクルーが声を上げ、“アラクネ”の艦橋に緊張が張り詰めた。

 

「やはり来ましたか。」

 

 バズが淡々とつぶやき、レンは気怠げにため息をついた。

 

「まぁ、そうだよな。あんな演説の後だ。ZEUSも体裁ってのがあるもんな。」

 

 飄然と感想を漏らしたあと、彼は声を張った。

 

「ここで一気に決着着けてやろうじゃないか!ーー総員戦闘配備、アイツらをブリーフィングルームへ!」

 

 艦橋の窓からは青い地球と、そこに突き刺さる巨大な塔が見えていた。

 そちらをチラリと見やり、レンは不敵に笑みを浮かべた。

 

ーーーこっちがなんの用意もなく、尻振って逃げてたわけじゃない。ってのを教えてやろうじゃないか。

 

 

 

ーーーアラームの鳴り響く艦内を、ウェインは駆け足でパイロットロッカーへと入った。すでにほとんど着替えを終えていたジェイムとリーブが会話をしていた。

 

「先日の艦らしいですね?」

 

リーブが楽しげに聞き、ジェイムはうなずく。

 

「ああ。来るのは恐らくあの黒づくめだろう。」

 

リーブとジェイムはどこき機嫌の良さそうに見える。いつも戦闘の前はこうだ。

ウェインにしても、これからMSに乗ると思うと血が沸き立つのがわかる。

身体が、血を求めているとでも言うのか。

 

ーーくそっ、流されんなっ! この感覚に持っていかれちゃいけねぇ!

 

 心を落ち着けながら黙々とパイロットスーツを着込む。

 自分には、やらなければならない事があるーーだから、この感覚に持っていかれてはいけない…!

 

 リーブが不敵に笑いながら言う。

 

「ーーあぁ、生け捕って私のコレクションに加えたい…!」

 

 リーブが頬を紅潮させる。彼には変な美学がある。そこに踏み込む事は決して許されない。どうせ吐き気を催すような内容だろうから、彼のコレクションを知りたいとも思わない。

 

「どちらにしろ、また楽しいパーティの時間だ。なぁ、ウェイン」

 

 ジェイムに話を振られ、ウェインはピクリとして、顔を向ける。

 二人に向けられたウェインの表情はどこか、狂ったような笑みを浮かべていた。

 

「……あぁ、全部ぶっ殺してやるよ…!!」

 

 

 そんなウェインの様子に、リーブとジェイムはやれやれと不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 アメノミハシラ付近で敵艦を捕捉したとの艦内アナウンスを聞き、ヒロキは駆け足でパイロットスーツに着替えて待機室に出た。

 

 ようやく捉えた新型の三機ーー。

 今度こそ必ず破壊する。と胸に静かな闘志を燃やす。

 戦争が始まる。これは、宣戦布告されてから初となる自分にとっての初めての戦争の中での初戦になる。

 戦争なんて、なんでこんな事に?

 

 ようやくコーディネーターとナチュラルが手を取り合って助け合い暮らしていたというのに、このまま暮らしていけるのが一番だというのに。なぜそれが分からないのだろうか。

 こちらが手を差し伸べても、相手が銃を向けるなら?

 自分ならどうするだろうか。黙って撃たれるか?

 

 かつてのオーブの悲劇が思い起こされる。

 声高に不戦を叫んでも、銃を向けられたらなにもできなかった。

 ただ焼き尽くされ、命を散らしただけだ。力がなくては結局、なにも守れない。

 

 戦争をなくす一番の近道は、手を取り合う事でも、分かり合う事でもない。

 相手より強大な力を持つ事だ。とシン・アスカはいつも自分に言っていた。

 力が必要だ。自分や同胞を守るためには。

 

 だがーーー力を手にしても結局なにも出来ていないじゃないか。

 

 新型の三機ーー“バヨネット”、“フォートレス”、“クラッシュ”をなすすべもなく奪われ、見た事のない白いガンダムに翻弄されて、戦争になって……結局なにも守れないというのか。

 

 待機室のドアが開き、ヒロキは我に返って目を向けた。

入ってきたのは濃い青のパイロットスーツを着たチヅル・シライシだ。

チヅルはヒロキを見つけると、口元を緩めて声をかけた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、あぁ……」

 

 うろたえて言葉を返す。

 ヒロキの前にチヅルが立ち、恥ずかしげもなく堂々と言い放った。

 

「寝顔、可愛かったぞ?」

 

「っ!!!」

 

 そうだ。前の戦いの後にチヅルと話しながら疲れて寝てしまったんだった。

 というか、なにもされていないだろうか?

 

「チューしたい欲求を我慢するのが苦しかったよ。」

 

「我慢してくれただけで充分だよ……」

 

 

 自分が知らない間に初キスなんてものを奪われた日にはたまったもんじゃない。

 いや、まぁ、そんな予定もないのだが…

 

「力は抜けたか?」

 

「え?」

 

 ヒロキは虚を突かれて、チヅルを見つめる。

 チヅルは穏やかな表情を浮かべてこちらを見つめている。

 ――あぁ、なんだ……バレバレだっか……

 

 

 気がつけば、強張っていた身体は自然とリラックスしていた。

心も、落ち着いている。

 

「……あぁ、ありがとうな、チヅル。」

 

 彼女なりに気を遣ってくれていたのだ。

 長い付き合いというのもあるが、チヅルには全て見透かされている気がする。思えば、いつも気を張っている自分を窘めてくれるのは彼女だ。なんだかいつも邪険にしている自分が恥ずかしくなる。

 ヒロキの顔にこらえきれない笑みが浮かぶ。

 

「な、なんだ……!? そのイケメンな表情は…! 脱げばいいのか!? 脱がしてくれるのかっ!?」

 

 

 

 あまりにもいつも通りな彼女が、羨ましく思えた。

 

 

 

 

 

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